■ SUPERBIT増殖中、今度はメジャーアクション作にスポット 2002年11月発売の第1弾ラインナップから、徐々にタイトル数を増やしているソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)の国内版「SUPERBIT」シリーズ。日本語音声や吹き替え字幕、映像特典などを省き、空いたディスク容量を映像に回すことで「通常版の約2倍の平均ビットレート」(SPE)を図ったシリーズで、現在計15本が発売されている。 その中から今回は、5月21日発売の「ジュラシック・パーク」、「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」、「ジュラシック・パーク III」、「グラディエーター」の4本をチェックしてみた。 特に「ジュラシック・パーク III」と「グラディエーター」は、従来版でも画質・音質の両面で高い評価を得ている名盤。チェックディスクとして活用している方も多いだろう。そこで今回は、各ソフトを買い足す(または買い換える)必要はあるのか、従来版との画質・音質比較を中心にレビューしてみたい。
■ DTS音声が刺激的な「SUPERBIT ジュラシック・パーク」
従来版もそれなりに高画質なのだが、DVD市場の初期作品なので、階調性やノイズの押さえ込みの面で若干の不満があった。 DVD Bit Rate Viewerで確認した平均ビットレート(映像+音声)は、従来版が4.96Mbps、SUPERBIT版が7.9Mbps。グラフを見ると、全体的にすべてのシーケンスで2Mbpsほど上昇しているのがわかる。 確かに解像感が高まり、SUPERBIT版では髪の毛や草木の描写がシャープになった。黒側、白側ともに階調性が豊かで、特に白ピークが伸びた印象。暗部ノイズも少なくなり、ざらつきも目立たなくなっている。そのせいか、室内や夜のシーンはずいぶん高画質になった。暗いところまで良く見えるので、逆にジャングルのセットの荒さが目につくくらいだ。 音声は、日本語のドルビーデジタル5.1chと音声解説が省略され、英語のDTS(768kbps)、ドルビーデジタル(448kbps)を収録している。 DTSは従来版のドルビーデジタルを上回る臨場感を実現。全周囲から響くティラノサウルスの咆哮は、従来版では聴こえにくかった高音部がはっきりし、より生々しくなった。また、例の近づいてくる足音は適度にタイトになり、芯のある低音になっている。 従来版はディスク1枚の中に、本編(126分)のほか映像特典を収録していた。特典の中で最もサイズが大きいのは、約50分のメイキング(平均4.28Mbps)。うたい文句通り、SUPERBIT版に特典はない。メイキングを省くことで、かなりの容量を確保できただろう。 従来版と比べ、クオリティが明らかに向上したSUPERBIT版。100型スクリーンのプロジェクタ投影はもとより、32型程度の画面サイズでもその差ははっきりわかるほど。DTS音声の追加もうれしい。作品が好きなら、コレクションに買い足して損はないだろう。
■ 「SUPERBIT ロストワールド/ジュラシック・パーク」は暗いシーンが明快に
DVD Bit Rate Viewerで確認した平均ビットレート(映像+音声)は、従来版が4.94Mbps、SUPERBIT版が7.82Mbps。 このタイトルも、日本語音声や約53分のメイキングを削るなどして、本編全体の高ビットレート化を実現。特にストーリーが盛り上がる後半部については、大きく改善されている。アクションの見せ場が夜間シーンに多いため、高ビットレート化はうれしい。 その効果はてきめんで、暗部ノイズは明らかに減った。また、単色部のチラチラしたノイズも見受けられなくなっている。さらに、若干黒側を持ち上げているようで、シャドウ部も良く見えるようになった。輪郭もシャープになっている。 変化の傾向はSUPERBIT版の「ジュラシック・パーク」に近いが、その度合いはこちらの方が大きく感じる。32型程度の画面でも変化ははっきり確認できると思う。 音声は、ドルビーデジタル5.1ch(448kbps)に加え、従来版になかったDTS(768kbps)を追加。SUPERBIT版「ジュラシック・パーク」同様、臨場感がすばらしい。LFEも十分楽しめた。 何かと画質のアラが指摘されていた作品だけに、SUPERBIT化はうれしい限り。ただし、従来版にあったフィルムの傷などはそのまま残っている。せっかく新盤として発売するなら、そこまで気を配ってもらいたかった。
■ 画質に磨きがかかった「SUPERBIT ジュラシック・パーク III」
そのため、4,700円も出してSUPERBIT版を買い足すことに、正直なところかなりとまどった。仕様上の変更点は、約22分のメイキング(4.83Mbps)をはじめとした映像特典が削られたぐらい。映像に割けるビットレートは増えるものの、前2作ほどの向上は見込めないだろうと踏んでいた。 平均ビットレート(映像+音声)は、従来版が6.35Mbps、SUPERBIT版が8.71Mbps。画質は、背景ノイズが少なくなり、白ピークが若干高くなった。また、暗部が少し明るくなり、良く見ると階調が豊かになっている。色ノリもほんの少し良くなったようで、肌の赤みや木々の緑が濃くなった。オープンセットの奥行き感は、SUPERBIT版の方が上だ。 音声は、従来版とほとんど同じ。私には違いがわからなかった。相変わらずアクションの迫力と、微細な環境音が素晴らしい。従来版は、DTS-ESやドルビーデジタルEXによる最新のサラウンドアプローチを楽しめるということで、個人的にも評価している作品だ。 実際のところ、通常版との差はほとんど感じられなかったのだが、階調性などで微妙に高ビットレート化の恩恵が感じられる。大画面ユーザーで従来版を未購入なら、SUPERBIT版も一考して欲しい。大画面でなければ、従来版とSUPERBIT版のどちらでも高いクオリティが楽しめるだろう。なお、従来版でうっとおしく感じられたユニバーサルスタジオジャパンのCMも、SUPERBIT版では省略されている。
■ 最も悩んだ「SUPERBIT グラディエーター」。DTS-ESがなぜかDTSに……
従来版の音声は、英語がDTS-ES(768kbps)とドルビーデジタル5.1ch(448kbps)、日本語がドルビーデジタル5.1ch(384kbps)、音声解説がドルビーデジタル2ch(192kbps)。DTS-ESの包囲感は素晴らしく、リファレンスとして活用できるクオリティだ。 一方、SUPERBIT版はDTS(768kbps)とドルビーデジタル(5.1ch)に変更された。DTS-ESがDTSになった理由について、SPEでは「SUPERBIT版のオーサリングの際入手した素材がDTSだった」と説明している。 そのほかの違いは特典の有無だが、従来版の特典は本編ディスクとは別の特典ディスクにまとめられている。本編ディスクとSUPERBIT版の違いは、日本語音声と音声解説の省略、DTS-ES音声の変更程度。 以上の点から、ほかの作品に比べて、映像ビットレートの向上がさほど期待できないタイトルといえる。そのため、店頭では「ジュラシック・パーク III」以上に購入をためらってしまった。 購入後、DVD Bit Rate Viewerで確認してみると、ほとんどのシーケンスで従来版より低ビットレートなことが判明した。これは日本語5.1chや、音声解説がなくなったためと思われる。にしても、その分を少しでも映像に割くのがSUPERBITのコンセプトだと思うのだが……。 画質は微妙に変わっている。SUPERBIT版では黒側が急峻に落ち込み、黒が締まった印象だ。潰れているわけではなく、シャドウの階調性は保ったまま。白側も同じようにピークが少しだけ伸びており、その結果、コントラストが若干上がったように見える。また、黒がしっかりしたせいか、ただでさえシャープな輪郭がよりクッキリ見える。特に金属製の鎧や髪の毛、ひげなどがビシッと締まり、見ていて気持ちが良い。最近のエンコード技術が、従来版発売時よりも向上したためだろうか。 また、シーンによっては緑よりだった部分が、少し赤にシフトしたようだ。赤は朱から紅になり、彩度は高くなった。CGの描きこみも細かい部分まで再現しているように見える。 ただし従来版との差は、相当目を凝らしてやっとわかる程度。100型スクリーンなど、よほどの大画面でもない限り、クオリティの向上は体感できないかもしれない。 一方、音声は変化した。低音過多気味だったDTS-ESに対し、DTSではLFEがすっきりした印象。これまで、コロシアムの壁に戦車が激突する場面などは、その低音の激しさにいちいち飛び上がっていたのだが、SUPERBIT版は多少おとなしくなっている。とはいえ、LFEが出ていないわけではなく、芯はしっかりしている。また、低音強調が押さえられたせいか、従来版では聴こえにくかった音に気付くことが多かった。
■ まとめ 悩ましいのは従来版の未購入層。SUPERBITは特典が一切ないので、映画好きならそのあたりをどう考えるかがポイントになる。ユーザーによっては日本語音声の有無も重要だろう。 さらに7月18日からは、今回紹介した4タイトルすべてを含む「Big Buy スペシャルセレクション」が始まる。価格は1本2,500円。ディスクは従来版と同じもので(ただしグラディエーターは特典ディスクなし)、SUPERBITとの価格差は2,200円と大きい。 なお、今回取り上げた4本のSUPERBIT版は、日本サイドの意向から生まれた企画で、制作も含めて「日本発のSUPERBIT」になるという。日本市場に向けた国内専用のSUPERBITという位置付けだ。 いわれてみれば、これまで「グリーン・デスティニー」、「ガタカ」など、どちらかといえば通好みのタイトルがSUPERBIT化されているが、今回は日本でもヒットしたユニバーサル系の大作が目に付く。次の展開にも期待したい。
□SPEのホームページ (2003年6月3日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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