【バックナンバーインデックス】


“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第73回:世界が認めたカノープスのクオリティ
~ プロユースのMPEG-2エンジン搭載「ProCoder」デビュー! ~


■ マルチフォーマットコンバータ再び

 「マルチフォーマットコンバータ」というジャンルの製品は、かつてCGクリエイターには欠かせないツールの1つであった。今のように動画編集が簡単でなかった時代では、大量の静止画連番ファイルを一括でバッチ処理することが必須だったのである。筆者がAMIGAを使っていた頃には、マルチフォーマットコンバータの名作と言われた「Art Depertment Pro」(通称ADPro)をArexxというOS組み込み言語で制御して、延々バッチ処理をやっていたものだ。今から10年以上も前の話である。MacintoshやWindowsのクリエイターには、「DeBabelizer」みたいなもん、といえば想像つくだろう。

 このようなジャンルが衰退したのは、パソコンでも最初から動画ベースで一気に処理できるようになったからである。そうすると今度は必然的に、動画のマルチフォーマットコンバータが必要になる人々も出てくる。映像クリエイターはもちろんだが、ストリーミングを事業としているような会社などだ。

 1つの動画コンテンツからマルチフォーマットにエンコードできる製品というのは、放送用ではハードウェアベースのものが結構ある。Grass Valley Groupの「AQUA」などがそうだ。もちろんこういうモノは個人が買えるような金額ではない。現実的なソフトウェアベースでもっとも知名度が高いのは、やはりDiscreetの「Cleaner 5」だろう。

 国内ではストリーミングはビジネスモデルとしてまだまだという感じであるが、米国では早くから放送事業体がストリーミングに対して積極的な姿勢を見せていたため、それに底上げされる形でコンテンツを提供するベンチャーも多い。そして今回取り上げるProCoderも、国内企業であるカノープスの製品ではあるが、企画から製品化までの主体となって動いたのは、米カノープスであるという。今年のNAB2002に出展されていたのをご記憶の方もいらっしゃるだろう。そう、あの製品がついに国内発売になったのである。

 プロユースのエンコーダ/マルチフォーマットコンバータとして、世界に挑むカノープスのクオリティを、さっそく体験してみよう。


■ これがProCoderだ

 まず最初に、ProCoderという製品の概要を掴んでおこう。多くの人がこれをプロ用のMPEG-2エンコーダだと思っているようだが、それはProCoderのほんの一面に過ぎない。その実体は、1つの、または複数の動画コンテンツを素材にしてフィルタリング処理などを行ないながら、複数のフォーマットに対して同時にエンコーディングを行なう、言うなればバッチ処理エンコードプラットフォームなのである。そのフォーマットの1つとして、カノープス独自エンジンのMPEG-2エンコーダやカノープスDVコーデックが含まれるというわけだ。

 作業工程は、「ソース」、「ターゲット」、「コンバート」の3つに分かれている。まず「ソース」だが、ここは変換したい映像ファイルを登録するところ。同じMPEGでも、m2pやm1pのようなあまり流行っていない拡張子にも対応しており、事前に拡張子を変更しなくてもいいのは便利だ。

メインビューは3つの行程に分けられている ソースの詳細設定では、ソース範囲も設定できる

 ファイルは1つだけでなく、複数のファイルが登録できる。さらに複数のファイルを連結して1本のファイルとしてまとめてエンコードもできる。放送事業を考えると、1本の番組であっても当然複数の人間が平行で作業するため、当然できあがってくる映像ファイルは複数に分かれている。またCMなどを挟む場合は、当然CMのファイルは別に存在する。ストリーミングではこれらを1本のファイルにしてしまわなければならないが、たかだか一本化のためだけにわざわざ編集ソフトを起動して再書き出しするのは、大仰すぎるのである。

 また各ソースの詳細設定では、IN点とOUT点を指定することもできる。さらにこの時点でビデオとオーディオにフィルタをかけることもできる。インタレース素材をプログレッシブに変換したり、その逆にフィルム素材を29.97fpsのインターレースに変換するといったフィルタは、業務ユースにはありがたいだろう。ただ、オーディオフィルタに関しては、ちょっとイコライザ系が弱いようだ。連結させるソースの音質を合わせる、あるいはメディアに応じた音質補正という作業はありうると思うのだが、これからの充実に期待したい。

ビデオ系フィルタ。インターレース変換フィルタは重宝しそうだ オーディオ系フィルタ。ちょっとイコライザ系が弱いか?

 続いては「ターゲット」の設定。ここではソースファイルをどの形式に変換するかを選択する。基本的にはAVI、MPEG-1と2、Quicktime、RealVideo、Wave、Windows Mediaに変換できる。しかし、これらのファイルフォーマットは、ストリーム用のものやらビデオ用のものやらのコーデックを内包しており、目的に応じて使い分けなければならない。しかしProCoderでは、「ターゲットの追加」ウインドウにあらかじめ用途別の設定がプリセットされているので、目的別の設定がすぐに得られるようになっている。またこの段階でもフィルタリングが可能。あるコーデックのみフィルタをかける、といった設定もできるわけだ。

 Quicktime、RealVideo、Windows Mediaのエンコードは、それぞれOSにインストールしてあるエンコーダのフロントエンドとして働くわけだが、MPEGとDVに関しては、カノープスのオリジナルエンコーダが動作する。注目はやはりMPEG-2の2パスVBRエンコードだろう。詳細設定では、従来のカノープスエンコーダよりもやや突っ込んだ設定が可能になっており、その中の「速度/品質設定」では「マスタリングクオリティ」という項目は目新しいところだ。このサンプルは後でご覧いただくことにしよう。

複数のターゲットを同時に指定できる 従来よりもやや突っ込んだ設定が可能

 最後の「コンバート」は、特に何か設定があるわけではなく、エンコード開始を宣言するためのエリア。試しにいつもの24秒の映像を、MPEG-1、Quicktime、WindowsMedia、RealVideo(それぞれDSLストリーミング用)と、DVD用MPEG-2に同時変換してみた。フィルタはプログレッシブ変換と、オーディオの正規化を適用した。コンバートは平行して行なわれ、トータルでかかった時間はPentium 4 1.7GHzのマシンで7分47秒であった。もっとも最後までかかったのはやはりMPEG-2で、これは「マスタリングクオリティ」による変換だからだろう。ちなみにMPEG-2 2pass VBRで「最高画質」を単体でエンコードしたところ、2分4秒であった。

 素材としてカノープスのプロ向け動画素材集「CREATIVECAST Professional」を使用。DVテープに書き出したものをキャプチャし、Procoderでエンコードした。

(c)CREATIVECAST Professional

フォーマット詳細エンコード結果
MPEG-1 Webダウンロード 320×240ドット、 24fps、 1Mbps mp1.mpg
(3.99MB)
Quicktime Webストリーミング 160×120ドット、15fps、384kbps qt.mov
(1.97MB)
WindowsMedia Webストリーミング 320×240ドット、30fps、100~768kbps wmv.wmv
(3.18MB)
RealVideo Webストリーミング 320×240ドット、30fps、350kbps rm.rm
(1.08MB)
MPEG-2 DVD NTSC
(最高画質)
2passVBR(平均4Mbps、最高6Mbps)
mp2_hq.mp2
(11.7MB)
MPEG-2 DVD NTSC
(マスタリングクオリティ)
2passVBR(平均4Mbps、最高6Mbps) mp2_mq.mp2
(11.7MB)
サンプルはMPEG-2を除き、すべてProCoderのプリセット値を用いている

再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。




■ 多彩なユーザビリティ

 ProCoderはこれだけでも十分合理的なエンコードプラットフォームではあるのだが、業務で使用することを考えたら、別のユーザービリティが必要となる。その1つが「ProCoderウィザード」であり、それと対称に位置するのが「ドロップレット」である。

 「ProCoderウィザード」は、いわゆるウィザードベースで設定を少しずつ進めていくインターフェイスである。ウィザードというのはそもそも、その作業に詳しくない人が使用することを考慮したものであるのは周知の通りだが、なぜこれがProCoderにあるのだろうか。その理由はやはり、このソフトが業務ユースであることが意識されているのであろう。

ProCoderのウイザード。単体のファイルならこちらのほうが便利

 例えばベンチャー企業がProCoderを1つ買って、エンコード専用マシンを設えたとする。当然このマシンは、社員全員が共同で使用することになるわけだが、そこには当然エンコードには詳しくない、というよりもパソコンそのものに詳しくない人も存在する。ProCoderは、そういう人にも使って貰わなくちゃ仕事にならないのである。また、単体のファイルをちょっとエンコードするだけ、という場合には、わざわざ3つに分かれたモードを渡り歩いてセッティングするのが面倒、ということもあるだろう。そういう時にウィザードモードは、案外役に立つのである。

 もう1つの「ドロップレット」は、完全に定型業務化したときに威力を発揮するインターフェイスだ。まず最初にProCoderの「ターゲット」で、いつも変換するコーデックの組み合わせとそのパラメータをみっちり決めて、これを「プロファイル保存」で保存しておく。例えば「Web4点セット」などと名前を付けておくわけだ。次からは「ターゲットの追加」でこの「Web4点セット」を選ぶと、一撃で複数コーデックとその設定がロードされる。

 これだけならほんのちょっと業務が定型化できたに過ぎない。そこで「ドロップレット」を作成する。ドロップレットとは自動実行情報を含んだマクロみたいなプログラムである。これをデスクトップなどに置いておき、変換したいファイルをドラッグ&ドロップする。するとドロップレットがProCoderを起動し、変換のセッティングを完了させ、あとは「開始」ボタンを押すだけ、という状態に持っていってくれる。デイリーでストリーミングソースを作るという業務にはかなり便利な機能であろう。

プロファイルを利用してドロップレットを作成 ドロップレットはEXEとして作成される(一番下のアイコン)



■ 総論

 ProCoderを使うメリットを考えてみると、ストリーミング三羽烏のQuicktime、RealVideo、WindowsMediaに関しては、それぞれのエンコーダが独自に持っているパラメータを一元化して管理できるという利点がある。

 また同じコーデックでも微妙に設定を変えてベストなものを探すような作業でも、一度に設定すれば同時に結果を得ることができるので、非常に楽だ。ただ欲を言えば、そのような使い方をする際に、ターゲット情報をコピーして単純に増やすような機能があっても良かっただろう。

 そしてカノープスのエンコード技術をすべてつぎ込んだと言われる、ProCoder独自のMPEG-2コーデックのできは、かなり良好。業務用ソフトウェアエンコーダには先駆者として「CinemaCraft Encoder SP」があるが、ProCoderは価格的にだいたいその半分ぐらいの98,000円に設定されている。DVD-Videoの利用がビジネスベースでも広がっていけば、この値段の差が効いてくるだろう。

 Web用マルチフォーマットコンバータという見方をすれば、88,000円のCleaner 5のほうがHTMLオーサリングまでサポートといった点で、クリエイターにとってはメリットがある。しかしCanopus USAの資料によると、ベンチマークでは圧倒的にProCoderが優位であると主張している。確かにエンコード速度は、定型業務化すればするほど、またファイルが大量になるほどポイントになっていく部分だ。

 米国主体で製品化されたProCoderだが、国内メーカーのエンコード技術が世界に認められたのは我々日本のユーザーにとっても嬉しいことだ。ProCoderの国内市場がどのぐらいあるのかは未知数ではあるが、DVDにしろブロードバンドにしろ、マルチフォーマットの動画圧縮は、映像産業として将来性のある部分である。そういう時の戦力として、ProCoderは実に魅力的な製品に仕上がっている。


□カノープスのホームページ
http://www.canopus.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.canopus.co.jp/press/2002/procoder.htm
□製品情報
http://www.canopus.co.jp/catalog/procoder/procoder_index.htm
□関連記事
【7月5日】 カノープス、ビデオフォーマット変換ソフト「ProCoder」
―新開発のMPEG-2コーデックと、DVコーデックを採用
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020705/canopus.htm

(2002年8月28日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2002 Impress Corporation All rights reserved.