■ 個人的に待ち焦がれておりました
友人と映画の話をしている途中や、家族でテレビを見ている際に「宮崎アニメの中で、何が一番好きか」という話題になることはないだろうか? 私は今まで数回この質問をされたことがあるが、その時は決まって「ラピュタかな」と答えることにしている。 いきなり個人的な話からで恐縮だが、私はこの「天空の城 ラピュタ」という作品が好きである。いや、大好きである。アニメ映画の中で一番好きだと言ってもいいくらいだ。何を隠そう、中学生の頃、同じくラピュタファンの友人と「登場人物の台詞を交互に言い合うゲーム」などをしていた記憶すらある。今でもラピュタ語の呪文を暗記している。ほとんど病気である。 よって、今回のDVD版の発売は「ついに来たか!!」という気持ちで一杯だった。レビューにあたっては、極端な思い込みで誉めちぎらないよう注意したいが、筆者の視点に偏りがあることを先にお断りしておきたい。 とにかく純粋に面白いと思う作品なので、あらためて何がそんなに気に入っているのか考えると悩んでしまう。だが、痛快かつサービス精神に溢れたこの作品を観るたびに「映画っていいなぁ」と素直に思う。実に不思議な魅力に溢れた作品だ。 ストーリーをあらためて説明する必要はないかもしれないが、簡単に紹介しておこう。機械工見習いの少年パズーは、空から降りてきた謎の少女、シータを助ける。彼女は「飛行石」と呼ばれる石を持っており、空中海賊や軍隊から追われる身だった。やがて、パズーとシータは「飛行石」に導かれ、空に浮かぶ伝説の城「ラピュタ」に足を踏み入れることになる。 登場するのは勇敢な少年と、可憐で凛とした少女、そして愛すべき個性的な悪役達だ。物語には恋と冒険が散りばめられ、「空に浮いている城」などという、聞いただけでワクワクする浪漫に溢れている。アニメ映画として、これ以外に何が必要だろうか!? そんな気分にすらなってしまうのである。
■ まず、エンターテイメントありき ありきたりなストーリーと表現してしまうとイメージが悪い。私としては、あえて「王道」という言葉を使いたい。王道は、最も魅力的だからこそ、何度も使われる道だと思うのである。 また、最初に「エンターテイメントありき」な作品だという点も評価したい。映画の冒頭から観客の視線を釘付けにし、次々に手に汗握るシーンを展開させ、観ている人を飽きさせない。何よりもまず、見ている人を楽しませようという姿勢が実にいい。今回DVDを観ながら、改めてその展開の上手さに関心してしまった。 というのも、最近の宮崎監督の作品はメッセージ性が強くなるあまり、映画を観ていると何かお説教をされているような気分になってしまう作品が多いように思うのだ。もちろん、主題があやふやだったり、何のメッセージも感じられない映画は困るのだが、私は映画を「娯楽」と考える人間なので、見ていて楽しい作品に弱いのだ。 難解な映画が嫌いだというわけではない。ただ、エンターテイメントの中でテーマを表現している作品が好きなのだ。あくまでテーマは「スイカにかける塩」のようなものであって欲しい。塩はスイカの味を引き立てるが、主役になることはない。また、塩だけを大量に食べさせられたら気分が悪くなってしまう。 そういった視点でこの作品を見ると、メッセージとエンターテインメントのバランスが、私の思う理想像に最も近いことに気付く。強烈なメッセージを背後に隠し、単純だが厚みのある物語に仕上げる。恐らくこれが、この作品に惹かれる最大の理由ではないだろうか。 また、「飛ぶこと」に非常に拘った映画だという印象も強く感じる。タイトルからして「天空の…」と付いているが、人間やロボット、巨大な戦艦など、実に様々なものが浮いたり落下したりする。空を飛ぶ描写の心地良さは宮崎アニメの大きな特徴の1つだが、物体による浮遊感の違いや、高さを意識した物語の展開は実に新鮮だ。 「アニメなんだ、飛ぶわけがない」と思いながらも、不思議なリアリティを感じてしまう乗り物も沢山登場する。ナウシカに登場する「メーヴェ」もそうだが、ラピュタの「フラップター」も、私の「死ぬまでに乗ってみたい乗り物リスト」に入っている。実に便利そうだ。もっとも、夜中に「ブブブブブ」と飛んでいたら怒鳴られそうだが……。 さらに、個性と感情に富んだキャラクター達と、それに負けない声の演技も忘れてはいけない。田中真弓や横沢啓子に加え、寺田農、常田富士男、永井一郎など、豪華な実力派声優が違和感のないアニメ世界を構築している。余談だが、空中海賊ドーラ役の初井言榮は、ドーラが巨大なハムを食べながら話すシーンを「ハンカチを口に含んで演じていた」という話を聞いたことがある。細かい話だが、流石はプロ、と妙に関心してしまった。 実在感のあるキャラクターと機械などに支えられ、ラピュタの世界観は高い完成度を誇る。DVDのジャケット裏の文句を引用するならば、「機械がまだ機械の楽しさを持っていた時代、科学が必ずしも人を不幸にするとは決まってないころ」の物語だ。だが、あくまで基本は人間ドラマであることを、強調しておきたい。 案の定、手放しで褒め称えてしまったが、1つだけ残念というか、気になる点もある。それは物語の中盤付近「ティディス要塞」で、パズーがシータを救出する場面だ。つまらないシーンというわけではなく、逆に盛り上がり方が強烈過ぎて、私はいつもそのシーンが終った段階で一息ついてしまうのだ。 つまり、最も重要な「天空の城ラピュタ」が登場する前に、ボルテージが最高潮に達してしまい、後は緩やかに下降してしまうのである。最後の盛り上がりを爽快なアクションシーンで演出し、中盤に負けないくらいハラハラドキドキさせて欲しかった。注文をつけるとするならば、それだけだ。
■ 音質、画質に問題なし。特典は…… 映像はビスタサイズのスクイーズ収録。音声は、日本語をドルビーデジタル2.0ch、英語をドルビーデジタルモノラルで収める。本編の収録時間は約124分で、Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは8.8Mbpsと高い。 画質は、'86年の作品だということを考慮しても、ジブリDVDの中では高い水準にある。傾向としては、カッチリとした絵作りで、今までのジブリ作品で気になった輪郭の強調も感じる。しかし、注意深く観察しなければさほど気になるものではなく、物語が中盤に差し掛かる頃にはほとんど違和感を感じなくなった。 音声の面でも特に不満はない。台詞がスタジオ録音の癖を覗かせる部分があるのが残念だが、オリジナルがそうであるため、DVD版を嘆く要素にはならないだろう。とにかく、物悲しさや、荘厳さを感じさせる久石譲のBGMが素晴らしいので、音の広がりを最大限に表現できるスピーカーのセッティングで見てもらいたい。 例えば、小型のスピーカーで点音源の空間表現能力を活かしたり、ワイドレンジな大型スピーカーで低音を雄大に再生すると、物語の世界により浸ることができるだろう。
特典ディスクには、ジブリ作品のDVDでお馴染みとなった絵コンテを収録。マルチアングルで本編と切り替えて視聴できる。また、ノンテロップのオープニング、エンディング映像を収録するのも嬉しい限りだ。しかし、オープニング映像と、着色した絵コンテを織り交ぜたビデオクリップ「天空の書」は少々期待外れだった。 特典のボリュームとしては一般的なレベルをクリアしていると思う。しかし、4,700円という価格を考えると、もう数点追加して欲しかった。ただでさえ、ジブリのDVD特典はいつも似通った内容となっており、そろそろ新鮮味が欲しいところだ。 その反面、「コレクターズ・エディション」の特典は充実している。内容は、「ロボット兵フィギュア 庭園バージョン」、サウンドトラックCD「Castle in the Sky」、DVD版イメージソング「君をつれて」のシングルCD、特別装丁版「小説 天空の城ラピュタ」の計4点。個人的には魅力的なセットだが、価格が18,000円と高めなので、評価が分かれるところだろう。
■ とりあえず家庭に1枚どうぞ 個人的には、DVDという手軽なメディアで、しかも安定した画質でお気に入りの作品がリリースされて非常に嬉しい。台詞を暗記するほど何度も観ているが、また何度も見返してしまいそうである。 最後に豆知識を兼ねた余談だが、コレクターズ・エディションにも同梱されている「小説版 天空の城ラピュタ」では、映画の後日談がほんの少しだけ書かれている。小説版自体は、徳間書店から'86年に文庫本で前編(ISBN:4196695566)、後編(ISBN:4196695574)の2巻が発売されていたが、今回のハードカバーはそれらをまとめたものだ。 小説版は後日談のほかにドーラの過去についても触れるなど、ファンにはたまらない内容になっている。また、挿絵を宮崎監督が担当しているのも見逃せない。ぜひ読んで欲しいのだが、10月上旬に発売予定だったハードカバー版の単品発売は中止となり、断り書きがDVDに封入されていた。 文庫版も発売から時間が経過しているので入手は困難かもしれないが、ネットや古本屋で発見した時は、ぜひ手にとってみて欲しい。
□関連記事 (2002年10月8日)
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