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第67回:波形編集ソフトの性能とは?
~ その2:「Sound it!」と「DigiOnSound」を試す ~

 先週からスタートした波形編集ソフトごとの性能比較シリーズ。このシリーズでテーマとしているのはリサンプリング、タイムストレッチ、ピッチシフトの3機能だ。実際どこまで違いがハッキリわかるのか、筆者自身、半信半疑だったが、前回用意した4つの素材を元にさっそく試してみた。

 最初の実験の題材として扱うのは、国産の波形編集ソフト2本。インターネットの「Sound it! 3.0 for Windows」と、デジオンの「DigiOnSound2」である。


■ 明らかな差が出たリサンプリング

 今回取り上げる2本のソフトはいずれも国産のソフト。Sound it! 3.0 for Windowsを開発したインターネットは、MIDIシーケンスソフトSinger Song Writerの開発元として有名。PC-9801用のDOSソフトの時代から音楽系ソフトに特化した開発を行なっている大阪のソフトハウスだ。

 対するDigiOnSound2を開発するデジオンは、DigiOnSoundのほか、ビデオ編集ソフトのDigiOnVideo、CDライティングソフトのDigiOnDiskやDrag'n Drop CD、MP3ソフトのMP3 BeatJamなどを開発する福岡のソフトハウスである。

Sound it! 3.0 for Windows DigiOnSound2

 価格はSound it! が9,800円、DigiOnSound2が42,000円とずいぶん開きがある。果たして、今回の題材で性能差というものは見えてくるのだろうか?

 まずはリサンプリングから行なってみることにしよう。素材として前回用意した2つの波形を使うことにする。1つは1kHzのサイン波、もう1つは440Hzのサイン波-8dBに、330Hzの矩形波-6dBを足したものだ。いずれも48kHzのデータを用意しているので、これを44.1kHzへリサンプリングすることにする。

 Sound it!の場合、加工メニューの中にフォーマット変更というものがあり、ここで44.1kHzを選択することでリサンプリングが行なわれる。一方のDigiOnSound2ではエフェクトメニューにサウンド形式というものがあり、ここで同様に44.1kHzを選択する。なお、演算精度という設定項目を高速~詳細までの間で設定できるようになっているが、ここではデフォルトの高速で行なうことにした。

フォーマット変更 サウンド形式

 2つのデータをリサンプリングした結果をSound Forgeで示しておこう。Sound Forgeを使ったことに大きな意味はないが、今後各ソフトの結果を比較しやすいようにするために、1つのソフトを使うことにしている。

 元データSound it!DigiOnSound
サイン波 約376KB(sample1.wav) 約344KB(sp1si.wav) 約344KB(sp1ds.wav)
サイン波+矩形波 約376KB(sample2.wav) 約344KB(sp2si.wav) 約344KB(sp2ds.wav)

 これらを見てどうだろうか? サイン波については、それぞれをオリジナルと比較してもほとんど差は現れない。しかし、合成波のほうはいずれもエッジが歪んでいる。では、Sound it! とDigiOnSoundを比べるとどうかというと、微妙ではあるが、Sound it!のほうがエッジの歪みが大きいように思える。

 これらの音を実際に聞いてみても、単純な音であるだけに、それほど違いはハッキリわからない。そこで、スペクトラムアナライザにかけてサイン波を見てみることにした。その結果を見てどうだろうか? いずれも高調波が確認できるのだが、Sound it! のほうが明らかに高調波が多いことがわかるだろう。

 ここに表示されているS/Nを鵜呑みにはできないが、DigiOnSoundが72.77dBと表示されているのに対し、Sound it! は47.88dBとかなり劣っている。実際、これだけの差が出ることには驚いたが、リサンプリングという単純な機能でもソフトによって、大きな差が出る。

 元データSound it!DigiOnSound
スペクトラムアナライザによるサイン波
SN比 88.34dB 47.88dB 72.77dB




■ 明らかなうねりが生じるタイムストレッチ

 では次に、タイムストレッチの実験を行なおう。タイムストレッチとは、音程を変えずに時間を変更させるという機能。昔はかなり高度な技術とされていたが、最近では多くのソフトに搭載されており、誰でも簡単に扱える。ただ、実際に音を聞いてみると、妙な音に感じることが少なくない。5%や10%程度圧縮伸張する分には、あまり感じないのだが、倍の長さくらいにすると、キンキンした金属音っぽい音がまじって聞こえたりすることがある。

 素材は先ほどの2つの波形データを含め4つ。せっかくならば倍、つまり200%の長さに伸張するのと、半分=50%の長さに圧縮する実験を行なうことにした。

 Sound it! には加工メニューの中にエフェクトという項目があり、そこにタイム・コンプレッションというものが存在する。ここで設定を行なうのだが、予め200%、50%に変換する設定が用意されていたので、それを用いることにした。一方、DigiOnSoundはエフェクトメニューの中にタイムストレッチというものがある。こちらは設定はいたって簡単で、何%にするか決めるだけだ。

Sound it!の「タイム・コンプレッション」 DigiOnSoundの「タイムストレッチ」

 では、さっそく実験してみることにしよう。まずはサイン波から。いずれのソフトでも、サイン波を確認できる程度の倍率で波形を見ると、きれいな曲線を描いている。しかし、全体を俯瞰してみると、すごい状態になっていた。圧縮した場合も伸張した場合も、妙なサイクルで波打っている。実際聞いてみても、この共振をしたような音量のうねりがはっきりと聞き取れ、明らかに原音と異なる。これは、合成波形でも同様で、ミクロに見るときれいな波形なのに、マクロでみると波打っているのである。

 Sound it!DigiOnSound
タイムストレッチ
(200%)
タイムストレッチ
(50%)

 では、単純な信号ではなく、音楽の場合どうなのだろうか? シンセサイザサウンドを扱ったSample3.wavとドラムサウンドを扱ったSample4.wavを使って試してみた。

 結果としては、サイン波の場合と同様にうねりがあり、圧縮・伸張ともに妙な音になってしまった。ただし、Sound it! の場合とDigiOnSoundの場合で、音に違いがあることは明らか。どちらがいい、悪いという次元のものではなく、それぞれ別の特性で変な音になっている。ドラム音はわかりやすいので、原音と200%にしたもの2つを見てほしい。両ソフトの結果とも、バネエコーにでもかけたような金属的な響きがあるが、とくにDigiOnSoundの場合は、完全にトレモロのように聞こえてしまうほどだ。

【原音とタイムストレッチ200%の比較】
原音Sound it!DigiOnSound

 10%程度の圧縮伸張なら、こうした問題はほとんど起こらなかった。しかし、50%、200%となるとほとんど使い物にならない。なお、サンプル3、サンプル4の結果は128kbpsのMP3にしておいたので、興味のある方は聴いていただきたい。

 Sound it!DigiOnSound
サンプル3 タイムストレッチ(50%) s3sits5.mp3 s3dsts5.mp3
タイムストレッチ(200%) s3sits2.mp3 s3dsts2.mp3
サンプル4 タイムストレッチ(50%) s4sits5.mp3 s4dsts5.mp3
タイムストレッチ(200%) s4sits2.mp3 s4dsts2.mp3




■ ピッチシフトにもうねりが生じた

 では、もう1つのピッチシフトのほうはどうなのだろうか? ピッチシフトというのは、タイムストレッチとは反対に時間は変えずに、音程だけを変化させるというもの。このピッチシフトについても、タイムストレッチと同じ素材で同様の実験を行なってみた。こちらでは原音から+1オクターブと-1オクターブの2つの実験を行なった。

 まず最初に行なったのは、やはり1kHzのサイン波。Sound it!の場合、加工メニューのエフェクトの中にピッチシフトというのがあり、これを選ぶと簡単にピッチシフトの操作が行なえる。プリセットで+1オクターブと-1オクターブというのがあるので、これを使ってみた。一方のDigiOnSoundのほうにもエフェクトメニューにピッチシフトがあり、ここでプリセットの+1オクターブと-1オクターブを選択できるようになっている。

Sound it!(左)とDigiOnSoundのピッチシフト

 さっそく試してみたところ、やはりタイムストレッチ同様、妙なうねりが出ていた。+1オクターブの結果を見てみると、Sound it! は頭の部分で妙な波形になっているほか、その後も一定周期で山ができている。DigiOnSoundのほうは、反対に一定周期で谷がある。こうした山や谷は、はっきり聞き取れるものであり、まともにつかえるピッチシフトとは言いがたい。これはほかのサンプルの結果でも同様であった。これらの結果のうちサンプル3、サンプル4はMP3ファイルにしておいた。

 Sound it!DigiOnSound
サンプル3 シフトアップ s3sipsup.mp3 s3dspsup.mp3
シフトダウン s3sipsdw.mp3 s3dspsdw.mp3
サンプル4 シフトアップ s4sipsup.mp3 s4dspsup.mp3
シフトダウン s4sipsdw.mp3 s4dspsdw.mp3

 以上、Sound it! 3.0 for WindowsとDigiOnSound2を使った実験を行ってみたが、いかがだっただろうか。 ここまではっきりした結果が現れるとは思っていなかったので正直驚いたが、みなさんはどう感じられただろうか。

□インターネットのホームページ
http://www.ssw.co.jp/
□Sound it! 3.0 for Windowsの製品情報
http://www.ssw.co.jp/products/win/sit03w/sit03w.htm
□デジオンのホームページ
http://www.digion.com/
□DigiOnSound2の製品情報
http://www.digion.com/pro/ds2_main.htm
□関連記事
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~ その1: タイムストレッチやピッチシフトの検証方法 ~
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(2002年8月19日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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