■ 地下鉄で音楽を聴くための最大の障壁
通勤時にiPodで音楽を聴いているのだが、その際に気になるのはなんといっても、電車の騒音。特に地下鉄の「ゴー」という走行音などは非常に気になるものだ。 個人的にはポータブルプレーヤーで使う場合、インナーイヤー型が最も好み。そのため、低価格でバランスのいいSennheiserの「MX500」を利用していたのだが、ユニットがやや大きめで耳から外れやすいのと、遮音性にはだいぶ不満がある。引っ越して通勤経路を変えたら、さらに環境音が気になるようになったので、ヘッドフォンの変更を考え始めた。 ビクターの耳掛け型や、ソニーの耳栓型(カナル型)「MDR-EX70SL」、KOSSの「The Plug」なども試したことがあるのだが、装着感があまり気に入らなかったり、音質にちょっと不満が残るなど決定打がなかった。ということで、いろいろ悩んだ末に、1月のInternational CES 2003で展示されていて、評判もそこそこ良かった小型の密閉型ヘッドフォン「Sennheiser PX200」を購入。大きさやデザインなどにやや不満はあるものの、そこそこの遮音性と音質には満足していた。しかし、CESで「PX 200」と同じく展示されていた、上位版ともいえるノイズキャンセリングヘッドフォン(以下NCヘッドフォン)「PXC 250」がいつの間にか店頭販売されていた。
この「PXC 250」は独自の「NoiseGard」システムにより、環境音を約65%カットできるという。個人的には、少し前まで「周囲の音と逆相の音を出すことによって、ノイズを低減するという」NCヘッドフォンの原理自体が、好みではなかった。 しかし、PXC 250が展示されたCES取材までの機中、BOSEのNCヘッドフォン「QuietComfort」を同行のライター氏にお借りして、ストレスが大幅に低減できることが体験できたので、ようやくNCヘッドフォンへの偏見がなくなりつつあったところ。帰りの飛行機のために、すぐにでも購入したかったのだが、展示会場で「発売は今春」と言われて、カタログを機中で読みながら帰国した。 日本代理店ゼネラル通商の標準価格は23,000円で、新宿の大手量販店の価格は19,800円(税抜き/10%ポイント還元あり)。ソニーや松下から出ていたNCヘッドフォンは1万円前半の製品が多かったのでちょっと高いか? と一瞬だけ躊躇したが、39,800円の「QuietComfort」と比べれば半額である。 ■ 電源部はちょっと大きめ
パッケージは、透明のブリスターパッケージで、同梱品はヘッドフォン部と電源部のメインユニットのほか、キャリングポーチ、ステレオ変換プラグ、飛行機用アダプタがセットになっている。 ヘッドフォン部は折りたたみ可能で、専用ポーチが付属する。イヤーパッドは密閉型とは言い難い小型のもの。耳穴にあわせて載せるだけできちんとした音が聞けるので、個人的には装着感に不満はないのだが、ほかの編集部のスタッフに渡したところ、「なんか落ち着かない」という意見も……。装着感については個人差が出る製品といえるかもしれない。 ヘッドフォンに接続された、電源/ノイズキャンセルユニットはかなり大きめ。太目の油性ペンというかペンライト的な大きさなので、ポータブルプレーヤーで利用する場合は、このユニットをどのようにセットするかというのが結構重要になってくるだろう。電源は、単4電池2本。
■ ヘッドフォンとしての基本性能は高く、NoiseGardによる変化も少ない 早速、iPodに接続し、音を出してみる。カタログスペックで最も気になっていたのが、入力ンピーダンスが300Ωと高いこと。感度は112dB。iPodでの使用はやや不安だったのだが、従来使っていたPX200(32Ω/115dB)と比べてみると、同一ボリュームでやや音が小さくなりがちだ。しかし、やや最大音量が小さくなるだけと考えれば、問題なさそうだ。
普通に聞く分には、音質的にはPX 200と大きく変わることはなく、素直な音作りと感じた。とりたてて高分解能でも広い音場感があるわけでもないのだが、全体的なバランス感がよく、ポータブルヘッドフォンとしての能力はかなり高い。 まずは室内で「NoiseGard」を使ってみる。NoiseGardは、電源部上辺のスイッチで切り替えを行なうのだが、NCヘッドフォン特有のホワイトノイズなどはほとんど感じられず、大きな音質変化も感じない。NoiseGardは、独自開発技術とのことだが、ノイズ成分に逆相成分をミックスし、ノイズを抑えるという基本は従来のNCヘッドフォンと同じ。とりあえず、音質変化の少なさは大いに魅力だ。 NoiseGardは、特定の持続するノイズに効き目があるようで、オフィスでもパソコンのファンの回転音やプリンタ動作音などを大幅に低減できる。しかし、人の声や電話の音など、突発的な動作音はちゃんと聞き取れる。 NoiseGardをONにした際の音質変化は、NCヘッドフォンにしてはかなり少ないが、ソースを変えて音楽を聴いてみると、いくつか気になるポイントも。特に、ロック系のソースでギターのディストーションの伸びが感じられなくなったり、バスドラなどの低域のバタついた質感が無くなる。全般的に奥行き感が薄れ、低域に関してはコンプレッサをかけて音圧を上げたようなくっきりとした定位感が出てくる。音質の変化という点では、静かな場所で聞き比べたときにはやや気になるかもしれない。
■ 電車の中での効果は絶大 個人的に耳栓型が苦手と書いたが、その理由は周囲の環境音が聞こえなくなってしまうと、不安を感じるため。室外で音楽を聴く際に、駅のドアが開く音や、電車の進んでいる感触などが感じられなくなると、電車の乗り過ごしなんてミスも起こしがちだからだ。 実際にPXC 250を装着して電車に乗ってみると、NCの効果はすぐに感じることができる。PXC 250のNC機構は、地下鉄の「ゴー」という共鳴音などの倍音成分を適度にカットし、近くの人の声はきちんと認識できる程度に聞こえる。そのため、適度に周辺状況が認識できる。 地下鉄内の低周波音や、モーター音やロードノイズなどの一定の音域で持続するようなノイズ成分はかなり改善される。一方、ドアの開閉音や車内アナウンスなどの環境音はきちんと聞こえる(もちろんOFF時よりは遠く聞こえるが)ので、アナウンスを聞き逃すといったこともない。NCの聞き具合などは特に調節できないが、個人的にはちょうどいいノイズ低減設定と感じた。 筆者の通勤経路では、途中で地下鉄に入るのだが、地下に入る前はNoiseGardをOFFに、地下鉄の乗り入れと同時に電源をONにするといった使いこなしも可能だ。 多くのNCヘッドフォンで伝えられる問題として、近くで携帯電話の通話をはじめると干渉ノイズが出るというのがあるが、手持ちのau「A5302CA」を近づけて通話してみたところ、本体から10cm位の距離まで近づけてようやく干渉が確認できるといった程度。実際の通勤に約5日間使ったが、携帯が原因と思われる干渉ノイズを感じることはなかった。 ■ 唯一の欠点は電源部の大きさ
電車内で利用する分には、総じてパフォーマンスは高い。音質変化が小さい上に、ノイズ成分をカットしてくれるので、リラックスして音楽が聞くことができる。唯一、欠点と言えそうなのは、電源部分が大きいこと。手に持ったり、クリップでシャツに留めたりという使い方にはやや無理がある。ケーブル長が1.8mと長いのもやや取り回しに苦労するところ。 iPodに直結して、バッグの外ポケットに入れて使用したため、大きな不自由は感じなかった。しかし、MDプレーヤーなどでリモコンを介して操作を行なう際に、リモコンからさらに1.8mのケーブルの取り回しを考える必要があるわけで、用途にあった解決策を考えながら対処するしかなさそうだ。
もっとも、飛行機用のプラグアダプタがついていることからわかるように、もともとは、長時間移動用に開発された製品といえるだろう。そうした意味では製品としてまとまりはかなり良いと思うが、「もう少し電源部が小さければよかったのに」というのが正直な感想だ 電池の持続時間については、説明書にも記載が無いが、アルカリ電池で15時間ほど使用しても、電池が切れたり、ノイズキャンセル効果が弱くなるということはなかった。ちなみに、電源が切れても普通のヘッドフォンとして音を聞くことは可能だ。 なお、NoiseGardのON/OFFは電源部のハードウェアスイッチで行なうのだが、時々切り忘れてしまうことがあった。欲をいえば、数分間入力信号が無いと自動的にNoiseGardを切るような機能があってもよかったと思う。 ■ NCヘッドフォン購入時の最有力候補? 使用してみて、大きさ以外に大きな欠点はほとんど感じなかった。雑踏を歩いても適度にノイズをカットしてくれ、かつ、人の声もそこそこ聞き取れる。耳栓型のように周囲の情報を完全に遮断することもなく、さまざまなシチュエーションに対応できるのは大きな強みだ。 装着感など個人差もあるだろうし、その大きさゆえに使いまわしに苦労するかもしれない。しかし、BOSEのQuiet Comfortや、他社の低価格NCヘッドフォンと比べると、価格比性能では現在あるNCヘッドフォンの中でトップクラスといえるだろう。
■ とりあえず、分解してみました
「NoiseGard」の正体はいかに? ということで分解してみた。NC/電源部の分解はネジを3本外すだけで簡単に行なえる。中身はメイン基板と電池ケースだけのシンプルなもの。 NC/電源分にマイクらしきものは無いが、イヤーパッドを外して、同サイズのユニットを持つPX 200と比較してみたところ、PXC 250のユニットの中央には左右ともにマイクらしきものが搭載されていた。
□Sennheiserのホームページ(英文) (2003年4月18日)
[usuda@impress.co.jp]
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