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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第126回:WPC EXPO 2003に見る近未来
~ AVという視点から覗いてみれば… ~


■ 名称変更の謎?

 先週17日から20日の4日間、千葉・幕張で「WPC EXPO 2003」(以下WPC EXPO)が開催された。筆者はというと、ウィークデーは別の仕事や打ち合わせなどで忙しく、土曜日に行く予定にしていたのだが、どうも合う人合う人に「今年はつまらなかった」と聞かされ、いささか辟易した。読者の中でも出かけた方は多いかと思うが、どう感じただろうか?

 実はこのWPC EXPO、昨年から名称変更されたのをご存じだろうか。一緒じゃんと思われるかもしれないが、以前まで我々がWPCと呼んでいたのは、WORLD PC EXPOの略称であった。しかし昨年からこの略称の意味が変わって、「W」はWORLDのほかにWWW、Wired、Wirelessの意味、「P」はパソコン、ネット家電、PDA、ケータイなどすべてのPlatformsの意味、「C」はCommunications、Conputing、Contentsという意味になったそうなんである。

 なーんかコジツケっぽいが、これの意味するところは、「要するになんでもアリアリ」ということなのである。たぶん。もっともWORLD PC EXPOの頃からそのような傾向はあったのだが、今年は特にそれが加速して、旧来のパソコン関係のショーとして出展を見に来た人には、なんだかとらえどころのないものに見えた、とこういうわけだろう。

 もちろん純PC系のブースもなかったわけではない。インプレスのブースでは、各メーカー広報を招いての「マザーボード座談会」というやけに濃いイベントも盛況であった。また会場内の販売ブースでは、既に伝説と化した過激な値下げ合戦こそ見られなくなったが、多くの買い物客でごった返した。ただ全体的にストレートなPC系の展示は少なく、そういうところは本当に一部のわかってるユーザーだけが見てる、といった感じである。

別な意味で異様な熱気の「マザーボード座談会」 お買い物コーナーはいつも大混雑

 今回のElectric Zooma!はちょっと趣向を変えて、PCという視点ではないところから、今年のWPC EXPOを見てみよう。AV機器のこれから、みたいなことが、見えてくるかもしれない。


■ モバイルデバイス

新D-snapは今回の目玉の一つ

 持ち歩くデバイスという切り口で見ていくと、ある意味で原点回帰的な方向が見られるのは面白い傾向だ。派手なプロモーションを展開するPanasonicの「D-snap」、特にもっともバリューゾーンの「SV-AS10」は、会場でも多くの人が手にとって見ていた。女性の受けもなかなかいい。

 これは、単に薄いとか色がいいとかという問題ではなく、「基本的にこれはナニである」というアイデンティティが絞り込まれたところがポイントなのではないかと思う。D-snapの以前のモデルでは、あれもこれもと機能を詰め込んだ結果、「よーするに何なの」というわかりやすさに欠けていた気がする。新D-snapは見た目のインパクトとわかりやすさを兼ね備え、しかもサブ機能が多い。そんなところがアピールしたようだ。

女性が多く集まっているのも特徴

 デジカメにサブ機能を付けたケースとしては、動画が撮れるという方向が主流だったが、それは結局メインストリームにはならなかった感がある。だが音楽が聴けます、という音方向へのアプローチは、持ち歩きながら常時使う、ということをユーザーに意識させる。カメラを毎日持ち歩かなければ気が済まないという人でなくても、それを持ち歩いている自分の姿が想像しやすいのである。

 AS10と同じジャンルとはあまり意識されていないが、CASIOの「EXILIM」もデジカメ+音楽を組み合わせた例である。ただEXLIMの場合は、形のアイデンティティがあまりにもストレートすぎて、見た目からは音楽が聴けるような気がしてこないため、あまりアピールポイントになっていないのが現状である。このあたり、付加価値に対するアプローチの差が見えるようで、興味深い。

SONYのMPEG-2ビデオプレーヤーは、多くのメディアでも紹介された

 テレビのビューワーという側面で見ていくと、これも各社アプローチが異なる。SONYではVAIO周辺機器としてHDD内蔵のMPEG-2ビデオプレーヤーを展示した。音楽が聴けるようになるのかはまだ未定ということだが、印象としてはかなりシンプルなデバイスだ。

 一方CLIEのコーナーでは、メモリースティックビデオレコーダで録画した番組をCLIEで見る、というデモンストレーションを行なっていた。だがこのコーナーでもっとも多くの人を集めたのは、もっともシンプルな電子手帳型CLIEである。音楽や動画などのマルチメディア機能を搭載せず、紙の手帳の代用品に徹することで機能は減っているわけだが、それで十分というユーザーが結構いたことになる。これもある意味でアイデンティティが明確なものが受けていくのかな、と予感させる。

CLIEコーナーに展示されたメモリースティックビデオレコーダ たとえ映像が見られなくても、手帳型CLIEは注目度が高い

 一方東芝でも、おなじようなコンセプトの参考出展があった。MPEG-4で録画するパーソナルビデオサーバーは、20GBのHDDとSDカードに録画が可能。本体にはモニタ類はないので、ネットワークかビデオ出力を使って外部機器で映像を見ることになる。

 またビューワとしては、これも20GBのHDDとSDカードスロットを搭載したMPEG-4 Mobile Viewerを公開した。横長のスタイルで、モニタは4インチのVGAサイズ、一見大きめのポータブルゲーム機を思わせるデザインとなっている。背面にはカメラが備え付けられており、CCDタイプとC-MOSタイプの2種類がある。Camcorderの文字が見えることから、動画撮影が可能であるらしい。これも一種の複合機と見ることができるが、個人的にはそうまでしてビデオカメラが必要か? という思いはある。以前このコラムでも似たような製品を扱ったことがあるが、そのときも同じ思いだった。

B6サイズで100時間録画をうたうMPEG4パーソナルビデオレコーダ モバイル型MPEG-4ビューワ2種 裏にはカメラを装備

 だが何か付けないと、という気持ちはわからなくもない。以前某メーカーの方にお話を伺ったことがあるが、ポータブルMP3プレーヤーというのは、地方ではまったく売れないのだそうである。自家用車中心の交通手段では、ポータブルのコンテンツプレーヤーは使うチャンスがないのだ。

 今年の後半戦は、いよいよビデオ系ポータブルビューワがしのぎを削りそうな気配だが、そういう意味では各メーカーともどこに腹を据えてモノを造るかというところが悩みどころだろう。SONYのようにテレビを見るだけのようなデバイスは、なまじ他のことに使えるばっかりにバッテリを減らすよりもいいようにも思える。だがそういう発想は、東京近郊に住む人間だけの都合だ。

 日本全国をマーケットとするのであれば、それ以外にも使えるという付加価値、例えばカーステ・カーナビと組み合わせられるとか、ビジネスシーンでもちょっと役に立つような用途を持たせる必要があるだろう。


■ 進化するディスプレイ

改造したノートPCでデモンストレーションした立体表示システム

 個人的に興味を持っている分野では、裸眼で立体視が可能なディスプレイがある。NECでは従来型液晶とモード切替で立体視が可能な表示システムのデモンストレーションを行なっていた。

 3Dソフトで作成した立体情報を持つデータを、専用ビューワで表示させることで立体視できる。現時点ではPC用としてゲームなどのエンターテインメント分野での応用を想定しているという。

 スイッチ一つでモード切替ができるところなど、既にシャープが製品化を進めているノートPC「Mebius PC-RD3D」と、立体に見せる原理は同じもののようだ。

 同社の「MotionCaster3D」というコンテンツ制作システムでは、人物の動きをモーションキャプチャしたデータと3Dソフトなどを使ったキャラクタデータを組み合わせて専用データを作り、リアルタイムで立体表示演算を行なうという。固定アングルではなく、再生時に視点が決められるのが特徴だ。

 立体視さえしなければ、このようなCGアニメーションとインタラクティブな視点移動は、OpenGLやDirectXで可能である。ステレオ映像をリアルタイムレンダリングするというところがミソということだろう。

写真ではわかりにくいが、液晶表面に縦縞状のレンズが張り付いている

 一方東芝では、ディスプレイ表面に微少レンズを多数配置することで立体視できるディスプレイを展示していた。この原理は、NHK技術研究所で「インテグラル立体テレビ」として研究しているものと同じ。NHK開発のものは、立体感がかなり強調されている反面、解像度がHalfVGA程度しかないが、東芝のものは立体感を押さえて、より高解像度の方へシフトした設計になっている。また立体に見える範囲も広く、28度ぐらいまでとなっている。

 コンテンツはやはりCGのモデルデータを使って沢山の方向からレンダリングしておき、それを一つのファイルに格納するという技術がベースになっている。当面の利用目的としては、まだPCに使うには解像度が低いため、ポップ広告やショールームディスプレイなどの分野を想定しているという。

 筆者も過去3年ほど、ビデオではあるが立体映像のコンテンツを作成していたことがある。立体視というのは、基本的には目の錯覚というか脳の錯覚を利用するわけだが、目と目の間の距離や空間の認識能力、また対象となる物体の実物を見たことがあるかどうかといった経験などに左右されるため、技術にしてもコンテンツにしても、万人が満足するものを作るのははなかなか難しい。実用化を前に、もうひとふんばりが必要な分野だ。


■ 経済性とエコロジーは反比例しない?

 NECのブースでは「フューチャーパビリオン」と銘打って、研究技術の展示を行なっており、先ほどの立体ディスプレイもここにあるのだが、一般客が全く関心を示さないところで、「強化バイオプラスチック」の研究は注目すべき点がある。

 いきなり話は変わるが、「ケナフ」という植物をご存じだろうか。アオイ科ハイビスカス属の一年草で、成長速度が速く、半年で3~4mにもなるという。じつはこの植物、炭酸ガスの吸収速度がめちゃめちゃ速いので、地球温暖化防止効果が大きいとされており、これを資源植物として製紙や建材に利用しようという動きが高まってきてる。もちろん世の中いいことの裏には悪いこともあるわけで、ケナフは生長が速いため、無計画や興味本位の栽培が既存の生態系を破壊するおそれがあるのでは、という慎重論もある。

強化バイオプラスチックのサンプル ケナフの茎と繊維

 PC用の部材として、ポリ乳酸という材料を使った「生分解性プラスチック」というのがあるのだが、これは耐熱性や剛性の面で課題が多かった。このNECが研究している「強化バイオプラスチック」は、これにケナフの繊維を添加することで、従来の熱変形温度を1.8倍、剛性を1.7倍に改善することができるという。添加量によっては、現行のABS樹脂よりも耐熱性と剛性の面で上回る部材も生成可能なようだ。同社では、今後2年以内の商品化を目標としている。

 このようなエコロジーの取り組みは、じつはPCメーカーに取ってはマストな課題だ。電機メーカー各社はすでに経済産業省の指導により、「グリーン調達」や「グリーン購入」といった取り組みを始めている。これは環境負荷の低い部材を使って製品を製造したり、あるいは製品そのものも環境負荷の低いものを積極的に購入しようというものである。

 従来の発想では、「エコロジーは高く付く」のが常識であった。余計な手間がかかる分、部材も高くなるのである。その価格は当然製品価格に反映され、結果的にそのツケはユーザーが払う。しかしグリーン調達に関しては、共同購入するためのネットワークを構築することで、その常識を覆しつつある。

 同じ部材を使うメーカーがあったとしよう。例えばソニーと東芝とNECが同じグリーン調達適合の部材を共同購入することで、結果的にはグリーン調達適合外の部材を単独で購入するよりも安く購入できるのである。

 大手メーカーの方にお話を伺ったところ、以前はショー会期中にも台湾や韓国のパーツメーカーが直接ブースに売り込みに来ていたそうだが、そういう動きはここのところまったくないという。これは、日本のメーカーがグリーン調達ガイドラインに沿わないパーツを採用しなくなったからだ。


■ 総論

 来場者の意見を聞くと、「なんでPC関係がこんなに少ないんだ?」という話と、「なんでDVDレコーダがないんだ?」という話があり、やはり「WPC EXPO」という旧World PC Expoの名前を引きずったリニューアルでは無理があるのではという気がする。

 それにしても日本人というのは、本当に小さいデバイスが大好きだ。会場を見渡してみても、大きくなって喜ばれるのはディスプレイだけで、あとはいかにしてポケットにすべてを綺麗に押し込むかという方向に向かっている。マルチメディアパソコンの時代が終わり、スマートデバイス時代の到来を予感させる。このままあと2世紀ぐらい経てば、日本国民総ドラえもん化も夢ではない。

 一つ予言をしておこう。今年はまだテレビを録画して云々というソリューションが、コンテンツ利用の姿としてなんの疑問もなく描かれている。これは現状の放送システムが、アナログ技術の上に成り立っているからだ。しかしデジタル放送の開始により、来年は少し違う方向へ逸れるかもしれない。コピーワンスのコンテンツの扱いは、どのメーカーもそれなりに準備はしているものの、どう出るかは何も決まっていないのが現状なのだ。

 コンテンツのデジタル化技術は、ユーザーに平等なクオリティを保証した。しかしその代償として、権利者には新たな恐怖と欲望を生み出した。今後AV分野は、新しい悩みの時代に突入することになるだろう。

□WPC EXPO 2003のホームページ
http://arena.nikkeibp.co.jp/expo/2003/
□関連記事
【リンク集】WPC EXPO 2003レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/link/wpc03.htm

(2003年9月24日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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