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第99回:悲しき天才少年詐欺師を捕まえろ!!
私も騙されてる? 「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 嘘みたいな本当の話

キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン

(C)2003 Universal Studios All Rights Reserved.
価格:3,980円
発売日:2003年8月22日
品番:UWSD-36267
仕様:片面2層1枚+片面1層1枚
収録時間:本編約141分 + 特典映像約78分
画面サイズ:16:9(ビスタサイズ)
音声:(1)英語(ドルビーデジタル5.1ch)
   (2)英語(DTS)
   (3)日本語(ドルビーデジタル5.1)
字幕:英語、日本語字幕
発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン株式会社

 今回取り上げる「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」は、16歳から21歳までに世界26カ国を渡り歩き、400万ドルを稼ぎ出した天才少年詐欺師の物語。驚くべきことに、実話に基づくストーリーだ。

 監督はお馴染みのスティーブン・スピルバーグ。キャスティングは、天才詐欺師フランク・アバグネイル Jr.をレオナルド・ディカプリオが、彼を逮捕するため奔走するFBIの敏腕捜査官カール・ハンラティをトム・ハンクスが演じている。豪華な顔ぶれだが、ディカプリオとスピルバーグという組み合わせは、新鮮な印象を受ける。

 また、スピルバーグ監督作品としては、「マイノリティ・リポート」から立て続けに公開されたイメージがある。だが、CGを駆使した派手なSFムービーである「マイノリティ・リポート」に対し、「キャッチ・ミー~」は正反対とも言える、'60年代を舞台にしたヒューマンドラマ。スピルバーグ監督の仕事量と懐の深さに、あらためて感心してしまう。

 売り場でDVDを手にとると、ケースはPOPなカラーリングで、逃げるディカプリオと、追うトム・ハンクスが描かれている。箱だけ見ると、コミカルなイメージだ。映画が話題になる前から実在する「伝説の詐欺師」の存在は知っていたが、細かい知識はなかったので、凄腕の詐欺師と無能な警察の鬼ごっこ……例えば、アニメのルパン三世のようなストーリーを想像しながらレジで3,980円を支払った。

 だが、DVDを再生してみると、ヒッチコック作品を連想させる、シリアスなBGMが流れる。画面には、往年の名作ゲーム「エレベーターアクション」を彷彿とさせる、お洒落なオープニングクレジットが映し出される。「単なる娯楽作品」、「お気楽でコミカル」という先入観を打ち消し、椅子に座りなおしながら映画の世界に入り込んでいった。


■ 哀れな天才少年の数奇な運命

 物語の舞台は、今から40年前の'63年。16歳のフランク・アバグネイルJr. は、愛ある家庭に育った素直で優しい少年。特に彼は、茶目っ気たっぷりで、子供に理解ある父親を敬愛していた。しかし、その父親が事業に失敗したことで、家を包む雰囲気は一気に悪化。両親は離婚することになり、フランクは突然「父親と母親、どちらの苗字を選ぶか?」という残酷な選択を迫られることに。ショックを受けた彼は、そのまま家を飛び出してしまう。

 一文無しで、寝る場所も食べるものもない。フランクは仕方なく、持っていた自分の小切手でその場をしのぐが、当然小切手はすぐ不渡りとなる。そこで彼は、小切手の偽造に手を染め、小切手を現金に換えるため、年齢を偽り、社会的地位があり、誰からも信頼されるパイロットや医者、弁護士などに次々となりすましていく。だが、彼の背後にはFBIの敏腕捜査官、カール・ハンラティの影が迫っていた。

 主人公のフランクは、未成年ではあるが、れっきとした犯罪者だ。しかし、物腰が柔らかで、典型的な良家のお坊ちゃまという感じ。年齢的な要素もあるのだが、映画を観ているうちに、彼が犯罪者だという感覚は無くなっていく。とにかく頭が良く、妙に度胸がある。詐欺というと、相手に嘘を信じ込ませるテクニックにばかり目が行きそうだが、人当たりの良さ、笑顔、話し方など、天性の魅力も特筆すべきものだ。彼が誤った道を歩まなければ、きっと社会で大成功を収めただろう。

 この映画の最大の魅力である「詐欺のアイデア」は、随所に散りばめられている。偽造小切手を信用してもらうために、パイロットという職業を選ぶ着眼点も素晴らしいが、パイロットを装うために必要な身分証や、制服なども「なるほど!」と膝を打ってしまうような巧みなアイデアで入手していく。制服を着込み、街を颯爽と歩くだけで、今までフランクに見向きもしなかった女性達は皆振り返り、高圧的だった銀行職員は低姿勢になる。人間が、いかに身なりや肩書きで相手を判断するかということが、嫌というほどよくわかる。

 彼の鮮やかな変身ぶりを見ていると、自分もこのくらいの詐欺はできるんじゃないか? という気すらしてくる。だが、何の専門知識もないのに、口先だけで医者や弁護士になりすましてしまう、フランクの度胸と頭の回転の良さは、やはり普通ではない。普通の人間なら「患者が来ただけでバレるじゃないか、手術してくれなんて言われたら、どうすりゃいいんだ」と、気が気じゃないだろう。当然、フランクもまた、観ている観客が足をバタつかせてしまうほどのピンチに陥る。彼がどうやって窮地を脱するか? それもまた見所の1つだ。

 ただ、こうしたフランクの大胆さは、後先を考えず、何も恐れない「若さ」の証明でもある。食べていくために詐欺師になったはずが、簡単に詐欺が成功し、お金が転がり込むことに有頂天になり、逮捕されるリスクが増えるにも関わらず罪を重ねて400万ドルを手にした事実。そして、痛快なストーリーにも関わらず、映画の中にシリアスで悲しい雰囲気が漂う原因もまた、彼の若さにある。

 天才詐欺師であっても、フランクは子供だ。心の奥で両親の離婚を受け入れられない彼は、詐欺で手に入れたお金を使って、父親に「ママと寄りを戻して」と懇願したり、誰も話し相手がいない寂しさから、つい天敵であるカール・ハンラティに電話してしまう。その様子を見ていると、胸が締め付けられるような悲しさを覚える。まるで、両親の離婚でぽっかりと空いた心の隙間を埋めるために、罪を重ねているようだ。

 そして、相手が子供だと知ったハンラティの心も、憎き犯罪者を逮捕したいという気持ちから、哀れな少年を保護したいという気持ちに変わっていく。ドタバタ追跡劇の裏に隠されたヒューマンドラマが、物語に厚みを加え、観客の心を掴む。流石はスピルバーグ。最後にほろりとさせられる、良質のエンターテイメントに仕上がっている。



■ 伝説の詐欺師、本人が登場する特典ディスク

 本編と特典ディスクの2枚組み。本編ディスクの映像は、ビスタサイズをスクイーズ収録。音声は、英語をドルビーデジタル5.1chとDTSの2種類、日本語をドルビーデジタル5.1chで収める。

 DVD Bitrate viewerで見た本編の平均ビットレートは、6.89Mbps。平均的な数値だが、映像はあまり高画質とは言えない。全体にノイジーで、輪郭も甘く、暗部も潰れがちだ。ただ、物語の舞台が'60年代ということもあり、わざと懐かしさを感じさせる画作りをしたのかもしれない。特典ディスクの中でスタッフが語っているが、当時の雰囲気を再現するために、セットや衣装、小物に至るまで、相当なこだわりを持って作られたそうだ。アメリカが最も豊かだった時代が舞台なので、色彩は原色系で、非常に色鮮やか。観ているだけで楽しい。

 音声のビットレートは、英語、日本語のドルビーデジタル5.1chが、どちらも448kbps。英語のDTSは768kbps。視聴は主にDTSで行なったが、ジョン・ウィリアムスの印象的なBGMが、包囲感豊かに再生された。BGMの使い方が巧妙で、登場人物の感情を雄弁に語っているので、ぜひ音にも注意して鑑賞して欲しい。

DVD Bitrate viewer 1.4でみた平均ビットレート

 特典ディスクは「メイキング」や「キャスト紹介」、「音楽紹介」、「フォト・ギャラリー」など、ボリューム満点。見所は何と言ってもフランク・アバグネイル Jr.本人が登場し、自らの体験を語るコンテンツだ。

 本人はディカプリオと似てはいないが、温和で優しい雰囲気は映画と同じ。元犯罪者、悪人というイメージはまったくない。しかし、にこやかに語る内容は、「パイロットを装って無料で世界を旅するのは楽しかったけど、限界を感じ始めたので医者になったんだ」とか、「今度は弁護士になってみた」とか、「学校で先生になったこともあるんだ」などなど。まるで普通のことのように、事もなげに言ってのける。やはりとんでもない男だ。

 彼によれば、映画化にあたって若干の誇張・脚色はあるが、9割は事実そのままの内容だという。ちなみに、FBIを引退したというカール・ハンラティ本人もまだ存命で、今でも交流があるという。できればカールにも登場して頂き、当時の思い出を語って欲しかった。


■ もしかして、まだ騙されている?

 同情の余地があるとは言え、彼の犯した詐欺行為を肯定するわけにはいかない。だが、その過程は驚くほどスリルに満ちており、映画として、大人も子供も十分に楽しめる。まさに、「事実は小説よりも……」というやつだ。

 また、フランクに対して、観客が反感を感じないように映画が作られている点も忘れてはならない。スピルバーグは「フランク本人に、相手を信用させる不思議な魅力が備わっている」と言い、それを映画の参考にしたという。また、インタビューの中では、「彼がその気になったら、今でも私は騙されるだろう」と笑う。

 ちなみに、現在のフランクは、FBIの犯罪捜査に協力したり、偽造防止技術や、偽造発見技術の開発を行なうほか、コンサルタント会社も経営し、当時の10倍以上の収入を得ているという。「マイナスとなるはずの過去のおかげで、成功したなんて、不思議な話だ」と肩をすくめる彼を見ながら、あまりに出来過ぎた話で、ちょっと腹が立ってしまった。

 こうして大ヒット映画の題材となり、ディカプリオが演じたことで良いイメージを獲得するなど、フランクにばかり利点があるような気がしてならない。案外、伝説の詐欺師の技はまだまだ健在で、彼の巧妙な手口にドリームワークスや自分も騙されているのではないか? などと、エンドロールを観ながら苦笑いしてしまった。

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□映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の公式サイト
http://www.uipjapan.com/catchthem/jump002.html
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-本編と特典ディスクの2枚組み
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030513/upj.htm

(2003年9月9日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]



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