■ 時代はもうHDD!! ポータブルMP3プレーヤーというモノも、カメラ系量販店で専門コーナーができた時点ですっかり一般的に知られるようになった。しかし思い返してみるとその歴史なんてまだ全然浅いことに驚く。なんせ最初のポータブルMP3プレーヤー「mpman」の発売が'98年なのである。それからわずか4年余りですっかり市民権を得たというのは、ある意味驚異的なスピード出世である。まあデバイスに出世があればの話だが。 そのポータブルMP3プレーヤーにも、徐々に変革が訪れようとしている。昨年あたりから記録媒体にメモリではなく、小型HDDを搭載したものが登場してきた。各メーカーの勢いからすると、今後HDDタイプはかなり伸びそうな感じだ。 そこで今回のElectric Zooma!は、この秋、HDD搭載MP3プレーヤーとして大注目の「Apple iPod Windows版」と、「Creative NOMAD Jukebox Zen」の2種類を比較してみることにした。iPodはすでに昨年Macintosh版がリリースされておなじみだが、初のWindows版が9月19日に発売。一方NOMAD Jukebox Zen(以下 Zen)は、9月末発売ということらしいが、発売前のβ機をお借りすることができた。 デザインとインターフェイスで鳴らしたAppleと、オーディオデバイスで鳴らすCreative。はたしてその製品は、我々に何を語ってくれるのだろうか。さっそくチェックしてみよう。 なおZenはβ機であるため、製品版とは仕様が異なるかもしれないことをお断わりしておく。
■ 本体デザインはかなり違う まずいつもの外観チェックの前に、両者のスペックを確認しておこう。今回用意したiPod Windows版は10GBモデル。今年発売された2世代モデルは、昨年リリースされた初期型に比べ、コントローラが回転式からタッチセンサー式に変更された。回転式のコントローラは耐久性に問題があり、ガタツキが発生しやすかったための改良であるという。また10GB、20GBモデルには、リモコンとキャリングケースが付属している。 一方Zenは10GBモデルだけで、ほかにバリエーションはない。CreativeにはJukeBoxシリーズとしてほかにもHDD搭載MP3プレーヤー「NOMAD Jukebox 3」があるが、これはCDプレーヤー風の大型モデルであり、今回のような小型モデルは初となる。それだけに注目度も高い製品だ。今回はβ版のため手元にはないが、製品版にはトラベルポーチも付属する。 では外観を調べていこう。iPod本体は、フロント部が透明な樹脂でカバーされており、背面からサイドにかけて継ぎ目のないアルミの打ち出しである。アルミは鏡面仕上げとなっており、綺麗ではあるが指紋や傷が目立ちやすい。外部からはネジ類は見えず、フロント部とはめ込みで作られている。 対するZenは、側面のボタン部を除いて全体がアルミ製であるが、つや消しのコーティング処理が施されている。角部には凹みが着けられ、背面には小さな突起の足があるため、ボディ背面に傷が付きにくい。組み立てはネジ式で、これを外せば簡単に中身が見えそうだ。
同じHDD搭載とはいえ、2つを並べてみるとサイズがずいぶん違っている。iPodがほとんどたばこサイズなのに対し、Zenは一回り以上大きく感じる。 このサイズは、内蔵HDDの差によるものだ。iPodが東芝の1.8インチHDDを採用しているのに対し、Zenの方は2.5インチHDDを採用している。 ボタン類では、iPodは側面に何もなく、すべて前面にある円周上に配置された4つのボタンと円形コントローラ、中央部のボタンのみで操作を行なう。上面にはFireWireポート、ヘッドフォン端子、ホールドボタンがあるのみだ。 一方Zenのほうは、ボタン類が多い。左側には電源コネクタ、電源スイッチ、プレイ表示ボタン、ボリュームがある。反対側にはメニュー操作用ダイヤル、メニューボタン、プレイボタン、スキップボタンと並ぶ。上部にはUSB 1.1、SB1394(IEEE 1394互換)、ヘッフォン端子がある。インターフェイスが2系統あるのはこの手のデバイスとしては珍しい。またヘッフォン端子の横にある端子は、後で発売されるリモコン用のものである。
携帯性という意味ではサイズの小さなiPodに歩がありそうだが、耐久性という面ではZenのほうが傷にも強く、なんだか頑丈そうだ。
■ 支援ソフトウェア MP3プレーヤーの場合は、PC側の支援ソフトウエアの存在が不可欠である。支援ソフトウエアの目的は、CDからのリッピング&エンコードと、プレーヤーへのデータ転送だ。音楽とプレーヤーのブリッジとなる部分であるため、その使い勝手は運用に大きく影響する。本体を調べる前にこちらを比較してみるのも一興だろう。 ● iPod篇 iPod Win版に付属のソフトウェアは「MusicMatch Jukebox Plus日本語版 Ver7.1」だ。MusicMatch自体は古くからあるソフトウェアMP3プレーヤーで、フリーの「MusicMatch Jukebox」と、有料高機能版の「MusicMatch Jukebox Plus」がある。iPodに付属するのはPlus(ライセンス付き)で、これにiPod用のプラグインを加えることで、iPodの支援ソフトウェアとなる。カスタマイズは徹底していて、iPodのオンラインヘルプも、MusicMatchから呼び出すようになっている。
iPodをFireWire(IEEE 1394)で接続すると、自動的にデバイスが認識され、MusicMatchが起動する。転送設定はいろいろなオプションがあるが、PC内のMP3ライブラリ全体をiPodと自動同期するという方法が一番楽だ。もちろん手持ちのMP3データがiPodの容量を超えているケースもあるわけで、そのときはMusicMatchで作ったプレイリストに対して同期するという設定もできる。参考までに、1枚のCD(68.3MB)を転送するのにかかった時間は、12秒であった。ただしこれはiPodの中身が空っぽの状態であり、ファイルが沢山入るほど転送速度は低下するようだ。 エフェクト類に関しては、事情がちょっと複雑。MusicMatchでは、再生時の音量を揃える機能があるが、これをiPodで有効にするためには、転送時にPC側で最適化処理をしてから転送するという段取りになる。これには通常の転送よりも時間がかかり、前出のCDでは4分40秒もかかった。もちろん最適化処理を行なうPCの性能でこの値は変わってくる。しかし使用したPCはPentium 4 1.7GHzで、そんなに遅くて遅くてしょうがねえマシンでもないことを考えると、容量いっぱい分の最適化処理転送時間は想像を絶する。
またイコライザ設定に関しては、MusicMatchで行なったイコライジングはiPodには適用されない。いやまったく当たり前のようだが、MacのiTunesとの組み合わせでは、これができるそうである。Windows版でこれを行なうには有料のプラグインが必要だが、まあPCとポータブルプレーヤーではリスニング環境が全然違うので、PCのイコライジングをそのまま持ち込めることにメリットはないと考える。 付属のMusicMatchでちょっと心配なのは、英語版のMusicMatchに比べ、オンラインバージョンアップのメニューが省かれている点。自動バージョンアップに対する設定項目はあるので、まさかバージョンアップがないまま一生放置ということはないだろうが、ちょっといやな感じだ。 ● Zen篇 一方Zenのほうは、「Creative Play Center」というオリジナルソフトが付属する。音楽のライブラリ化は、CDからのリッピングと、MP3ファイルのインポートが可能だ。 転送に関しては、Zenを接続すると自動的にCreative Play Centerが起動する。しかし同期までは自動ではなく、[Audio Sync]ボタンをクリックする必要がある。PC上のライブラリ全体とZenとの同期が基本になっているが、それ以外のデータも個別に登録できる。iPodとの最大の違いは、Zenでは遅れて発売されるリモコンを使ってボイス録音が可能になる(予定)こともあり、ZenからPCへという逆の転送もサポートしている点だ。
また音量を一定にする「スマートボリュームマネジメント」(SVM)は、リッピング時にMP3のデータ内に解析データをくっつけるだけで、実際の音量調整はZen内部で行なう。そのため転送速度は、SVMを使っても使わなくても同じだ。参考までに、同じCD1枚にかかった転送時間は、IEEE 1394接続時で13.5秒であった。 2つのソフトウェアを比較すると、PC内のデータを管理するライブラリ機能は、汎用MP3プレーヤーであるMusicMatchのほうが上のようだ。ただしバージョンも7を数えるまで進化した巨大アプリケーションであるため、フル機能を把握するまで時間がかかるだろう。 一方Creative Play Centerのほうは、Zen本体のほうでいろいろなサウンドプロセスが可能なので、ソフトウェアの方は支援機能に徹している感がある。使用方法も簡単で機能が把握しやすいが、PCで音楽を聴く場合のプレーヤーとしては機能不足だろう。
■ 方向性が異なる本体機能 では次に、本体の使い勝手をいろいろな側面からチェックしよう。 ● 操作性 iPodの音楽再生はシンプルだ。[ブラウズ]モードでアーティストを探し、アルバムを選んで曲リストへ入り、再生する。階層へ入っていくにはコントローラ中央のボタンを押す。階層を戻るには、上部の[menu]ボタンを押す。基本動作はこれだけだ。階層が深い場合には、トップメニューに戻るために何度もボタンを押さなければならないが、反応がいいのでそれほど煩雑な感じはしない。プレイリストも再生できるが、これをiPod本体では作成できず、支援ソフトウエアのMusicMatchで作成しておかなければならない。 タッチ式に変更されたコントローラは、機能的には十分である。しかし回し始めてから実際にメニューが動くまでの反応は、従来の回転式のほうがレスポンスが良かった。 一方Zenのほうは、横のダイアルを使ってメニュー操作を行なうのだが、再生方法が複雑だ。トップメニューから[ライブラリ]に入り、その中にプレイリストやアルバム、アーティストなどに分かれている。ここで再生するか[再生キューに追加]を選ぶと、プレイリストとは別の[再生キュー]というリストに登録される。再生キューは再生履歴のような扱いになるのだろう。再生キューがあるのは便利なのかもしれないが、最初はなんだか関係がよくわからなかった。 ボタン類がたくさんあるので、持ち歩くにはホールド機能が重要になるだろう。しかしZenのホールドは機械的なスイッチではなく、メニュー内で設定する。まだ専用リモコンが発売になっていないので使い勝手の面ははっきり言えないが、メニューでの設定だけでは辛いだろう。 ● 付属イヤホン iPod付属のイヤホンは、ポータブルプレーヤーの付属品としてはまずまずのレベル。この手の付属品には、どう見ても原価300円以上するとは思えないような情けないシロモノが付属していてがっかりすることも少なくないが、iPodの場合はとりあえずそのまま使ってもいいレベルのものだ。 Zen付属のイヤホンは、製品版でもこれが付くかどうかわからないが、一応評価しておこう。イヤーパッドの代わりに低音増強用パッドの付いたものだが、音の癖が強く、まるでAMラジオのような音がする。あくまでも予備としておく程度のもので、日常使用するものは別途購入すべきだ。
● 音質 iPodのデフォルト状態の音質は比較的素直だが、低域はあまり出ない。その代わり高音域の抜けがよく、ステレオセパレーションが良好なため、すっきりさわやかなサウンド。ただ曲によっては若干歪みっぽく聞こえるものもある。 Zenのほうは、音質が付属のイヤフォンでは評価できないので、iPod付属のもので評価した。こちらの方は低域から高音域までがバランス良く出力される、密度の濃いサウンド。音の解像度はiPodよりも若干落ちるが、張りのある音で小さいボリュームでもよく聞こえる。 ● サウンドプロセス iPodのサウンドプロセスは、イコライザぐらいだ。オフも含めて合計22種類ものモードがあるが、どれも効き方が浅い。「Bass Booster」と「Bass Reducer」のような相反するものは違いが明確だが、それ以外のRockとかDanceとかは、どこがどう違うのかわかりにくい。 その代わり、というのも変だが、時計表示やカレンダー、アドレス帳やゲームなどが可能で、ポータブルデバイスとしての広がりを意識した作りになっている。 ZenはさすがにCreativeの製品だけあって、サウンドプロセスには大変な種類がある。まず大まかに分けると、エコー系の[エフェクト]を筆頭に、[再生スピード]、[イコライザ]、[スペーシャル](擬似的にステレオセパレーションを拡張する)、[Smart Volume]がある。 さらにそれぞれの下にサブカテゴリが延々と広がっており、本体だけで相当遊べる作りとなっている。ただしこれらの効果は、同時に併用することができない。例えばSmart VolumeをONにしてEQも使う、ということはできないのだ。 ● ストレージとしての使用 これだけの容量であれば、PCに対してストレージとして使用しても十分役に立つ。iPodは、ただ挿せばWindowsがリムーバブルストレージとして認識し、ドライバなどは不要。また6ピンと4ピンの変換プラグも付属しているため、特に準備しなくてもいつでもストレージとして活用できる。 一方Zenはストレージとして利用する際には、「Creative File Manager」という専用ユーティリティ経由でしかアクセスできない。 しかしCreative File Managerは、自身のメニュー内に自分のプログラムをFDDに書き出す機能を持っている。
やや面倒だが、このFDDと一緒に持ち歩けば、とりあえずよそのPCでもマウントしてファイル転送が可能だ。 ただし音楽データに関しては、iPod、NOMADともそれぞれの専用ソフトウェアを使用しなれば音楽として再生できない。これは音楽盗用防止対策なのである。 ● 充電 両モデルとも内蔵された充電式バッテリで動作するため、充電サイクルは重要になる。iPodの場合は6ピンのFireWireで本体と接続するため、別途ACアダプタを使用しなくても、PCに接続するだけで充電が行なわれる。音楽の同期を行なうついでに繋ぎっぱなしにしておけば、勝手に充電される。また別途ACアダプタを使っても充電することができる。このアダプタが優れもので、ケーブルもFireWireケーブルを使い回す。なかなか頭のいい方法だ。 Zenの場合は、USB経由または、別途ACアダプタを接続して充電を行なう。アダプタはそれほど大型ではないが、クレードルなどはないため、充電+IEEE 1394でのファイル転送時はケーブルがかさばることになる。
■ 総論 MP3プレーヤーとしての本体機能だけをみれば、Zenのほうが圧倒的に高機能である。音のバランスも申し分なく、サウンドプロセスの多様さ(使うかどうかは別として)には圧倒される。いじって遊ぶには楽しいデバイスだろう。 一方iPodは、それをいじくって遊ぶというようなものではなく、音楽を入れて鳴らしっぱなしにするのを前提として作られているように思える。運用形態もそれに合わせて、充電や同期プロセスを完全自動化してしまうというあたり、いつも使うものはその存在が限りなく透明化していくべき、というポリシーを感じられる。 ほーらどっちを買うか、迷ってきただろう。すでにMP3プレーヤーは数多くの製品が世の中にあり、性能もかなりこなれてきた。どっちを買っても、大きくハズレということはない。ユーザーがこれをどう使うか、そこをじっくり考えて選べばいいだろう。 では筆者がどちらを買うか、と言われれば、そらもうiPodだ。その理由をストレートにいってしまえば、iPodのほうが全然カッコイイからである。この「カッコイイ」という条件はものすごいエネルギーを持っていて、多くの場合、性能や価格に対するマイナスイメージを一掃してしまう。筆者の場合、それが常時使うものであれば、カッコイイものじゃなきゃヤだ。 さらにiPodの場合はその執拗なまでの清潔感を強調したパッケージングにも特徴がある。よくあるような、「ケーブルをビニタイで止めてビニールに突っ込んで終わり」のような世界ではない。すべてのパーツが透明フィルムでカバーされ、丁寧に丁寧に梱包されている。このあたりも、「パッケージングまで製品の一部」というポリシーを感じさせる。同時にそれは購入者に対して大きな満足感を与えるだろう。例えほかの製品より1万円高くてもだ。 もしZenが、小学生の時に買った台湾製ポータブルラジオのようなルックスでなかったら、もう少し考え直すのだがなぁ。
□アップルのホームページ (2002年10月2日)
[Reported by 小寺信良]
|
|