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第94回:mLAN対応オーディオインターフェイス「FireStation」を試す
~ その2:mLANの使い勝手とオーディオ特性~


 前回に続き、mLAN対応のオーディオインターフェイス、米Presonus Audio Electronicsの「FireStation」についてレポートする。

 前回は主にmLANの設定法などについて見ていったが、今回は実際の使い勝手などについてレポートするとともに、ノイズレベルや周波数特性などもチェックした。



■ WDMとASIOの同時使用に制限あり

FireStation
 前回、音を出すのにかなり苦労したFireStationだが、使っていくうちに少しずつコツが見えてきた。mLANという仕組みを利用しているのがその大きな原因だと思うが、一般のオーディオインターフェイスとは色々な面で違いもある。その1つは前回も触れたWDMドライバだ。

 普通のオーディオインターフェイスの場合、ドライバをインストールすれば即Windowsで使うことができる。たとえば、8chの出力を持ったオーディオインターフェイスなら、コントロールパネルのサウンドとオーディオデバイスのところで、2chずつ計4つのドライバが選択可能となり、いずれかを選ぶことで、そのチャンネルから音が出る。

 しかし、FireStationの場合、デフォルトではここにドライバが現れないため、即Windowsで使うことができない。これを使えるようにするためには、mLAN Control PanelにおいてInterface TypeをWDMに設定しておかなくてはならない。

 しかし、WDMにしてもドライバはコントロールパネルに1つしか表示されない。またWDMドライバを標準のドライバとして作られている「SONAR」でもやはり1つしか表示されないのだ。なぜだろうと不思議に思って、マニュアルを調べていくと、どうやら仕様のようだ。

 「SONAR」の場合、先日アップデートされた最新バージョン2.2であれば、WDMのほかにASIOドライバも選択できるようになるため、FireStationの全8ポートが利用できる。しかし、2.2以前のバージョンでは2chのインターフェイスとしてしか利用できないことになる。

WDMに設定してもドライバは1つしか表示されない SONARで確認しても1つだけだった

 一方、このWDMドライバのモードの状態でASIOを使うとどうなるのか。確かにASIOドライバとして利用可能なのだが、今度は3~8chの計6ポートしか利用できない。一般のオーディオインターフェイスの場合、WDMもASIOも両方使うことが可能で、切り替えの意識なく利用できるものだが、FireStationでは同時に動作させることはできず、1chと2chをWDMとして使用すると、ASIOではその2つが使えなくなってしまう。

Cubase SXでASIOコントロールパネルを開いたところ。3~8chしか利用できない

 実際、WDMドライバモードのまま「Cubase SX」を使い、ASIOコントロールパネルを開くと、3ch~8chまでしか利用できなくなっているのが確認できる。ただし、論理的にはCubase SXの1chと2ch、つまりBUS1にFireStationの3ch~8chを割り当てることが可能なので、大きな問題になることはないかもしれない。

 それでもルーティングが非常に複雑で、ちょっと設定を変えると、すぐに音が出なくなる。ASIOを使うのであれば、やはりWDMはオフにしておいたほうが良さそうだ。

 もう1つ面倒なのがサンプリングレートの設定。FireStationでは、32/44.1/48kHzの3つに対応しているが、mLAN経由で扱う場合は、44.1kHzと48kHzの2種類に限定される。まあ、32kHzを使うということはほとんどないのだが、それよりも、44.1kHzと48kHzの切り替えが面倒なのが問題だ。

 一般のオーディオインターフェイスの場合、アプリケーション側でサンプリングレートを切り替えるとオーディオインターフェイス側が自動的にそれに追従する。しかし、mLAN接続のFireStationの場合、「mLAN Control Panel」で設定しないといけない。また、mLAN Control Panelを更新すると「mLAN Patch Bay」の設定が無効になってしまうので、再度こちらも更新する必要があるのだ。こうしてはじめて切り替えが可能になるので、初めて使うと非常に戸惑うし、面倒に感じてしまう。

 しかし、FireStationは何もPCとの接続にmLANを使わなくてはならないというわけではない。前回も触れたとおり、これはADAT経由で接続することも可能で、この場合もmLANと同様8in 8outが可能。この際、PC側にADATインターフェイスが必要となるわけだが、ADAT接続されていたら、サンプリングレートの変更でトラブルが起きることはない。もちろん、入出力ともに8chでやりとりでき、FireStationを単なるADATのA/D、D/Aとしても利用できるというわけだ。

mLAN Control Panel。44.1kHzと48kHzは事前にここで切り替える mLAN Patch Bayでの設定も必要

 ところで、FireStationのリアパネルには、バランス型のライン入出力が8系統用意されているほかに、フロントパネルにもマイク入力が2系統ある。このフロント側の端子がTRSフォンと、XLRのキャノン兼用となっており、48Vのファンタム電源にも対応するプリアンプが内蔵されている。

 FireStationのメーカーであるPresonus Audio Electronicsはプリアンプメーカーとして有名であるが、ここにもそのプリアンプが搭載されており、さらに真空管ドライブというパラメータも用意されている。これをオンにすると真空管アンプをシミュレートした暖かい雰囲気の音になるが、その分ノイズは増える設計になっている。またこのマイク入力2つは、リアパネルのライン入力の1、2と切り替え式になっており、リアパネル側が優先となっている。もちろん、このプリアンプを経由した音をレコーディングできるので、PC用プリアンプとして使えるのは1つのポイントだろう。

左にXLR、右にTRSフォンを備え、マイクアンプとしても使用できる


■ ノイズは少ないが不必要な高調波が出現

 では、FireStationのオーディオ機器としての性能はどうだろう。これまでDigital Audio Laboratoryでは、さまざまなオーディオインターフェイスの特性を調べる実験をしてきたが、それと同じ実験をFireStationに対しても実施した。

 行なう実験は3つ。入出力を直結した上で、まったく音を出力しないときの入力レベルを見るノイズレベルの実験、同じく入出力を直結し、1kHzのサイン波を出力したときの周波数分布を調べる実験、そしてスイープ信号のレベルチェックする実験の3つだ。

 ここではSound Forgeを用いてレコーディングするが、Sound ForgeはASIOドライバ非対応のため、WDMドライバでmLANを使用するモードで行なった。

FireStationの特性チェック
未入力時のノイズレベル
1kHzサイン波
スイープ信号

 まず、ノイズレベルは、かなり低ノイズであることがわかる。DCオフセットが出てしまっているが、それを除いても最大-90dB程度のノイズとなっている。一方、1kHzのサイン波の結果はというと、だいぶ高調波が出てしまっていることが確認できる。

 これはあくまでもアナログの性能を見ているわけだが、これを見る限り必ずしも抜群の性能とはいえない。もちろん、音としていいプリアンプと、こうした周波数特性のバランスをどうみるかはユーザー次第。3つ目の実験であるスイープ信号の結果は、まずまずといったところだろう。高域の伸びが今1つという感じはあるものの、悪くはない結果である。

 以上、一通りmLANとFireStationについて見てきたが、いかがだっただろうか。mLANという規格自体がこなれていないためか、使い勝手はあまりいいとは言えない。しかし、盛りだくさんの機能により、使って面白い機材なのは確か。また、IEEE 1394での接続なので、PCIバスが不要という点については、歓迎するユーザーも多いだろう。

 なお、前回「FireStationにはハードの操作が書かれた英文マニュアルとA4の紙2枚に印刷された日本語の簡易マニュアルのみ」と書いたが、製品版には全18ページのマニュアルが付属するとのことだ。


□Presonus Audio Electronicsのホームページ(英文)
http://www.presonus.com/
□Firestationの製品情報(英文)
http://www.presonus.com/html/products/firestation.html
□日本エレクトロハーモニックスのホームページ
http://www.electroharmonix.co.jp/
□Firestationの製品情報
http://www.electroharmonix.co.jp/presonus/fires.htm
□関連記事
【2003年3月24日】【DAL】mLAN対応オーディオインターフェイス「FireStation」を試す その1
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030324/dal93.htm

(2003年3月31日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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