“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
第76回:低価格ながら高品質「キヤノンIXY DV M」
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■ 買いやすい低価格モデル
少し前までDVカメラは20万円を下らないものだったのだが、ここ最近は価格低下が著しい。安いものではストリートプライスでだいたい13万円以下、さらに10万円を切るものも珍しくなくなってきている。もっとも安いにはそれなりの理由があるわけで、デジタルだから画質は全部同じ、というわけではない。アナログの光学系で性能が大きく変わってしまうのが、ビデオカメラなのである。いくら買いやすくても、ハズレは引きたくないのは誰でも同じだろう。
もちろん低価格DVカメラの中でもいいものは存在するわけで、普段はフラッグシップモデルばかり扱ってきているZooma!でも、ちょっと低価格モデルやってみようか、という話が持ち上がった。そんなおり、タイミングよくリリースされたのが、今回取り上げるキヤノン「IXY DV M」である。
IXY DVシリーズは、キヤノンの縦型コンパクトモデルとして人気の高いブランド。これが普及クラスなのに対し、同じ縦型でも上位モデルとしては「PV130」がある。今回のIXY DV Mは、ブランドとしてはIXY DVなのだが、スペックから判断すると実質的にPV130の後継機と見ることができる。高いイメージのあるPVシリーズとしてではなく、買いやすい価格帯のIXY DVブランドとして出した方がいいという営業的判断だろうか。今後PVシリーズとしてさらに高画質機が出てくるのか、はたまた縦型モデルはIXY DVシリーズに統合されるのかは定かではないが、高画質機が低価格で手に入るのは歓迎すべき傾向だ。
ぐぐっと買いやすくなったキヤノンの普及機上位モデル、その実力をさっそく検証してみよう。
■ PV130譲りの硬派ボディ
まず全体のデザインを見ていこう。IXY DVシリーズながらもPV130の後継機と言うだけあって、デザイン的にはPV130に近い。背面にあるボタンの形状は違っているものの、配置などはほとんど同じだ。PV130は、ちょうど去年の今頃Zooma!で扱っているので、バックナンバーで見比べて頂くといいだろう。
目に付く違いと言えば、まずビューファインダは可動式ではなく、ヒップアップした位置で固定となった。これはIXY DV3から採用になったデザインで、評判がよかったため今回も採用になったのだろう。逆に言えば、IXY DVっぽさというのはこの部分ぐらい。
PV130より若干スマートに見える | ボタン形状は違うが、レイアウトは同じ |
端子類は、PV130がほとんどの端子を前面に設けていたのに対し、AV入出力とS端子といったアナログ系が正面左サイドへ移動した。正面の端子を整理したためか、ボディがスマートに見える。実際に横幅は6mmほど薄くなっている。
正面の端子は、デジタル系がメイン | アナログ系は側面に移動した |
同じく正面で目立つのは、同社独自の「スーパーナイトLED」だ。これはナイトモードでの撮影時に補助光として点灯するほか、ストロボ撮影時にも補助光として点灯し、赤目低減に効果があるという。
筆者が感心したのは、グリップベルトの作りである。以前PV130のレビュー時に、ベルトの折り返し部分が切り立っていて痛いと書いたが、IXY DV Mではこの部分まできちんと合皮でカバーされており、この問題がちゃんと改善されている。エラいなキヤノン。
これがスーパーナイトLED | ベルトは輪郭全部が合皮でカバーされた |
スペックもチェックしておこう。レンズのフィルタ経は34mmで、9群12枚(両面、片面非球面レンズ各1枚使用)のキヤノンレンズ。ビデオ記録では35mmフィルム換算で約52.7mm~527mmの光学10倍ズーム、静止画記録では35mmフィルム換算で約39.5mm~395mmの同じく光学10倍ズームである。以前のモデルでは静止画にするとズーム倍率が下がっていたのだが、今回は同じ倍率まで引き上げている。手ぶれ補正は光学式だ。
CCDは総画素数約133万の1/4型で、有効画素数はビデオ記録時で約69万、静止画記録時で約123万画素。最大で1,280×960pixelの静止画撮影が可能。フィルタは補色系。レンズにしろCCDにしろ、PV130より小型化されているが、IXY DVシリーズでは最上位の品質と見ていいだろう。
光学10倍をキープするキヤノンレンズ | メモリはSDカードに対応 |
また以前からキヤノンのDVカメラでは、ビデオと静止画でそれぞれに最適な色味で撮れるのが特徴だったが、さらに独自のカメラ信号処理LSI「MACS (Multi Architecture Camera System)」を採用し、信号処理をよりいっそう強化したようだ。
■ 妥協のない高画質
では実際に撮影してみよう。あいにく最近の東京は天候が悪く、この日も曇天での撮影となった。条件は悪いが、これも1つの例だと思って見てほしい。
ビデオモードでのWide端は52.7mmと、あまり広くない。ほとんど目視と変わらない感じだ。ここ何回かDVカメラをレビューしているが、こうもWide端が狭いカメラが連発すると、まるでそれが普通のような気がしてくる。今後このような傾向が続けば、プロとアマチュアの映像はどんどん別のものになっていくような気がする。
JPEG (640×480ドット) |
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Wide端(52.7mm) | Tele端(527mm) |
JPEG (1280×960ドット) |
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Wide端(39.5mm) | Tele端(395mm) |
一方Tele端で撮っていて気になったのは、光学式手ぶれ補正の追従性だ。ほかのカメラではここが気になったことはないのだが、どうもこのカメラではワンテンポ追従が遅いような気がするのである。Tele端で動物などの動きをフォローしているとわかるのだが、動きに合わせてカメラを振ると、ワンテンポずれがあるため、ちょっと行き過ぎてしまう。それを戻そうとまたカメラを動かすと、また行き過ぎる。そうこうしているうちになんだか酔っぱらってんですかオレはみたいな映像になってしまいがちだ。ハンディだとあまり気にならないが、三脚を付けて撮ると、この傾向は顕著になる。
ビデオ撮影時の色味に関しては、曇天ということもあって全体的にあっさりした印象だが、解像度は悪くない。また色味の強い被写体の発色は、かなり強い。1CCDで補色系フィルタにしては、なかなかがんばっている。
JPEG (640×480ドット) |
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Tele端での動きフォローは、慣れが必要 | ポートレートモードで立体感を狙ったが、あまりボケなかった |
JPEG (640×480ドット) |
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細かいディテールはよく撮れている | 色味の強いものは、条件が悪くてもちゃんと色が出ている |
一方静止画のほうは、条件が厳しいにもかかわらず、キヤノンのDVカメラ特有の締まった映像が撮れた。元の解像度で見てもノイズの少ない、良好な画質だ。ビデオモードでもそうなのだが、曇天でホワイトバランスがオートでは赤っぽくなる。マニュアルでホワイトバランスを取りながら撮影する必要があった。
JPEG (1280×960ドット) |
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シズル感もいい感じで撮れている | 解像度の良さは静止画で十分発揮される |
JPEG (1280×960ドット) |
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曇天ながらも発色が綺麗だ | 現場はかなり暗いが、締まった色味が出る |
IXY DV Mの特徴である「スーパーナイトLED」は、スーパーナイトモードで撮影する際に点灯する。色は青白色の蛍光灯に近い。それほど強烈に光るわけではないが、闇をぼんやり照らす程度には明るい。赤外線を使ったナイトショットではモノクロ映像になってしまうが、スーパーナイトLEDでは可視光線を照射するので、カラーで撮れるのがミソだ。試しに押入れの猫を撮ってみたが、本当に光を照らすので、暗闇で寝てる姿をこっそり撮ろうと思ってもバレバレであった。
撮影後の再生操作に関してだが、今回のモデルでは本体後部のボタンが十字キーを兼用するようになった。これはプリンタを直接繋いだ際に画像のトリミングに使用するものだが、役に立つのはそればかりではない。このカメラはビデオでも静止画でも、再生時にズームレバーを操作することで映像を拡大表示させることができるが、その拡大エリアの移動にも使える。
真っ暗な押入れ内をスーパーナイトで撮影。色もそこそこ出る | 機能ボタンを十字に配置することで、ポイント操作がやりやすくなった |
■ 総論
従来キヤノンのビデオカメラは、IXY DVシリーズにしろ横型の撮レビアンFVシリーズにしろ、デザイン的に女性ユーザーを意識している印象を受ける。曲線を多用して厳つさがなく、カラフル。そこにこのIXY DV Mがラインナップに加わることで、今後小型DVカメラでも硬派な流れができてくるのかな、と期待させるものがある。
このカメラの特徴として、暗部撮影に力を入れているところが目新しい。AEモードではローライト、ナイト、スーパーナイトと3段階も備えている。キャンプや花火のシーズンは終わったが、これから秋祭り、クリスマスなど、夜のイベントも少なくない。日中だけでなく、一日中撮影OKというわけだ。
またビデオカメラとしての性能もさることながら、静止画撮影能力が高いのが、このカメラのポイントでもある。光学手ぶれ補正+光学10倍の威力で、家族で楽しむカメラとしては使いやすい。
ちょっと気になったのが、マイクの位置が後ろに移動したため、学芸会や音楽会など、オーディオがメインの収録はどうかなという点だ。アクセサリシューがないので、外部マイクも使いづらい。ビューファインダで撮影する際は、前髪がマイクにかからないよう、注意してほしい。
IXY DV Mは、PV130に比べて光学系のスペックが若干後退したのが残念であるが、従来のIXY DVシリーズよりは上回っている。価格を考えればまあ納得しないわけにもいくまい。まだ出荷開始から間もないが、すでにネットではキット込みで12万を切るところも出始めており、それでこの画質ならいい買い物だろう。
筆者としては、デジタルエフェクトやデジタルズームなんかいらないので、全部取っ払ってそのぶん低価格にすればいいのに、と思うのだが、デジタルエフェクトなんかを取ってもチップが1つ2つ減るか減らないかだろうから、大したコストダウンにはならないのだろう。「いいDVカメラ=多機能」というところからユーザーが脱却しない限り、筆者理想のカメラの実現は難しそうだ。
IXY DV Mは、スタイルとしてはオーソドックスでデバイスとしての面白味に欠けるのは否めないが、撮れる絵は綺麗だ。なにはともあれ運動会を間近に控えて「あなたビデオどうすんのよこないだ壊しちゃってもう今週末運動会じゃないの新しいの早く買ってきてよでもお金ないわよ」と矢継ぎ早に注文されながらもなかなかカメラが決まらない人には(オレだ)、強力な候補登場だと言えるだろう。
□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□ニュースリリース
http://www.canon-sales.co.jp/pressrelease/2002-08/pr_ixydvm.html
□製品情報
http://www.canon-sales.co.jp/dv/lineup/ixydvm/index-j.html
□関連記事
【8月1日】キヤノン、133万画素CCDと光学手ぶれ補正搭載「IXY DV M」
―インターネット経由で遠隔操作も可能に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020801/canon.htm
(2002年9月18日)
= 小寺信良 = | テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。 |
[Reported by 小寺信良]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp