■ スペック主義からの脱却 パソコンを使うといっても、その用途やスキルは実に様々である。筆者が自分でパソコンをいじり始めたのは、自宅でCGを作って放送に使うためだったので、常に最高速のCPUが必須だったし、メモリは常に最大、作業用HDDは必ずRAID、モニターはもちろん広いに越したことはなかった。 だがこのようなパソコンは、すべての人にマストな条件ではない。最近の筆者はもっぱらモノカキの仕事が多くなっており、そういう意味では常に最高速マシンでなくても、実は十分仕事になったりしている。 そして筆者の最近のテーマは、シニアにいかに興味を持ってパソコンを使ってもらえるか、というところにある。パソコンの「大は小を兼ねる」時代は終わり、高スペックであればとりあえずなんでもできるハズ、といったチョイスは、もはや意味を成さない。自分が使うためのものを選ぶものではなく、誰かに向けた時に使いやすいパソコン、と言う意味で製品を見ていかないと、とんでもないスペックのものばっかりになっちゃってソレ誰も買わねーよ、ということになってしまうのである。 さて、そんなことで最近は、入門向けと言われている商品をもう1度洗い直しているのであるが、そんな中、2003年パソコン商戦秋冬モデルとしてSONYが繰り出した新VAIO、「PCV-V10(以下VAIO V)」をお借りすることができた。モニター一体型PCの復活、またリビングやダイニングに置けるPCとして1つのジャンルを築いたVAIO W、そのの姉妹機とも目されるのがこのVAIO Vである。さっそくチェックしてみよう。
■ パネルデザインが綺麗なVAIO
筆者のところに届いたのは、W(ホワイト)モデル。正面から見ると、クリアホワイトの内側にアルミフレームがある感じだ。さらにその内側に液晶モニターが填っている。モニター下にはアルミメッシュが張られ、スピーカー部となっている。このアルミメッシュが、なんだか昔のテレビのスピーカーを彷彿とさせる。
しかしSONYロゴは左下にあり、プロ用モニターを使っていた人間にとってはこの一点をとっても「ああテレビとは違うな」と思うのである。実はプロ用マスタモニターではSONYロゴは画面下のセンターと決まっており、リニアのビデオエディタはざっくりセンターのバランスを見るときに、SONYのOとNの間を基準にしたりしているのである。いや、もちろんちゃん確認するときはワイプで計ったりするんだけどネ。
電源スイッチは、右下からアクリルのボタンが飛び出すような格好で配置してある。スタンバイ時はオレンジに、電源ON時はグリーンにライトアップされ、なかなかかっこいい。
本体右側には、DVD-R/RWドライブとPCカードスロット、メモリースティックポートがある。反対の左側には、コネクタ類が集中している。オーディオ入出力、AV入力、チューナ入力、USB、DV(i.LINK)、Ethernet、モデムの各ポートだ。モニター部はVAIO Wと比較しても、ずいぶん薄く感じる。
背面には、電源その他の体積を取るパーツ類が突きだしている。しかし全体的にVAIO Wのようにランドセル背負ってるような大げさな感じはなく、ほとんどのパーツは薄いモニター部と一体化されている。この出っ張り部分にもUSBポートが2つある。 台座の底が回転するという「スイングモニター」は、ダイニングテーブルなど生活のど真ん中に設置したときに便利。台座が電気ポットの底みたいな構造になっており、360度回転するのである。さらに上下画角も25度まで動くので、VAIO Wに比べても設置後にかなり自由に向きや角度を変えられる。キーボードやマウスなどをワイヤレスにした恩恵をうまく利用した機能だと言える。 ただ回転角が大きいのはいいが、回せばそれだけケーブルに負担がかかることは間違いないので、若干余裕を持った長さで結線する必要がある。電源などが抜けちゃったら特にヤバイだろう。また常時接続するであろうアンテナ線やネットワークケーブルがモニターの左端という位置に着いているので、回転すればそれだけ振れ幅も大きい。できれば回転時にも負担がかからないような位置にコネクタを付けるか、ケーブルをまとめてガイドするような工夫があると良かっただろう。 ワイヤレスのキーボードは、カバーを閉じてもショートカットボタンが使えるようになっている。非常にコンパクトに見えるものの、キーピッチは普通のキーボードと同等。周辺部および厚みが薄いので、小さく感じるのだろう。タッチとしてはノートパソコンのそれに近いが、キートップがやや厚く、ストロークもそこそこあるので、タイプはしやすいほうだろう。電源は背面部にあり、単3電池2本を使用する。
同じくワイヤレスのマウスは、デザイン的にも目新しいもの。ティアドロップ型とでも言おうかコガネムシ型とでも言おうか、独特の形である。底面にはON/OFFのスイッチがあり、手動で電源が切れるようになっている。VAIO Wのときにも、マウスがワイヤレスだったらいいのに、と思ったものだが、これでようやく実現した。
電源はどこにあるのかな、としばらく探したところ、背中の部分を後ろにスライドさせて開けることができた。これも単3電池2本で動いている。一昔前のワイヤレスマウスと違い、電池2本入れてもさほど重たい感じはない。もちろんセンサーは光学式だ。
■ 遠くからも見やすく使いやすい では実際にいろいろ使ってみることにしよう。モニターは15インチ液晶で、画面解像度は1,024×768ドット。高精細度化が進む液晶モニターの中においては、画面の文字などは大きく感じる。だがこれを「画面が狭い」と判断するのは早計だろう。ビジネスライクというか普通のパソコンとして見れば狭いかもしれないが、テレビやDVDのような「動画」のフルスクリーン表示を中心に考えると、高精細であるほど拡大率も増し、描画パフォーマンスに無駄な負担がかかる。テレビパソコンとしては、妥当な解像度だろう。 また大きな文字は、老眼の人でも見やすいというメリットがある。もちろんワイヤレスキーボードとマウスで、本体から離れて使うこともできるため、大きな文字表示はメリットがあると思う。シニア向けホームPCとしては、ちょうどいいところなのではないだろうか。 モニターの輝度はかなり高く、普通にテレビやDVDを視聴するには十分だ。その反面、パソコンとして使うときには、そのままでは輝度が高すぎる。キーボードから輝度は調整できるのだが、できれば特定のアプリケーションに対して固有の輝度設定が割り当てられるような、マネージメントツールが欲しいところだ。マジでテレビにこだわるなら、動画のフル画面表示の時はガンマカーブも変わるといった仕掛けがあっても良かっただろう。 テレビ録画はお馴染みのGigaPocketで、録画モードは高画質、標準、長時間の3種類。フォーマットは長時間のみMPEG-1で、標準と高画質はMPEG-2。ハードウェアエンコーダを搭載しているが、3次元Y/C分離やGRなどがなく、今どきのチューナカードにしてはスペック的に若干見劣りする。だがコントラストが絞まった液晶表示のため、クッキリ感は高い。
リニューアルされスリムでかっこよくなったリモコンは、DVD操作関係のボタンが減ったが、その反面機能強化もされている。 以前の操作体系では、リモコンでまずランチャーを立ち上げてからテレビやDVD用のアプリケーションを選ぶという、いかにもリモコンでPC動かしてます、といった感じだった。しかし今回のリモコンでは、「テレビ」、「ビデオ」、「DVD」、「ミュージック」、「ホームネットワーク」という5つのボタンが付き、ボタンを押しただけでダイレクトにそれに対応するアプリケーションが起動できるようになった。何をやるときがどのソフト、といった具合に覚えておく必要はなく、機能から選べばいいので、子供やお年寄りにもより使いやすくなっている。 また従来はいかにもパソコンが使えないとダメっぽかったテレビ番組表が、リモコン1つで最大表示で起動するようになったのは新しい。もちろんそのままリモコンでの番組表スクロールも可能で、予約もできる。DVDレコーダでEPGを利用しているような感じで、これもなかなか便利だ。基本的には「テレビ王国」をブラウジングしているだけなのだが、リモコンの「戻る」ボタンでページを戻すこともできる。
■ 総論 パソコン系の人は、PCがテレビみたいになることに対して抵抗があるようで、新VAIO Vは筆者の周りでもこりゃテレビだテレビだとわあわあ言われている。だがそんなもの、VAIO Wが出て「僕のテレビはVAIOだ。」とか言われた時点で、既にこのようなスタイルは予想できたことである。 まずVAIO Wの特注(?)横長液晶に対する是非がある。DVD派には支持されたが、コスト面と使い勝手を考えれば、やはり4:3モニターの採用も有り得る話である。さらに先にも述べたとおり、マウスはワイヤレスがいいというのは早くから言われてきたし、そうなればキーボードだって、という話になる。そしてこれも、液晶を普通の4:3のものに変えたコストダウンから実現できたものと考えていいだろう。実にVAIO Vは、VAIO Wの問題点を洗い直し、出るべくして出たモデルだと言える。 エンターテイメント性という側面から見ると、このモデルにVAIO Game Centerが入っていないのは惜しい。VAIO Game Centerは、なつかしのゲームのダウンロード販売を行なう仕組みだが、一部のモデルには「電車でGo!」、「アルカノイド」、「大富豪」がプリインストールされている。エンターテイメント的な使い方をしそうなこのVAIO VやVAIO Wにこれらを入れておいた方が、ダウンロード販売にも繋がると思うのだが、これもコストの問題だろうか。 モニターの中に本体が入るというのは、現時点の技術ではデスクトップPCのもっとも達成しやすい落としどころだと思う。それにワイヤレスのマウスやキーボードが標準というのも、理想的だ。 VAIOはいよいよ「見た目がコンピュータ」というカタチから離れていくのかなという気がする。コンピュータというものが、生活の中でインビジブルに存在するという未来像に向かって進み始めた最初のステップが、VAIO Vなのかもしれない。
□ソニーのホームページ
(2003年9月17日)
[Reported by 小寺信良]
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