■ 発売直後にちょっとケチが付いてしまいました
ソマリア派兵を描いた期待の大作として、10月17日に華々しく登場した、本作「ブラックホーク・ダウン」。本誌の売上ランキングでも、10月25日に2位で初登場、しかし、翌週からはランク外に……。 というのも、収録されているDTS音声のサラウンドチャンネル(リアチャンネル)が、左右逆になっているという不具合が発見され、回収がかかってしまったのだから仕方ない。発売当日は公式情報こそ出ていなかったが、不具合情報は既に耳に入っていた。しかし、個人的に3月末からの映画公開時に見て、今年一番期待していたDVDなので、とりあえず不具合覚悟で購入した。価格は3,800円で、パッケージはデジパック。 その後のポニーキャニオンの対応はかなり早く、発売翌日に不具合を確認した旨をホームページで告知し、早い段階で、11月初旬に交換ディスクを発送と発表した。11月19日現在、既にディスク交換も行なわれているようで、店頭でも再度販売開始されている。それを受けてか先々週から弊誌のランキングにも再登場している。 ちなみに理由は後述するが、筆者はまだディスクの交換を行なっていないので、音声についてはドルビーデジタルでの視聴をベースにしていることをあらかじめお断りしておく。 と、ちょっとDVD発売時に、ケチがついた格好だが、映画自体の公開も2002年の3月末。まだ、「911」の同時多発テロの記憶が新しい頃とあって、かなり話題を呼んでいたのを記憶してる。 監督はリドリースコット。製作はジェリー・ブラッカイマー。音楽は、リドリー・スコットとよくコンビを組んでいるハンス・ジマーが担当している。
■ 100分におよぶ戦闘シーン!! ストーリはいたってシンプル。冒頭に「この映画は事実に基づいている(Based on Acutal Event)」と出てくる通り、'93年の米軍のソマリア派兵における作戦の一部始終をまとめたものとなっている。個人的にも、実際にテレビで引きずりまわされる兵士の死体の映像の生々しさや、直後にソマリア撤退が始まったことをよく覚えている事件だ。 作戦を実行するのは、米軍のデルタフォースと陸軍レンジャー部隊、第160特殊作戦航空連隊などのエリート部隊。同地の安定を目的に派遣されたが、展開後6週間経っても大きな成果を得られないため、起死回生を狙って、最大の部族を擁しソマリアを支配するアイディード将軍を拉致することを計画する。実際の作戦は、アイディード将軍配下の高官を捕らえようと、支配地域の中心ともいえる首都モガディシュの繁華街「バカラ・マーケット」のど真ん中に白昼、奇襲をかけるというもの。 当初30分の作戦だったが、1人の兵士のヘリからの落下から徐々に歯車が狂い始め、米軍のUH-60大型輸送ヘリ「ブラックホーク」の撃墜を機に泥沼に陥っていく……。部隊はブラックホーク乗員の救出に乗り出すが、分断されながらソマリア民兵に囲まれ、一夜を明かすこととなる。 作品の見所はなんと言っても戦闘シーンだ。なにしろ145分の収録時間のうち100分以上が戦闘中のシーンなので、全く気を抜く暇がない。指や脚が飛んだり、体が砕け散ったり、骨盤内に入り込んだ大動脈をクリップで留めたり、という見るに堪えないようなシーンも数多いので、その手の映像が苦手は人はある程度覚悟しておいたほうがいい。 ちなみに、主演はジョシュ・ハートネットで、ユアン・マクレガーなど有名どころの俳優も出ているのだが、戦場では混沌の極みで、映画館で見たときは誰が誰だかほとんどわからなかった。終盤にジョシュ・ハートネット演じるエヴァーズマン軍曹によるモノローグがなければ、誰が主役だったのわからなかっただろう。逆に言えば、主役級とそのほかの俳優の差がなく均等に描かれているということだ。各人の性格やレンジャーとデルタなど所属部隊の違いなどを頭に入れながら見るとさらに理解も深まるというもので、いつもながら何度も視聴できるDVD化のありがたいところ。 基地で反目しあってたデルタとレンジャーの関係が戦場で変化していくのも興味深いし、現地の民間人との遭遇でも、その微妙な距離感が描かれており、この映画に特別な魅力を与えているように感じる。
■ DTS音声を除いて、映像/音声とも高クオリティ ディスクは片面2層で、本編映像はシネマスコープサイズをスクイーズ収録する。本編の平均ビットレートは6.5Mbps。音声は、英語がドルビーデジタル5.1chとDTSの2種類、日本語はドルビーデジタル5.1chのみとなる。 画質的には、全般的にやや緑がかって見えるが、これは元の映像からで、舞台となるモガディシュの雰囲気をうまく描いているように思う。画質的には厳しそうな夜の戦闘シーンなどでも、特にノイジーになるところもなく、暗部に明確な破綻があるシーンは感じられない。ビットレート的にはそんなに高くないのだが、かなりうまくまとめられている印象だ。 ちなみに、モガディシュのセットは、「東アフリカらしい海辺の後継で、町並みの荒れた感じも必要だった」という条件を満たしたモロッコで撮影されており、霞がかかったような夕暮れや夜明けなどの光景もすばらしい。
DTSでケチがついてしまった音声だが、サラウンドでの聞かせどころやはり銃撃戦。といっても明確な移動感や、サラウンド感があるというよりは、射手が見えない状況で、ひたすらあらゆるところで銃声が鳴り続け、各所で爆発や建物の瓦解する音が聞こえるといった形で、戦闘の混沌をうまく引き出しているように思う。もちろん、明確な移動感のあるヘリの飛行シーンなどもあり、全般的にサラウンド感はかなり高い。 ちなみに、戦闘中はかなりの混沌状況なので、試しに本格的な銃撃戦のシーンで、リア音声を逆にしたまま聞いても、よくわからなかった。もちろん、車やヘリの移動シーンなどでは、すぐにわかってしまうので、「おい、そのヘリは左からだろ?」とかひとりで突っ込むのもなかなか楽しいものではある(空しいけど)。ということで、なんとなく希少価値があるような気がしてまだ不良ディスクの交換に踏み切れていないのだ。 特典は日米のテレビスポットCMや、トレーラーなどのほか、監督やスタッフの解説を含めたメイキングが収録されている。ちなみに、メイキングは、実際に入隊した俳優の体験談や、作戦のポイントなどについてまとめられているので、キーマンや作戦の転換点を確認などするにもちょうど良い。
■ 戦争/戦闘映画の傑作でしょう ということで、DTS音声でケチがついてしまったが、それ以外に音声や画質についてはほとんど不満はない。音声もそうだが、ハンス・ジマーの音楽や選曲もよい。 物語的には、米兵19人が死に70人以上の負傷者を出すという米軍による失敗作戦(といってもソマリ人は1,000人以上死んでいるが……)を描いているわけだが、公開された時期や、国防総省の協力により作られたという側面から、愛国映画的なニュアンスで受け取られているように感じる(実際に米国ではボイコット運動も起きたようだ)。しかし、個人的には、これを見て「戦いたい」と思うような人がいるだろうか? と疑問に思った。何しろ、100分以上、数千の群集に囲まれて、半分以上が負傷しながら、戦い続けるという状況を描いているのだから。 メイキングでは、監督が「感傷にひたることは避けた。あの場にいた人々を、ありのままに捉えようとした」というとおりに、脚色を排して、臨場感を出すことに徹しているのが、恐怖を倍化させているように思う。「射撃が下手だ」と馬鹿にしていたソマリ人が、群集化して、攻撃してくる様や、対戦車火器のRPGで狙われている際の「アールピージー」という絶叫など、米兵の感じた恐怖と焦りが、うまく描かれているように思う。 特にハリウッドの戦争映画で個人的に疑問に思っている点として、なぜかベトナム戦争ものは戦争の無意味さと、反省、個人としての成長を描くものが多く、その他の戦争/戦闘では、正義の使者として各国で英雄になるアメリカ人を描くものが多いという点がある(ベトナム戦争だけがアメリカにとって特殊な戦争のように見える)。前者は兵士の通過儀礼としての戦争を、後者は、兵士を英雄として描くことで、物語を形成していくというパターン化されたものだが、本作は、そういった作品とは大きく異なる余韻を残すものだ。 個人的には、戦争/戦闘映画の傑作だと思っているが、製作が、あのパールハーバーと同じジェリー・ブラッカイマーというのもなんとも。映画って不思議。
□ポニーキャニオンのホームページ (2002年11月19日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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