■ Panasonicの戦略を分析する 「モノを売る」という戦略には、一般人には思いもよらないノウハウがあるものだ。例えばスーパーでは、単にマグロを並べただけでは売れないのだという。ほとんど売れないのを承知の上で、ババーンと値の張る「上マグロ」をその上に並べておく。すると消費者は「上マグロはちょっとアレだけど並のマグロでも十分おいしそうだわ」という心理になり、売上が伸びるのである。 AV製品の売り方にも、これに似たところがある。値の張る最上位モデルを頂点に置くことで、その次のいわゆるバリューゾーン製品が俄然魅力的に見えてくるのである。もちろん最上位モデルは値段だけのハッタリでは困るわけで、高いからにはそれなりのクオリティが必要である。 9月1日に発売されたPanasonic DIGAの最上位モデル「DMR-E200H」(以下E200H)は、まさにその上マグロだと言えよう。標準価格198,000円。実際には16~7万円ぐらいで、ネット通販では12万円台で売られるようである。一方その下位モデル「DMR-E100H」(以下E100H)はオープン価格ながら、量販店の実勢価格は12~3万円といったところ。だが既にネット通販では、8万円台となっているショップも続出している。 E200HとE100Hの違いは、HDD容量増大、地上波EPG搭載、GR(ゴーストリダクション)搭載、ブロードバンドレシーバ内蔵、ジョグシャトルリモコン、DVDオーディオのマルチチャンネル再生対応、5.1chアナログ出力といったところ。確かにコストがかかる部分である。めいっぱいの機能を実装したフラッグシップモデル、E200Hの実力を早速試してみよう。
■ シンプルでわかりやすいパネルデザイン まずは全体的なフォルムから。パッと見た限りでは、下位モデルの100Hと違いがないように見える。だがよく見ると、E200HはE100Hを底上げしたように、一段高くなっている。真横から見るとよくわかると思うが、ボディの厚みをかなり感じる。
フロントパネルは上部がマット地のシルバー、下部がミラー張りと、高級感を演出している。従来のDIGAシリーズというよりも、それ以前のHS2的なキーワードを持つデザインだ。 前面には特徴的なSDメモリーカードとPCカードのデュアルスロット。本体スイッチ類は比較的シンプルで、必要最小限度のボタンという感じだ。どこかフタを開けると隠しボタンが、ということもなく、これで全部である。
DIGAシリーズの特徴は、同タイプの他社製品に比べて、操作がわかりやすいという点に尽きる。メニュー操作もさることながら、ボディの作りにもそれが現われている。 背面に回ってみよう。多くの端子はE100Hと共通だが、上部にはオーディオの5.1ch出力がある。またブロードバンドレシーバ機能に使用するEthernet端子は、底上げされた部分に付けられている。 E200Hのウリの1つであるジョグ・シャトルリモコンは、E200H専用設計となっている。いわゆる「スタイリッシュタイプ」と呼ばれ、すっきりしたE100HやE80H用のリモコンに比べると、ほんの少しオーガニックな形で、ボタンサイズも機能の重要度に対して差が付けられている。もちろん機能が増えている分だけボタンは増えているわけだが、使いやすさを優先した設計と言っていいだろう。
■ EPGの使いこなしがもうちょっと
E200Hの基本性能部分に関しては、すでに本サイトでE100Hのレビューがあるので、参考になるだろう。ここではそれに加えて、新機能などを中心に評価してみることにする。 まずGR(ゴーストリダクション)だが、「マニュアルチャンネル設定」で各チャンネルごとに「入・切」の設定ができる。ゴーストの影響を受けているかどうかは、画面を見ただけではわからない場合もある。特に近距離での反射波を拾っているようなときだ。「入」にしてコントラストが改善されるなら、入れておくべきだ。
GRが必要な人は、地上波を共同アンテナなり自前のアンテナなりで受信しているような人。難試聴対策として該当区域ではCATV化が進んでいるが、そういう人にはほとんど意味がないので、注意して頂きたい。
紙の番組表にない特徴としては、検索機能がある。ジャンル検索とキーワード検索だ。例えばジャンル検索では、「地上波映画」を選択すると、さらにサブカテゴリが選択できる。映画中心にチェックしている人には便利だ。 ただし検索してくれるのは、表示している日の番組表からのみで、せっかく1週間分のデータがあるのに、他の日の映画は拾ってくれない。まあ「翌日」ボタンを押せばまた検索するのだが、検索したら1週間分ぐらいは一覧で見たいというのが人情だろう。
もう1つのキーワード検索は、自分で任意のキーワードを入力して検索する方法。具体的には好きなタレントなどを登録しておく、という使い方になるだろう。しかし変換エンジンが人名を得意としていないらしく、「中尾彬」の「彬」が変換できない。いや筆者が個人的にどうしても中尾彬を検索しなければならない理由はどこにもないのだが、PanasonicのEPGの扱いはまだまだこれから、といった気がする。
録画番組の視聴という点では、DIGAシリーズには各番組のレジューム再生という機能がない。例えばある番組を途中まで見て、寝るなり出かけるなりするとしよう。映画など長い番組ではよくあるシチュエーションだ。そして次の機会に、こないだの続きから見ようと思っても、番組を選んだだけで最初から再生となってしまうのである。 混乱を避けるために、あえて実装していないという考え方もできる。だが、そのあたりを不便に感じる人もいるだろう。ただし、任意のポイントで設定できる「マーカー」機能を使えば、次に見るときにマーカーまでジャンプすることはできる。
■ 強化されたケータイとの連携
対応キャリアはNTTドコモ、J-フォン、au、TUKAで、当然それぞれiモードやJスカイ、EZwebなどに対応している端末が必要となる。筆者は四六時中家にいて仕事しているので、これらの機能のありがたみがまったくわからないのだが、お勤めの方にとっては計り知れない便利さであるという。E200Hにはあらかじめこのレシーバが内蔵されているが、外付けのレシーバも16,000円前後で手に入るようだ。 携帯電話を使った機能と言えば、MPEG-4同時録画機能はケータイファンにはようやく、といった感じだろう。予約録画時にMPEG-2で録画すると同時にMPEG-4でも録画しておき、それをSDメモリーカードに転送できる。転送したムービーをケータイなり同社の「D-snap」なりで見よう、というソリューションである。
画質からすれば、最低でもFでは録りたいところだ。だがそうなると、映画でも見ようと思ったら512MBぐらいのSDメモリーカードは必要になるだろう。また某ケータイの巨匠にお伺いしたところ、ケータイでの動画再生は、画面サイズやCPU性能から、FOMA機ぐらいは必要だろうということ。PanasonicにはD-snapもあるが、SONYがMPEG-4ビューワーを発表したように、D-snapもそろそろ新モデルが欲しいところだ。 最後にジョグ・シャトルリモコンをチェックしてみよう。リング状の部分を回すとシャトルに、中央のダイヤルを回すとジョグになる。これは主にプレイリストを作ったりMPEGを部分削除したりする際のポイント探しに使うものだ。 従来機ではすべてボタン操作であったため、こういう作業に慣れない人には使い辛かっただろう。ワイヤードのリモコンならともかく、赤外線でリアルタイムな制御はなかなか難しいものだが、この点はなかなか健闘している。厳密には指のアクションに対して映像の反応が多少滑る感じはあるものの、ヤケになってグリグリ回さない限り、許容範囲の動作だろう。 ダイヤルの作りだが、シャトル部には表面2カ所に滑り止めがある。しかし実際にはリング部の外周をつまんで回すことになるため、あまり滑り止めが役に立たない。同様にジョグダイヤルも、表面に突起状の滑り止めがあるが、これもあまり引っかかりがなく滑りやすい。 もう1つ指摘しておきたいのが、ジョグの画面表示だ。ステータスはポーズになっており、ダイヤルを回しているときにちゃんと進んでいるのかがわかりにくい。特に映画など黒フェードから始まる部分では、映像もガイドにならないため、ちゃんと動作してるのか確認できない。
■ 総論 E200Hは、トータルで見れば今まで欲しかった機能のオールインワンモデルであると言える。すべてにおいて満足いく製品が欲しい人にはぴったりだろう。 だが冷静になって考えてみれば、環境さえ整えばE100Hでも十分かもしれない。どうしてもケータイから予約したければ別途ブロードバンドレシーバを買えばいいし、ゴーストが出て大変というのであればもう地元のCATVに入った方が確実だ。5.1chアナログ出力は、DVDオーディオを聞かない限り、光出力でAVアンプに繋げば問題ないし、HDD容量が少ないのはこまめにDVD保存すればカバーできる。 そうなると絶対的な差は、EPGとジョグ・シャトルリモコンだけになってしまう。ということは、E200Hの「上マグロ感」といい、E100Hの落としどころといい、まさに商売としては絶妙と言える。製品としてのE200Hの魅力は、全部入りの「値頃感」がどれだけあるか、ということになるだろう。15~6万円ならまだE100Hに魅力を感じるが、12~3万円なら、もうE200Hイットケという話になる。 先週今週と、DVDレコーダ業界にはPioneerやSONYから新たな刺客が大量に送り込まれてくることが判明した。一足早く豪華ラインナップ戦略でリードしたPanasonicだが、次のボーナス商戦までこれで逃げ切れるのか。まさにDVDレコーダ業界は、血で血を洗う決戦の火ぶたが切って落とされようとしている。
□松下電器のホームページ
(2003年9月10日)
[Reported by 小寺信良]
|
|