“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
第74回:ソニーは、MICROMVに本気らしい
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■ たてつづけの新モデルリリース
2001年8月に突如SONYから発表された、新映像記録フォーマットMICROMV。当初は業界でもワリと「DVがあるし今さらどうなの」、「ふーん、じゃあがんばれば」みたいな冷ややかな反応であったわけだが、昨年10月の「IP7」、今年4月の「IP55」、そして今回9月に発売になる「IP220」と、ここ1年以内に3モデルも市場投入してきた。このペースでいけば、まるでパソコンのモデルチェンジばりの勢いで、新機種が出てくることになる。
SONYとしては、いち早くシリーズとしてのバリエーションを増やしたいという思いはあるだろう。しかしそれがリファレンスモデルのバリエーションではなく、出る機種出る機種がいちいち別スタイルで出てくるあたり、SONYの本気と開発部隊の底力を感じる思いだ。
さて今回のDCR-IP220、MICROMVでもそろそろハイエンドモデルを、という意気込みが感じられる製品だと言える。リリース資料によれば、民生用ビデオカメラとしては業界初の総画素数211万画素CCD搭載が目を引くところ。もちろんそれだけではなく、ほかにもいろいろと面白い仕掛けが組み込まれているらしい。
今回は発売に先駆けて、試作機をお借りすることができたので、さっそく試してみよう。なお試作機であるため、最終的な仕様は変更される可能性があることをあらかじめお断わりしておく。
■ 機能的なフォルムにヤラレがち
ではいつものように、外観チェックからスタート。まず驚くのが、その独特のフォルムである。一見すると、丸い筒のようだ。分類としては横型になるのだろうが、液晶モニタの位置をボディ背面に持ってくることで、レンズ軸からモニタまでが一直線のライン上に並ぶことになる。従来機であれば、ビューファインダが占める位置にあたる。反対にビューファインダは、かなりオマケっぽく横に押し出されたような恰好になっている。
一見すると、丸い筒のような形状 | ビューファインダが横に飛び出している |
実際に普通の人が撮影するときには、ほとんど液晶モニタだけで撮ってしまうので、何の問題もない、というか、こうなってしかるべきだったのである。プロにありがちな「ビューファインダ至上主義」みたいなものを打ち破って誰もやったことがない形を製品化するのが、プロ用ビデオカメラをも席巻するSONYの社会的な役割と言えるかもしれない。
本体サイズは、写真からの印象よりも小さい。おそらく350mlの缶ジュースが入る程度のスペースがあればOK、ポーチなどの小さなバッグにでも入るだろう。実際に筆者が撮影したときは、ウエストポーチにほかの小物と一緒に入れて持ち歩いた。
しかしその小さなボディには似合わず、充実した光学系を持っているのがIP220最大の特徴だろう。レンズはフィルター経30mmの、カール ツァイスレンズ。光学10倍ズーム、画角は35mm換算で、カメラモード時が52~520mm、メモリーモード時が39~390mmである。
CCDは、1/3.6インチ211万画素の1CCDだ。デジカメでは珍しくない画素数だが、ビデオカメラとしては業界初である。有効画素数は、動画時で108万画素、静止画時は192万画素で、1,600×1,200ドットの静止画撮影が可能。このあたりの実力は、後ほど実写サンプルとともに見て頂こう。
レンズ部には、リングが1つ付いている。これは横のスライドスイッチで、ズームリングとフォーカスリングに切り換えて使用できる。もともとこのクラスのカメラでは、レンズのマニュアル操作といっても電子制御なので、このような芸当が可能なわけだ。非常にクレバーな設計である。惚れた、と言ってもいい。ちきしょう、すげえ。
レンズはもちろんカール ツァイス | フォーカスとズームを切り換えて使えるリング | バッテリは底部から縦に内蔵する |
液晶モニタは、MICROMVシリーズでは伝統的にタッチパネル搭載の反射型液晶が採用されている。撮影環境に応じてバックライトがON/OFFでき、節電にも有効。
バッテリは、カメラ底面から本体内に内蔵する。外付けではなく内蔵してしまうことで、外観が非常に綺麗にまとまることになる。このあたりの感性はデジカメっぽい感じだが、MICROMV方式を採用することでテープデッキ部分が小さくできたから、ということも大きいだろう。
バッテリを内蔵することで心配されるのは、大型バッテリが付けられないという点だろう。しかし付属バッテリの「NP-FF70」フル充電時で、液晶モニタのバックライトありで113分、なしで132分という残量表示であった。液晶だけでなく、全体の省電力化がかなり進んでいるようだ。これぐらいあれば、半日の撮影ならまずバッテリ1本でいけるだろう。
■ 堅実な動画撮影能力
では実際に撮影してみよう。まず液晶モニタだが、移動時には液晶面保護のため、裏面を向けて閉じている。いざ撮影となると、この液晶部を持ち上げて、裏返して、また閉じるというアクションが必要になる。デジカメではこういったアクションの設計はよくあるのだが、ビデオカメラでは経験がないので、多少面倒に感じる。
液晶を止めているフックはかなり堅めで、外すときには爪でちょっとフックを持ち上げて補助してやらないと、バキッといっちゃいそうで怖い。製品版ではもう少し緩めになっていることを期待する。
カメラを構えてみると、重量のバランスがよく、持ちやすい。より安定させるなら、両手で包み込むようにホールドすることもできる。ただちょっと、右手の親指の位置が困る。楽な場所に持っていくと、液晶モニタのじゃまになってしまう。かといってスタートボタンのところに持っていくと、親指が無理に後ろに反った位置になり、ずっとその位置に置いておくのは辛い。設計としてモニタ下あたりに親指の置き場所がほしいところ。
楽に構えると親指がジャマ | スタートボタンはやや押しにくい位置 | オモチャのようなズームレバー。思ったほど使いにくくはない |
光軸とモニタが一直線に位置している「インラインレイアウト」は、構えてみると独特の撮り方になるが、なかなか使い勝手がいい。何か対象物があってそれをフォローするような撮影は非常に楽だ。双眼鏡を覗いているような感じ、といえばおわかりだろうか。スポーツや動き回る子供などをアクティブに撮るには便利だろう。ビューファインダはカメラ後部から見て左側に飛び出しているが、右目で見るか左目で見るかで使い勝手が多少変わる。左目で見た方が光軸と頭の中心が合うので、インラインレイアウトの恩恵を受けやすい。
レンズ特性としては、カメラモード時35mm換算でWide端が52mmと、数値で見ればかなり狭い。ほとんど目視と同じ画角だ。しかし望遠鏡を覗いているようなイメージなので、不思議なことにあまりWide端の不足が気にならなかった。もっともこの感覚は最初だけで、ビデオカメラとして使い込んでいくうちに、不満が出るかもしれない。
光学ズームが10倍と、最近のビデオカメラとしてはあまり倍率が高くないほうではあるが、なにしろWide端が52mmからの10倍で520mmなので、感覚的には12倍ぐらいのサイズまで寄れる。倍率的にはあまり問題ないだろう。
ズームレバーは非常に小さいが、思ったほど使いにくくはない。レスポンスがよく、きちんとバリアブルで動くせいだろう。均等な速度でズームするには若干コツが必要で、指の肉をレバーで挟む(ちょっと痛いけど)ようにするとうまくいく。最初はいやだったが、撮ってるうちにすっかり慣れた。
インラインレイアウトはなかなかいい感じだが、手首の角度のせいか、どうも構えているうちに液晶と目までの距離が縮まってしまう。気が付くと目から15cmぐらいのところで見ていたりするので、あまり集中しすぎると目が疲れる。特に筆者の周りでは、40を過ぎて遠視に(早い話が老眼に)なってきた人もちらほら見受けられる。そういう人には若干辛い機構かもしれない。1ボタンで液晶を切ってビューファインダに切り換える機構もあったら良かっただろう。
JPEG (640×480ドット) |
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Wide端(52mm) | Tele端(520mm) |
JPEG (1,600×1,200ドット) |
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Wide端(39mm) | Tele端(390mm) |
MPEG-1 (640×480ドット、3.36MB) |
メモリースティックにMPEG-1記録したサンプル。動くもののフォローはかなり楽だ |
JPEG (640×480ドット) |
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細かいディテールも、MPEG臭さはない | 逆光の処理も綺麗だ | 木陰でのショット。色味は若干浅めに写る |
■ アイデア満載の静止画撮影
続いてIP220のウリの1つである、静止画撮影を見てみよう。1,600×1,200ドットが撮れるとなると、だんだんビデオカメラの静止画もデジカメに近づきつつある。さらにビデオカメラならではの機能を使って、デジカメとはまた違った使い勝手を提供してくれる。
新機能の「拡大フォーカス」は、静止画撮影のみで使える機能だ。これをONにしておくと、マニュアルでフォーカスリングを回した瞬間、画面が2倍拡大してフォーカスが合わせやすくなる。デジタルズーム機能を上手く使った機能だ。回すのをやめると、2秒で通常表示に戻る。小型の液晶モニタでも的確にフォーカスを合わせることができるアイデアとして、非常に優れている。
もう1つのアイデア、「ナイトフレーミング」も面白い。これは、ビデオカメラにある「ナイトショット」機能を上手く使ったもの。デジカメが抱える問題の1つは、真っ暗な中でフラッシュ撮影をしようと思っても、液晶モニタが真っ黒で見えないので、フォーカスはおろか構図さえわからないということだ。
そこで「ナイトフレーミング」機能なのである。赤外線ライトを照射して被写体を照らし、構図を決めることができる。被写体に気づかれずにシャッターチャンスを迎えることができるので、子供や動物などの自然な姿をとらえることが可能だ。
またIP220では、シャープネスの変更が可能なのもウリの1つだ。ただシャープネスの変更には、メニュー奥に入っていかねばならないため、煩わしい。また変更しても液晶モニタしかない現場では、その効果がはっきり確認できない。結局は何度かテスト撮影をして、失敗しながら経験的につかんでいくしかないようだ。
では静止画のサンプルをいくつかご覧いただこう。シャープネスはとりあえずデフォルトのセンターに設定した。
ディテールの細かいものは比較的良好 | 平坦なディテール部分はノイズっぽい | 現場はほぼ真っ暗だが、構図を決めてフラッシュ撮影が可能 |
シズル感のある構図も、割とドライに撮れる | スミアやフレアは出にくいほうだろう | このような強烈な色彩は、液晶モニタでは浅い色にしか見えない |
SONYのビデオカメラは、静止画においても割とビデオっぽいドライな質感で撮れる傾向がある。IP220もそうだ。静止画独特のしっとりした絵作りが難しいのは、せっかくの高解像度なだけに残念。どちらかというと、スナップなどの用途に向くだろう。
静止画の圧縮率には、「スーパーファイン」、「ファイン」、「スタンダード」の3モードがある。サンプルはすべて「スーパーファイン」で撮影したものだ。縮小されたイメージではなかなか良好に見えるが、1,600×1,200ドットそのままをパソコンモニタ上で見ると、絵柄によっては粒子ノイズを感じる。傾向として、複雑な絵柄ではおおむね良好だが、ベタ色の多い画像ほど粒子ノイズが目立つ。
実際に撮影をしていて気になったのが、液晶モニタの表現力不足である。タッチセンサー付き反射液晶なので、どうしても液晶面に一枚幕があるような印象となり、コントラストが浅く見える。また色の出方も淡く、例えば下のオシロイバナの強烈なピンク色などは、液晶モニタと実際に撮れた映像とでは全然違う。光学系がわりといいので、つい欲が出て気になるのかもしれない。
■ 総論
さて、いろいろ不満点も書いたが、従来機には無いアイデアが満載で、トータルとしては満足度のほうが上回る、非常によく考えられたビデオカメラだ。MICROMVも3作目となり、そろそろ小さいだけではなく高画質機がほしい、そういったニーズに合わせた意欲作である。今まで画質の面で二の足を踏んでいた人は、もうこれで決まりだろう。
というのも、これ以上ボディサイズが大きくなるのであれば、もうDVでいいからだ。IP220は、MICROMVのメリットを生かすギリギリのサイズで攻めてきた、そういうモデルなのである。
もっとも気に入ったのは、インラインレイアウトの撮りやすさだ。光軸とモニタのラインが揃うのは意外に効果的で、まさにカメラが顔の一部となって被写体を追うことができる。
もちろんこれには、メリットもあるかわりにデメリットにもなる。カメラが常に顔の正面に来るので、撮っている正面の状況がよくわからない。従来の液晶が横に飛び出しているスタイルでは、液晶を見ながらちょっと視線をずらせば、目視で被写体やその周りの状況が確認できた。しかしインラインレイアウトでは、カメラを構えたまま顔を動かさないと、カメラ正面の状況がわからない。
スチルカメラと違い、ビデオカメラでは撮ったまま移動などもある。撮りつつも周りの状況を把握するということを、みんな無意識にやっているのである。よりモニタに集中することが要求されるインラインレイアウトでは、段差などにけつまずいて転ばないよう注意しなければならない。
さてMICROMV方式の新モデルDCR-IP220、製品パッケージとしてはDCR-IP220Kとなる。末尾のKは、バッテリやACアダプタなどのアクセサリキット込みで販売されるという意味だ。全部コミコミで店頭予想価格は20万円前後であるという。
個人的にはこのカメラ、かなり「買い」に傾いている。あとはワイコンの出来がどのぐらいのレベルなのか、そこが気になるところだ。いや、もちろんその前にいかに家庭内稟議を通すかが問題なのだが。
□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200207/02-0731/
□関連記事
【7月31日】 ソニー、インラインレイアウトのMICROMVビデオカメラ
―211万画素CCD、カールツァイスレンズ搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020731/sony.htm
(2002年9月4日)
= 小寺信良 = | テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。 |
[Reported by 小寺信良]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp