【バックナンバーインデックス】



“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第119回:メディアサーバーではなく、メディアクライアント?
~逆転の発想から攻めるバーテックスリンク「MediaWiz」~


■ そろそろ発売か

 テレビや音楽の視聴スタイルは、PCとの組み合わせでまさに日進月歩のイキオイで進化している。米国では「Media Center PC」に象徴され、動きが一本化されている感じだが、AV機器とPCは日本のお家芸みたいなところがある。したがってAVとPCの組み合わせは、まさに雨後の竹の子のようにいろんな方向からどんどん頭を出し始めているわけだ。

 1つの家庭にそうそういろんな方式が並行して走ってたまるもんかという思いはあるが、こうやって活気のある状況というのは、実に楽しいものである。今までElectric Zooma! でもネットワークなりメディアなりを使った新しい試聴スタイルは大抵追っかけきたわけだが、それらをつらつらと眺めると、どうもサーバー側からのアプローチが多いようだ。

 つまりVAIOなりAX10なりがあって、そこに番組を溜めましょう、見るのは汎用PCでいいんですよ、といった考え方だ。ある意味即物的であるとも言える。しかしここに来て、全く逆からのアプローチが行なわれようとしている。すなわちクライアント側がコレです、サーバーはこれで見られるようなヤツをなんか適当に用意してください、という方向だ。

 それがバーテックスリンクから8月上旬発売予定の「MediaWiz」なのである。小型ノートPCぐらいの本体をLANに繋ぎ、サーバーソフトをインストールしたPC内にあるコンテンツ、すなわち録りためた番組や音楽、デジカメで撮った写真などを離れたところから見ちゃおう、という製品である。サーバーとなるPCはなんでもいいなんてことになると、相当幅広い再生互換が必要になってくる。だがMediaWizのスペックを見れば、たいていの人は納得するだろう。

 ビデオではMPEG-1、MPEG-2、MPEG-4、DivX、XviD、MOV、AVI。オーディオではMPEG-1 Layer1/2、MP3、OggVorbis、AC3。静止画ではJPEG、BMP、GIF、アニメーションGIF、PNG。これだけ再生できれば、まず困らないだろう。特にDivXは最近にわかに注目が集まっていることもあり、これがリモートで再生できる機能はほかにない。

 初期ロットはかなり品薄で、アキバではまさに血で血を洗う争奪戦が繰り広げられるともっぱらのウワサのMediaWiz。今回はほぼ量産型の試作機をお借りすることができた。いったいどんなものなのか、実際に使ってみよう。


■ 外見は徹底的にシンプル

 先ほど小型ノートPC程度と書いたMediaWizの本体だが、実寸は258×175×38mm(幅×奥行き×高さ)。CATVのセットトップボックスをやや小ぶりにしたようなサイズだ。シルバーのボディパネルはマット地の塗装で、見た目は邪魔にならず落ち着いた感じ。正面は電源やネットワーク関係の表示LEDがあるだけで、ボタン類は全くなく、すべての操作はリモコンで行なう。

外見はすごくシンプル 右下にさりげなくREAL Magicのロゴ 背面端子はかなり豊富(USB端子は製品版では省かれる)

 肝心の背面に回ってみよう。テレビ用の映像出力はコンポーネント、S映像、コンポジットがある。ユニークなのは、液晶モニタ用のDVI端子があるところだ。繋ぐ相手は液晶テレビやプラズマテレビ、PC用のモニタでもいいだろう。試しに筆者手持ちのPC用液晶モニタに繋いでみたが、ちゃんと出力された。出力モードとフォーマットは表でまとめておく。

出力モード フォーマット(解像度)
コンポーネント NTSC、PAL
S-Video NTSC、PAL
コンポジット NTSC、PAL
HDTV 480p/720p/1080i
DVI 480p/720p/1080i
640×480/800×600/1,024×768/825×480ドット

 HDサイズがあってもソースがねえよ、と思われるかもしれない。しかしMediaWizに内蔵されているSigma DesignsのハードウェアMPEGデコーダチップ「EM855x」は、SDのソースをHDサイズへアップコンバートする機能も持っている。HDTV対応テレビに接続した際に、ソースはSDながらもHDで見られるわけだ。

 オーディオはRCAステレオと光デジタル、同軸デジタルが各1系統ずつ。これも十分だ。そのほか10/100BASEのネットワーク端子がある。電源はACアダプタだ。なお写真ではUSBポートがあるが、製品版ではなくなるとのこと。

ボタンが多いカード型リモコン
 また左サイドには、PCカードスロットが1つある。これは11bの無線LANカードを挿すためのものだ。マニュアルによると3Com、Corega、アイ・オー・データ、LINKSYS、メルコ、PLANEXといったメーカー製の特定機種が使えるようになっている。

 そだそだ、忘れずにリモコンも見ておこう。フィルムボタンを採用したリモコンは、板状で薄型のもの。ボタン類はすべて同じ大きさで均等に配列されており、印刷だけで機能を見分けていく必要がある。

 ボタン類は文字による説明は少なく、ほとんどがアイコン化されている。またMediaWizではWebブラウジングまでできてしまうので、ケータイのようにテンキーで文字入力までできるのは1つの特徴だろう。


■ ルータがあれば設定はカンタン

 MediaWizには、PCにインストールするサーバーソフト「MediaWiz Server」が付属している。設定で映画、音楽、写真用のフォルダを指定してやると、そこにあるコンテンツをMediaWizで自由に見られるという仕組みだ。もちろん下位フォルダにも下がっていける。

MediaWizからのアクセスをサポートするMediaWiz Server それぞれのジャンルでコンテンツのフォルダを指定する 写真ディレクトリに対して曲が入ったフォルダを割り付けることが可能

 写真と音楽は、お互いに連携している。つまり音楽を聴くときのBGVとして写真が入ったフォルダを指定できるし、反対に写真をスライドショーにして見るときに、BGMとして特定の音楽が入ったフォルダを指定できる。最初からちゃんと使用シーンがよく練られている。これらの設定は、サーバーソフト側からしか設定できないが、あらかじめ仕込んでおけばいいだけの話だ。すなわち「見る」のではなく、「見せる」ことを重視しているとも言える。

 ではMediaWizを起動してみよう。DHCP対応なので、ルータがあればネットワーク系の設定は全く必要ない。サーバーソフトを立ち上げているだけで、勝手にそれを見つけて登録してくれる。また手動でも登録することができる。いろんなPCにサーバーソフトを入れておいて、MediaWizで一元的に試聴するというのもアリだ。

サーバーが1つも起動していないと、このような表示が出る サーバーが起動すると、自動的に認識する 起動状態を設定する「オプション設定」

 まあ電源ポンで終わりってのも寂しいので、一応設定を覗いてみよう。オプションはMediaWizの起動状態を決めるところだ。モニタ解像度などはテンポラリ的にも変えられるのだが、ここで設定しておけばいつもそのモードで起動する。

 以下、IP構成は手動でIPアドレスなどを設定するときに使う。WiFi設定は無線LANの設定だ。これは暗号化などの設定が必要になるだろう。タイムゾーンの設定は、今のところ特に何かの役に立つわけではないが、一応勝手に時間を合わせてくれる。


■ 操作はかなりわかりやすい

 では実際にコンテンツにアクセスしてみよう。サーバーを選んでEnterボタンを押すと、4つのメディアが選択できる。ここでは十字キーでターゲットを動かしてEnterでもいいが、アイコンにある数字を入力してもいい。数字入力のほうがステップが少ないので、簡単だろう。

 またリモコンに独特のショートカットキーがある。一番下のボタンは早送りなどに使うボタンだが、再生中以外のときにこの4色に塗り分けられたボタンを押すと、映画、音楽、写真、Webそれぞれへダイレクトにジャンプできる。

サーバーにログインすると、4つの選択肢が出る 指定フォルダ内の動画ファイルが一覧で表示される

 まず「映画」だが、サーバーソフトで指定したフォルダ内の再生できそうなファイルが全部表示される。これも十字キーでターゲットを選ぶか、数字入力すると再生が始まる。筆者は録画した番組のDivXファイルを沢山持っているが、これらも問題なく再生できた。

プロファイルを使ってエンコードするのが安全
 ただしDivXの設定で、「Use Quater Pixel」と「Use GMC」のチェックを外してエンコードしたものに限る。これはSigma Designsのデコーダチップが、これらの機能に対応していないためだ。筆者は以前DivXのデコーダカード「XCARD」を使っていたことがあって、これの再生条件もそうだったので、以前からこの制限のことは知っていた。もっともプロファイルを指定してエンコードした場合は、この両機能は最初から使えなくなっているので、それほど心配することもないだろう。

 面白いのは早送りや巻き戻しがフレキシブルにできる点だ。再生中に早送りボタンを押すと、数秒間ファイル全体をスキャンする。この間に早送り用のデータを作っているのである。一度データが作られると、それからX1からX4までの速度で早送りや巻き戻しができるようになる。ただしこのX1というのは等倍速という意味ではなく、なんらかの倍速の単位であるらしい。

 続いて音楽。CDをMP3化している人は、大抵アーティスト名やアルバム名でフォルダを作っていることと思う。ここではそのフォルダがそのまま見えるだけ、といった感じで、別にプレイリストなどがあるわけではない。曲を再生するには、その曲のファイルが入っているフォルダまで移動する必要がある

フォルダだけしかないディレクトリは再生できない 曲が入っているフォルダまで降りると、再生できる デフォルトの再生画面は少しずつ変化する

 筆者としてはアーティストをチョイスして音楽を聴く、というスタイルなので、プレイリストの必然性は余り感じたことがないのだが、例えば「任意再生」(ランダムプレイのことだ)にした場合、いちいち曲が入っているフォルダまで入って行かなくても、勝手にサブフォルダまで行なって曲を再生してくれると良かっただろう。そうすればジュークボックス的に使えるからだ。

 次は写真。これも音楽と同様、画像が入っているフォルダが表示されるので、そこまで行なってスライドショーで見るというのが一般的だろう。しかしこれは音楽と違って、ルートで「スライドショー」を選択すると、勝手にサブフォルダまで入っていって順番に表示してくれる。こういう機能は、特定のものを見たがる写真よりも、何がかかってもいいということになりがちな音楽の方に実装すべき機能だろう。

ディレクトリごとにサムネイルが表示される 1枚ずつでも表示できるが、スライドショーが便利だ

 4番目はWebだ。リモコンでURLを入力するのは大変だと思うが(ケータイ世代はそんなことないのかな)、これはサーバー側にある「お気に入り」ブックマークを流用することができる。PC側で設定したブックマークはすぐにMediaWiz側に反映されるので、普段よく行ってるサイトへアクセスするのは簡単だ。

「お気に入り」を読み込んで表示できる プログレッシブ表示のモニタなら普通に字も読める

 またWebの機能で、インターネットラジオが聴けるのはなかなか気が利いている。ただ新しいサイトの登録はできないようだ。


■ 総論

 具体的な対抗製品としては、SONYのルームリンクがある。しかしこれがはあくまでもVAIO本体との組み合わせで使うという縛りがあるし、対応コーデック数も絞り込まれている。誰でも使えるという意味ではこういう囲い込みは重要だが、ちょっとわかっている人には簡単過ぎて物足りない感じがするのも事実である。

 その点MediaWizは、後発の強みを生かして多彩なフォーマットに対応し、音楽と写真をフレキシブルに組み合わせて見せたり、Webブラウジングといった機能があったりと、値段(直販価格22,800円)の割には非常に多機能だ。また視聴環境も幅広く取れるというのもいい。

 使い方としては、リビングの大型テレビやオーディオセットと組み合わせて使う、というのが王道だろうか。だが筆者としては、ベッドルームに置いたらいいだろうな、と思う。小さめの液晶テレビと、コンパクトだがそこそこの音が出るスピーカーを置いて、寝る前にちょっと番組を見たり音楽を聴きながら本を読んだり、といったことができる。

 そう考えていくと、コンテンツビジネスツールとしてもかなり使えるのではないだろうか。例えば旅館やホテル、あるいは病院なんかに置いてあるテレビは、まあとりあえずテレビぐらい見せときゃ文句はねえだろ的ヤル気なしサービスの象徴であった。しかしこれにMediaWizを組み合わせれば、かなり積極的なサービスが実現できるだろう。またレンタルショップやなんかがローカルエリアでVODを始めるとかのビジネスチャンスも、これで生まれてくるかもしれない。

 MediaWizは、個人で使っても便利だし、ビジネスツールとしても面白いという、いろんな意味でツブシの利くデバイスなのだ。


□バーテックスリンクのホームページ
http://www.vertexlink.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.vertexlink.co.jp/press2003061901.html
□製品情報
http://www.vertexlink.co.jp/product/vertexlink/mediawiz/
□関連記事
【6月19日】バーテックス、MPEG/DivX/XvidをTV視聴できる「MediaWiz」
-LAN経由でPC内のファイルを再生。1080i出力も可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030619/vertex.htm

(2003年7月30日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved.