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第83回:監督、キャスト、吹替えまで豪華なSF大作
未来の罪で逮捕する!?「マイノリティ・リポート 特別編」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ いろんな意味で新鮮な大作

マイノリティ・リポート 特別編

価格:3,300円
発売日:2003年5月23日
品番:FXBF-20918
仕様:片面2層
収録時間:本編146分
画面サイズ:シネマスコープ(スクイーズ)
音声:1.英語(DTS)
    2.英語(ドルビーデジタル5.1ch)
    3.日本語 堀内バージョン(ドルビーデジタル5.1ch)
    4.日本語 須賀バージョン(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:日本語/英語
発売元:20世紀 フォックス
      ホーム エンターテイメント ジャパン
 「マイノリティ・リポート」は、映画「ブレードランナー」の原作者としても知られる、SF作家フィリップ・K・ディックの短編小説を映像化した作品。監督はスティーヴン・スピルバーグが務め、主演がトム・クルーズという豪華な大作。全米だけでなく、2002年の12月から公開された日本でも50億円を超えるヒットとなった。

 意外に感じてしまったが、スピルバーグの映画にトム・クルーズが出演するのは、今作が初めてだという。子供の頃からスピルバーグ映画の大ファンだったというトム・クルーズがどんな演技を見せるのか楽しみだ。

 また、スピルバーグ監督がフィリップ・K・ディックの原作を扱うといのも面白い。「ブレードランナー(原作:アンドロイドは電気羊の夢を見るか)」や「トータルリコール(原作:追憶売ります)」など、どちらかといえば通好みの原作を、大衆作品の代名詞とも言えるスピルバーグがどのように料理するのか気になるところ。キューブリックの製作を引き継いで完成させた「A.I.」を思い出しながら、DVDを持ってレジに並んだ。

 価格は本編と特典ディスクの2枚組みで3,300円。2枚組みで3,800円という大作映画が多い中、若干低目の価格設定になる。なお、この「マイノリティ・リポート 特別編」は、6月30日メーカー出荷分までの期間限定の製品で、7月1日出荷分以降は本編ディスクのみの「通常版」に切り替わる。通常版は価格も3,980円と高くなってしまうため、購入を考えている人は早めに入手した方が良いだろう。


■ 犯人は…… 俺か!?

 舞台は2054年のワシントンD.C.。犯罪予防局では、「プリコグ」と呼ばれる3人の予知能力者が未来に起こる殺人事件を予知し、その情報を基に「事件が起こる前に犯人を逮捕する」という驚異的なシステムが運営されていた。殺人を計画した者だけでなく、衝動的な殺人も予知できるため、都市での犯罪は激減。人々は平和な暮らしを満喫していた。

 主人公は、このシステムを管理する犯罪予防局のチーフ、ジョン・アンダートン。彼は多くの犯罪を未然に防いできた有能な人物だったが、ある日、システムによって「近い将来殺人を犯す」という予言を下されてしまう。かくして、犯してもいない未来の罪により、追う側から一転、追われる身へ。「本当に自分は人を殺すのか?」という疑問を抱きながら、ジョンの逃亡劇が始まる。

 物語の中心となるシステムは「予知能力」という、あまり科学的でないものに支配されている。それゆえ、人々は犯罪が激減したことで、システムの有効性を認めつつも、良し悪しを決めかねている状態だ。

 また、「その時点では犯罪を犯していない者を逮捕しても良いのか?」、「逮捕した人間は、逮捕されなければ本当に罪を犯したのか?」という疑問を持った登場人物も現れる。映画はそういった様々な思惑を内包しつつ、「システムを全国的に展開するか否か」という投票を直前に控えた時期を描いている。システムに対する疑問が残る社会を描くことで、SFでありながら、観ていて親近感と、ある種のリアリティを感じることができた。

 映画の最大の魅力は、殺人事件がメインに存在するにも関わらず、「犯人は誰だ!?」ではなく、「なぜ殺したのか!?」、「本当にこれから殺すのか!?」という物語が展開することだ。まるで答えから問題を推理するような、新鮮なストーリーが味わえる。また、物語の中盤から終盤にかけて、バラバラのパズルが組み合わさるような展開は、観ていて痛快だった。

 映画の予告を見ると、お手軽なSFアクション映画に思えるが、実際は「未来」という要素を取り入れたサスペンス映画だ。確かに手に汗握るアクションシーンもあるが、全体に占める割合はそれほど多くはない。ストーリーは複雑だが、そこは娯楽映画の帝王・スピルバーグ。流石のテクニックで、映画としての綺麗な完結を示してくれる。安心してお勧めできる作品と言えるだろう。

 しかし、この映画には「予言された未来とは何か?」、「犯罪予防局が逮捕した時点で、予言された未来と違うのではないか?」というような、難しいタイムパラドクスの問題がある。このあたりを突き詰めると、眉間に皺を寄せながら観るであろう、考え甲斐のある壮大な主題が、スピルバーグによって巧みに別の小規模なストーリーにすり替えられ、そのまま映画が終わってしまった感はぬぐえなかった。

 折り合いは難しいところだと思うが、「痛快アクション」と、「新感覚のサスペンス」のどちらかに的を絞ったほうがよかった気もする。もし、スピルバーグ以外の監督がメガホンを取り、観ている観客に強烈な疑問やメッセージを投げかけるようなラストに仕上げたら、映画史に残る傑作(問題作?)になったかもしれない。今作はそういう意味で、「安心して楽しめる大作映画」の域を出ていない。それは魅力でもあり、欠点でもあるだろう。


■ 独特の画質に加え、日本語吹替えを2バージョン収録

 特典ディスクに収録されたインタビューの中で、スピルバーグ監督は「フィルム・ノワールを意識した」と語っている。フィルム・ノワールとは、直訳すると「闇の映画」。ジョン・ヒューストン監督の「マルタの鷹」やハワード・ホークス監督の「三つ数えろ」などに代表される、40年代から50年代にかけて製作されたサスペンス映画のことだ。

 フィルム・ノワールの映像的な特徴は、闇を強調させるトーンを抑えた絵作りや、映画全体に漂う退廃的な雰囲気にある。「マイノリティ・リポート」はこの手法を積極的に取り込み、赤味の欠落した、冷たい、独特の画質になっている。

 DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見てみると、本編の平均ビットレートは6.59Mbpsと若干低め。しかし、本編の収録時間が146分と長いことを考えると、妥当な数値だろう。

 画質も悪くない。暗部の描写も潰れることは少なく、ガラスや金属の持つ光沢も良く再現していると思う。だが、前述したように、演出的な意図で映画全体がノイジーで、ざらついた質感になっているため、「高画質タイトルだ」と素直に言い切ることができない。この映画に関しては、画質についてどうこう言うよりも、この絵作りを「味わい」として楽しむべきだろう。

DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4でみた平均ビットレート

 独特の映像と同時に、音声の仕様も特徴的だ。まず、英語をドルビーデジタル5.1chとDTSの2種類で収録。ここまでは普通だが、なんと日本語吹替えを2種類も収めている。

 具体的には、主役のジョン・アンダートン役を堀内賢雄、アガサ役を根谷美智子が演じるバージョンと、須賀貴匡、水樹奈々が演じるバージョンの2種類を選択できる。堀内賢雄は、スターウォーズ(NTV)のハン・ソロや、トゥルーマンショーのジム・キャリーなど、洋画吹替え、アニメ声優の大ベテラン。根谷美智子もアニメをメインに活躍中で、「ベテランコンビ」と言ったところだろう。

 俳優の須賀貴匡は、'77年生まれの26歳。「仮面ライダー龍騎」で、主人公の龍騎こと城戸真司役を演じている。最近、戦隊物の俳優さんが子供達だけでなく、そのお母さん達にも大人気と聞くが、それも納得のルックスの持ち主だ。水樹奈々は、可愛らしい声とルックスで「全国のお兄ちゃん」に人気の声優。あちらがベテランなら、こちらは「若手バージョン」だ。

 どちらの演技が良いかというのは好みの問題だろう。筆者の感想としては、ベテランコンビのほうが落ち着いて観賞することができた。ただ、堀内賢雄の演じる主人公は、子供がいる父親として、また、大きな責任を背負うチーフとしての貫禄が見え隠れするのに対し、須賀貴匡の演じる主人公は、逆境にも負けない若さを感じさせる。「声が違うだけでここまで印象が変わるのか!」と、驚いてしまった。

 AVファンは「吹替えを2種類も入れたら画質に容量が割けないじゃないか」と考えてしまいがちだが、個人的にはこうした楽しい仕様も歓迎したい。なお、各音声のビットレートは、英語のドルビーデジタル5.1chが448kbps、DTSが768kbps。日本語はどちらもドルビーデジタル5.1chで、ビットレートも384kbpsと同じ。もちろん、ヒロインと主人公以外の吹替えキャストは両バージョン共通となっている。


■ 豊富な特典、リアルな未来を演出する小道具に注目

 映画の舞台は2054年。未来ではあるが、宇宙船が飛び交い、ビームを打ち合うような先の話ではない。未来的でありながら、我々の生活の延長線上にあるというリアリティも残すため、様々な小道具が登場している。

 例えば、網膜で個人を識別し、「やあ山田さん、おいしいビールが新発売されたんだけどどうだい?」などと話しかけてくる動画ポスターや、向こう側が透けて見えるガラス製(?)のPC用ディスプレイなど、将来登場しそうな機器が多くて、見ているだけで楽しい。

 未来の代名詞とも言えるホログラフィックな立体映像も登場するが、複数の小型プロジェクタで投影する必要があり、なおかつ、見ている人の方向からしか立体的に見えないなど、設定が細かく決められている。特典ディスクには、こうした小道具についての解説や、CGなどの特殊撮影の裏側などが豊富に収められており、見応え満点だ。

 特典ディスクの中でも「見所」として強調されているのが、プリコグが頭の中で予知した映像を、巨大な透明ディスプレイ上に表示させ、中身を解析するシーン。主人公は指にワイヤレスのポインティングデバイスを付け、まるで指揮者が音楽を奏でるように複数の動画ウインドウを操作していく。未来のPCの操作方法として非常に美しいのだが、冷静に考えると、単に動画を閲覧するだけであんなに身振り手振りをしていたら疲れてしまうのではと心配してしまった。

 もちろん、出演者や監督のインタビュー、製作過程のドキュメンタリーなども収録する。また、前述したフィルムノワールにスピルバーグ監督がこだわった理由や、彼の映画には珍しく、汚さや醜さ、冷たさを強調した作品に仕上げた理由なども語られている。


■ 観終わった後は存分に討論せよ!

 「トム・クルーズ」と「スピルバーグ」というビッグネームの印象ばかりが先行してしまう本作だが、映画の完成度もスケールに恥じない内容に仕上がっている。少々グロテスクなシーンがあり、小さな子供達には辛いかもしれないが、休日に家族で観る映画としてもお勧めしたい。

 また、「犯罪を犯す前に逮捕される世界は幸福か!?」、「未来は決まっていることなのか?」などなど、観終えた後で大いに語りたくなる作品だ。深夜に1人で観賞した私は、出来の悪い頭で延々とタイムパラドクスについて考えて頭痛がしてきたが、友人と一緒に鑑賞して討論するのも楽しいだろう。

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□20世紀フォックスのホームページ
http://www.foxjapan.com/
□映画「マイノリティ・リポート」の公式サイト
http://www.foxjapan.com/movies/minority/
□関連記事
【3月7日】20世紀FOX、DVD「マイノリティ・リポート 特別編」を5月23日に発売
―日本語吹替えを2バージョン収録し、期間限定の低価格2枚組み
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030307/20cfox.htm

(2003年5月27日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]



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