【バックナンバーインデックス】



第75回:波形編集ソフトの性能とは? 最終回
~ ピッチシフト/タイムストレッチ専用ソフト「Time Factory」をテスト ~


 第66回から第70回までの5回にわたり、波形編集ソフトの性能を比較してきた。第71回目を総括編と予定していたが、Windows Media Audio 9やRoland、EDIROLの新製品が登場するなど、およそ1カ月も間が空いてしまった。

 今回は、波形編集ソフト編の最終回ということで、これまで取り上げたソフトを総括するとともに、ちょっと面白いソフトを紹介しておこう。


■ 総論:Sound Forgeが頭1つ抜けているが、それぞれに個性が

 この連載で取り上げたのは以下の11ソフト。いわゆる波形編集ソフトだけでなく、DAWとかシーケンスソフトといわれるジャンルのソフトとしてCubaseVST、SONAR、SOLも取り上げてみた。

  • Sound it! 3.0 for Windows(インターネット)
  • DigiOnSound2(デジオン)
  • Sound Forge 6.0(Sonic Foundry)
  • WaveLab 4.0(Steinberg)
  • Cool Edit Pro 2.0 (Syntrillium Software)
  • GoldWave v4.26 (GoldWave)
  • DIGITAL Gretchen 1.2.2 (Excla)
  • SoundEngine (Cycle of 5th)
  • CubaseVST 5.1(Steinberg)
  • SONAR 2.0(Cakewalk)
  • SOL(YAMAHA)

 比較したのは、リサンプリング性能、タイムストレッチ性能、ピッチシフト性能の3つだ。サンプルのWAVデータを4つほど用意し、それを用いて各機能を実行するとともに、波形を視覚的に確認したり、音を聞いて比べてた。

 実は、この連載をスタートする前、ソフトによってなんとなく音が違うなという印象を持っていたものの、あくまでも感覚的なものでしかなく、その違いがハッキリと現れるのかどうか自信があったわけではなかった。特にリサンプリングは、機械的な計算なので、ソフトによって違いが出るとは考えていなかった。しかし、実際には大きな差があるということがわかった。ここに試したのは、いずれもソフトウェア上のリサンプリング=サンプリングコンバーターであるが、ハードウェアのサンプリングコンバーターというものもいろいろあるので、調べてみればモノによってかなり違いが出る可能性もありそうだ。

 今回は実験しなかったが、Sound Blasterシリーズをはじめとする現在流通している多くのサウンドカードは、サンプリング用には48kHzクロックのみが搭載されている。これらのカードでS/PDIF入力を装備しているものも多いが、入力においては48kHzのみならず44.1kHzでのレコーディング可能となっているものがほとんど。ということは、当然サンプリングレートコンバートが生じており、しかも44.1kHzでデータを保存するとなれば、44.1kHz→48kHz→44.1kHzと2回ものサンプリングレートコンバートが生じる。そのため、せっかくデジタルで入力しても、かなり音質劣化する可能性もある。いずれ機会をみて、こうした実験も行なってみたいと思っている。

 こうしたリサンプリング機能よりも、さらに違いがハッキリ出たのは、ピッチシフトやタイムストレッチだ。ソフトによってはかなりひどい結果であり、音にウネリが出てしまったり、震えてしまうなど、まともに使い物にならないソフトが結構あった。

 そうしたソフトでも1音程度上下にズラすのであれば、まずまずの結果となっていたようだが、1オクターブ上下に振ると、結構な違いがハッキリしてくる。また、こうした違いは、素材によっても違いが出てくる。つまり、単純な信号のような音ならば、ある程度の結果になるソフトでも、曲になると状況が変わったり、ストリングス系の曲の結果とドラムの結果で大きな違いが出てきたりもするのだ。

 いろいろと試してみた結果で、これがベストというものはなかなかなかった。しかし、比較的Sound Forgeはいい結果が出た。というのも、Sound Forgeには、素材によってモードを変えることができ、そのモードの切り替えによって、ストリングス系の音もドラムサウンドでも、うまく実現できたからだ。本来ならば、こうした機能で大きな威力を発揮すべきであるDAWソフトもあまり芳しい結果ではなかった。

 ただ、逆の見方をすれば、ピッチシフトやタイムストレッチというのは、あまり極端にかけるものではなということだろう。ごく微妙な時間のズレを補正するとか、ごくわずかなピッチのズレを補正するための機能であると考えたほうがいい。それでも、曲全体にかけると音質が劣化することは間違いないので、多用しないのが無難といえる。


■ピッチシフト/タイムストレッチ専用ソフト「Time Factory」をテスト

 さて、総合的に見てもSound Forgeがいい結果だったが、国内販売元のフックアップに話を聞いてみたところ、ピッチシフト、タイムストレッチに限定すれば、もっといいソフトがあるという。それは独ProsoniqのTime Factoryというソフトで、国内では65,000円で発売されている。WindowsとMacintoshのハイブリッドではあるが、これだけ高価なソフトであるのに、波形編集ソフトでもDAWソフトでもなく、単にピッチシフトやタイムストレッチを行なうだけのツールなのだ。

 Time Factoryを起動すると、非常にシンプルな画面が表示される。データを読み込んで、ピッチシフトかタイムストレッチを行なうだけの簡単なユーザーインターフェイスになっている。まずは、サイン波を読み込んで、タイムストレッチをかけてみた。設定は、これまでほかのソフトで行なってきたのと同様、50%と200%の2つである。設定項目は少ないが、Algorithmというメニューに処理や音質の設定項目があったので、Polyphonic(best)という高音質のメニューを選択しておいた。

インターフェイスは比較的シンプル 音質設定はPolyphonic(best)を選択

 さっそく実行し、TimeFactory上から再生させてみると、50%の音も200%の音も、あまりいいように感じない。なんとなくノイズっぽいというか、音質が悪いのがハッキリわかるのだ。試しに波形で表示させてみると、案の定、波形がギクシャクしている。また、200%のほうは、最後のところで、妙なノイズが入っている。かなり期待していただけに、残念だった。

波形がギクシャクしている 200%では、最後にノイズが入っている

 しかし、これで終わらせるわけにもいかないので、引き続き曲データを用いて、同じ実験をしてみた。実験は、ストリングス系のサウンドであるSample3.wavおよびドラムサウンドのSample4.wavを50%、200%に圧縮、伸張させるというもの。

 驚いたことに、単純な信号ではあまりいい効果を発揮しなかったのに、実際の曲になると、これがうまくいく。何の設定もしていないのに、ストリングスもドラムも、かなりいい音になる。Sound Forgeの場合は、素材がどんな曲なのかを画面上で指定してから処理をしたのだが、Time Factoryは完全自動であり、ほかのソフトによくあった、音の震えやディレイっぽい現象も起こらない。

 実際、ドラムサウンドの波形を見ても、非常にきれいなものになっている。それぞれの結果をMP3ファイルとして掲載したので、ぜひ聞き比べてほしい。今までテストした中では、このソフトが最高といってもいいだろう。

TimeFactoryのタイムストレッチ
 元ファイル50%に圧縮200%に伸張
Sample3 sample3.wav(1,953KB) s3_tf50.mp3(90KB) s3_tf200.mp3(356KB)
Sample4 sample4.wav(977KB) s4_tf50.mp3(46KB) s4_tf200.mp3(179KB)

200%に伸張時の波形 50%圧縮時の波形

 引き続き、ピッチシフトについても、同様の実験を繰り返した。つまり、ストリングス系サウンドとドラムサウンドに対し、1オクターブ上と1オクターブ下の設定で演奏させるというもの。これについても、結果的に言えば、かなりいい音になった。操作があまりにも単純なため、特に注意することもないが、誰でも簡単にこうしたサウンドが作れてしまう。ファイルの最後のところに、妙なノイズが入るケースがあったが、これは元のサウンドにおいて、フェードアウトをかけずに突然終了していたためかもしれない。

Time Factoryのピッチシフト
 元ファイルアップダウン
Sample3 sample3.wav(1,953KB) s3_tfpsu.mp3(179KB) s3_tfpsd.mp3(179KB)
Sample4 sample4.wav(977KB) s4_tfpsu.mp3(46KB) s4_tfpsd.mp3(179KB)

 ただし、このTimeFactoryは単純にタイムストレッチとピッチシフトを行なうためのソフトであるため、実際には波形編集ソフトやDAWソフトと組み合わせて使うことになるだろう。つまり、長さを揃えたり、音程を揃えるために、このソフトを利用するわけである。その意味では、多少使い勝手は悪いかもしれないが、音質重視ということであれば、このソフトを使う価値はありそうだ。

 最後は波形編集ソフトからは少し離れてしまったが、各ソフトの結果いかがだっただろうか? 今後も、製品比較の実験などは行なっていきたいと思っているので、試してもらいたいものなどあれば、メールしていただけると幸いだ。


□関連記事
【9月9日】【DAL】波形編集ソフトの性能とは?
~ その5:DAWソフト3種を検証 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020909/dal70.htm
【9月2日】【DAL】第69回:波形編集ソフトの性能とは?
~ その4:オンラインソフト4種 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020902/dal69.htm
【8月26日】【DAL】第68回:波形編集ソフトの性能とは?
~ その3: Sound ForgeとWaveLabを比較する ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020826/dal68.htm
【8月19日】【DAL】第67回:波形編集ソフトの性能とは?
~ その2: 「Sound it!」と「DigiOnSound」を試す ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020819/dal67.htm
【8月12日】【DAL】第66回:波形編集ソフトの性能とは?
~ その1: タイムストレッチやピッチシフトの検証方法 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020812/dal66.htm

(2002年10月21日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2002 Impress Corporation All rights reserved.