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第73回:ハイビジョンカメラの実力は?
ストレートな青春映画「ピンポン 2枚組DTS特別版」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 松本大洋の人気漫画を映画化

ピンポン
2枚組DTS特別版

価格:4,700円
発売日:2003年2月14日
品番:AEBD-10146
仕様:片面2層+片面1層
収録時間:約114分(本編)
画面サイズ:16:9ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:1.ドルビーデジタル5.1ch(日本語)
   2.DTS(日本語)
   3.ドルビーデジタル2ch(コメンタリ)
   4.ドルビーデジタル2ch(音楽のみ)
字幕:日本語/英語
発売元:アスミック

 ピンポンは、松本大洋の人気漫画を実写化した映画。窪塚洋介や、ARATA、中村獅童などの人気俳優を集め、公開時には大々的にCMを打っていたので、覚えている人も多いだろう。DVDの売上も好調のようで、弊誌のDVD売上ランキングでも、2月14日の発売直後に初登場1位を記録。その後もランキングに入り続けているなどロングセラーになっている。監督は曽利文彦。脚本は宮藤官九郎。

 といっても個人的にはこの映画にそんなに興味がなかった。まず、流行のタレントを集め、人気マンガを実写化ということで、CMの打ち方も含めて、「ちょっと“スカした”映画だな~」という印象が強かった。また、窪塚洋介の演技もちょっと苦手……。価格も4,700円(2枚組DTS特別版)と、洋画のビッグタイトルなどと比較するとちょっと高め。ということで、発売当初は購入するつもりは無かった。

 しかし、実際に発売されると店頭で大々的にディスプレイされて人気も高く、しかも「高画質」との評判。HDデジタルカメラを使ったという画質には、発売時からちょっと気になっていたのだが、実際、家電量販店の大画面フロアなどでデモ用ディスクとしてもしばしば利用されており、なんども見ているうちに「とりあえず見ておかないと」という気分に。ということで購入に踏み切った。

 今回購入したのは、初回限定で特典ディスクが付く「2枚組DTS特別版」なお、ピンポン星人のペーパー・マスクや片瀬高校のゼッケンなどを同梱した15,000セット限定の「メモリアルBOX」も同時に発売されている。メモリアルボックスの価格は9,400円。



■ 高校生卓球部員たちの青春を描く

 「ピンポン」は、インターハイを目指す高校生卓球部員たちの苦悩や挫折、友情を描いた映画。卓球が好きで好きでたまらない主人公の「ペコ(窪塚洋介)」と、「卓球は暇つぶし」と公言するクールな「スマイル(ARATA)」の二人の関係を中心に、ライバル海洋高校の「ドラゴン(中村獅童)」や幼馴なじみの「アクマ(大蔵孝二)」、辻堂高校の「チャイナ(サム・リー)」との対決を描いていく。

 基本的にマンガにほぼ忠実なストーリー展開で、高校生卓球部員の苦悩や友情を描いた青春映画といえる(出演俳優はほぼ20代後半だが)。

 才能を開花させどんどん実力を付けていくスマイルとは対照的に、子供のときから抜きん出た実力でスマイルをリードし、卓球で世界一になると公言しているペコが敗北を続け、自暴自棄になる。しかし、再び卓球に取り込みだすと、自堕落な今までのやり方を捨てて、まっしぐらにインターハイの頂点を目指していく。

 個人的には、うまい下手は別として、役作り的に窪塚君がちょっときびしかったが、美形俳優陣の中で異彩を放つ、キャプテン大田(荒川良々)や、コーチ役の小泉丈(竹中直人)など脇役の充実もあって、ストーリに引き込まれた。

 ロケ地は、七里ヶ浜から江ノ島あたりの海岸が多く、海をバックにした、スマイルのトレーニングシーンなどの映像もなかなか印象的。ややドライな今風の若者群像といった趣だが、そうした中でもやや懐かしさや、感情移入できるポイントを残しているあたりに、制作者の力量を感じさせる。


■ 高画質で、暗部の破綻も感じられない

 また、この映画の大きな特徴として、HDデジタルカメラで撮影したということが挙げられる。HDデジタルカメラを使った映画としては、「スター・ウォーズ エピソード 2」など超メジャータイトルのほか、邦画では「突入せよ! あさま山荘事件」などがある。ピンポンでは、CGの利用も多く、実際の仕上がりについて期待がかかる。

DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4でみた平均ビットレート

 画質については、全編通して邦画的な温かみのある色温度となっているが、コントラストは高めで、画の豊かさを生かしつつくっきりと描写するいう感じで、解像感はかなり高い。ビデオともフィルムともちょっと違うニュアンスを持った画作りといえそう。DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4でみた平均ビットレートは8.44Mbps。

 全編を通してノイズや階調の破綻などはほとんど感じられない。同様にデジタルカメラを使った「浅間山荘」では、解像感はあるが、暗部のノイズがやや目立った印象があった(もともと薄暗いシーンが多いということもあるが)が、本作ではそうしたノイズは見られず作品に没頭できた。

 特典ディスクの「本編解説」で詳細に解説されているが、ハイビジョンカメラの採用には、画質より、CGとの親和性というポイントが特に重要視されていたという。たとえば、卓球の試合や練習シーンの、ほぼ全てのプレイがCGで実現されており、また、試合の観客など、ありとあらゆるところでCGが利用されている。意図的にCGを前面に出しているシーンもあるが、解説を見るまで気づかなかったシーンも多く、こんなところまでCGを使っているのか、と驚かされた。

 音声は、DTSとドルビーデジタルのほか、コメンタリ、音楽トラックのみの4つが選択できる。DTSはハーフレート(768kbps)、ドルビーデジタル5.1chは448kbpsで収録している。音声の移動感もよくでており、例えばボールを上にトスするシーンの、ボールの上下動の感覚なども気持ちよく体験できた。

 コメンタリでは、曽利監督がスタッフと各シーンのエピソードを交えながら全編に渡って解説する。チャイナ役のサム・リーの撮影期間が10日しか取れなかったなど、制作時のスタッフの苦労が伺える内容で興味深い。


■ 充実の特典。本編解説で制作エピソードを網羅

 特典ディスクは充実しており、2つの短編作品やメイキング、本編解説、宣伝素材など多くのコンテンツが収録されている。全部見るのは一苦労だ。

 短編作品は、宮藤官九郎 監督・脚本による「ティンポン」と、曽利監督による「カンフー・マスター」が納められている。ティンポンは、完全にお遊びといった感じのコメディで、荒川良々をはじめとする宮藤官九郎周辺のスタッフが協力、実際のピンポンのストーリーを追いつつ、スタイリッシュな「ピンポン」に対して、若干悪意も感じられる「楽屋落ち」的作品。

 一方の「カンフー・マスター」は、曽利監督が24Pデジタルカメラの採用を検討する際のテストとして作成したという約1分のアクション作品となっている。オーディオコメンタリも収録しており、実際にフィルムと比較検討した際のポイントなどにも触れられていて興味深い。

 本編解説は、CGシーンの解説や、デジタルシネマ化の解説が行なわれている。曽利監督は「フィルムの方が好きで、高級という意識がある」としながらも、「マンガの世界観を実現するためには、多くのCGが必要だった。そのためにCGとの親和性という意味でHD24Pを選択した」と述べている。また、撮影の佐光朗氏は、フィルムチェンジの時間が無いとか、フィルムのように幾ら回してもプロデューサーから怒られない。などといったメリットを挙げている。ただし、ピンポン玉がカメラの目前を横切るなどの高速の移動を捉える際には、フィルムを使っているという。

 曽利監督は、「まだプロが見ればフィルムとの差はあるが、かなり近いところまできている」としているほか、プロデュサーの小川真司氏も含め、3者がデジタルシネマの利点を挙げながら、「フィルムはなくならない」と力説しているあたりは、映画人の「フィルムへの想い」というものが感じられる。「我々の世代はフィルムに対する憧れが残っている。デジタルはそれを追いかけて遜色ないところまできており、これでしか取れないものが出てきている(曽利)」というのが彼らの共通の認識と感じた。

 また、CGシーンの解説では、ほぼ全ての試合をCGで実現しているなどが説明されている。「画質というよりは、CGとの親和性でHD24Pを選択した」という曽利監督の言葉が良くわかる内容だ。また、CG化により、タイトな撮影スケジュールをこなせる、ということで、撮影時間のコントロールのためのCG化というコメントも興味深かった。

 宣伝素材のコーナーには、トレーラや制作時の記者会見、完成披露試写会の模様などが含まれている。


■ 実はストレートな青春映画?

 見る前にはあまりいい印象を抱いていなかったが、実は、ある意味純朴というか、ストレートな青春映画という感じで新鮮だった。

 また、HDデジタルカメラを使った画質についても満足のクオリティ。今後ノウハウがさらに蓄積されることで、より大きな効果が期待されるし、「CGをCGとして意識させない見せ方」をうまく実現したという点でも、多くの驚きがあった。「24Pビデオを使った作品の今後」という意味でも注目されるし、AVファンであれば、そうした動きの現在の到達点の1つとしてチェックしてみても驚きがあるだろう。

●このDVDについて
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前回の「アマデウス ディレクターズカット スペシャル・エディション」のアンケート結果
総投票数686票(3月18日現在)
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5%

□アスミック・エース エンタテインメントのホームページ
http://www.asmik-ace.co.jp/
□映画「ピンポン」の公式サイト
http://pingpong.asmik-ace.co.jp/
□関連記事
【2002年11月20日】アスミック、DVD「ピンポン」を2月14日に発売
―マスクやポスターなどを同梱するメモリアルBOXも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20021120/asmik.htm

(2003年3月18日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]



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