■ レコード、どうする? CDが世に出る前から音楽を聴いていた人、すなわち30代後半以上の音楽ファンにとって共通する思いは、手持ちのLPレコードをどうしたもんか、というところなんじゃないだろうか。筆者もそれは同じで、処分したりまた中古屋で安く買ってきたりと増減を繰り返しながら、手元にはだいたい150枚ぐらいのLPレコードがある。 最近は真空管アンプを作ったりして、気持ち的にもだんだんアナログに戻ってきたりしているわけだが、LPの音というのもまたいいものだ。しかしレコードというのは、再生メディアとして考えると、扱いが面倒なのもまた事実。聴く前に盤面とスタイラスを掃除することに始まって、約20分ごとに盤面ひっくり返さなきゃいけない。 昔はこれが当たり前だったわけだが、CDになりMP3になりしていくうち、しだいに音楽ってのはメンテナンスフリーで連続再生して当たり前になった。アームの上げ下げがいいんだというアナログファンの気持ちもわからなくもないが、一度ラクをしてしまうとなぁ。 LPレコードの音楽をもっと聴きやすくするために、PCに録音してCD化している人もいることだろう。これも確かにうまい手だが、もっと上があることを知ってしまったら、そこへ行っときたいのが人情である。 そのCDのもうちょっと上の存在として現実的なのは、DVDオーディオだろう。サンプリング周波数48/96/192kHz、量子化bit数16/20/24という特徴を持ち、制作は普通の書き込み型DVDドライブで可能だ。そこで、今回はパソコンを使ったお手軽なDVDオーディオ作成に挑戦してみよう。
■ 入門用デバイス「UA-3FX」 まず用意するのは、レコーディングするためのデバイス。サウンドカードの入力にアンプのRecOutを突っ込むという手段はお手軽ではあるが、PC内のノイズ混入を嫌うのであれば、外付けBoxの録音機器が望ましい。 USB接続の録音機器は、安いものなら1万円弱で買える。しかしそれらはだいたい16bitでしか録音できない。そこでローランドのPC系ブランド、EDIROLから7月25日発売になる「UA-3FX」をお借りすることにした。
UA-3FXは、数年前から販売されていたUA-3シリーズの最新モデルで、ホームレコーディング用途を見越して新たに24bitに対応した。価格は17,000円前後と、16bit機に比べれば多少値は張る。Windows XPの標準ドライバはもともと24bitまで対応しているのだが、標準ドライバで動作する24bitデバイスとしては世界初の製品となる。USBバスパワーだけで動作するので、手軽に使えるのが特徴だ。 また標準ドライバが嫌いな人には、スイッチを切り替えることでWDM、ASIO 2.0のようなドライバでも動作する。聞くところによると、標準ドライバだとWindowsミキサーを通ってしまうので、そこで音が悪くなるらしい。こだわるなら、拡張ドライバを使うADVANCEDドライバモードに切り替えてもいいだろう。
残念なのは、サポートするサンプリング周波数がDVDオーディオでよく使われる96kHzに対応しておらず、48kHz止まりなことだ。これをやるには、もうワンランク上の「UA-5」が必要になる。せっかくASIOにも対応しているのに、惜しい。 本体は長年同じデザインで通しているだけあって、操作性はこなれている。ギター/マイク用の入力とライン入力のレベル調整はフェーダースタイルになっているあたり、音楽制作ツールっぽい雰囲気を残している。 24bit ADコンバータが2基搭載し、入力レベルの大きいところと小さいところでそれぞれのコンバータが別々に待機しており、低レベルなところでの解像度が落ちないように配慮されている。このあたりはギターエフェクタなどでお馴染みのブランド、「BOSS」の技術だという。 さらにこの2つのコンバータをなめらかに切り替えるために、32bit DSPを搭載している。だが単に振り分けるだけでDSPを搭載するのももったいないってことで、UA-3FXにはエフェクタも装備されている。 全部で12種類のエフェクトがあり、同時に4種類を使うことができる。この4種類のセットは、本体左のスイッチで切り替える。なおエフェクトの表示部は基本的には英語表記だが、わかりやすいように日本語のパネルシートも付属する。エフェクトの種類と組み合わせは日本語表記で見て頂こう。
これらのエフェクトは、レコーディングの際にプリプロセスとしてかけることもできるし、レコーディング後にPCからの再生音にもかけることもできる。
■ エフェクトは派手だが、素性は素直
設定としては簡単にできるということで、標準ドライバを使うことにした。サンプリング周波数は当然最高の48kHzを使用する。プリアンプからの出力をUA-3FXに入力して、ヘッドフォンでモニタしてみた。 こういうLPからの録音作業では、マスタリング用のエフェクトを使うことになるだろう。まず「ノイズを取る」では、ヒスノイズ系のリダクションが可能だ。ただあんまりかけすぎると高音部のウマいところがなくなっちゃうので、適度なところで止めておくほうがいいだろう。筆者の感じでは、ツマミの半分以上回しちゃうとかけすぎになるようだ。 「音をシャープに」は、音の輪郭が固くなるようなエフェクトだ。単純に高音を強調しているわけではないようで、ソースやカートリッジの特性によっては有効かもしれない。「音圧を上げる」は、ダイナミックレンジに対するリミッタである。せっかく24bitで録るわけだから、通常はあまり使うことはないだろう。 レコーディング用とはいえ、基本的にはクリエイティブ系のツールなので、エフェクトは原音を壊すぐらいまで大きくかけられるようになっている。オーディオ的に使うなら、一発勝負のレコーディング時には全く使わないか、最低限の使用に止めておくべきだ。
音質に関しては、評価するのが難しい。というのは、こういう製品は使ったから音が良くなった、というようなものではなく、基本はあくまで入力の信号が正しくアウトプットされるかが重要だからである。したがって入力した音が変わらないという点では、UA-3FXはコンバータとして素直な特性を持っていると言えるだろう。
■ DVDオーディオのプラットフォーム
先月DigiOnAudio2にバージョンアップしたのをきっかけに、改めてこのソフトを使ってみたところ、その認識は間違っていることに気が付いた。実はこのソフト、ベースにあるのはMusicMatchみたいなジュークボックスソフトだったのである。つまりDVDオーディオとか作るときだけに立ち上げるようなものではなく、CDからのリッピングからPC内にある音楽ファイルの管理、そしてメディア書き込みまでこれ1本でOKというソフトなのだ。
PC内の音楽ファイルをインポートしてみたところ、ファイル管理の操作性は、MusicMatchと似たような感じだ。左側にアーティストのリストがあり、そこをクリックすると曲の詳細が右側に表示される。ただ画面全体になんというか、面白みが足りない。別にスキンなどはいらないが、せめてエリアごとに色が分かれるとかの楽しげな感じがもうちょっとほしいところだ。
気になる点もいくつかある。マークで分割したところは、レベルなど当然別々に決められるべきだと思うのだが、なぜかマーカーで分割した先頭のレベルが、ほかの分割エリアのレベルにまで影響している。そもそもこういう仕様なのかバグなのか、よくわからない。 また波形を拡大表示しているときに、フェードアウトの指定をマウスでやろうとすると、クリックした瞬間、曲の先頭に勝手にジャンプしてしまう。拡大表示じゃないときにはそのような現象は起こらないので、マーカーで区切られた範囲をセンターに持ってくる機能が、拡大表示時に誤動作しているのではないかと思われるのだが……。 デジオンのソフトって、ユーザーに良かれと思っていろいろ機能を実装してくれるのだが、それがかえってわけのわからねえアクションになることが多い。それを筆者は勝手に「デジオン魂」と呼んでいるのだが、ここでもデジオン魂大炸裂である。基本的に悪い人たちじゃないってのは伝わってるんだけど、みんなが幸せになれる方向はないもんかなぁ。
DigiOnAudio2にもノイズリダクションなどの機能があるので、使ってみよう。ヒスノイズ、クラックルノイズ、ハムノイズの3つがある。ヒスノイズは主にテープヒスをカットするときに使うものだ。試しにかけてみると、一番弱くしても原音に影響がでるほどにガシガシかかる。今回はソースがLPなので、使う必要はないだろう。 クラックルノイズは、めいっぱいかけても原音を壊さずに効いてくれる。細かいチリノイズはかなり綺麗に取れるものの、全体として効きがおとなしいので、大きめのプチ音は取りきれない。
ハムノイズは電源からの回り込みノイズをカットするものだ。これもヒスノイズと同じく効きが激しく、かなり原音に影響が出る。これを使うよりも、ちゃんとアース落とすなどの処置をしたほうがいいだろう。
■ ライティングは簡単 曲を分割して書き出したら、次はライティングである。AUDIO WRITINGボタンを押すと、ライティングモードになる。画面上の3つのメディアボタンからDVDオーディオを選択する。アナログソースの録音では、CDDBなどのデータベースが機能しない。したがってアナログのソースは、(Blank)というアーティスト名のところに集まっている。
書き込みたいトラックを右側のエリアにドラッグすれば、書き込みリストとして登録される。ここでも波形表示が可能で、フェードイン・アウトができる。面白いのは、曲の波形を掴んで前の方にドラッグすると、勝手にクロスフェードになる機能だ。今回は使わないが、曲間に間がなく延々と曲が繋がっていくようなディスクも作れる。BGMなんかで曲を流したいときなどには便利だろう。
DVDオーディオとはいえ、一応メニューが出せる。レコーディングボタンを押すと、オーサリングツールが起動して、簡易的だがメニューのテンプレートなどが選択できるようになっている。メニューを作ったのち、WRITEボタンを押すと、書き込みが始まる。DVDのオーサリングをやったことがある人ならば、作業は簡単だろう。
■ 総論
DVDオーディオは、プレーヤーさえあれば、アナログの持つ特性(ダイナミックレンジ方向と周波数特性方向)をそのままをパッケージングして手軽に再生できる、便利な方法だ。 だが、本当にその潜在的なクオリティを出そうと思ったら、まだもうちょっとタイヘンかな、という印象を持った。UA-3FXは入門デバイスとしては手頃だが、DVDオーディオのメリットである96kHzサンプリングができないからである。DigiOnAudio2自体は24bit/96kHzまで対応しているので、もしこれ以上やるのであれば、まずはレコーディングデバイスの見直しからやることになるだろう。 逆に言えば、サンプリング周波数が48kHz止まりであれば、DVDオーディオにするメリットは、実を言うとあまりない。むしろそれよりも、DVDビデオフォーマットとしてオーディオを書き込む方法、いわゆる「DVD music」のような形式の方が、再生はしやすいだろう。普通のDVDプレーヤーで再生できるので、DVDカーナビとかでも再生できるからだ。 ノイズリダクションに関してだが、DigiOnAudio2のクラックルノイズリダクションは割といいとは思う。しかしヒスノイズやターンテーブルのゴロノイズなどトータルな評価としては、SteinbergのCLEANの方が上だろう。ただしCLEANは24bitのWAVファイルに対応していないので、痛し痒しである。 DVDオーディオは、販売メディアとしてはなかなか火がつかない状況ではあるが、自分で簡単に作れるようになると、またそれはそれで面白いことになりそうだ。基本的には非圧縮のPCMファイルを扱っていくので、映像に比べれば圧縮などの面倒な作業もなく、考え方として非常にストレートだ。DVDオーディオではまだCD-Rの時のように、メディアの種類で音質が違うなどと言われてるようなレベルまで来ていないが、そのうち専用メディアなどが流行るようになるぐらいまで盛り上がってくれば、さらに面白いかもしれない。
今回の実験で、自作DVDオーディオはやっとその入り口が見えてきたところかな、といった感じだ。これからいろんなハードやソフトが24bit/96kHz当たり前の世界になってくると、DVDソリューションもまた違った展開が見えてくるだろう。開発側にとっては課題は大きいだろうが、ぜひとも頑張っていただきたい。
(2003年7月23日)
[Reported by 小寺信良]
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