■ 設置性チェック~単焦点レンズながら距離3mで100インチを投射
「モバイルが可能」という表現は微妙だとしても、とにかく設置と移動は簡単に行なえる。投影モードはフロント、リア、天吊りの全組み合わせに対応する。ただし、純正オプションとして天吊り金具の設定はない。 投射レンズは光学ズーム無しの単焦点タイプで、100インチ(4:3)の投影を投射距離約3mで行なえる。光学ズームはないが、デジタルズームが搭載されており、投写映像を1.0倍~1.2倍まで33段階で拡大できる。実際には、最大ズーム状態がリアル投影状態であり、面積比にして約83%にまでデジタル縮小する機能となっているようだ。このため、画質を重視する場合は、常にデジタルズーム最大で使用し、投射映像の画面サイズ調整はELP-30本体を前後に移動して行なう必要がある。 投射映像は光軸に対し、5%弱ほど下側にも広がる。レンズシフト機能もないので、床置き(台置き)設置の場合は結構な高さの設置台が必要になる。高さが十分に確保できない場合は、本体底面前方にある調整脚を引き出して上方向に投影することも可能だ。もちろんデジタルベースになるが、上下15度までならば台形歪みも修正できる。ただし、横方向の台形補正機能は無いので、ソニーのCinezaシリーズのような斜め方向からの投影には対応していない。 光漏れは前面の排気口からが強く、投射映像に対して斜め右方向が若干明るくなるほど。気になる人には悩ましい特性かもしれない。ファンノイズはプレイステーション 2よりもかなり大きめ。
■ 操作性チェック~電源オン後、約8秒で映像を出力
電源オンから映像が出てくるまでは約8秒(実測)と、かなり早い。時間とともに徐々に明るくなり、スペック輝度までさらに1分ほど待たされることになるが、「映像を見せながら」なので「待たされている」という実感はあまりない。 リモコンは名刺サイズ程度のカード型で、ボタン類の発光機能などは一切なし。サイズも小さいため暗がりで使うのはなかなか難しい上、見失うと見つけるのも大変だ。 入力切り換えボタンはビデオ系、コンピュータ&コンポーネント系の2つ。入力系統ごとに順送りさせる方式だ。入力切り換え速度は非常に高速で、切り換えにかかる所要時間はゼロに等しく、とても小気味よい。色調モードの切り換えも専用ボタンで順送りで行なえる。 しかし、アスペクト比についてはリモコンに切り替え専用のボタンがないため、いちいちメニューを呼び出す必要がある。ELP-30はアスペクト比4:3のパネルを採用しているので、「DVDは字幕を映像とオーバーラップさせないで済むレターボックス(4:3)で楽しみたい」というユーザーも少なくないはずだ。かといって、BSデジタル放送は16:9なので、両者をコンポーネントビデオで接続したときには、切り換え頻度が高くなる。こうした活用を考えているユーザーは結構いるはずなので、1キーでアスペクトモードを切り換えられる操作系が欲しかったところだ。 ELP-30には特殊機能として、投影映像を任意のタイミングで静止できる「静止機能」、映像中の任意の箇所を0.125倍刻みで4倍までデジタルズームできる「ルーペ機能」などが搭載されている。こうした特殊機能もこのカード型リモコンから直接呼び出して利用できる。 さて、実際に様々な操作を行なっていて気が付いたことがある。それはリモコンのレスポンスがあまりよくない点だ。リモコンからの操作信号を受け取る赤外線受光部はELP-30本体のフロントとリアに実装されている。一般的な製品であれば、リモコンをプロジェクタ本体の方に向けなくても、スクリーンに向けて操作すれば、スクリーンから反射した赤外線光をフロント受光部が受信してくれる。しかし、ELP-30ではこの操作の反応がいまひとつなのだ。確実な操作を行ないたい場合は、リモコンをELP-30本体に向けた方が良いだろう。
■ 接続性チェック~コンピュータとコンポーネントビデオは排他接続仕様 映像入力端子はビデオ系がコンポジットビデオ端子、Sビデオ端子の2系統、そしてコンピュータ入力端子としてD-Sub15ピン(アナログRGB)が1系統あるのみだ。 コンピュータ入力端子へは、付属の変換アダプタケーブルを利用することで、コンポーネントビデオケーブルを接続できる。しかし、D-Sub15ピンからの入力は、アナログRGB信号かコンポーネントビデオ信号かの排他仕様のため、利用できるのはどちらか一方になる。 このほかにも、音声入力端子を1系統実装している。入力はモノラルで、音声は本体内蔵のモノラルスピーカーから再生される。DVDビデオなどの視聴時に常用するものではないが、本機をプレゼンテーション用途にも活用したいユーザーにとっては重宝するだろう。
■ 画質チェック(1)~自然な色合いを演出する脱着可能なシネマフィルターを標準添付
液晶パネルは解像度800×600ドットの0.5型を採用。各画素間の隙間は大きく、良くも悪くも液晶特有の映像になっている。映像全体を見たときには、特に明度の高い単色領域に粒状感を強く感じる。
明色の発色自体はなかなか鮮烈で、明るいシーンの多い映像やアニメなどとの相性はよい感じだ。逆に暗いシーンの多い映像や、微妙な色合いが多い映像では色深度不足を感じることがある。特に暗色の階調表現がつらそうで、暗がりにたたずむ人の頬などは、絵画のようなフラットなグラデーションになりがちで違和感を感じる。本体価格を考えれば、十分がんばっているとは思うのだが……。 また、製品パッケージには「シネマフィルター」という光学フィルターが付属する。これは、黒浮きを抑え、透過型液晶プロジェクタ特有の色合いを自然にするというものだ。投射レンズに装着し、メニュー内で「エプソン・シネマ・フィルター」という項目をONにすることでその効果を利用できる。
シネマフィルター自体の着脱は簡単なので、プレゼンテーション用途などの輝度優先の場合は取り外した状態で、DVD視聴などでは取り付けた状態で……といった使い分けも楽だ。 色調モードは投影する映像に合わせて6種類が用意されている。今回はシネマフィルターを取り付けた状態で、各モードのインプレッションを述べておこう。取り外した状態は印象がずいぶん異なるモードもあったが、ここでは省略する。
▼sRGB
ユーザー色調モードはないが、各色調モードにおいて、明るさ、コントラスト、色の濃さ、色合い、シャープネス、色温度などの各パラメータが調整可能。設定値は各入力系統ごとに記憶させることができる。 いつでもプリセット状態に戻せるので、例えば、あまり使わない「ミーティング」モードを自分好みにチューニングして、第2の「シアター」モードを作る……といった活用も考えられる。
■ 画質チェック(2)~ELP-TW100クオリティを目指して 各映像ソースを実際に投射した際のインプレッションは以下の通り。
●DVDビデオ(コンポーネントビデオ端子接続)
PCやゲーム機の映像について大きな不満はないが、DVDビデオ、S-VHSビデオ、BSデジタルチューナの映像は、上位機種にあたるELP-TS10/TW100と比べるとさすがに「格」の違いを感じざるをえない。 実売価格が13万円ということを考えればむしろ「がんばっている」と評価すべきなのだろうが、絶対的な画質を重視するユーザーであればELP-TS10/TW100の方を選んだ方が無難だろう。
■ まとめ~真のマルチパーパス・エンターテイメント・プロジェクタ実現に向けて エプソンではELP-30を「マルチパーパス・エンターテイメント・プロジェクタ」、すなわち「様々なエンターテイメントに適応するプロジェクタ」と位置付けており、カタログにはゲーム機、DVDプレーヤー、ビデオカメラ、コンピュータ、ビデオデッキ、デジタルカメラがすべて繋がるようなイメージイラストを掲げているが、アナログRGBとコンポーネントは排他接続となる。 接続端子パネルには、入力されたアナログRGB入力をパススルーする、モニタ出力端子が実装されている。これを廃してでもコンピュータ接続端子とコンポーネントビデオ端子は別系統にすべきだったのではないだろうか。ちなみに、このモニタ出力端子は、コンポーネントビデオをコンピュータ入力端子に割り当てたとき、その機能が無効化されてしまう。この場合、完全な「飾り」となってしまうのだ。 製品発表会でも明らかにされていた通り、プレゼンテーション向けの廉価なプロジェクタにシネマフィルターを組み合わせて「ホームシアター向け」としてリリースしたのが、ELP-30なのだろう。 10万円台前半で売られているという事実を踏まえれば、画質に関して高望みはできないのはわかる。それにしてももう少し深めの色深度と解像感の高さを感じられるチューニングを行なって欲しかった。定評あるELP-TW100の画質を求めるのは無理だとしても、もう少し上位モデルのハイクオリティさが感じられるような画質性能があればよかったと思う。
□セイコーエプソンのホームページ (2002年11月14日)
[Reported by トライゼット西川善司]
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