【The Plug】 これも人気のあるイヤフォンだ。水泳で使う耳栓のようなイヤークッションが特徴で、装着する際はこれをえいえいと潰し、素早く耳穴に差し込む。しばらくそのまま押さえてクッションが元の形に戻るまで待つと、装着完了だ。まさに耳栓と同じであり、遮音性はかなり高い。その代わりこれの装着中は、いわゆる「人の話を全く聞かない男」のできあがりである。価格はオープンプライスだが、1,980円で販売されていた。
【主な仕様】
周波数特性的に言うと、低域から高域に向かってなだらかに下がっているような印象の音。インナーイヤー型としてはかなり低音のほうにシフトしている。PortaPro系とはまた違った、エッジの利いた低音が楽しめる。ベースでいえば、フェンダー ジャズベに対するリッケンバッカーみたいなもんだ。 最大の強みであるイヤークッションは、逆に最大の弱点ともなる。というのも標準のイヤークッションは日本人には大きめなので、人によっては装着感が悪かったり、そもそも耳の中に入らないこともあるだろう。このフィット感次第で、いろいろな人がいろいろな印象を持ち、評価にばらつきが生まれる原因ともなっている。ユーザーの中には別途安眠用のイヤーウィスパーを買ってきて装着している人もいるようだ。このイヤークッションは消耗品なので、代えのものが4個入り380円で販売されている。 ちなみに筆者の感想だが、価格の割にはいい低音が楽しめ、中音域に変な持ち上がり部分がない点で評価できる。ただイヤークッションの装着次第で音が変わる点と、同じ理由で左右の特性がなかなか揃わない点で、使いこなしの難しいイヤフォンである。 【KSC19】
調整箇所がどこにもなく、耳に引っかけるだけというタイプ。普通のイヤフォンにクリップ部が着いているという感じである。オープンプライスだが、1,980円で購入。 【主な仕様】
周波数特性の割には、低音が全然でない。というか普通のイヤフォンみたいに耳の奥まできっちり入ればまた違うのだろうが、クリップ部がジャマして奥まで入れられないのである。全体的に音の抜けも悪い。音を重視するなら、1,980円でもっとましなものが買えるだろう。 【KSC5】
これも同じく耳かけ型だが、KSC19と違い、ユニット部が若干大型でクッションがない、ちょっと変わったタイプだ。オープンプライスだが1,380円で購入。 【主な仕様】
ユニット部が大きいので、耳の穴には全く入らない。ほんとに耳に引っかけておくだけ、というような装着感になる。周波数特性が示すとおり低音はほとんどでないが、高音部の抜けはいい。もしかしたらクッションがないからそう感じるだけかもしれないが。価格は安いが、KSC19よりもまだこちらのほうが取り柄のある音ではないだろうか。ただしお勧めはしない。
■ そのほかにも気になったモノ 売り場にはそれ以外にもちょっと変わった設計のヘッドフォンがいくつかあったので、ついでに買ってみた。それもご紹介しておこう。 【TAPEX HSV-701】 パッケージに「振るえて感じる」とか「3D」とかの文字が躍るので思わず購入。標準価格16,000円とあるのに実売3,980円という値引率もすごい。その正体は、バイブレーション機能組み込みのヘッドフォンと、SRS方式サラウンドアダプタのセットである。ヘッドフォン部はなんの変哲もなさそうだが、ケーブルの途中に電池格納部とバイブレーション機能スイッチ、効果ボリュームがある。サラウンドアダプタは電池でもACアダプタでも駆動でき、ヘッドフォン出力が2つある。
【主な仕様】
早速装着してみる。ぐおおおみみが、みみがぁ! ものすごい左右からの締め付けである。フィット感とかそういう問題ではなく、頭を万力でキリキリと締め上げられているようだ。これは早めに音を聴いてみないと倒れてしまうかも。 おお? おおお? (聴いてる) おお! うほっ! (聴いてる聴いてる) このままずーっとおおとかうほほーいとか言いながらすべてのレビューをこなせたら、筆者はライターとして大きく一歩踏み出すことができるかもしれんなぁ。もっとも踏み出した先は異次元かもしれんが。あっ待てキミたちなんで「戻る」ボタンにマウス持ってってるんだオイ話を聞けっての。 いやバイブ機能を切ると情けないぐらいにショボイ音なのだが、バイブ機能を入れると単にヘッドフォンが振動するだけでなく、低音も恐ろしいレベルで増強される。重量から察するに別途振動ユニットが入っているとも思えないので、スピーカーユニットでハウジングを振動させているようだ。これはこれでエラく楽しい。サラウンドアダプタのほうも、レベルを決められるのだがなかなか派手な効き具合でこれまた楽しい。ただしシャーノイズがものすごい。音楽よりもむしろテレビやDVD用として使うと面白いだろう。 実はこのヘッドフォン、プレステ2の「Rez」というゲーム用に以前ツタヤが500個限定で販売した「Rez完全陶酔セット」の一部として販売されたことがある。 HSV-701の発売元はニッチなオーディオ製品で知られる、TAPEX(株式会社 電気堂)。元々TDKの子会社であるが、実はこの会社はすでになく、現在はTDKマーケティングに合併吸収されてしまっている。従ってこの製品もすでに製造中止されており、在庫流通のみのようだ。これがほんとに16,000円もしたらオレなら怒っちゃうが、3,980円ならまあ許せる。変なものを集めている人は早めに買っておくと、のちのち笑えるだろう。 【aiwa HP-SW1】 これまたSONYに合併吸収が決まった、aiwaの製品だ。一見普通のネックバンド式イヤフォンに見えるが、特徴的なのはユニットが前方を向いており、外耳道にまっすぐ音が向かうのでイイぞ、という「バーチカル方式」を採用している。えー耳の穴ってそういう方向だっけ? という疑問もないではないが、まあ着眼点は面白いといえよう。希望小売価格は3,000円。
【主な仕様】
ユニット部がクッションなしなのでちょっと装着感は悪いが、本体は軽いのが救いだ。音の方は堅めの明るい音で、高音部の抜けが良く、解像度が高い。いかにも国産メーカーの好みそうな音だ。ただ「迫力の重低音を再生するパイプフォン」と書いてある割には低音はあまり感じられない。いや確かに出てはいるのだが、非常に堅い音だ。まあ値段相応というか、一所懸命考えて工夫した割に、低音部に関してはわりと普通だ。 【SONY MDR-ED238ML】 「低音重視派」というパッケージに釣られて買ったのがこれ。ベースエキサイトチップという、ちょっとでっぱりのあるカバーが施されている。このチップは耳を傷つけないよう柔らかい素材でできており、天然抗菌剤も配合とのこと。心配りの細かいことである。希望小売価格3,300円。
【主な仕様】
ユニットの口径がほかの製品に比べて小さいため、耳に入れやすい。カバーは柔らかいとはいえスポンジではないので、あまり奥まで入れるとちょっと痛い。音はKOSSの作ったような低音に比較すると、自然な低音の伸びがなかなか新鮮だ。ただしユニットの挿入角度によって、全然低音が出なかったりする。ちょっと後ろ向きに耳に入れ、でっぱりの部分を耳の穴の中心に据えてやるといいようだ。 低音は出るのだが、ちょっと中音域の一部に癖があり、男性ボーカルのあたりが影響を受ける。この癖で好き嫌いがはっきり分かれそうだ。高音部にもっと伸びが欲しいところだが、なかなか低音部との両立は難しいのだろう。
■ 総論 もともとはiPodに最適なヘッドフォンを探そうと思って始めたのだが、全部試してみて同じKOSSでも音の傾向はかなり違うことがわかった。PortaPro、SportaPro、KSC50あたりは筆者の好みだ。要するにこのスピーカーユニットが好きなんだろう。ただ低音が出ればいいというだけならTAPEX HSV-701はすごいが、いくらなんでも筆者は頭を万力で締め上げながら電車に乗るのはごめんである。 次点としては、SONYのMDR-ED238ML。低音はスゴくはないが、手に入りやすく気軽に使えるという点を評価したい。ちょっと中音域に癖のある音だが、iPodに繋いで聴いてみるとそれほど違和感なく楽しめた。ただ装着感が固いのが残念だ。 装着が難しいが、The Plugも次点としたい。低音重視派にとってはいい選択だろう。筆者が勧める中では唯一の密閉型で、電車でのリスニングには妥当な線だ。 KOSSにはさらに上位モデルもあるが、筆者は上位モデルにはあまり興味がない。というのもこれ以上の価格になると、もうSENNHEISERの上位モデルや、AKGに手が届いてしまうからだ。KOSSの魅力はなんといっても安くてガッツンガッツンに個性的という、破天荒なところにあるのではないかと思う。 今回取り上げた製品は、地域によってはちょっと入手が難しいかもしれないが、金額的にはどれも気軽に買える値段のものを選んだので、チャンスがあったら是非試して頂きたい。
□KOSSのホームページ(英文) (2002年10月16日)
[Reported by 小寺信良]
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