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第115回:IEEE 1394対応オーディオインターフェイス
~ フィジカルコントローラも搭載した「TASCAM FW-1884」 ~


 「IEEE 1394(FireWire)」対応のオーディオインターフェイスが少しずつ増えてきているが、単なるオーディオインターフェイスではなく、フィジカルコントローラ機能やミキサー機能を備えた強力な機材が登場した。それが、今回取り上げるTASCAMの「FW-1884」である。

 完全にプロ仕様のスペックだが、価格は定価で175,000円と背伸びすればアマチュアでも手の届く額だ。


■ FireWire対応のミキサー&フィジカルコントローラ

 まだ数は少ないが、FireWire対応のオーディオインターフェイスが最近少しずつ登場してきた。以前紹介した米Presonus Audio Electronicsの「「FireStation」や、まだ発売されてはいないが、YAMAHAの「01X」もFireWire対応だ。また間もなく発売されるM-AUDIOの「FireWire410」も気になるところだ。

見た目はミキサー&フィジカルコントローラだ

 そんな中、先日TASCAMから発売されたFW-1884も、FireWire対応のオーディオインターフェイスの1つ。しかし、これは単なるオーディオインターフェイスというよりも、見た目からもわかるようにDAW用(Digital Audio Workstation)のフィジカルコントローラであり、かつスタンドアロンのミキサーとしても利用できる。

 コンセプト的には01Xと共通する面もありそうだが、デザインはよりプロ仕様っぽく、ブラックボディなのでMackie Controlなどにちょっと近い雰囲気がある。外形寸法は582×481×136mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は10.3kgだから、結構大きく机の上にちょっと置くというタイプのものではない。しかし、このコントローラの数からすれば、この大きさも仕方ないところだろう。

ブラックボディを採用し、プロ仕様っぽいイメージ 豊富なコントローラを搭載するが、その分本体サイズも大きい

 さて、この見た目とFireWire対応のオーディオインターフェイスというところで、FW-1884がどんなものなのかある程度察しがつくと思う。しかし、「Computerモード」、「MIDI Controlモード」、「Monitor Mixモード」の3つのモードがあって、少々戸惑う面もある。

 このうちComputerモードが最も使用頻度が高く、FireWireのオーディオインターフェイスとして動作するとともに、フィジカルコントローラとして使えるというモード。MIDI ControlモードはFireWireは介さずFW-1884に搭載されている4つのMIDI入出力端子を使ってフィジカルコントローラとして利用するためのモード。そしてMonitor Mixモードは、ほぼコンピュータ側からの再生に加え、外部からの入力をそのままミックスして出力するというモード。コンピュータ側と接続しなければ、18in2outのミキサーとして使うことも可能だ。

 あまりにも多くの機能が搭載されているので、順番に見ていこう。まずはオーディオインターフェイス部分については、24bit/96kHz対応のオーディオインターフェイスで、アナログおよびデジタル(adat、S/PDIF、AES/EBU)の入出力を装備する。

 入力としてはアナログが8ch、adatが8ch、S/PDIFが2chの計18chが用意されている。このアナログはすべてのチャンネルにマイクなどと接続するためのXLRの端子とバランスのTRSフォーンが用意されており、それぞれ切り替えで利用するほか、アンバランスのインサーションも各チャンネル利用可能だ。

背面端子部 FireWireに加え、adat、S/PDIF、AES/EBU、ワードクロックの入出力も用意する

 また、マイクはファンタム電源対応となっているほか、8chのラインインはギターなどが直接接続可能なハイインピーダンス対応の切り替えスイッチも用意されている。一方、デジタルのほうはadatとコアキシャルのS/PDIFがある。

 出力のほうは、アナログはモニタアウトということで、8chを用意。いずれもバランスのTRSフォーンとなっている。デジタルは入力と同様、adatとS/PDIFコアキシャル。さらにヘッドフォン端子があるほか、ワードクロックの入出力も備えている。

adatをS/PDIFとして利用するなど、様々な設定が行なえる

 デジタル入出力であるadatとS/PDIFは、コンピュータ側のコントローラで設定することにより、さまざまなモードで利用することができる。たとえばadatをS/PDIFとして利用することもできるし、コアキシャルをAES/EBUとして利用することもできる。

 これだけのチャンネルを、FireWireのケーブル1本だけでコンピュータと接続してやりとりするわけだ。これまでUSBを使ってフィジカルコントローラとオーディオインターフェイスを兼ねる製品はいろいろあったが、操作子はいっぱいあってもオーディオのチャンネル数が限られてしまっていた。やはり、これだけのチャンネルが実際に利用できるというのは大きい。

 実際に接続できるコンピュータはPCとMacintoshの両方に対応し、OSはWindows XP/2000、Mac OS 9/Mac OS Xに対応している。今回はWindows XPを使って試してみたが、セットアップは至って簡単だった。添付のドライバCD-ROMをインストールし、FireWireケーブルで接続しただけで即動いた。

 以前、FireStationを使った際はドライバとともにmLANのユーティリティをインストールし、mLANのパッチの設定などをしないと音を出すこともできなかったのだが、FW-1884は一般のオーディオインターフェイスと同様、難しいことを考える必要はない。つまり、FW-1884はFireWire対応ではあるが、mLAN対応というわけではないのだ。

 Windowsの場合、対応しているドライバはASIO、WDM(MME)、GSIFの3種類。TASCAMはGigaStudioのNEME-Sysを買収し、これの発売元となったため、当然のようにGSIFに対応しているわけだ。

 試しにSteinbergのCubase SXを使って、オーディオドライバを確認したところ、ASIOドライバだから何の問題もなくセッティングできた。VST入力、VST出力を開くと、各ポートがすぐに利用可能になっていることがわかる。またCakewalkのSONAR 2.2でもWDMおよびASIOの双方を利用することができた。

ASIOドライバだから何の問題もなくセッティング完了 VST入出力を開くと、各ポートがすぐに利用可能になっていることが分かる

WDMの場合、レイテンシーを一番小さく設定しても46.4msec程度になってしまう

 ASIOの場合、数字で表示させることはできないが、レイテンシーは数msec以下という感じで、性能的には十分。ただし、WDMの場合、カーネルストリーミングの部分がしっかりできていないのか、44.1kHzのサンプリングレートの場合、レイテンシーを一番小さく設定しても46.4msec程度となってしまう。したがってSONARの場合は2.2以上を利用するのが基本といえそうだ。


■ 音質を検証する

 さて、実際に音質はどうなのか。いつも行なっているのと同じ実験を行なった。ここではモニター出力の1chと2chをアナログ入力の1chと2chに直結させて試してみた。もちろん接続は3端子のフォーンケーブルを利用してのバランス接続だ。

 まず、レベルを設定するために入力レベルと出力レベルの調整をしたのだが、これらの調整を行なうのはFW-1884のフェーダーではなく、上部に並んでいるTRIMを使うしかない。これがちょっと面倒だったが、結果は以下の通りだ。

FW-1884の特性チェック
未入力時のノイズレベル
1kHzサイン波
スイープ信号

 まず未入力時のノイズは-86dB程度。最高とまではいえないが、まずまずといえるだろう。1kHzのサイン波を入れた際のスペクトラムを見てみると、高調波が若干でているが、非常にきれいな形となっている。またスウィープ信号も高域まで完全にフラットであり、これらを見る限り、かなり高性能なオーディオインターフェイスといえる。実際に音を聞いてもクセのない素直な音で高音の抜けもいい。

 このように、FW-1884をオーディオインターフェイスとして捉えられる一方、ミキサーとしても使えるわけだが、ミキサーとしてどのくらい使い勝手がいいかというと、これは簡易的なものだと捉えたほうがいい。

 Monitor+Mixモードというのがそのミキサーで使えるモードなのだが、あくまでもこれはコンピュータ側からの再生に加え、FW-1884の各入力に入ってきた音をミックスして出力するためのモニター機能なのだ。入力した信号はFW-1884内部でそのままスルーして、アナログの1chおよび2chに出力されるので、0レイテンシーなのがポイントだが、あくまでもそれだけ。

 信号の入力レベルはTRIMで調整するだけだし、イコライザなども使えるわけではない。また、アナログの1ch、2ch以外へは出すことができないため、S/PDIFやadatなども利用できない。こうしたことを考えると、ミキサーとしてあまり期待するほどのものではない。


■ フィジカルコントローラとしての機能

 やはり、最大のポイントは強力なフィジカルコントローラとしての機能だろう。8本のチャンネルフェーダーおよびマスターフェーダーはすべて100mmタッチセンス付きムービングフェーダー。触った感じ、かなり軽いものなので、人によって評価は分かれるかもしれない。

 各チャンネルにはSOLO、MUTEボタンがあるほか、そのチャンネルを選択するSELボタン、そしてデフォルトではPAN用に割り振られているチャンネルローターリーエンコーダーがある。これらはデフォルトでは1~8chが割り当てられているが、その右にあるBANKセレクトボタンを使うことで、9~16ch、17~24ch……と切り替えることも可能だ。

 右下のトランスポートセクションにはREW、F FWD、STOP、PLAY、RECといったボタン類やロケーション指定などに利用するデータダイアルほか各種ボタンが用意されており、これを使うことで各DAWソフトを自由にコントロールできる。

マスターフェーダーは、100mmタッチセンス付きムービングフェーダー。各チャンネルにはSOLO、MUTE、SELボタンや、チャンネルローターリーエンコーダーなどを装備 トランスポートセクションには、REW、F FWD、STOP、PLAY、RECといったボタン類やロケーション指定などに利用するデータダイアルなどを搭載

ネイティブモード、Mackie Controlエミュレーションモード、Mackie HUIエミュレーションモードの3つを選択可能

 FW-1884をフィジカルコントローラと見たとき、ネイティブモードがあるほか、Mackie Controlエミュレーションモード、Mackie HUIエミュレーションモードの3つがあり、それらのうちから選択することができる。Mackie ControlやMackie HUIが使えるから、Cubase、Logic、SONAR、DigitalPerformerといったソフトで即利用することが可能だ。

 ネイティブモードについては、各ソフトの対応待ちということになるが、バンドルされているCD-ROMにはSONARを対応させるためのソフトが入っており、これをインストールするとネイティブモードで使うことができた。Mackie Controlエミューレーションモードを利用し、Cubase SXで使ってみたが、設定も簡単だし、使ってみて非常に快適。カーソルキーやシフトキーなどもあるので、ほとんどPC側を触らずにFW-1884だけで操作することができる。

バンドルソフトをインストールすると、ネイティブモードで使うことができた Mackie ControlエミューレーションモードでCubase SXを使う。非常に快適だ

MIDI CTRLモードでは、キー配置を1つずつ設定可能

 また左側に用意されているショートカットボタンを利用することで、現在のデータをセーブしたり、アンドゥ・リドゥといった処理もできる。また、そのショートカットボタンの一番上にあるCONTROL PANELボタンを押すと、FW-1884のコントロールパネルが一発起動できるというのもなかなか便利だ。

 従来の高級なフィジカルコントローラは、そのほとんどがMIDI接続となっていたが、このFW-1884はこれも含めてFireWire接続だけでOKというのも嬉しいところ。またどうしてもMIDI接続したければ、MIDI CTRLモードに設定することで可能になる。またこの際のキー配置を1つずつ設定することもできる。


■ FW-1884か、それともO1Xか……

 以上、FW-1884を見てきたが、個人的にはかなり気に入った。ちょっと大きいので、今の仕事部屋にポンと置くわけにはいかないが、なんとか設置して使いたい衝動に駆られる。気になるのは、間もなく登場するO1Xとどちらがいいか、だ。デザインや操作ボタンなどからはFW-1884がいいように思うが、デジタルミキサーとして利用できるO1Xは、その点で大きい魅力ではある。

 TASCAM(TEAC)もYAMAHAも国産メーカーではあるが、FW-1884は日本の設計ではなさそうだ。パネル左上に「FRONTER」のロゴが入っていることからもわかるようにFrontier Design Groupとの共同開発のようだ。考えてみれば、これまでTASCAMが出してきたUSBのオーディオインターフェイス&フィジカルコントローラである、US-428やUS-224などもFrontier Design Groupとの共同開発であったので、FW-1884もその延長線上のものといえるだろう。

 ただし、これまでのものと違い、完全にプロ仕様となり、その完成度もかなりのもの。FireWireケーブル1本の接続でこれだけの性能が発揮できるという、なかなか魅力的な製品に仕上がっている。

□TASCAMのホームページ
http://www.teac.co.jp/tascam/
□製品紹介
http://www.teac.co.jp/tascam/products/cif/fw1884/

(2003年9月8日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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