■ 目がマジ Windows XPがリリースされたときのPC業界のスローガンは、「デジタル家電の中心にPCがくる」というものであった。まあその鼻息はわからないでもないが、リリースから1年余り、では具体的に何があるのよ、と改めて見回してみると、実はあんまり変わってなかったりすることに気づく。 PCができることは、まあ家電に近づいていると言えるだろう。テレビ録画や音楽再生といったことだ。さすがに洗濯とかまではPCでやろうとは思わないが、もしかしたらシロモノ家電に強いメーカーが密かに研究中なのかもしれない。 まあそれは極端な話だが、PCと家電を近づけようという試みは、古くからAV関連で行なわれている。なんとかリビングにPCを置きたいと各メーカー知恵を絞っているのである。モニタはテレビを代用することで何とかなるとしても、リビングにPCをドデデーンと置くスペースはないのが実情だ。 そこで考えたねSONYさんは。リビングにもう無理に本体を置かないで、別の部屋にあるPCの端末をずずずーっと延長してリビングまで持ってきたらどーかと。それが11月にいよいよ発売される、「ルームリンク」なのである。 このルームリンクに対するSONYの鼻息たるや、ものすごいものがある。「ソニーの人がルームリンクの話をすると目がマジなんで怖い」と業界では話題になってるぐらいである。ウソだけど。公共の電波でウソつくな > オレ。てか電波じゃないし > オレ。 話題がもう1つ。この秋VAIOの新モデルで注目なのは、従来から搭載されていたTVチューナ/MPEG-2エンコーダカードが大幅に改良された点である。特に最上位機種の「VAIO RZ」には、ゴーストリダクション回路なども加えた「Giga Pocket Engine DX」が搭載される。従来機からどのぐらい画質が向上したのか、気になるところだ。さっそくテストしてみよう。
■ 新VAIOの新チューナ さっそくルームリンクを試してみよう、と言いたいところだが、まずその前にVAIO本体のほうをちょっと調べてみることにする。VAIO2002年秋モデル最大の特徴と言えば、今までのVAIOオリジナルアプリケーションの大半が大きくリニューアルされたところだ。これによってユーザビリティにも大きな変化が訪れることになる。 AV Watch読者に関係がありそうなところから拾っていくと、まず音楽ソフトの「SonicStage」がバージョン1.5となった。数字的には大した機能アップはなさそうな印象を受けるが、GUIはガラリと変わって、以前VAIO MXにのみバンドルされていた「SonicStage Premium」の影響が見られる。 リッピング動作などいろいろな部分が自動化されている点に、旧バージョンユーザーは若干とまどうかもしれないが、全体的に見れば初心者に対してわかりやすく、ミスを誘発しにくい設計になったようだ。
画像管理の「PictureGear」も、「PictureGear Studio」として生まれ変わった。以前のVAIOにはPictureGearを始めプリントスタジオ、Visual Flowなど画像関係のアプリケーションが複数入っており、それぞれが単独で動いていたため、どのケースではどれを使う、といった判断ができなかった。PictureGear Studioはこれらの機能をまとめて統合したもので、内部的にはいくつかのアプリケーションに分かれてはいるものの、GUIが統一されて、お互いの関係も明確になった。 テレビ録画の「Giga Pocket」には、大きな変更点はない。ただEPG予約の際に立ち上がるウィザードが大幅に簡略化され、単純な録画ならば2クリックで済むようになった点は新しい。ソフトウェアの変更点は少ないが、ハードウェアの仕様は大きく変わった。VAIOに搭載されているTVチューナ付きMPEG-2エンコーダカードがリニューアルしたのである。「Giga Pocket Engine」と名付けられた新カード最大の特徴は、独自開発のチューナユニットだ。 以前のカードを比べて貰えればわかるが、以前のチューナユニットはアルプス製のものである。これはTVキャプチャカードや、ポータブルテレビにはよく使われている小型モデルであるが、大型テレビには使わないレベルのもの。一方新開発のチューナユニットは、VEGAの部隊がVAIO用に新開発したもので、従来のキャプチャカードのレベルとは一線を画す画質が得られるという。
早速編集部内にあったVAIO旧モデル(VAIO RX)と比較してみた。なお今回使用したVAIO RZには3次元Y/C分離回路とゴーストリダクション回路が搭載された「Giga Pocket Engine DX」が入っている。これらの設定は「チャンネル設定」で行なうことができるが、特にパラメータなどはなく、3次元Y/C分離回路は全体的なON/OFF、ゴーストリダクションはチャンネルごとのON/OFFができる程度となっている。 なおゴーストリダクションに関しては、今回のサンプルでは放送電波を入力したわけではないので、この効果は現われていない。
サンプルの画像ではあまりきわだった差は確認できないかもしれないが、実際の放送で比較してみると、旧モデルでは発色の面で若干色ヤセが見られる。また旧モデルでは暗く沈みがちだった暗部も新モデルでは解消され、輝度の階調表現がより綺麗になっている。旧モデルでも十分な画質と思っていたものだが、実際に新モデルの画像と比較してみると、やはり1ランクの違いが見られる。まだまだアナログ回路でもやるべきことが沢山残されているようだ。
■ これがルームリンクだ
ルームリンクは、ちょっと見るとワイヤレスLANのアクセスポイントのように見えなくもない、小型のデバイスである。本体前面には電源スイッチとリモコン受光部、LEDしかなく、リモコンでのみ操作可能。で、基本的にこれはいったい何をするものかというと、VAIOと100Base-TXのLANケーブルで接続するだけで、VAIO内の映像や音楽の出力が、このルームリンクから得られるのである。
VAIOでは今年夏モデルから、VAIO同士をLANで接続してお互いのコンテンツをシェアする「VAIO Media」という機能を搭載している。ルームリンクはこの機能を利用する。すなわち見る側であるクライアントにわざわざもう1台VAIOを用意することなく、店頭予想価格25,000円ナリのルームリンクでOKというわけだ。VAIO Mediaの構想を聞かされたときは、そりゃパソコン同士ネットで繋がってんだからお互い見られて当然でしょとか思ったのだが、パソコンじゃなくても見られるんなら敷居も低い。 ルームリンクの背面には、光デジタルオーディオ出力、Sビデオ、コンポジットビデオ出力、オーディオ出力がある。それに対して入力は、100Base-TXのLANコネクタのみだ。電源コネクタは底面にあり、ACアダプタで駆動する。 リモコンを見てみよう。といっても特別な感じはなく、DVDプレーヤーのリモコンと似たようなボタンが並んでいるだけだ。強いて特徴をあげれば、[録画]ボタンがあることぐらいだろうか。
ルームリンクとVAIOとの接続は、付属のLANケーブルを使う。細身で5mの長いものだ。単純に考えればVAIOのLANコネクタと繋ぐわけだが、ブロードバンド当たり前のこのご時世にLANコネクタが空いてるわけがないので、Hubの空きポートに繋ぐことになる。ルータがあればルームリンクはDHCP対応なので、なにもしなくても待っていればいい。 そしてルームリンク側はテレビの外部入力に接続する。これでハードウェアは準備完了だ。
■ 寝ころんでVAIOにアクセス ではさっそくルームリンクを使ってみよう。電源を入れさえすれば、メインメニューが起動し、4つの機能が使えるようになる。操作はリモコンの十字キーと決定ボタンだけでほとんどの操作が可能だ。たとえば「テレビ」を選んでどのVAIOに接続するかを決め、接続するとルームリンクから放送中のテレビ画像が出力される。これはVAIO側のチューナを経由した映像だ。
それぞれの機能は万事この調子で、機能を選んでVAIOに接続、という段取りになる。VAIOが1台しかないときや、サーバー機を固定している場合は「次回から自動的に接続」を選んでおけば、この行程は省略できる。 先ほどの「テレビ」機能だが、もともとテレビに繋がっているルームリンクを使って、わざわざVAIO経由で放送中のテレビを見るメリットはあんまりない。むしろ便利なのは、このテレビモードが提供する番組予約機能だろう。iEPGやGコードは使えないが、リモコンを使ってマニュアルで予約録画設定ができる。この情報はもちろんすぐにVAIO側がキャッチして、タイマー録画のタスクに加えられるわけだ。 例えばテレビで「来週のこの時間はナニナニをお送りします」とかの番組宣伝を見て、そうかそうかこれ録画しとくか、と決心するとしよう。ルームリンクがあればどっこらせと腰を上げてVAIOの部屋まで行く必要はなく、その場でチョイチョイと予約設定ができるのである。 おそらくルームリンクの機能としてもっとも使われるのが、「ビデオ」だろう。VAIOに録画された番組を、ルームリンクからの操作で見ることができる。番組を振り分けしておくキャビネットもそのまま見えるので、VAIO本体での操作感そのままだ。100Base-TXであれば「高画質」モードで録画された番組も、ストレスなく見ることができる。
面白いのは、ルームリンク側で録画した番組を見ているときに、VAIO本体側でも別の録画番組を全く普通にガンガン再生できることだ。MPEG-2のデコードは、ルームリンク側で行なう。したがってルームリンクからのリクエストは、あくまでもネットワークを通じたストリーム転送しかない。一方VAIO側でのデコードは「Giga Pocket Engine」でのハードウェアデコードなので、こういうことも余裕なのだ。
音楽再生の「ミュージック」も同様である。VAIO内の音楽ソフト、SonicStageで作ったプレイリストをルームリンク側で再生できる。テレビで音楽を聴いてどーすると思うかもしれないが、最近はDVD再生のためにテレビ周りのサウンドを強化している人も結構いるので、そこそこの音質で聴くことも可能だろう。ソファに寝ころんで読書のBGMとして使ってもいい。 写真をみる「フォト」機能はちょっと趣を異にしている。VAIO内に取り込んだデジカメ画像が自由に見られるわけではなく、VAIO付属のPictureGear Studioを使って見たい写真を「出力」-「フォトサーバに置く」とやらないと見ることができない。VAIO側で公開設定しなければアクセスできないという方法は、ほかのメディアに対する操作感と合わない感じだ。
この「フォトサーバ」という機能がまた悪いヒトで、いったんフォルダを作ったりフォトサーバに送った写真は、PictureGear Studio内から削除はおろか、リネームもできないという恐ろしい仕様になっている。いやぁ一度公開した写真はVAIOが朽ち果てるまで見なければならないというのはかなり勇気がいる話ですなぁ。 あんまりいじめるとかわいそうなんでこのへんにしておくが、ルームリンクがまだ発売になっていないのでこれはあんまり問題になっていないと思われる。もうすでに新PictureGear Studio搭載のRZは販売開始しちゃってるのだが、まあそのうち修正アップデートが出るだろう。 試しにうっかり「jujujunu」とかでたらめなフォルダをフォトサーバ作って消せなくなり、「今日からオマエのあだ名はjujujunuな、もう決めたから」とか大決定されて大困惑しちゃってる人のために消し方を伝授しておくと、こいつは[Documents and Settings]-[Photo Server]-[VAIO Media]内にある。しばらくはエクスプローラなどからここに入って、手動でリネームなり消すなりでしのいでほしい。 ルームリンクで写真を見るときには、スライドショー形式か、インデックス表示から選んで1枚表示、という2パターンが使用できる。スライドショーは画面展開にエフェクトなどはなく、またBGMもない。ちょっと写真を見るには寂しいかんじだが、まあSONYのやることなんで徐々にこの辺には手を入れてくるだろう。
■ 総論 結局のところ、VAIOってのは普通にパソコンなんだけど、わざわざVAIOを購入するタイプのユーザーがやっていることというのは、ルームリンクの機能が象徴しているのではないだろうか。すなわちテレビ、音楽、デジカメという3大要素である。 ルームリンクには自分で作っていくというクリエイティブな要素はないが、極楽状態でとにかくオレはエンタテイメントを余すところなく享受したいのだ、という人には最高に便利なデバイスだろう。価格も2万5千円程度と安い。内容を考えたらこの値段じゃ売れば売るほど赤字のような気もするんだが、そこは何か今後の戦略の足がかりとしたい腹があるのかもしれぬ。 今までPC業界は、リビングにPC的なものを持ち込むことにことごとく失敗してきた。その中でも割と善戦してきたのが、SONYの「VAIO W」や「BitPlay」、「AirBoard」などである。そう考えると、リビングに置いてもいい条件として、形とスペース、そしてコンセプトを絞り込めばなんとかなるのではないか、という気がする。 実際にルームリンクの設置を考えると、有線で延々イーサケーブルを家中に引き回すというのは現実的ではない。やはりIEEE802.11aに代表される高速無線LANの普及があってこそ、本当の意味で「デジタル家電の中心にPCがくる」ことになるだろう。 そういう意味ではルームリンクは、リビング陥落のための長期戦略の最初の一手と言えるのかもしれない。
□ソニーのホームページ (2002年10月9日)
[Reported by 小寺信良]
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