前回に引き続き、今回も波形編集ソフトの実力を比較する。今回取り上げるソフトはWindowsにおける定番の2種類、Sonic Foundryの「Sound Forge 6.0」とSteinbergの「WaveLab 4.0」だ。いずれも実績のあるソフトであり、筆者も愛用してきたソフトである。
■Sound ForgeとWaveLabを比較してみる
前回はインターネットのSound it! 3.0 for Windowsと、デジオンのDigiOnSound2を使っていくつかの実験を行なったが、予想以上に差が出たり、想像外の結果が出るなど、なかなか面白い結果に終わった。多くの読者から反響が寄せられたが、同時に、取り上げるソフトのリクエストもいただいた。
リクエストの中で、もっとも多かったのがSonic FoundryのSound Forgeと、SteinbergのWaveLabだった。確かに広く普及しているソフトであり、プロユーザーも多いなど実績も大きい。また、Sound ForgeにはSound Forge XP、WaveLabにはWaveLab Liteというライト版もある。これらがSoundBlasterをはじめとする製品にバンドルされているので、ユーザーも多いはずだ。
こうしたライト版や旧バージョンを含めると、かなりのバリーエーションとなってしまうため、今回はそれぞれの最上位版における最新版を扱うことにした。それがSound Forge 6.0とWaveLab 4.0だ。国内ではSound Forgeはフックアップが、WaveLabはスタインバーグ・ジャパンが扱っており、それぞれの国内価格はSound Forge 6.0が55,000円、WaveLab 4.0が75,000円となっている。Sound it!やDigiOnSound2などと比較しても、高価である。
Sound Forge 6.0 | WaveLab 4.0 |
実験は前回と同じ。リサンプリング、タイムストレッチ、ピッチシフトの3つで、4種類の素材を元に行なっていく。まずはリサンプリングから。サンプリング周波数48kHzの素材2つを44.1kHzへ変換してみた。1つは1kHzのサイン波、もう1つは440Hzのサイン波-8dBに、330Hzの矩形波-6dBを足したものだ。
Sound Forgeの場合、ProcessメニューにResampleという項目があるので、これを利用する。プリセットで44.1kHzへ変換するモードが用意されているのだが、これは単なるリサンプルだけではなく、アンチ・エイリアス処理が行なわれる。とりあえず、ここでは、アンチ・エイリアスを解除した上でリサンプリングしてみた。
一方のWaveLabには、リサンプリングというメニューは用意されていない。ただし、ファイルを保存する際にサンプリングレートの変更が可能なので、これを利用した。
Sound Forgeでのリサンプリング | WaveLabは保存の際にサンプリングレートの変更ができる |
この結果を見ると、やはり波形上ではそれほど大きな変化はない。とくにサイン波のほうは、ほぼオリジナルの通りといえる。ただし、Sample2のデータのほうは、ややジャギーが生じている。どちらがいいともいえないが、Sound Foregeの結果とWaveLabの結果で微妙な差が出ていることは確かだ。
元のデータ | Sound Forege | WaveLab | |
Sample1 | |||
音声ファイル | 約376KB(sample1.wav) | 約345KB(s1frs.wav) | 約349KB(s1wrs.wav) |
Sample2 | |||
音声ファイル | 約376KB(sample2.wav) | 約345KB(s2frs.wav) | 約349KB(s2wrs.wav) |
また先ほどオフにしたアンチ・エイリアスだが、もしこれをオンにすればジャギーが消えるのか試してみた。波形だけを見るとそうした効果は目に見えず、かえってジャギーが増えているようにも思う。また、頭の数周期分の内容が欠けてしまっているのも確認できた。
では、これを周波数分析にかけるとどのようになるのだろうか? 前回の2つのソフトの結果からは、リサンプリングによって本来とは異なる周波数が多く発生していて、音質劣化していることが確認できた。今回のソフトではどのような結果になるのだろうか? 例によってWaveSpectraでみた結果が以下の通りだ。またSound Forgeでアンチ・エイリアスをかけた結果もオマケに示しておこう。
アンチ・エイリアスをオンにしたが、あまり効果は見えない | Sound Forgeでアンチ・エイリアスをかけた結果 |
元データ | Sound Forege | WaveLab |
いかがだろうか、サイン波の波形そのものは見かけ上ほとんど影響はないように思えるが、スペクトラムをみると、かなりの倍音成分が含まれている。これを見る限りでは、WaveLabよりもSound Forgeのほうが性能がいいようだ。
前回のSound it!やDigiOnSound2と比較すると、Sound itよりもいいが、DigiOnSound2よりも下というように見える。またアンチ・エイリアスの結果はここではあまり大きな威力を発揮していないように思える。
■タイムストレッチにモードが存在する
続いてはタイムストレッチ。タイムストレッチとは、音程を変えることなく、時間を変更させるという機能。最近ではほとんどの波形編集ソフトに搭載されている。ここでは、各サンプルを倍の200%の長さに伸張するのと、半分=50%の長さに圧縮する実験を行なうことにする。
Sound Forgeの場合は、設定がやや複雑。50%や200%に設定することは可能なのだが、そのほかにModeという設定項目がある。このメニューを見るとMusic、Speech、Solo Instruments、Drumsといったものがあり、ここからいずれかを選択する。とりあえず、サイン波の場合はSolo Instrumentを選択の上実行してみた。
一方のWaveLabは時間軸メニューのタイムストレッチを選択すると、設定画面が出てくる。ここでは、音質を「音質優先」を選択した上で、実行した。
Sound ForgeにはModeという項目がある | 任意のモードを選択できる | WaveLabはタイムストレッチを選択すると、設定画面が出てくる |
まずは結果をご覧いただきたい。前回のSound it!やDigiOnSound2と異なり、妙な山谷ができず、まっとうな波形となっているのがわかるだろう。これを見る限りでは、2つに大きな違いは感じられない。
Sound Forege | WaveLab | |
Sample1 200%に伸張 |
||
Sample1 50%に圧縮 |
では、より実用的な検証を行なう。今度は音楽データに対して、同じ処理をかけてみる。WaveLabの方はとくに設定は行なわずそのまま処理したが、Sound ForgeのほうはシンセサイザーサウンドであるSample3についてはソロ楽器として、ドラムサウンド(Sample4)についてはドラムとして設定した上で実験をしたのだ。なお、WaveLabもドラムサウンドのみはリズムの精度を最高の5に設定して行なった。
Sound Forege | WaveLab | |
Sample3 50%に圧縮 |
約91KB(s3f50.mp3) | 約90KB(s3w50.mp3) |
Sample3 200%に伸張 |
約356KB(s3f200.mp3) | 約355KB(s3w200.mp3) |
ドラム(Sample4)を200%にした結果は以下のグラフ。波形だけではわかりにくいが、やはり微妙な反射が生じているようで、金属っぽい響きが出てしまっている。前回の2ソフトのような響きはないものの、多少は影響を受けているようだ。なお、Sound ForgeとWaveLabを比較した場合は、やはりドラムのパラメータを持っているだけあって、Sound Forgeに軍配があがる。それぞれの結果をMP3ファイルで公開したので、ぜひ比較しながら聴いてみてほしい。
元のデータ | Sound Forege | WaveLab | |
Sample4 200%に伸張 |
Sound Forege | WaveLab | |
Sample4 50%に圧縮 |
約46KB(s4f50.mp3) | 約46KB(s4w50.mp3) |
Sample4 200%に伸張 |
約179KB(s4f200.mp3) | 約179KB(s4w200.mp3) |
■微妙な振動は出てしまうが、そこそこ使えるピッチシフト
最後にピッチシフトについても見てみよう。ピッチシフトとは音の長さを変えることなく、音程を変えるというエフェクト。これも微弱に変更するだけならソフトによる質の差は感じないが、1オクターブ上下させるとなると、かなり差がはっきりとしてくる。
ここでも、先ほどのタイムストレッチと同様にSample3とSample4のデータを用いて上下1オクターブの変化をさせてみた。Sound Forgeでは、やはりタイムストレッチと同様に設定モードが存在し、これを設定してから変換することになる。またWaveLabもタイムストレッチと近い設定になっており、ドラムの場合はリズムの精度を5に設定して行なった。
Sound Forgeのピッチシフト設定画面 | WaveLabのピッチシフト設定画面 |
Sound Forege | WaveLab | |
Sample3 PitchShiftUp |
約179KB(s3fpu.mp3) | 約179KB(s3wpu.mp3) |
Sample3 PitchShiftDown |
約179KB(s3fpd.mp3) | 約179K(s3wpd.mp3)B |
Sample4 PitchShiftUp |
約90KB(s4fpu.mp3) | 約90KB(s4wpu.mp3) |
Sample3 PitchShiftDown |
約90KB(s4fpd.mp3) | 約90KB(s4wpd.mp3) |
それぞれの結果については、ぜひMP3ファイルを聴いていただきたいのだが、必ずしも最高の音質とは言いがたい。どうしても音の震えのようなものが出てしまうのだ。たとえば、Sample3の音を1オクターブ上にシフトさせた場合、Sound Forgeではそうした振動を感じるが、WaveLabではその影響で音がかなり曇ってしまっている。
一方、Sample4のリズムに関しても多少振動があるにはあるが、比較的いい結果が出ているように思う。2つのソフトで結構音色が違っているところが面白いところだが、いかがだろうか? いずれにせよ、前回の2つのソフトと比較すれば格段に使えるものになっていることがわかるだろう。
□関連記事
【8月12日】【DAL】第66回:波形編集ソフトの性能とは?
~ その1: タイムストレッチやピッチシフトの検証方法 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020812/dal66.htm
【7月1日】【DAL】第60回 3D編集機能を備えた波形編集ソフト
~ 3D Sound Pro ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020701/dal60.htm
【4月15日】【DAL】第51回 Cubase VSTとの互換性を確保
~ 最新版「Cubasis VST 3.0」と次世代Cubase ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020415/dal51.htm
(2002年8月26日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp