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第79回:Inter BEE 2002 オーディオ関連機器レポート
NUENDO/Pro Tools最新版など


 今年も、幕張メッセで11月20日~22日の3日間、国際放送機器展「Inter BEE 2002」が開催された。放送機器関連のトピックスについては、すでに小寺信良氏の週刊Electric Zooma!で紹介済みなので、当連載ではオーディオ関連機器、中でもPCベースでのデジタルレコーディング関連の新製品についてレポートする。

 会場に向かう前日、数名の知人に「今年のInter BEEでの発見はあった?」と聞いてみたところ、「比較的地味で、目新しいモノはなかったなぁ」というのが共通の答え。そんなこともあって、あまり期待せずに向かったのだが、業界関係者が一同に集結しているということもあり、面白いネタはそれなりに仕入れることができた。今回は展示の有無を問わず、会場で仕入れた新製品情報を紹介したい。


■ NUENDO 2.0が登場、新製品が年末から年始に目白押し

 10月に米ロスアンゼルスで開催された「113th AES Convention」に続き、SteinbergブースはInter BEEでも、MIDI/オーディオ統合型のDAW、NUENDOの最新版「NUENDO 2.0」一色という感じだった。

Steinberg Japanブース NUENDO 2.0

 NUENDOはCubase SXの上位ソフトで、現行バージョンは、1.6x。オーディオエディティング、サラウンドミキシング、特殊フォーマットへのエンコードなど、ポストプロダクションに必要な機能が備わった専用ツール。Pro Toolsの対抗馬となるものだ。

 今回、そのNUENDOの2.0が発表されたのだが、ポイントとしては、まずVST 3.0に対応したこと。これにより内部チャンネルルーティングをホストプログラムで変更可能となった。またプラグインが強化され、デクリッカー、デノイザーを標準装備したほか、マスタリング用にPLEQ1、マグネットも装備された。

 またネットワーク機能が搭載され、TCP/IPを用いたファイルシェアリングができるようになったり、マルチチャンネルオーディオの転送用としてmLAN(IEEE 1394)に対応するなど、かなり機能が強化されている。

 ただし、発売に関しては未定。デモ版は動作していたが、まだα版の段階であり、英語版も年内に出せるのか微妙な様子だった。

 VST System Linkのデモも行なわれていた。これはCubase SX/SLやNUENDO同士をデジタルオーディオケーブル経由でネットワーク化し、CPU負荷を分散させるというもの。

V-STACK VST System Link用のインターフェイスカード「VSL2020」

 VST System Linkについては、また改めてレポートしたいが、ここで新しい情報が聞くことができた。現在のところVST System Linkを利用するには、対応したアプリケーションソフトのCubase SX/SL、NUENDOを台数分そろえる必要がある。ただし、スレーブ側限定になるが、これらのDAWソフトなしで利用するためのソフト「V-STACK」を間もなくリリースするという。

 この上で、プラグインであるVSTエフェクト、VSTインストゥルメント、DirectXプラグインなどを動作させることができ、価格は1万円程度とのことだ。まずはWindows版が年内をメドに発売され、続いてMacintosh版も発売されるという。

 このVST System Linkの接続にはS/PDIFでもADATでも利用できるが、本格的に使うためには、マルチチャンネル対応のADATがほしいところ。そのためには当然複数のADATインターフェイスが必要になるわけだが、このADATを2系統装備したインターフェイス「VSL2020」も1月には発売され、それにもV-STACKがバンドルされるという。価格的には6万円程度と聞いているので、コストパフォーマンスは良さそうである。

 Steinbergの新製品はこれだけに留まらない。コンシューマー系も含めて、まだまだたくさんある。まずはCubaseシリーズの下位ソフト「Cubasis」の最新版、「CubasisVST 4.0日本語版」。CubaseVSTにかなり近いレベルにまで仕上がり、エントリーソフトながら24bit/96kHzに対応している。さらに、ソフトシンセとしてDelay Lamaの特別版がバンドルされるとのこと。

 また、このDigital Audio Laboratoryでも何度か取り上げたCleanの最新版「Clean 4.0」も1月にリリースされる予定。ノイズリダクション機能については、あまり変化はないようだが、プラグインが増えて機能アップを図っている模様だ。

 プラグインのソフトシンセもいろいろ登場する。1つは「Virtual Guitarist Electric Edition」。その名の通り、エレキギターにフォーカスした音源であり、29のプレーヤーが入っている。価格はオープンプライスで、市場予想価格は3万円前後になる見込み。発売は12月中を予定している。続いて1月にはマルチ音源「D'Cota」も発売されるようだが、読み方も内容も不明。もちろん、VSTインストゥルメントではあることは確か。

 国内未発表のものとしては「HALion Straing Edition Vol.1」がある。同社のソフトサンプラー「HALion」用の音色ライブラリーだが、これ単体でもVSTiとして利用できるそうだ。価格はオープンプライスで、市場予想価格は45,000円前後の見込み。年内の発売を目指している。もう1つ、ライブラリーとしては「Urban Atmospheres」がある。これはDVDメディア9枚組みのもので、プロ用のサラウンドの環境サウンド集。価格は15万円程度になるようだ。

 このように、かなりのラインナップを一挙に発表してきたSteinberg。年末から年始にかけて、いろいろなものに触れることができそうなので、機会があれば、また詳細についてレポートしてみたいと思う。


■ Logic 5.5でMac OS Xに完全対応。6イン2アウトのUSBインターフェイスも

MIDIAブース

 先日、Appleに買収されたEmagicの国内代理店として、Logic関連の製品を扱っているミディア。同社は、これまでになく大きなブースで出展していたが、ちょうど、このInter BEEの開催と同時にリリースされたのが最新版の「Logic 5.5」だ。

 以前より、最上位版のLogic PlatinumはMac OS X対応となっていたが、今回の5.5により、その下のLogic GoldおよびLogic AudioもOS X対応となった。これに伴い、Logic GoldとLogic AudioでもフィジカルコントローラのLogic Controlをサポートしたり、Logic Audioでのスコア機能の強化などが行なわれた。

 また、Logic PlatinumのOS X版では、OMFファイルのインポートがサポートがされるなど、さまざまな点が改良されている。なお、EmagicではWindows版の販売を終了しているものの、バージョンアップについては引き続き行なっており、5.5でもWindows版のアップデータが公開されている。


EXS24 mkII 24bit/96kHz対応のUSBオーディオインターフェイス「emi6|2m」

 また、このLogic 5.5と同時に、ソフトサンプラーのEXS24(Emagic Xtreme Sampler 24Bit)が「EXS24 mkII」にアップデートされた。新たに、マルチモード・フィルター、3LFO、モジュレーション・ルーティング・システムを搭載したのとともに、ユーザーインターフェイスもリニューアルされている。EXS24ユーザーは無償でアップグレードできる。

 ソフトだけでなく、ハードでも新製品がある。24bit/96kHz対応のUSBオーディオインターフェイス「emi6|2m」だ。

 従来よりEmagicではemi2|6という2イン6アウトという仕様のUSBオーディオインターフェイスを出していたが、emi6|2mは反対に6イン2アウトをサポート。筐体はemi2|6とまったく同じものを使っており、USBも1.1となっている。

 ミディアによれば、6アウトもしくは5.1アウトというニーズは思ったより少なく、反対に6インといった入力でのマルチチャンネルのニーズのほうが高かったという。

 このemi6|2mはアナログ入力6chとアナログ出力2chを装備するほか、コアキシャルでのS/PDIFの入出力を持ち、ヘッドフォン端子も装備している。ここでユニークなのは、このS/PDIFの入出力に付属の変換ケーブルを接続すると、S/PDIFインターフェイスがMIDIの入出力に変身するということ。もちろん、S/PDIFとしては機能しなくなるわけだが、なかなか珍しい仕様だ。発売は年内を予定しており、価格は59,800円程度と見られる。


■ M-AUDIO、USB 2.0は見送り? 先にFireWire対応インターフェイスが登場か

USB Audiophile

 低価格のオーディオインターフェイスを続々と発売しているM-AUDIOもInter BEEに出展していた。M-AUDIOは、先日、24bit/96kHz対応のUSBオーディオインターフェイス「USB Audiophile」を発表し、会場でも展示していた。

 これはエントリーモデルとして人気のあるPCIバス版オーディオインターフェイス「DELTA Audiophile 2496」のUSB対応の外付けモジュール版。アナログ入出力、S/PDIF入出力、MIDIインターフェイスはもちろん、新たに1/4TS 2chアンバランス入力とヘッドフォン出力までも備えている。発売は年末から年始となっている。


MIDISport 2x4

 また、これと同じデザインで、黒のケースに収められたUSB対応のMIDIインターフェイス、「MIDISport 2x4」も登場。2イン4アウトのMIDIインターフェイスで、特に目新しい機能はないものの、デザインが一新された。

 展示内容より気になっていたのが、USB 2.0に対応したオーディオインターフェイスについてだ。以前、同社にインタビューした際、USB 2.0対応品を年内には発売するとの回答を得ていたのだが、改めて聞いてみたところ、現時点では年内の発売予定はおろか、正式な発売予定もないとのこと。それよりもFireWire(IEEE 1394)対応のインターフェイス開発を進めており、そちらのほうが先に登場しそうだという。



■ DVD-Audio制作専用マシンやOS X対応のPro Tools 6.0も登場

フックアップの「DV-Stage」

 そのほか、ヤマハ、ローランド/エディロール、タスカム、TCエレクトロニック……と各社がブースを出していたが、特にこれはというものを見つけることはできなかった。

 1つ面白かったのは、フックアップが参考出品という形で展示していたDVD-Audio Turn-Key Concept、DV-Stageなるシステム。これはフックアップとPCショップであるフロンティア神代が共同でリリースするマシンで、その名の通りDVD-Audio製作専用のPCである。

 CPUにPentium 4 2.53GHzを中心にしたPCに、24bit/192kHzでの録音再生が可能なオーディオインターフェイス「Lynx L22」とパイオニアのDVD-R/RWドライブを搭載。ソフトとして、前回紹介したDVDオーディオのオーサリングソフト「discWelder STEEL」、波形編集ソフト「Sound Forge 6.0」およびノイズリダクションプラグインの「NOISE REDUCTION 2.0」をインストールしている。

 価格は50万円弱で、年内には発売を予定しているそうだ。フックアップとフロンティア神代の共同製品は、実はこれが2つ目。なぜ、この2社が組んでいるんだろうという疑問に対し、フックアップはわかりやすい回答をしてくれた。なんのことはない、秋葉原のフックアップの入っているビルの8階に先日、フロンティア神代が引っ越してきて、ご近所さんになったからとのこと。まあ、かなりニッチな市場ではあるが、今後もユニークな製品をいろいろと出してくれることを願いたい。

 そしてもう1社、重要な展示をしていたのに、行き逃してしまったのが、Digidesign Japanのブース。DigidesignはAvidの1部門であるため、ブースがプロオーディオ部門ではなく、映像・放送関連機材部門での展示となっていたのだ。残念ながら実物を見ることはできなかったが、ここにおいてPro Toolsの最新版「Pro Tools 6.0 software」を発表。これにより、ついにPro ToolsがMac OS Xに対応したのだ。

Pro Tools 6.0 software

 その後調べた情報によれば、このPro Tools 6.0 Softwareには、DigiBaseファイル・マネージメント・ユーティリティを搭載。機能的には、ちょうどMac OSのファインダーやWindowsのエクスプローラと似た働きをするもので、システム上のすべてのファイルを管理することができる。さらに、そのファイルの時間的な長さ、タイム・スタンプ、2つのユーザー・コメント・フィールドといった完全なファイル情報を表示することもでき、その際のディスプレイ・レイアウトも、必要に応じてカスタマイズすることが可能とのことだ。

 また、動作を不安定にしていたOMSから脱却し、OS XのCoreMIDIに対応したことも大きなポイントといえそうだ。今後、プロユーザー、スタジオ環境などがいつMac OS Xへ乗り換えるのかが気になるところだ。



□Inter BEE 2002の公式サイト
http://bee.jesa.or.jp/
□関連記事
【11月21日】【Zooma!】Inter BEE 2002レポート
~ これさえ読めば業界人!? 行った気になる新製品情報 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20021121/zooma84.htm
【11月18日】【DAL】マルチチャンネル対応DVDオーディオ作成ソフト
「discWelder」を試す
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20021118/dal78.htm

(2002年11月25日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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