■ MDライクなデザインの新gigabeat 今回取り上げるのは東芝のHDDオーディオプレーヤー「gigabeat」の新モデル「gigabeat G20(MEG200J)」。 HDDオーディオプレーヤー市場は、現状iPodの一人勝ち。クリエイティブメディアのZenや、先ごろ発売されたiRiverのiHP-100がその牙城を切り崩そうとしているが、ZenにしてもiHP-100にしても大きなヒットには至っていないといったところ。GIGABEATといえば、取り外し可能な5GBの「モバイルディスク」を採用した前モデル「MEG50JS」も発売時にはそれなりに注目を集めたが、さほど市場で支持を得ることもなく、今に至っている。
新モデルの「gigabeat G20」は、従来モデルからデザインを一新。1.8型HDD搭載で世界最小・最軽量を実現し、大きな不満であったサイズの問題をクリアした上、20GB容量のHDDを搭載。さらに日本のポータブルオーディオ市場で大きなシェアを持つ、MDプレーヤーのようなデザインを採用した。「GIGABEATのブランド名を引き継ぐのはやめたほうが……」などと思ってしまうような変わりようだ。 正式発表前に、ティザー広告を打ち、その薄さやデザインを大々的にアピールしたこともあり、注目度は高いようで、弊誌のアクセス数もトータルで12万を超え、8月のアクセストップを記録した。第3世代のiPodが出たときと比べても、インパクト/注目度ともに上回っているような印象だ。 編集部界隈でも、かなり「あれよくない?」的な声が多く、マニアックなHDDオーディオプレーヤーファン以外の多くの人から、好印象を受けているようだ。特にMD的なデザインのインパクトは大きかったようで、iRiverの「iHP-100」の時には、「なんすか? ああiPodみたいなやつ」的な反応だった人も、gigabeat G20はかなり興味を引いているようだ。もしかしたらマニア層以外のユーザーまで、HDDオーディオプレーヤーの魅力を伝えるような機器になるかも? と期待しながら、今回は新gigabeatをレビューする。 なお、今回利用したのは試作機で、内蔵HDDが10GBとなっているほか、ファームウェアがベータバージョンのため、実際の製品版とは一部仕様や動作速度などが異なる場合がある。 ■ 高級感あるデザイン。スタンドは充電用 同梱品は、本体のほか、ワイヤードリモコン、ステレオイヤフォン、充電スタンド、電源コード、ACアダプタ、USBケーブル、付属CD-ROMなど。 まるでMDプレーヤーのようなデザインは、モバイルディスク(交換可能なPCカード型HDD)採用の前モデルの「MEG50JS」の印象を一新するもので、アルミを配したボディの質感も高い。本体には、160×86ドットのバックライト付き液晶を搭載し、日本語表示に対応する。外形寸法76.5×12.7×89.5mm(幅×奥行き×高さ)、重量138gと、小型軽量化が図られた。 リモコンは液晶無しのもので、再生、早送り/戻し、ボリューム調整といった基本操作が可能。スタンドは充電のみの対応で、パソコンとの連携は本体脇のUSBコネクタで行なう。
■ 転送時には独自の暗号化が行なわれる
パソコンとの連携はUSB 2.0経由で行なえる。そのままUSBストレージとしても利用できるが、オーディオプレーヤーとして利用する際は、付属の「TOSHIBA Audio Application(TAA)」、もしくは「Windows Media Player9(WMP)」を利用して、転送時にオーディオデータを暗号化したSAT形式に変換する必要がある。なお、パソコンとの連携時にはACアダプタ接続が必須となる。当然のことながら、暗号化されたデータを、パソコンに戻してもパソコン上では再生できない。 213MBのファイルをTAAで転送した際の転送時間は1分25秒で、かなり高速に転送できる。特に暗号化のために遅くなっているという印象は無い。なお、160MBのMP3ファイルをTAAで転送した場合の転送時間は67秒、WMPの場合は2分43秒と、TAAを利用したほうが倍以上早かった。
再生可能なデータはWMA9/MP3とWAV。ただし、WAVを転送できるのはTAA利用時のみで、WMPでWAVファイルを転送するとCBRのWMA(32~160kbps)に変換される。同様に、WMPを利用した際は、VBRのWMAファイルで32~160kbpsのものは、そのまま転送されるが、その範囲外のものは32~160kbpsに変換され、転送される。また、WMA Professional/Losslessも同様にWMAに変換される。 【お詫びと訂正】 フォルダ構造を維持したまま転送できるので、例えば、[アーティスト名]→[アルバム名]といった形でパソコン上でオーディオファイルを管理していれば、そのままのフォルダ階層を維持したままgigabeat G20上で扱える。パソコンでのフォルダ管理に慣れたユーザーには非常にわかりやすい仕様となっている。 また、各ファイルのタグ情報を見て、[アルバムリスト]、[アーティストリスト]、[転送履歴]の3種類の曲情報データベース(M3Uのプレイリスト)を自動生成。これを元にgigabeat G20本体に[Album]、[Artist]というリストが作られ、アルバムごとやアーティストごとの再生ファイル選択が可能となるというものだ。 やや気になったのが、アルバムの曲順に再生できないことがあったこと。筆者は初代iPodユーザーなので、多くのMP3ファイルをID3Tagのトラック情報を入力して管理しているのだが、gigabeat G20ではID3Tagのトラック情報を参照しないため、ファイル名の順番で再生されてしまう。 もちろん、ファイル名を[01-曲名]といった風に管理していれば、きちんとアルバム順に再生できる。数字をトラック頭に付与していない場合は、どうやら、数字>アルファベット子文字>アルファベット小文字>カナ>漢字といった順で再生されるようだ。なお、設定メニューでソート方式を「日付順」に設定すれば、CDからリッピングした順序(つまりアルバムの中の曲順)での再生も可能だ。iHP-100もID3Tag情報でなく、ファイル名管理だった。今後、HDDオーディオプレーヤー用にMP3ファイルを作るのであれば、こちらにあわせたほうがいいのかもしれない。 WMAファイルの場合、デフォルト設定でWindows Media Player 9で録音するとファイル名の先頭に曲番号を付与するので、手持ちのファイルでは大抵アルバム順で再生できた。
操作は本体右脇の各ボタンとリモコンで行なう。中央ジョグスイッチの2秒以上長押しで、電源のON/OFFが可能。ジョグスイッチは再生/一時停止や、曲送り/戻り、早送り/戻りなどの各種操作に割り当てられている。また、ジョグスイッチの両脇にボリューム上/下ボタンを備えているほか、最上部にMENUボタンを装備する。
表示画面は、「再生画面」と、各画面に移行するための「MENU画面」、フォルダ/ブックマークの選択を行なう「ナビ画面」、フォルダ間移動のための「フォルダ画面」、「設定画面」が用意される。
通常はフォルダ画面にて、フォルダを選択し、曲を選んで再生する。フォルダ画面では、ジョグボタンの上下でファイルの上下移動ができ、ボリュームボタンでフォルダの上下移動が行なえる。再生時でもMENUボタンの長押しでナビ画面→フォルダ画面に移動すれば、任意のアルバム/アーティストの曲に移動可能だ。また、TAAでプレイリスト作成/編集が行なえるほか、本体で任意の曲を選択し、50曲までの簡易プレイリストを作成できる「ブックマーク」機能も備えている。 リモコンで再生/停止、ボリュームコントロールなどの基本操作のみ行なえ、フォルダ間移動などできない。本体が小型のため、「アルバム選択などは本体で、曲スキップやボリューム上下のみリモコン」でという設計思想なのだろう。個人的には「HDDオーディオプレーヤーには液晶リモコン」派なのだが、gigabeat G20の場合、本体が小型のため、無理に液晶リモコンを付けるよりは好感が持てる。 従来モデルと同様にOSにLinuxを採用。操作レスポンスは、フォルダ間移動や再生/停止操作などでは特にストレスを感じないレベルだが、大量にファイルがあるフォルダへの移動や、再生中のフォルダ移動、曲送りなどでもたつく場面もある。試作機からということもあるのかもしれないが、更なるブラッシュアップを期待したい。 ■ 高品質な再生性能 ヘッドフォンはステイック型。低域は薄めだが、解像感もあり、低価格ポータブルプレーヤー付属のものとしてはなかなか高品質。ただし、移動時に装着すると外れがちだったので、耳にあったイヤーパッドなどを装着した方がいいかもしれない。
本体の音質は良好だ。クリアで再生レンジが広く、さまざまなジャンルのソースをそつなくこなせそう。手持ちの初代iPodと聞き比べてみたると、傾向はともにニュートラルで目立ったクセの無い印象だが、gigabeatの方がすっきりとしていながら、低域の情報量が豊かに感じた。ポータブルプレーヤーとしてはかなり優秀な部類に入ると思う。
バッテリはリチウムイオン充電池を内蔵し、連続再生時間は約11時間。バッテリの目盛りは4段階で、2時間強で1目盛り減り、4時間強で残り2目盛りとなったので、ほぼカタログ値に近い再生が行なえると思われる。 やや気になるのが充電スタンド。というのも、クレードルとして本体を挿して充電ができるののはいいのだが、パソコンと同期する機能はない単なる充電スタンドなのだ。つまり、パソコンとの連携には、USBケーブルを本体に挿さなければならないので、ちょっとスマートでないような気がする。また、USB経由での充電は行なえない。
薄型/小型化により端子のレイアウトなども難しいとは思われるが、充電/連携可能なクレードルは、iPodなどで実現できていて、ウリにしているところ。充電スタンドの形からすると、なんとなくgigabeat G20でもできそうに見えただけに、やや拍子抜けした。もっとも、iPodでもIEEE 1394接続だと充電できるがUSB 2.0では充電できないので、そんなに文句を言うべきところでもないような気もするが……。また、ACアダプタのケーブルがやけに太いので取り回しに苦労する。 スタンドにはやや疑問を抱くところもあるが、全般的に良くまとまっており、時折、動作がやや遅いと感じるくらいで大きな不満を抱くような箇所はなかった。 データの転送時にSAT形式に変換し、書き戻したファイルの再生が行なえないなど、著作権保護の関係でやや扱いが面倒に感じるかもしれない。しかし、TAA自体は非常にシンプルなアプリケーションで、データのコピーはTAAに表示されたパソコン上のフォルダから、gigabeat G20上にドラッグアンドドロップするだけ。そのため、操作自体は非常に簡単だ。 例えばiPodでは、データの変換は行なわないが、Windowsでの利用の場合だとライブラリソフトMUSICMATCH Jukeboxから転送を行なう。この転送操作を覚えるよりは、TAAでの転送のほうがシンプルで覚えやすい。そういう意味では変換を伴う作業もさほど面倒というわけではないと感じた。もっともUSBストレージとして、音楽ファイルもコピーするだけで再生できるiHP-100のほうがはるかに使い勝手はいいが……。 ■ HDDオーディオプレーヤー拡大の起爆剤となるか? 「HDDオーディオプレーヤーには、液晶リモコンが必須」と日ごろ書いているが、この大きさであれば、液晶無しでもいいような気がしている。また、MD的なデザインなため、電車内などで本体操作を行なっても、最新デバイス自慢的ないやらしさが無く、つつましく(?)利用できるのが気に入った。 機能的には、たとえばiPodのようなPIM機能や、iHP-100のような光デジタル入出力、ボイスレコーディング、FMチューナなどの付加機能は一切ない。とにかく最小・最軽量のオーディオプレーヤーを目指して、割り切って機能を絞った製品だ。そうしたシンプル志向がうまくパッケージされており、操作体系は若干慣れが必要かもしれないが、機能の少なさが敷居の低さにもつながっていると思う。 価格的には実売で5万円程度と、iPod 15GB(47,800円)やiHP-100(約49,800円)などと完全に競合する製品となる。容量的にも15GBのiPod、10GBのiHPより多く、価格競争力も高い。iPod/iHPの付加価値によほどの魅力を感じなければ、真っ先に選択肢に入れてよい製品だ。あとはデザインや操作感の好みで選択すればいいだろう。 MD的なデザインの採用にも、価格的に高価だったり、PCが必要ということからも、まだまだマニア向け的な位置づけであるHDDプレーヤー市場を拡大していこうという、東芝の意気込みが感じられる。より価格競争力の高い10GBモデルなどのリリースにより、HDDプレーヤー市場を大いに盛り上げてもらいたい。などと、余計な期待をしたくなるような製品だ。 □東芝のホームページ (2003年9月5日)
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