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第98回:ヒゲのオッサンが解説する「銃社会アメリカ」
「ボウリング・フォー・コロンバイン」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 単館公開作品では異例のヒット

ボウリング・フォー・コロンバイン

価格:4,700円
発売日:2003年8月27日
品番:PIBF-7549
仕様:片面2層1枚
収録時間:本編120分 + 特典映像約24分
画面サイズ:16:9(ビスタサイズ)
音声:(1)ドルビーデジタル5.1ch(英語)
   (2)ドルビーデジタル5.1ch(日本語)
字幕:日本語、吹替用字幕
発売元:東芝デジタルフロンティア株式会社
   株式会社タキコーポレーション
販売元:株式会社タキコーポレーション
販売協力:パイオニアLDC

 ボウリング・フォー・コロンバインは、マイケル・ムーア監督による「銃社会アメリカ」を告発するドキュメンタリー。日本でも1月25日の公開以来かなりの話題を呼んだ作品が早くもDVD化された。

 公開当初の上映館が「恵比寿ガーデンシネマ」のみだったことから、いわゆる「アート系単館上映もの」くらいに感じていたが、公開前後から情報系のテレビ番組や雑誌などで大々的な特集が組まれ、休日には入場できない人が続出するような状態に。瞬く間に上映館が広がっていったのは記憶に新しい。

 ヒットの要因としては、不可解なイラク戦争への突入を契機とした反米感情的な世論に乗ったこと、また、本作品が75回アカデミー長編ドキュメンタリー賞や、カンヌ映画祭55周年記念特別賞、全米脚本家協会賞オリジナル脚本賞などを受賞。特にアカデミー賞の受賞スピーチで、ブーイングの中「ブッシュよ恥を知れ」と叫ぶムーア監督の姿がテレビなどで大々的に放送されたことなどが、大きく貢献したと思われる。

 上映時にブームに乗って見に行こうかとも思ったが、混雑のうわさに「すぐDVD出るからいいや……」とあっさり断念。DVD市場が急拡大したこともあるが、上映からDVDリリースタイミングまでの期間が大幅に短くなったこともあり、劇場に足を運ばなくなったような……。などと、わがままな感情を抱きつつも発売日の8月27日に購入。

 本編ディスクに、ブックレットがついた「デラックス版」と、デラックス版にマイケル・ムーア監督が'97年に製作した日本未公開作品「ザ・ビッグワン」のDVDを加えたDVD-BOX「アポ無しBOX」が同時に発売されたが、今回はデラックス版を購入。購入価格は4,441円(税込み/10%ポイント還元あり)。


■ トレンチコートマフィア事件を契機にアメリカ社会の病巣を描く

 '99年4月20日、コロラド州リトルトンのコロンバイン高校で、2人の少年が銃を乱射し、12人の生徒と1人の教師を殺害、数十人を負傷させた後に自殺する、といういわゆる「トレンチコートマフィア事件」が発生した。本作はこの事件とその後に起こったヒステリックな世論の反応を皮切りに、銃社会アメリカの問題点をあらわにしようというものだ。

 平和で、平凡。ごく普通のアメリカの郊外の街で起こった突然の事件。フィルムは騒動の渦中にあった人物のインタビューを元に構成される。

 「トレンチコートマフィア」の実行犯、エリック・ハリス、ディロン・クリボルトの同級生らは、リトルトンを「口をそろえて退屈な町」と述べ、サウスパークの作者で、コロンバイン高校の卒業生であるマット・ストーンは加えて、「学校では苦痛な日常が永遠に続くように思われるが、高校を卒業すれば自由。それを誰かが伝えればいいだけなのに……」とコメント。いわゆる暗くて、オタク(GEEK)的な2人の実像と、永遠に逃れられないと感じさせるような1つの典型的な郊外の高校生活が浮かび上がる。

 しかし、そうした側面だけに事件の原因を求めるのではなく、話はより大きなアメリカ全体の抱える恐怖の問題へ展開される。民兵組織のメンバーによる「オクラホマ連邦政府ビル爆破事件」や、ムーアの故郷で起きた6歳の女の子が同級生の男の子に射殺される「ケイラ・ローランド殺人事件」などについても同様に当事者、周辺の人々によるインタビューを交え検証される。

 また、銃による犯罪がほとんど無いカナダとの比較も行なわれている。カナダのウィンザーやトロントでのインタビューを元に、「カナダの人はドアに鍵をかけない」という説を実際に検証(つまり普通の家のドアを開けてみる)したり、カナダでも普通に銃弾が買え、銃の携帯率も高いのことを証明しつつも、銃犯罪発生率がなぜ少ないのかを、仔細に検討していく。結論を急ぐことは無いが、日々テレビなどのメディアに喧伝される「恐怖」、そして恐怖に対する過剰な反応をアメリカ特有の現象とみなし、告発していく。

 ムーアに次ぎ、この作品のもう1人の主役(悪役)といえるのが、俳優で全米ライフル協会(NRA)の元会長チャールトン・ヘストン。ヘストンへの突撃インタビューについては、テレビなどでもたびたび放送されていたので、知っている人も多いと思うが、これが本作のクライマックス。「ベン・ハー」の主演などでおなじみのアカデミー俳優だが、彼の出演作を始め、コロンバインの事件直後に開催されたミシガンでのNRAの集会や、スピーチが本編のそこかしこに挿入され、NRAの銃規制に確固として反対する姿勢を印象づける。インタビューに答えるヘストンはしどろもどろで、逃げるようにとぼとぼと歩くヘストンの姿はどこか物悲しい。古くからの映画ファンには若干不平等な印象も与えるかもしれないが……。



■ 画質は当然イマイチ。特典のブックレットは豪華だけれど……

 突撃インタビューという形式をとっているため、当たり前だが、DVDとしては画質はさほど良くない。圧縮ノイズも若干気になる。とはいえ、ブレや露出の急激な変化こそが、ドキュメンタリーとしての緊張感を高めているともいえるので、本作に高画質を求めるのは酷というもの。DVD bitrate Viewerでみた平均ビットレートは6.43Mbps。

 また、ヘストンの出演映画や、コソボ爆撃、オズワルドの射殺シーン、そして事件発生時のコロンバイン高校の防犯カメラ映像などを絶妙に配した編集が絶妙。これらの時代もソースもばらばらの映像をうまく組合わせることで、緊張感が保たれ続けている。

DVD Bitrate viewer 1.4でみた平均ビットレート

 音声は、英語/日本語ともにドルビーデジタル5.1ch。ビットレートは448kbps。ただし、通常の場面では、ほとんどリアチャンネルやLFEは鳴らず、時折挿入される戦争映像や、音楽にあわせて鳴る程度。

 特に高音質というわけではないが、歴史上の事件を追いながらバックに流れるルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」などが、効果的かつやや皮肉めいて流れるのが印象的。また、真っ暗なバックに挿入されるノイズ交じりの911(救急隊との通信)のテープなどの演出も事件のリアリティを増幅するのに役立っている。なお、日本語の吹き替え音声はボイスオーバー方式で収録されている。

 特典映像は、ムーア監督のインタビューや記者会見の模様、それにトレーラ程度。興味深いのは監督インタビューだ。彼がこうした社会問題に首を突っ込むきっかけとなった体験について語るのだが、「'68年4月4日、当時住んでいたミシガンで、ミサが終わって外に出ると、ラジオを聴いた男が“キング牧師が撃たれた”と叫んだ。そこで、歓声が沸いた」。そのことが13才だった彼には大きな疑問となり、こうした活動の原点とやったと語る姿は、とても説得力がある。

 「マイケルムーアを撃つな」と題された付属のブックレットは、事件の背景や、ムーアの略歴、それにアメリカの社会構造などの解説をまとめたもの。よくまとまっているが、個人的にはややリベラル寄り過ぎるきらいもあるように感じた。ムーアの政治的スタンスからすれば、妥当な編集と言えなくも無いが、こうして一冊の本にまとめられると、ややくどく感じる。

 折角作品が高いクオリティを有しているのだから、もうすこし映像の力、作品の力を信じさせて欲しいと思うのは私だけだろうか……。とはいっても、このブックレットにより、ムーア自身は、'90年頃からラルフ・ネーダ(前回の大統領選に緑の党から立候補)の事務所で活動していたともわかるなど、背景情報を確認するにはうまくまとまっている。


■ ヒットも納得の良質なドキュメンタリー。価格はやや高め

 エンターテインメントとして十分楽しめるクオリティを有しつつ、銃社会アメリカを追体験させ「後味の悪さ」を余韻として存分に感じさせるという意味では、良質なドキュメンタリーといえるだろう。作品のバランスのよさ、イラク戦争というタイミング、そしておそらくは、「トレンチコートマフィア事件」が与えた米国内でのインパクトとあいまって、本作の爆発的なヒットに至ったのだろう。そうした、時代をうまくキャッチアップした巧みさも、本編の随所に感じられる。

 価格は4,700円と洋画DVDとしてはやや高め。初回版はカラー刷りのブックレットが付属することを考えれば妥当ではあるが、できれば最初からブックレット無しのバージョンも販売して欲しかった。もっとも1DVDユーザーとしては、結局おまけのあるほうを買いがちではあるのだが……。

●このDVDについて
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総投票数480票
購入済み
168票
35%
買いたくなった
249票
51%
買う気はない
63票
13%

□パイオニアLDCのホームページ
http://www.pldc.co.jp/top_fl.html
□製品情報
http://db.pldc.co.jp/search/view_data.php?softid=167018
□タキコーポレーションのホームページ
http://www.taki-c.co.jp/
□映画「ボウリング・フォー・コロンバイン」の公式サイト
http://www.gaga.ne.jp/bowling
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-2枚組みの「アポなしBOX」も同時発売
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030602/taki.htm

(2003年9月2日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]



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