第38回:第2次大戦下の幸運な爆撃機の物語
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怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。 |
「メンフィス・ベル」 | |
価格:1,500円 発売日:2002年4月5日 品番:HP-16620 仕様:片面1層 収録時間:107分 画面サイズ:16:9(スクイーズ、ビスタサイズ) 音声:ドルビーデジタル 5.1ch(英語) 映像特典:予告編 発売元:ワーナー・ホームビデオ |
自分も今までDVDを購入するきっかけにめぐまれなかった作品を何枚か購入したが、その決断を下した最も大きな理由はやはり価格。中でも特に気に入っているのが「メンフィス・ベル」だ。
■ 実物のB-17爆撃機の迫力を堪能
「メンフィス・ベル」というのは、第2次大戦中のB-17爆撃機の1機に付けられたニックネーム。実在する機体で、特別な飛行機として現在も保存されている。B-17爆撃機はドイツへの爆撃に多く投入された機体だ。なぜこの機体が特別なのかというと、撃墜されることの多かった爆撃行の中で、25回の出撃をこなした「幸運な機体」だから。この作品は、この機体に乗り込んだ搭乗員達のストーリーだ。
アメリカが行なったB-17によるドイツへの戦略爆撃は、昼間進入、低空爆撃が中心。当たり前のことだが、目標を破壊するには爆弾を命中させなくてはならない。しかし、湾岸戦争などで活用されたような精密誘導兵器は当時存在せず、命中精度を上げるには、見通しの利く昼間に、しかも落下する距離の短い低空で爆撃するしかないわけだ。そして、命中精度が高くなれば、目標以外の民間への被害は少なくなる。
しかし、メリットばかりではない。当然、昼間は見通しが利くので戦闘機による迎撃にも合うし、目標周辺には低空ならば弾が届くような高射砲が数多く配備され、機体の周りは砲弾の爆発に包まれる。故に、撃墜される確率は夜間/高空爆撃に比べて格段に高くなる。ちなみに、B-29による日本への戦略爆撃は夜間/高空爆撃が中心。民間への被害は史実の通り。
そんな状況の中で、メンフィス・ベルは25回の出撃をしながら帰還をしてきたというのだから驚異的な幸運機だ。搭乗員は25回の出撃で除隊。物語はこの最後の出撃を描いている。
自分の場合、何よりも目を引かれたのが航空機のリアリティ。撮影にはなんと本物のB-17を使って行なわれたのだという。当然、そのリアリティは高い。
これまでも実在機を使った映画は多くあるが、ほかの映画は'50~60年代に制作されたものがほとんどだから、フィルムのクオリティも現在のものに比べて低い。しかし、この映画は'90年に制作されており、色の発色や輪郭のシャープさなどは段違いだ。
そして、空中戦の描写は見所が多い。特に、撃ち落とした敵戦闘機(ドイツのBf109だと思われる)が編隊を組んでいた僚機に激突し、真っ二つになってしまう描写はかなり派手だ。メカニックな部分ではずいぶん堪能させていただいた。
■ 爆撃機搭乗員達の葛藤が見所
航空機を扱った映画では、戦闘中の描写になると登場人物の描写が淡白になりがちだが、爆撃機の搭乗員はパイロット1人だけではない。機長をサポートする副操縦士、戦闘機を迎撃する機銃手4人、他機との連絡を行なう無線士、目標までのガイド役の航法士、そして爆撃を行なう爆撃手と大勢の搭乗員が乗っている。
第2次大戦当時は米国にも徴兵制が生きている時代。志願して軍に入隊したものもいるが、大半は徴兵された元一般人。しかも、「メンフィス・ベル」の搭乗員はハイスクールを出たばかりの若い年代が多い。
ストーリー的には、この多くの搭乗員達の葛藤が見所だ。当然生きて帰還したい。しかも劇中で描かれているのは最後の出撃。今回さえ乗り切れば、もう次の出撃に脅える必要もない。
しかし、爆撃は行なわなくてはいけない。目標までに仲間の機体を何機も失い、目標近くで高度を下げれば高射砲の洗礼。史実では帰還しているので、当然映画でも帰還できるのだけれども、いつ撃墜されるともしれぬ搭乗員達の緊張感がなんとも言えない。
そして、「メンフィス・ベル」の中で繰り広げられる任務への義務感と、生存への欲求との葛藤。敵戦闘機の襲撃で「メンフィス・ベル」の機内も大変なことになったり、真っ二つにされた僚機が墜落するシーンでは、無線を通じて断末魔が響いたりと、逼迫した状況描写もストーリーを盛り上げる。
クライマックスは、爆撃のシーン。目標である工場に確実に命中させるためには低空で飛ばなくてはならない。しかし、高射砲の弾幕は厚く、いつ撃墜されるともわからない。しかも、工場周辺は都市部。闇雲に爆撃を行なえば民間人への被害は免れない。
ドイツがイギリスへ夜間都市爆撃を行なったのと同じく、イギリスもランカスター爆撃機による夜間都市爆撃を行なっていたので、連合国側が特に人道的だったというわけではない。工場労働者も民間人がほとんどなのだが、このクライマックスの機長、そして搭乗員達の行動の行方は面白かった。未見の方はぜひともこの緊張感を堪能して欲しいと思う。
■ 今時とは言いがたいDVDの仕様
さて、この実機の迫力とストーリーを堪能するためにはDVDの仕様が気になるところ。しかし、制作が'90年というDVD化される作品としては微妙な時期の作品だったためか、仕様としてはかなり見劣りする内容となっている。
収録時間は107分だが、ディスクはなんと片面1層。しかも、音声はオリジナルの英語音声をドルビーデジタル5.1chでのみ収録。日本語吹き替えトラックや、コメンタリトラックなどの特典は用意されていない。
しかも、特典映像は予告編のみ。今時のDVDとしては貧弱と言わざるを得ない。しかし、特典映像、音声トラックが少ないメリットもある。片面1層のため、レイヤ切り替えのトラブルもないし、片面1層に107分を収録している割には画質もなかなかのもの。
敵戦闘機の襲撃シーンなど、動きの速いものの描写では一部ブロック感が感じられる場面もあるが、全般にシャープで、新しいフィルムで取られたB-17の実機のディティールを再現しており、資料的なディスクとしても満足している。そして、5.1ch音声も、機銃の着弾の位置まで感じられ、爆撃機内の緊張感を盛り上げてくれた。「映画を楽しむ」という目的は達成されると思う。
とはいえ、なによりも魅力的なのはその価格。冒頭にも書いたとおり、この価格でなければ自分は手を出さなかっただろう。このようなキャンペーンはぜひとも続けて欲しいと思う。
●このDVDについて |
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(2002年6月14日)
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp