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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第80回:最強のワイヤレステレビ登場
~ 圧倒的な高画質、CASIO XF-800 ~


■ 忍び寄るワイヤレス家電の波?

 各Watchでもいろいろなレポートが上がっていたとおり、先週のWPC EXPO 2002を見る限りでは、家庭内で当たり前のようにホームネットワーク構築という世界が目前に迫ってきているようだ。このあたりの実現に力を入れているのはPCメーカーだけではなく、むしろ今までPC優位の影に隠れる立場だったAV系、白物家電系メーカーもスゴい鼻息を感じられる。

 ワイヤレスのデジタル家電としてもっとも現実的なところにあるのが、ワイヤレステレビである。代表的なところではSONYの「エアボード」があり、すでに当Electric Zooma! でも取り上げている。エアボードの場合はSONYらしくいかにも近未来的だが、もっと地面に足のついたというか、より家電っぽいところで勝負しているのが、今回のCASIOの「XF-800」、通称「XFER」(エクスファー)である。

 CASIOといえば、電卓をはじめ時計やデジカメなどの分野で強力なブランド力を持っているが、実はポータブルテレビの分野も以前から強い。そのCASIOが出したワイヤレステレビということで、その性能も期待大である。さっそく調べてみよう。


■ 高級感のあるボディ

 製品パッケージとしてのXF-800の中身だが、大きく分けて液晶モニタ、充電スタンド、チューナユニットの3つから成り立っている。備品としてACアダプタ2個、リモコン、赤外線式の外部機器コントローラ、壁かけ用スタンド2個などがある。具体的に見ていこう。

 まずモニタ部だが、画面サイズは横16.1、縦11.8、対角20cmの8型液晶モニタを採用。パネル面は写真だと白く見えるが、実際はパール地で高級感がある。左側に電源および設定ボタン、右側にチャンネルと音量設定ボタンがある。スピーカーは左右のステレオ仕様だ。大型バッテリを内蔵しているせいか、見かけよりも重さがあり、モニタ部だけで1,750g。片手で持つにはちょっとずっしりといった感じだ。

XFERのモニタ部を充電スタンドに立てた状態 右側のチャンネルとボリュームボタン

 背面には放熱用にスリットが空いており、隙間からヒートシンクが見える。もちろんファンレスである。壁掛け用のフック穴があるが、自立するための折りたたみ式スタンドもある。

 XF-800というかXFERシリーズ最大の特徴は、モニタ部とリモコンが防水仕様であるというところ。CASIOでは以前から「お風呂家電」という分野を開拓しており、これもそのコンセプトの一環ということになる。防水とはいっても具体的にはシャワーがザバッとかかっても大丈夫という程度で、湯船に沈めて使えるような完全防水ではない。しかし現実的には十分だろう。

 本体横にはヘッドホンジャックなどのコネクタがあるが、防水仕様ということでロック式のしっかりした蓋が付いている。

本体横のコネクタも防水仕様の蓋で閉じられる おなじくリモコンも防水仕様だ

充電スタンド内にファンがあり、充電時の放熱を助ける

 充電スタンド部は比較的軽量だ。モニタ部と同じパール地の素材が使われている。モニタ背面にあたる部分のスリット内には放熱ファンが仕組まれており、充電中には結構大きな音を立てて回り出す。どうもモニタが密閉仕様なため、充電中のバッテリの熱をこれで強制的に放熱しているようだ。

 次にチューナ部を見てみよう。幅24.0、奥行き10.9、高さ6.2cmと小柄で、非常に軽く500gしかない。正面には電源スイッチがあるのみ。チューナ部とモニタ部はIEEE802.11bで通信し、MPEG-2圧縮で動画を配信する。

 背面は、RF入力、AV入力が各1系統。S入力はない。そのほかに外部機器コントローラを接続するための端子と、CASIO独自のカメラ入力端子がある。別売のカメラを繋いで、離れたところからの定点監視などにも使えるようだ。外部入力にはCSチューナやDVDを繋いでおき、付属の外部機器コントローラでリモコン操作ができる。SONYでいうところの、いわゆる「AVマウス」と同じことである。これがあるとないとでは視聴できるもののバリエーションも大きく違う。

正面は電源ボタンのみと、シンプル 背面の端子類も少ない 同梱の外部機器コントローラ

 基本的にはこれだけで、もうひたすらテレビに徹しており、SONYのエアボードのようにインターネットと絡めてどうこうという機能はまったくない。


■ 驚愕の高画質!

 モニタの電源を入れると、しばらく通信待ちになったあと、いきなり番組が映る。実際にテレビ番組を視聴してみたがうわ! すげえキレイ。以前エアボードの画質を見ているので、正直あんまり期待していなかったのだが、エアボードよりも全然キレイである。まるでアンテナ線に直結している液晶モニタのようで、無線で飛ばしているMPEG-2くささというものがまったくない。動画の配信はIEEE802.11bではキビシイというのがおおかたの認識であろうと思うが、11bでもここまでできるのかと驚いた。

 アラを探そうと目を近づけてよく見ると、縦方向の解像度が低いような気もする。おそらくデインタレース処理を行なうときに、上手いことデータを間引いているんだろう。文字の細い線などが潰れて見えるケースもあるが、画像に関してはブロックノイズなどは感じられず、モニタから50~60cm離れての普通の視聴には全く問題ない。

 また採用されている液晶は横方向からの認識性もよく、かなり横から見ても色変わりなどはない。1人だけでなく数人で見ても、これだけの認識性があれば全然問題ないだろう。

 音に関してはもちろんテレビなんでそれっぽい音質ではあるが、スピーカーサイズの割にはキンキンした感じもなく、バランス良く出ているほうだろう。またステレオ感もかなり感じる。トーンコントロールのような音に関する調整項目は何もないのが残念といえば残念だ。

 お風呂でも使ってみたところ、チューナユニットから壁をいくつも隔てているにもかかわらず、部屋で見ている状態とまったく遜色ない視聴ができた。よくお風呂場で使えるポータブルテレビが通販雑誌などに載っており、実はうちにもそういうのが1台ある。しかし現実にはロッドアンテナ程度では、お風呂場に持ち込むとほとんど使い物にならない。しかしXFERはそういう画質とは全く次元の違うものだ。

モニタから人を呼べる「呼び出し」ボタン付き

 こんなにキレイに映るとついつい長湯をしそうだが、そういう時のためにXFERには「呼び出し」ボタンが付いている。これを押すと、チューナ部のほうでブザーが鳴るのである。長湯でのぼせて動けなくなったりしたときに、人を呼べるというわけで、さすがにお風呂家電を長年研究しているだけのことはある細かい配慮である。

 お風呂でも大満足のXFERだが、不満点といえばモニタ部に取っ手がないところだろう。表面がつるつるして持ちにくい上に、お風呂場で泡が付いたり濡れたりした手では、うっかり落としそうで怖い。指をかける窪みでもいいから、何かハンドリングの手助けになる部分がほしかった。

 さらにしばらく家庭で使っていると、XFERには思わぬ効用もあることが判明した。子供を持つ親の悩みの1つに、テレビを見ながら食事すると子供がなかなかメシを食わない、ということがある。まあ家庭それぞれいろいろ原因があるとは思うが、うちの場合テレビが子供の横方向にあるので、食事中にテレビの方ばかり向いて目の前の食事に集中できないのだ。

 そこで食卓の真ん中、子供の目の前の位置にXFERを設置したところ、いやもうメシ食う食う(笑)。今まではもう10分おきに「ご飯食べないとテレビ消しちゃうよおぅ」と脅かさなければならなかったが、おかずの延長線上にテレビがあるので、行動が両立しやすいようである。防水なのでおかずの汁が飛んでも大丈夫。いやちゃんとキレイに拭きましたから > CASIOのヒト

 家族全員がこの性能に大満足。エアボードには今ひとつ関心がなかった妻も、これは欲しいわあなた今すぐ価格を調べるのよあなたのお誕生日プレゼントに買ってあげるわってなイキオイの気に入りようなのである。マテ調子のいいこと言って結局はオマエが使うんだろとか思いつつ価格を調べてみて、しおしお。

 XF-800の定価は意外と高くて、16万円なのである。んんー16万なぁ。エアボードがストリート価格で10万切ろうかっていうところにこれはどうでしょうかぁ。しかしCASIOの直販サイト、e.CASIOでは、128,000円で予約受付中である。くっ、も、もう一声!


■ 総論

 ホームネットワーク家電の基本はワイヤレスだというのは、すでにどのメーカーも共通の認識を持っている。あと数年もすれば家庭内も数々の電波が飛び交うことになるだろう。

 問題があるとすればそこで、ワイヤレスは結構なのだが、今のところ物理層は同じでも、中身はそれぞれが単独のフォーマットで動作している。例えば同じIEEE802.11bを使っているからといって、XF-800のチューナ部を使ってエアボードが映るとかその逆とかはできないのである。

 そうなると極端な話、家族ごとにチューナユニットがないとダメみたいなヒジョーにかっちょ悪い世界が展開されることになりはしないか? んでかあちゃんが晩メシの鯖みそかなんかで電子レンジ使うと家族全員のテレビ電波が一撃で木っ端微塵みたいな。ひぃーイケてねぇー(笑)。

 これから我々家庭人が家電業界に求めていかなければならないのは、インターネットで今まで扱ってこなかった巨大ソース(映像に限らずだ)に対する共通フォーマットだろう。1つの電波でしかも家庭内で安全に使えて、メーカーの枠を超えて繋がるようなものだ。まだあんまり製品が出てこないうちに早めに決めとかないと、お互いあとでイタいことになると思うのだが。

 そういう意味ではXFERは、テレビなんて単独で動けばいい、ネットワークとかなくていい、と割り切ってしまえば、使い場所を選ばない最高のテレビだ。ただ筆者の場合、そこまで割り切るにしては、価格がちょっと折り合わない。高い技術は筆者も認めるし、実際に製品もよくできているのだが、所詮テレビなんだよな、と考えると、残念ながら今の生活ってそれほどテレビに全面依存していないのだよなぁ。

□カシオのホームページ
http://www.casio.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.casio.co.jp/release/2002/xf800_600.html
□製品情報
http://www.casio.co.jp/tv/xfer/
□関連記事
【2002年9月12日】カシオ、無線LAN伝送の防水液晶テレビ「XFER」
―MPEG-2で映像/音声を伝送、防水リモコンも付属
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020912/casio.htm
【2001年12月19日】【EZ】テレビの近未来像(?)「エアボード」
 ~ 最先端技術満載のハイテク家電を試す ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011219/zooma40.htm
【2001年12月12日】ソニー、無線LANインターネット液晶TV「エアボード」の新型
―液晶を大型化、無線LANアクセスポイント機能も装備
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011212/sony.htm

(2002年10月23日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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