~ 国産DAWソフト「SOL2」を試す ~ |
「SOL2」。画面的には従来のバージョンとほとんど違いは感じられない |
SOL(ソール)はYAMAHAが開発したDAWソフト。株式会社インターネットの「Singer Song Writer」などを除くと、この種のソフトの多くは海外製のソフトとなっているため、ぜひ応援したい数少ない国産ソフトだが、これまでやや話題性に欠けていたという感じはする。
というのも「Cubase」や「Logic」、「Performer」、「SONAR」といったソフトのほとんどが、「プロが使う」というところを前面に打ち出し展開してきたのに対し、SOLは「初級者・中級者をターゲット」としてきたせいかもしれない。誰でも使える優しいソフトというところを訴えてきたわけだが、機能面を見ると、スペック的には差がなくなりつつあるようにも思える。
実際、前バージョンのSOLもASIOドライバに対応するとともに、DirectX 8でサポートされたDMO準拠のプラグインエフェクトに対応。また搭載されているミキサーも最高128チャンネルまで扱え、各チャンネルには、それぞれ4インサーションエフェクト/4エフェクトセンド/4AUXセンドが可能。さらに各エフェクトモジュールごとに4インサーションエフェクトを自由にアサインできるモジュール間センドも可能と、かなり自由度の高いものが搭載されていた。
ただ、海外勢のソフト比較して1つ劣っていたのはプラグイン側のソフトシンセに対応していないという点だった。S-YXG50というスタンドアロンのソフトシンセがバンドルされて、それを使うことは可能だったが、オーディオチャンネルとの同期がとれないため、実質上あまり使い物にならなかった。またプラグインエフェクトもDMOのみのサポートであり、広く普及しているVSTやDirectXに対応していないというのもネックだった。
今回のバージョンアップではこうしたプラグインへの対応がメインとなっているようだが、具体的にはどうなったのだろうか?
■ 新搭載のVSTプラグインをチェック
まず、SOL2を起動してみると、画面的には従来のバージョンとほとんど違いは感じられない。ミキサー画面も変わっていないし、各種MIDIシーケンス機能にも違いは見られない。また、従来からウリとしていたスライサーやタイムストレッチなども何も変わっていない。もちろん、WDMやASIOドライバなどが利用できるというのも従来と同様だ。
ミキサー画面 | 各種MIDIシーケンス機能にも違いは見られない | |
スライサー | タイムストレッチ | WDMやASIOに対応 |
では、何が変わったのか。その最大のポイントはVSTプラグインおよびVSTインストゥルメントが利用できるようになったということだろう。VSTプラグインとはSteinberg開発のプラグインエフェクトの規格であり、VSTインストゥルメントはくプラグインソフトシンセの規格だ。ともに実質上の業界標準であり、フリーウェアから市販のツールまで何でも利用可能となっている。
もちろん、単に対応しただけでなく、YAMAHAオリジナルのプラグインが計4つほど搭載されている。まず1つ目はソフトシンセである「S-YXG50 VST版」。これは読んで字のごとく、従来からあったソフトシンセのVST版である。これらVSTインストゥルメントの使い方はSONARのDXiプラグインの組み込み画面とよく似ているが、VSTのソフトシンセラックというものがあり、ここにVSTプラグインを組み込む。するとそのソフトシンセが利用できるようになり、それを各MIDIトラックの出力先として指定するという仕組みになっている。
S-YXG50 VST版 | ソフトシンセラック |
S-YXG50 VST版の設定画面も従来のものとほほ同じで、最大同時発音数を設定したり、エフェクト利用の有無を指定するくらいだ。もともとオールマイティーな音源ではあったが、プラグインで利用できないため、最近あまり使われなくなりつつあったが、これで少しは便利になりそうだ。
次はエフェクト3種。具体的には
というもので、Pitch FixとVocal Rackはボーカル用、Final Masterはマスタリング用となっているのだが、それぞれについて紹介しよう。
Pitch Fix |
まずPitch Fixはその名前からも想像できるように、ボーカルのピッチを補正するというもの。ただし、ピッチシフトとは、やや意味合いが違う。もちろん、全体の音程を少し上下させるということもできるし、フォルマントというパラメータがあるので、音質を保持しながらピッチを変更することも、ピッチはそのままに女性の声を男性風にしたり、その反対をすることも可能ではある。
しかし、面白いのは画面上の鍵盤で音階を指定したり、外部MIDIキーボードで弾いた和音やメロディーを元にピッチを補正できるというもの。たとえば、基本的にはうまくレコーディングできているのだが、数箇所ピッチがズレたところがあるといった場合、これを使うことで、うまく補正させることができる。特に外部MIDIキーボードから音程情報を送れるので、なかなか便利だ。
外部MIDIの設定 |
しかし、最初この外部MIDIの使い方がわからなくて困った。VSTプラグインのため、基本的にはオーディオデータを変換するもので、外部からのMIDI信号を受け取るものではない。実際いろいろ操作しても、うまくMIDI信号を受け取ることができず、ちょっと諦めかけていたのだが、MIDIトラックを見て、使い方に気づいた。
使い方は、MIDIトラックの出力先をPitch Fixに設定する。したがって、リアルタイムに外部のMIDI信号を受け取るのもいいが、トラックに正確な音程を書き込んで、それを元にボーカルのピッチを変更するという方法もとれるわけだ。
一方のVocal Rackはボーカル用のマルチエフェクト。中身としてはコンプレッサ、ハーモニックエンハンサー、3バンドEQ、ディエッサー、ノイズゲート、ディレイの計6つのエフェクトが組み合わさっている。また、ボーカルレコーディング用、ミックスダウン用などプリセットの用意されているから、いろいろと利用できる。
Final Masterは、完全にマスタリング用のエフェクトであり、種類としてはマルチバンドコンプだ。画面を見ると3つのコンプレッサのグラフが表示されているが、それぞれのThreshold、Ratioなどを調整することで、かなりいろいろな音作りができる。また、これも予めプリセットが用意されているので、それらを使ってみるのも参考になりそうだ。
Vocal Rack | Final Master |
■ O1XモードでmLANにも対応?
以上が、主な機能強化ポイントであるが、これら機能以外に、ユーザーインターフェイスという面で強化された面がある。その大きなものがやはりエフェクト。SOL2にはDMOともVSTとも違う、独自のプラグイン形式によるエフェクトが多数収録されているが、それらが従来の簡素な画面からグラフィカルな画面になった。性能自体は変わっていないようだが、これによってだいぶ使いやすいものになった。
ユーザーインターフェイスも大幅に変更された |
そのほかにもスタッフ/ピアノロール/ドラムの各ウィンドウで、鉛筆ツールでもMIDIノートの移動や音程・音長の変更が可能になったり、リストウィンドでは1個の入力ボックスから小節/拍/クロックを指定できるようになるなど、細かな修正はいろいろと加えられている。
O1Xモード |
ところで、いろいろとチェックしていた中、リモートコントロールの設定の中に、プレスリリースなどにも記述がなかったが「O1Xモード」なるもの見つけた。
O1Xというのは、まだ正式には発表されていないもので、3月にドイツのフランクフルトで開催された楽器ショーmusikmesse2003で参考出品された製品の名前だ。噂によると間もなく国内でも正式発表されるとのことだが、これはmLANに対応したDAWコントローラ。機能的にもだいぶ垢抜けてきたSOL2だが、このO1Xとのコンビネーションが可能になってくると、ハイエンドユーザーへの訴求力も高まりそうである。
□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□製品情報
http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/soft/sol2/index.html
□関連記事
【2001年12月10日】【DAL】YAMAHAの新MIDI&オーディオ・シーケンス・ソフト
~「SOL(ソール)」を試してみる~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011210/dal38.htm
(2003年6月23日)
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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