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第6回:リアル720p対応、DCDi搭載の技巧派
~ 初の液晶モデルの出来は? 「ヤマハ LPX-500」 ~


LPX-500(オープンプライス)。実売価格は55万円前後
 ヤマハといえばホームシアター関連製品を数多く出しているメーカーだが、プロジェクタは数少ない。最近、印象に残っているヤマハ製プロジェクタ製品といえば、2001年1月に発表された単板式DMDプロジェクタ「DPX-1」だろうか。

 DPX-1は、ヨーロッパのEISA「European Video Projector of the Year 2001-2002」を受賞するなど、世界的に高い評価を獲得した。だが、今年発表された「LPX-500」は、予想外にも液晶方式を採用したものだった。強力なライバルが非常に多い液晶プロジェクタ製品のなかで、LPX-500はどんな「ヤマハ独自のこだわり」を見せてくれるのか。

 ライバルとして筆頭にあがるのは、パネル解像度、画質性能、価格帯など、あらゆる側面において競合する姉妹機「エプソンELP-TW100」ということになるだろう。LPX-500とELP-TW100、「自分はどちらにすべきか」と迷っている読者も少なくないはずだ。


■ 設置性チェック~投射距離3.2mで100インチを投影可能

 筐体サイズはELP-TW100とほぼ同じ。しかし、LPX-500には取っ手がなく、ELP-TW100よりも若干重い。ELP-TW100の重さは4.2kg、LPX-500の重さは4.8kgだ。決して持てない重さ、大きさではないが、LPX-500は「使いたいときに引っ張り出して使う」カジュアルタイプではなく、常設を前提とした製品だといっていい。

 100インチ16:9時の投射距離は最短3.2m、4:3では最短2.9mとなる。投射距離だけなら、8畳くらいの部屋でも100インチスクリーンへ投影できることになる。ちなみに、ELP-TW100も投射距離に関してはほぼ同等だ。

 投射モードはフロント、リア、天吊り、床(台)置きの全パターンの組み合わせが選択可能。投射角度はやや上向きとなるが、仰角は浅めだ。よって低いリビングテーブルに載せて投影すると、投射画面はかなり下に来てしまう。台置き設置を考える場合には、相当高めの設置台が必要になる。天吊り設置をしてしまったほうが、あとあと何かと面倒がなさそうだ。

 なお、天吊り金具は低天井用のPMT-L21と、高天井用のPMT-H25の2タイプが出ている。日本の一般家庭では、PMT-L21で問題ないだろう。本体重量が4.8kgなので、天吊り金具を組み合わせてもそう重くはならいが、天井補強が必要かどうか、事前に販売店に相談したほうが良い。

 台形補正機能は垂直方向±15度の範囲で調整が可能。ただし、デジタルプロセスによるものなので、画素情報の一部は欠落する。臨時用途と考えたい。

 光漏れはほとんどなし、排気ファンの音もプレイステーション 2と同程度か小さいくらい。また、リモコン受信用の赤外線受光部は本体の前と後ろにあり、視聴位置の前後いずれに設置しても快適なレスポンスが得られた。

中央のYAMAHAロゴを中心に、左に排気ダクト、右にレンズを配置 本体後部の操作パネル。アスペクト切り替えや入力ソース切り替えもここで行なえる リモコン受光部は前と後ろに装備。レンズ脇にはファロージャ「DCDi」のロゴがある


■ 操作性・接続性チェック~ELP-TW100とやや異なる入力系統

 電源オンしてからYAMAHAロゴがでるまで10秒(実測)、実際に映像が出てくるまでが18秒(実測)、スペック輝度で投影されるまでが30秒(目視確認、実測)……と、起動時間はスピーディ。ちなみに、ELP-TW100も本機とほとんど同じ起動時間をマークしている。

 リモコンは[Auto]、[Menu]、[Esc]、[PAT]、[Aspect]、[Picture]、[Power]の各スイッチのみ自発光。それ以外は蓄光式を採用する。ボタン名こそ違うものの、自発光式、蓄光式のボタンの割り当ては、ELP-TW100とほぼ同じになっている。暗闇における2モデルの操作性は同等(?)といったところか。

 リモコンはシンプルながら操作性は良好で、INPUT欄の6個のボタンを押すことでダイレクトに入力ソースを切り替えられる。切り換え自体の速度も1秒以内で行なわれ、なかなか快適だ。また、アスペクト切り換えボタンも独立キーとして割り当てられている。

アスペクト比切り替えなど、主要なボタンが自発光するリモコン。デザインはELP-TW100と同じだ 背面の入出力パネルには、コンポーネント、DVI、D4などを備える

 入力端子群は、ELP-TW100と似ているようでやや異なっている。まず、LPX-500では、デジタルRGB(DVI-D)端子を独立した1系統として持っており、またELP-TW100にはないD4端子を持つ。コンポジットビデオ、Sビデオ端子が独立したビデオ入力端子として存在するのはELP-TW100、LPX-500ともに同じだ。

 そして、LPX-500も、ELP-TW100同様にINPUT A、INPUT Bという名称で、各入力端子が兼用端子設計になっているが、その割り当てに相違点がある。これを整理すると、次のようになる。

  LPX-500 ELP-TW100
INPUT A(RCA端子) アナログRGB/コンポーネントビデオ コンポーネントビデオ
INPUT B(D-Sub15ピン端子) アナログRGB/コンポーネントビデオ アナログRGB/コンポーネントビデオ

 INPUT Bは両者とも同じ仕様だが、INPUT Aについては、LPX-500では市販のBNC-RCA変換コネクタを利用することで、PCをもう1系統入力することができるのだ。まとめると、LPX-500はELP-TW100に対して

というアドバンテージがあることになる。ELP-TW100とLPX-500の最大の相違点は、接続端子の仕様にあると言ってもいいかもしれない。


画質チェック(1)~画調モード・インプレッション

投影画像の拡大(メニューの一部)

 公称光出力は800ANSIルーメン。ランプ定格はELP-TW100と同じ150Wランプだが、スペック上はELP-TW100の700ANSIルーメンを上回っている。実際、明るさはかなりのもので、蛍光灯照明下の部屋でも投影映像がそれなりに見られるほど。

 後述の画調モードによっても変化するが、全体的にコントラストが高く、それでいて色深度は深い。微妙な中間色の表現も美しく正確だ。

 採用する液晶パネルは1,280×720ドットで、ELP-TW100と同じ16:9のワイドタイプ。パネルの縦解像度が720ドットあるので、720p、すなわちD4相当にリアル対応していることになる。

 画素形状はほぼ正方形。格子線が太めな感じもするが、パネル解像度が高いこともあり、映像に粒状感を感じることはないはず。

 用意されている画調モードはピクチャーA、ピクチャーB、ピクチャーC、ピクチャーPC、sRGBの5つ。PCモードやsRGBモードはいいとしても、A、B、Cの各モードは、直観的にどういった映像ソースに適しているのかわかりにくい。ここで簡単に各モードの傾向を紹介することにしよう。

●ピクチャーA(色温度6,700K)

 中間階調に重きをおいた色調。若干、最暗部と最明部はやや潰れ気味になる印象があるが、クセのない色合いで画調モードの選択に迷ったら、とりあえずこのモードほ選択しておけば不満はないはず。

●ピクチャーB(色温度6,700K)

 暗い階調は若干沈み込み過ぎな感じもするが、中間色調は軟らかい表現がなされ、自然な色合い。明るい階調はより強調されるが、相対的な階調自体はそれなりに正確に出ている。全体として色表現のダイナミックレンジの広い画調モードなので、映画を始めとした映像鑑賞に適したモード。

●ピクチャーC(色温度6,700K)

 明るい階調は正確だが、暗い階調はその暗さがより一層強調され、相対的にハイコントラストになるようチューニングされている。アニメやバラエティ向きの画調モードだ。

●PCモード(色温度7,500K、ガンマ2.2)

 色温度がA、B、Cモードよりも上がり、青みがかる。色味は若干淡くなるが、その分、全体的に明るさを増す。白はやや飛び気味で黒も少々浮き気味になるが、相対的な階調は保たれるので見た目のバランスはそれほど悪くはない。PC画面の表示やゲームに向いている。

●sRGBモード(色温度6,500K、ガンマ2.2)

 色温度がA、B、Cモードよりも下がり全体として赤みを帯びる。全体的に暗い印象があるが、暗い階調から明るい階調までリニアに正確。sRGBというと「PC向け」という印象があるが、意外に映像鑑賞にも使えるモードだ。

 ちょっと変わっているのが、すべての画調モードが入力映像ソースのタイプに依存しないこと。たとえばコンポーネント端子、D端子、S端子、コンポジット端子から入力したビデオ信号に対しても、PCモードが選択できる。試してみて意外に好感触だったのが、sRGBモードで見るDVD映画ソフトの映像。ピクチャーBがしっくり来ないときには、sRGBモードを試すといい。

 ELP-TW100同様、LPX-500も画調調整機能が充実している。RGB各色のチャンネル次元で、オフセット(暗部方向調整)、ガンマ(中間方向調整)、ゲイン(明部方向調整)の補正が可能だ。また、緑色の出力成分比のみを補正する「肌色調整機能」もある。さらに、黒レベル調整機能や白レベル調整機能で、全体的な輝度を上げるのではなく黒、白、それぞれの表現のみを調整できる。

 こうした調整機能を使って作り込んだオリジナルの画調モードは、1入力ソースあたり6個までメモリが可能で、登録した画調モードはリモコンの1~6のキーを押せば瞬時に呼び出すことができる。そして、いうまでもなくプリセットのピクチャーA、B、Cモードなどにリセットすることも可能だ。


■ 画質チェック(2)~ファロージャのDCDi機能でインタレースも高画質に

 LPX-500にも、ELP-TW100と同等のFAROUDJA製プログレッシブ変換ロジック「DCDi」が搭載されており、インタレース映像はプログレッシブ化して表示される。

 DCDiについては、調整メニューの「IP変換」項目で設定を変更ができる。「IP変換=オフ」にするとDCDiは働かなくなるが、それでもラインダブラ相当のプログレッシブ化処理は行なわれる。また、「IP変換=ビデオ」とすると、3-2プルダウン機能はキャンセルされるが、フレーム相関型のエッジを滑らかにするDCDi機能は有効となる。「IP変換=自動検出」時は、映画ソフトなどの24fpsの映像ソースを自動認識すると3-2プルダウン対応型のDCDi機能を有効にする。それ以外はフレーム相関型のDCDi機能を採択する。よほど変わった目的がない限り、通常はデフォルト設定の「自動検出」でOKだろう。

 このほか、「ノイズリダクション」という調整項目があるが、これは映像信号からノイズを除去するというよりは、いわゆるフィルター処理のようで、オンにすると映像全体のフォーカスが柔らかくなる。これも通常はオフでいいだろう。

 実際にパイオニアのプログレッシブ対応DVDプレーヤー「DV-S747A」の映像出力をインタレース設定にして映像を見てみたが、DCDiの機能が効果的に働いているようで、横方向に動きの激しい映像でもコーミングがでることもなく、美しい映像を再生できていた。

 また、ビクターのビデオデッキ「HR-VXG1」を用いて、地上波テレビ映像やVHSビデオの映像を出力してみたが、いずれもジャギーやコーミングのない、フレーム単位での美しい映像が出せていた。

メニュー画面。画面左隅に表示される。左から「画質」、「信号」、「設定」、「情報」 (c)Disney Enterprises,Inc.


■ 画質チェック(2)~ハイビジョン、PC、ゲームはどうか

 LPX-500では1080iのハイビジョンソースはパネル縦解像度が720ドットしかないため、いわゆる圧縮表示されることになる。

 実際に東芝のBSデジタルチューナ「TT-DS2000」を用いてBSデジタルの1080iソースを視聴してみたが、解像感は非常に高く、圧縮表示とは思えないクオリティで表示できていた。木の葉一枚一枚もしっかり描画されており、遠くの人の表情までもわかるレベル。ハイビジョンの解像感は十分味わうことができる。

 640×480ドット、800×600ドット、1,024×768ドット、1,152×864ドット、1,280×960ドットといったアスペクト比4:3のPC画面は、液晶パネルの中央部分、960×720ドットの範囲を使って投影される。同様に1,280×1,024ドットはアスペクト比5:4となるので、900×720ドットの範囲で投影される。640×480ドット、800×600ドットはリアル表示が可能だが、1,024×768ドット以上の解像度では、残念ながら圧縮表示となる。

 とはいえ、1,024×768ドット、1,152×864ドット、1,280×960ドット、1,280×1,024ドットのいずれのモードにおいても文字の視認性はそこそこにあり、実用レベルには達している。なお、1,600×1,200以上の解像度には未対応だ。

 DVI端子経由のデジタル入力では未対応だが、アナログRGB入力では、パネル解像度の1,280×720ドットでの入力が可能。この場合、拡大・縮小のないリアル表示となり、PC画面を最も美しく、なおかつ広く表示することができる。ただし、どのビデオカードでも1,280×720ドット出力が可能かというとそうでもない。今回はGeForce3Ti300搭載ビデオカードでテストしたが、1,280×720ドット出力が可能だった。

 プレイステーション 2の映像の投影も試してみたが、残像はなく、動きの激しいゲームも家庭用テレビと変わらないレスポンスで楽しめた。

 ところで、プレイステーション 2の映像出力は、コンポーネントケーブルを用いた場合でもインタレース出力になる。しかし、LPX-500との組み合わせでは、DCDi機能のためか、斜め方向の線のジャギーが低減する。DCDi機能はゲームユーザーにも恩恵を与えてくれるだろう。

【DVDビデオ『ダイナソー』での投影画像】
 コンポーネント接続の投影画像をデジタルカメラ「D100」で撮影した。ソースはDVDビデオの「ダイナソー」(国内盤)。D100の設定は、コントラストをLowにした以外、すべてAUTOにしている。

 撮影後、1,024×564ドットにリサイズし、下に掲載している部分画像を切り出した。部分画像をクリックすると全体(640×353ドット)を表示する。

(c)Disney Enterprises,Inc.

コンポーネント接続
(ピクチャーA)
DVI-D接続
(ピクチャーA)

視聴機材
 ・スクリーン:オーロラ「VCE-100」
 ・DVDプレーヤー:パイオニア「DV-S747A
 ・コンポーネントケーブル:カナレ「3VS05-5C-RCAP-SB」(5m)


■ まとめ~LPX-500とELP-TW100、どちらにすべきか

【LPX-500とELP-TW100の違い】
 LPX-500ELP-TW100
輝度800ANSIルーメン700ANSIルーメン
コントラスト800:1600:1
D4入力端子×
PC入力3系統2系統

 そのほかリモコン上の[PATT]ボタンを押すことで、フォーカス合わせと台形補正に役立つクロスハッチや、グレースケールなどを表示するテストパターン表示機能が利用できる。

 そして映像ソースによらず、リモコン上の[STILL]ボタンを押せば、投影中の映像を静止させることができる。残念なのは、この静止させた映像を見ながら、画調調整が行なえないという点。[STILL]ボタンを押して映像を静止させても、[MENU]ボタンを押した途端に解除されてしまうのだ。これら2つの特殊機能は、ELP-TW100と同じもの。

 「LPX-500」と「ELP-TW100」の基本的な機能はほとんど同じだが、相違点を整理すると右表の通りになる。

 実売価格は、ELP-TW100は約45万円で、LPX-500は約55万円程度。その価格差は約10万円だ。この価格差に見合う魅力を感じた方は、LPX-500を選ぶといいだろう。

標準レンズでの投射距離(16:9)
※台形補正機能は使用せず、ズーム最短の状態

【LPX-500の主な仕様】
パネル解像度 1,280×720ドット
明るさ 800ANSIルーメン
コントラスト比 800:1
投影サイズ 80~150インチ
映像入力 コンポーネント、D4、コンポジット、S映像、DVI-D、アナログRGB
騒音 30dB
消費電力 最大240W
外形寸法 409×281×125mm(幅×奥行き×高さ、脚部含む)
重量 4.76kg

□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.yamaha.co.jp/news/2002/02060501.html
□関連記事
【6月5日】ヤマハ、XGAワイドパネル搭載のホーム向け液晶プロジェクタ
―ファロージャ製DCDiを採用、DVI端子も装備
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020605/yamaha.htm

(2002年8月8日)


= 西川善司 =  ビクターの反射型液晶プロジェクタDLA-G10(1,000ANSIルーメン、1,365×1,024リアル)を中核にした10スピーカー、100インチシステムを4年前に構築。迫力の映像とサウンドに本人はご満悦のようだが、残された借金もサラウンド級(!?)らしい。
 本誌では1月の2002 International CESをレポート。山のような米国盤DVDとともに帰国した。僚誌「GAME Watch」でもPCゲームや海外イベントを中心にレポートしている。

[Reported by トライゼット西川善司]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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