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第114回:Cubeseシリーズの入門者向けパッケージ
~コストパフォーマンスの高い「Studio Case」~


 DAW(Digital Audio Workstation)ソフトとして高い人気を誇るSteinbergの「Cubase SX」。その下位バージョンである「Cubase SE」に、ソフトウェアサンプラー「HALion SE」、リアルなバッキングギターサウンドを簡単に作り出す「Virtual Guitarist Electric Edition SE」など、VSTインストゥルメントのプラグインソフトシンセ計5種類を同梱した「Studio Case」が9月27日に国内で発売される。

 今回は、店頭価格が45,000円というお手ごろ価格のこのパッケージを実際に試した。


■ 「Cubasis」ではなく「Cubase SE」が付属

 Cubaseは独Steinbergが開発したソフトで、10年以上の歴史がある。古くはATARI用のMIDIシーケンスソフトとして登場し、その後Macintoshに移植され大ヒットとなり、さらにWindowsにも移植。「Cubase VST」、現行の「Cubase SX」として進化してきた。Cubase SXはWindows XP/2000およびMac OS Xに対応し、プロミュージシャンからアマチュアまで幅広いユーザーに支持されている。筆者自身もCubase SXを活用しているが、今回新たなラインナップ「Studio Case」が追加された。

 Windows XP/2000、Mac OS Xのハイブリッド対応で、Cubase SEというCubase SXの下位バージョンが含まれている。ちなみに、Cubase SXには下位バージョンとして「Cubase SL」というソフトもある。価格はいずれもオープン価格だが、店頭価格はSXが9万円前後、SLが5万円前後。価格差がある割には機能差が少ないということもあり、最近ではSLがかなり売れているようだ。

 今回登場したCubase SEはSLのさらに下のバージョンということになる。デザイン、ユーザーインターフェイスはSXやSLと完全に同じで、実際に立ち上げて使ってみても、Cubase SXとの違いをまったく感じない。もちろん日本語にも対応しているので、メニュー構造なども同じだ。

Studio Caseの中心となる「Cubase SE」

 現在、Cubase SEは単独で発売されていない。Cubase SXの前身であるCubase VSTには、エントリー版として「Cubasis VST」というものがあった。今回のCubase SEがCubasis VSTの後継になるのかというと、どうもそうではないようだ。エントリー版もしくは他社製品へのバンドルソフトとしての「Cubasis VST 4.0」は現状でも存続しており、先日発売されたCreativeの「Sound Blaster Audigy 2 ZS」にもバンドルされている。

 また、Cubase SEがCubasis VSTのような位置付けにならない理由としてドングルの問題もある。コピープロテクト制限なしのCubasis VSTに対し、Cubase SEではUSB接続タイプのドングルが付属している。ドングル付きということからも想像できるとおり、機能・性能ともにCubase VSTよりも上といって間違いないだろう(一部同期機能などで劣る部分はある)。


■ 一部を除き上位ソフトと遜色ない機能

 気になるのはCubase SXやSLと比較してどの程度の機能差となっているかということだろう。これについてはSteinberg Japanサイトに機能比較表(PDF形式)として掲載されているので参考にしてほしい。

 これによると、機能的にはCubase SLとかなり近いが、大きな違いとしては、外部の機器との同期機能がほとんどないということだろう。しかし、外部と同期できないとはいっても、MTCやMMCが使えないだけで、同じCubase SX/SL/SE同士を接続するVST System Linkは装備している。この場合の同期は問題ない。また、ReWire2.0にも対応しているので、1台のマシンの内部で同期させる分には心配いらない。

□Cubase SX/SL/SE 機能比較表(PDF形式)
http://www.japan.steinberg.net/products/studiocase/PDF/CubaseSE_Chart.pdf

 しばらく使ってみたが、通常の利用であれば、Cubase SXと比較しても遜色ないといっていいだろう。Cubase SX/SL自慢の無制限アンドゥ/リドゥが10回までという制限があるところは残念に思うが、普通は10回分も覚えていてくれれば十分すぎるほど。譜面機能が必須の場合、厳しい面もあるが、普通のユーザーであれば、これでまったく不足を感じないのではないだろうか。

 機能比較表から、もう1つ気になるのがプラグインの部分だろう。エフェクトに関してはCubase SXが50種類、SLとSEが48種類とほとんど違いはない。ただし、ソフトシンセに関してはまったく違う内容になっている。Cubase SXとSLでは「A-1」、「LM7」、「LM9」、「VB-1」、「NEON」、「JX16」、「CS-40」という定番が入っているが、Cubase SEではこれらの代わりに次の5種類が入っている。

  • HALion SE
  • The Grand SE
  • GrooveAgent SE
  • Virtual Guitarist Electric Edition SE
  • D'Cota SE
 まず、A-1、LM7などSX、SLの7種類が付属していないことに関しては、まったく気にすることはないだろう。確かに、A-1などはちょっと使えるアナログ系のソフトシンセだし、VB-1なども便利なベースシンセであるが、いずれもオマケソフトに過ぎない。またもし、Sound Blaster Audigyシリーズなどを持っていれば、バンドルされているCubasis VSTにも、VB-1やNEONなどは同梱されている。

 それに対してHALion SEほか5種類のソフトシンセは、Steinbergが発売している人気のVSTインストゥルメントの機能限定版だ。

 まずHALion SEはソフトサンプラーとして人気の高い「HALion 2.0」の機能削減版。単体でのループポイントの設定ができなかったり、マルチティンバー数がHALion 2.0の16音になのに対し4音に削減されているものの、プレイバックサンプラーとしてみるとかなり使える音源だ。CONTENT CDにはギター、キーボード、ストリングス、ドラム……とサンプリングデータが数多く入っているのもポイント。またSoundFontの読み込みにも対応しているので、Web上などにあるさまざまなデータを利用することも可能。

HALion SE The Grand SE

 The Grand SEはピアノ音源「The Grand」の機能削減版。The Grandでは膨大なサンプリングデータをハードディスクストリーミングという方法で再生するのが売りだったが、こちらのデータ規模はもう少し小さい。また、最大同時プレイバック数が16ノートと少な目なので、本格的なピアノ演奏用にはやや物足りない面もある。しかし、音を聞いてみると、かなり迫力ある生ピアノの音で、結構使えそうだ。

 GrooveAgent SEもやはりGrooveAgentの機能削減版。これはドラム音源なのだが、一般のドラム音源とはちょっと異なる面白いコンセプトのものだ。POP、BREAKBEAT、HOUSEなど11のスタイル、13のパターンが用意され、それらを指定するだけでそれらしいリズムが鳴るというお手軽音源。これを利用すれば、ドラムの入力に慣れていない人でも簡単にそれらしきものを作り出せる。なお単体で市販されているGrooveAgentは54スタイル、25パターンを有し、各サンプルのカスタマイズができたり、MIDI書き出しなどに対応している。

 同様のお手軽音源としては、Virtual Guitarist Electric Edition SEもかなり面白い。これもやはりVirtual Guitarist Electric Editionの機能限定版なのだが、コードを指定するだけで自動的にギターのバッキングを行なってくれる。こうしたバッキングはアルペジエーターでも可能だが、このプラグインを使うとかなりリアルなニュアンスが得られる。打ち込みではここまでリアルな入力は難しい。

GrooveAgent SE Virtual Guitarist Electric Edition SE D'Cota SE

 5つ目のD'Cota SEは、減算シンセシスAnalog、スペクトラムシンセシスSpectrum、コームフィルターシンセシスWaveの3種類のシンセシスを搭載した音色合成タイプのシンセサイザ。モジュレーションルーティングやコントロールナンバーの割り当てなどの一風変わった設定方法を採用し、簡単に音を作ることができる。逆にシンセに詳しい人にはとっつきづらい面もあるが、なかなか強力な音源だ。


■ コストパフォーマンスの高さが魅力。予約割引も

 以上、ごく簡単にStudio Caseに関して紹介したが、これはかなり使えるパッケージだ。Cubase SX/SLの購入を検討しているユーザーなら、ぜひチェックする価値はあるだろう。エントリーユーザーなら機能不足を感じることはまずないほどの充実ぶりだ。機能が多彩なので、限界を感じることもないだろう。これだけのソフトが1パッケージ化されて45,000円というのはなかなか嬉しい。

 さらに、Studio Caseの発売日である9月27日より前に予約をすると、39,800円で購入できてさらにお得だ。

□Steinberg Japanのホームページ
http://www.japan.steinberg.net/
□製品紹介(Studio Case)
http://www.japan.steinberg.net/products/studiocase/
□Cubase SX/SL/SEの機能比較表(PDF形式)
http://www.japan.steinberg.net/products/studiocase/PDF/CubaseSE_Chart.pdf

(2003年9月1日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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