■ 年に一度の業界人巨大同窓会!? 今年も放送業界人にとって忙しい季節がやってきた。千葉県・幕張メッセで11月20日から行なわれている国際放送機器展、Inter BEE 2002である。人材の流転が激しい放送業界人、特にエンジニア系にとっては、最新の放送機材を見て業界全体の流れを把握できる貴重な機会である。とともに、会場でばったり昔の同僚に出会う巨大同窓会という側面が無いわけでもないこのショーが、年に一度の娯楽のようなものになっている。したがって忙しいながらもどうにかこうにか仕事と人間をやりくりして、幕張までやって来るというわけなのである。 不況不況と言われる日本において、「数千数百万です。」、「げげ安い!」という会話が飛び交うマカ不思議な放送業界。ここ数年の傾向としては、ポストプロダクション製品は比較的おとなしく、デジタル放送を目前にして設備投資に迫られている放送局用の巨大システム、つまり伝送や送出の方に全体的な需要が傾いている。それだけ放送システムが変わるということは、エラいことなんである。 まあ個人で放送機器を買うことはないと思うので、完全に「人ごと」だと思って、しばしプロの世界にお付き合いいただこう。
■ 今年気になった新製品 ■ Panasonic DVCProシリーズが好調のPanasonic。SDのみのときには、CSやCATVといった分野を中心にシェアを拡大したが、HDシリーズ登場以来、BSデジタルや地上波でも注目を集めている。ブースでは24Pでの撮影が可能な「AG-DVX100」を大量に展示し、多くの人が手にとってその性能を確かめていた。
【AJ-HD1600】 DVCProHD EXのスタジオ収録用レコーダの新型「AJ-HD1600」がお目見えした。XLカセットというラージテープフォーマットを新たに起こし、最長126分のHD収録を実現した。またPCM 8ch入出力に対応し、サラウンドオーディオの同時収録も可能。HDのスタジオ収録もこれで一気に加速しそうな気配だ。 また、フロントパネルに小型の液晶モニタも装備したのは、スタジオ用VTRとしては珍しい。SDからアップコンバートしての収録も、オプションボードを内蔵することで対応。一方ダウンコンバート出力は標準で内蔵している。12月から発売予定。価格は「お安くします」とのこと。
■ Victor・JVC 最近は各種ビデオカメラとMPEG-2やMPEG-4エンコーダで注目されるVictor・JVC。ブースでは先日発表になったばかりのラージテープで収録可能なDVカメラ「GY-DV5000」が大量展示されていた。また前回はモックアップでの出品であったDVカメラ「GY-DV300」も自由に撮影できるよう配置されていた。
【デジタルハイビジョンムービー】 今年のInter BEEの目玉といっていいのが、MiniDVテープにHD記録するというビデオカメラだ。まだ参考出品のため正式な型番などはないが、モックではなく実動モデルを1台だけ展示、ものすごい人だかりであった。現物はかなり小型で、GY-DV300よりも少し小さいぐらいのサイズ。 録画サイズは3種類で、通常のDV記録、480p(16:9)MPEG-2記録、720p(16:9)MPEG-2記録が可能。プロ機に慣れた目から見れば、現時点での画質を見る限りでは細かいディテールの荒れが気になったが、製品版でどのぐらいの画質になるか、今から楽しみだ。おそらく現在のDVカメラのように、HD収録でのサブカメラとして重宝されるだろう。
■ 朋栄
放送業務のメインストリームではないが必要性の高いユニークな製品を多く輩出するのが、FOR.Aのロゴでおなじみの朋栄だ。自社開発製品と輸入代理店業務の2足の草鞋でがんばっている。 【HVS-3000H+HVS-8OU】 以前から「HANABI」というユニークなネーミングで展開しているHDスイッチャー「HVS-3000H」に8ボタンの小型のコンパネが登場した。3Uサイズにラックマウントできるというのが特徴で、プライマリとして16入力が可能な2M/Eスイッチャーとして動作する。プロセッサ部も3Uなので、合計6Uですべて収まってしまうのがミソ。DVEもWipeパターンの1つとして内蔵されており、主にライブでの使用が見込まれている。
■ GRASS VALLEY 今年4月にTHOMSONに買収が決まった、米スイッチャーメーカーの老舗GRASS VALLEY。THOMSONはそれ以前にフィリップスの放送機器部門も買収しており、これらすべての製品がGRASS VALLEYブランドで販売されることとなった。 【HD/XtenDD】 HD/XtenDDは旧フィリップスチームが開発したHD用大型スイッチャーで、最高4M/Eを備えるというおそらく現時点では世界最大級のもの。また同モデルにはSDのものもあり、1台のコンパネからHDとSDの本体を同時にコントロールできるほか、外部のHDDレコーダなどの再生もコントロールできる。SDとHD放送が混在する大型イベントの中継などでは威力を発揮するという。 【DVEXCEL】 Pinnacle Systemsの製品だが、GRASS VALLEYのZodiak 2.5M/Eモデルとセット販売されていたのがDVEの新モデル「DVEXCEL」だ。内部を16bit、4:4:4:4で処理しており、映像の拡大画質はかなり良好。カラーのGUI画面と合わせて操作性もよく、コントロールパネルは旧AbekusのA-53DやA-51を彷彿とさせる。
■ 業界の巨人SONY特集 ■ SONY
毎年大量の新製品を投入してくるのがSONYだ。日本が世界に誇るブロードキャストメーカーなだけに、業界でもその動向は常に注目の的である。得意分野は、撮影からポストプロダクションまで、すなわち制作系機材だ。 【XPRI】 NAB2001で発表されたSONYオリジナルのノンリニア編集システムXPRIも、いつの間にかVer5.0まで成長した。今回のウリはなんといってもHDソース編集時に、外部に繋いだ複数台のPCを使って、時間のかかる複雑なエフェクトなど部分を分散処理できるようになったこと。バックグラウンドで処理させるので、タスクを投げたあとはほっといて作業を続行できる。 また参考出品ではあるが、SAN(Storage Area Network)対応 XPRIも発表された。映像素材をローカルのストレージに蓄積するのではなく、SAN対応の外部ストレージを使うことで、複数台のXPRIで素材を共有することができる。
【MVS8000SF/CCP-9000】 スイッチャー関連では、マルチフォーマットプロダクションスイッチャー「MVS8000」の小型モデル「MVS-8000SF」が出展された。従来モデルに比べてプロセッサ部がおよそ半分。8000シリーズの1M/E、2M/E版と考えていいだろう。また8000シリーズに接続できる小型コンパネ、CCP-9000シリーズが登場した。MVS-8000SFとともに小型の中継車などに搭載できるよう、横幅が19インチラックマウントサイズとなっている。 【DSR-DR1000】 DVCAMフォーマットで記録するHDDレコーダ。同様の製品に「DSR-DU1」があるが、これが撮影収録機器としての性格が強いのに対し、「DSR-DR1000」は前面パネルが普通のVTRのようになっており、スタジオワーク向きとなっている。最長6時間の記録が可能で、2台を100Base-TXで繋げば、映像をFTP転送できる。 【MediaStage】 また別室にて、ストリーミング用リモートエンコードサービス「MediaStage」が参考出展された。これは局内からMPEG-2ファイルをサービスセンターにFTPすると、センターで各種ストリーミング用フォーマットにエンコードしてくれるというサービス。パソコン用だけでなく、携帯電話系フォーマットにも対応している。操作はブラウザーベースで、センターでエンコードされた結果も確認できる。OKならばGetするなり別サーバーに転送すると、その時点で課金されるシステムなので、プリプロセスやエンコード設定などのトライ&エラーは無料となる。
■ 総論 前フリで送出系が多いと書いたわりには全然それ系の話が出てこなかったわけだが、それもそのはず筆者はポストプロダクション系の人間なので、マスタースイッチャーより後ろのことはあまり詳しくないっていうかほとんどわからない。従って今回のInter BEEレポートは、送出系はあまり扱っていないのである。そっちの方を期待していた人には申し訳なかった。 いずれにしても、来年に地上波デジタル放送開始を控え、HD一辺倒で進んでいくと思われた業界に、微妙な方向転換が行なわれているのを肌で感じることができた。業界人のうわさ話も含め面白い話もたくさん仕込んであるので、それら動向分析は来週のElectric Zooma! でお送りすることにしよう。
(2002年11月21日)
[Reported by 小寺信良]
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