エプソンのカジュアルユーザー向け液晶プロジェクタ「EMP-TW10」は、標準価格168,000円と安価で、量販店では13万円前後で販売している例もある。今回はこの低価格モデルの実力を検証した。
■ 設置性チェック~100インチを最短2.6mで投写
投写モードはフロント、リア、天吊り、台置きの全組み合わせに対応。天吊り設置時には、メーカーオプションの「ELPMB11」(5万円)が利用できる。なお、天井の高さに応じたオフセット・パイプ(1万円)も組み合わせ可能だ。 パッケージには、EMP-TW10本体に接着可能なゴム足が付属。これを本体上面に取り付け、天地を逆にして本棚などに設置すれば、疑似天吊り設置が難なく行なえる。奥行きが小さく、重量も軽いため、疑似天吊りには適したモデルといえよう。 底面前部の左右に無段階フットアジャスタを装備する。打ち上げ角度は低く、映像の最下端がレンズ中央になるため、スクリーンを高めに設置している場合はプロジェクタの位置も自ずと高くなる。
フットアジャスタを使って上向き投写した場合、画面は台形に歪んでしまう。デジタル台形補正機構があるので補正は可能だが、補正角度が大きいほど画質は劣化する。補正は垂直方向のみで水平方向には未対応。よって、斜めからの投写は行なえない。
投写レンズは光学1.54倍ズームレンズを採用。ズーム比が大きい上に短焦点で、最短2.6mから100インチ(16:9)投影が可能。本機のキャッチコピーは「6畳部屋で100インチ」となっているが、たしかにそれも実現できる。ズームとフォーカスの調整は本体上面前部のツマミで行なう。ただし、疑似天吊りにするとツマミの位置は下になるので、操作性は悪くなる。 ファンノイズはランプパワーが「HIGH」モードでも、プレイステーション 2(SCPH-30000、以下PS 2)よりも小さい。「LOW」モードならばさらに小さくなる。このクラスとしてはトップレベルの静音性といっていい。 光漏れも皆無に等しく、本体設計は優秀だ。ランプはユーザー交換が可能。交換ランプ「ELPLP25H(132W UHE)」は標準価格25,000円。価格はこのクラスとしては平均的だ。
■ 操作性チェック~電源ON後、わずか22秒で映像投影開始 電源ON後約6秒後にEPSONのタイトルが現れ、その約16秒後に投写映像が現れる。合わせて約22秒後に映像が投写できる。これは最近の機種のなかでもかなり早い部類に属する(いずれも実測)。 リモコンはボタン電池(CR2025)を使ったカードタイプで、本体の背面左側のスリットに収納できる。リモコン受光部は本体の前面と後面にあり、レスポンスは良好。ただし、リモコンには発光機能がなく、各ボタンの大きさや配置も均等に並んでいるだけなので、暗がりで操作するのはかなり難しい。
入力切り替えは2ボタンを使っての操作となる。1つのボタンはPC入力とコンポーネントビデオ入力、もう1つはSビデオ入力とコンポジットビデオ入力の切り替えに対応する。1ボタンで全入力を順次切り替えするよりも効率が良く操作できる。切り替えに要する時間はコンポーネントビデオ→Sビデオが約2.2秒、PC→コンポーネントビデオが約3.0秒と、速度は標準的(いずれも実測)。 アスペクト比の切り替えは[ASPECT]ボタンによる順送り。切り替えの所要時間はゼロに等しい。アスペクトモードは、「ノーマル」(4:3)、「スクイーズ」(16:9)、「ズーム」(4:3画面の中央16:9部分を切り出して拡大)の3モードになる。なお、切り替え操作を連続的に行なった場合、途中のアスペクトモードを省略し、最終的に選択されたモードに直接切り替えられる。不用意に画面が点滅したりするのを回避することができ、操作感覚としても小気味よい。 色調モードの選択は[Color Mode]ボタンによる順送り方式。切り替え時間は約1秒(実測)。連続的に切り替えた場合のインターフェイスはアスペクト比切り替えと同様。「明るさ」、「コントラスト」、「色の濃さ」、「色合い」、「色温度」、「肌の色調整」、「シャープネス」が用意されている。「色温度」は低・中・高の3段階切り替え方式。「肌の色調整」は緑色成分を増減しているようだが、シネマモードになっている場合、光学フィルターの「シネマフィルタ」が効くので必要性はあまり感じられない。 なお、色調モードのパラメータ値は、ユーザーメモリ1、2のいずれかに記憶でき、リモコンの[MEMORY]ボタンで順送りに呼び出せる。
■ 接続性チェック~主要映像入力端子は一通り装備
ビデオ映像は480i/480p/1080i/720pに対応。パネル解像度はそれほど高くないが、主要ビデオフォーマットに対応している。PAL/SECAMへの対応はもちろん、国によって異なる黒基準レベル(セットアップレベル)の調整も可能。海外ソフトを多く所有するユーザーには嬉しいポイントとなるだろう。
ステレオ音声入力を1系統持つが、本体内蔵の1Wモノラルスピーカーから音が出るだけで、AVシステムに活用することは前提とされていないようだ。
■ 画質チェック~正確な階調表現。ただし画素間の格子が目に付く
パネル解像度は854×480ドット。いわゆるVGA解像度の640×480ドットを横に拡大したイメージだ。実際に4:3の映像はパネルの中心の640×480ドット領域に表示される。液晶パネルは0.55インチポリシリコン透過型。解像度、パネルサイズともに、前回紹介した日立製「PJ-TX10」と同スペックだ。 パネル解像度が高くないこと、そして画素間の隙間(ギャップ)が大きいために映像には粒状感がある。特に中明色の単色系領域で目立つ。大画面にすればするほど隙間が目立ち、100インチ程度に拡大すると、粗い布に投影しているようなザラっとした映像になる。短焦点レンズを実装してはいるが、緻密な映像を楽しみたいなら、画面サイズは60インチ程度までにしておくべきだろうか。 コントラスト比は700:1。透過型液晶パネルを採用したプロジェクタとしては優秀な部類に属する。実際の投写映像を見てみても、明部に対する暗部の沈み込みのバランスが良好で、うまくチューニングされている印象を受ける。階調表現も正確で、暗部から明部へのグラデーションもバンドが出ずにリニアな表現となる。階調ディテールはかなり正確に出ると見ていい。色深度も深く、カラーグラデーションもマッハバンドは見られずなだらかで美しい。 プリセットの色調モードは用途別に「ダイナミック」、「リビング」、「シアター」、「シアターブラック」の4タイプを用意している。色調モードを「シアター」、または「シアターブラック」にすると、本体内部で「シネマフィルター」が投写レンズに組み合わされ、緑色が強く出る高圧水銀ランプの特性を自然な色合いへと調整してくれる。この効果は絶大で肌色の発色もかなり自然になる。
■ まとめ
同価格帯、同スペックのPJ-TX10とで、どちらを購入しようかと悩んでいる読者もいるかもしれない。ここで両機の特徴を整理してみよう。
まず設置性について。投写距離については同等だが、レンズシフト機能がある分、PJ-TX10の方が設置自由度は高い。ただし、天吊りなど、常設を考えているユーザーにはほとんど無視できる要素だ。接続性については同等。入力端子の系統数や種類は同じ。
明るさはEMP-TW10の方が体感的にも明るい。うまく遮光できない環境なら、EMP-TW10の方が良いだろう。発色については、青緑が強く出るPJ-TX10よりも、シネマフィルターを組み合わせられるEMP-TW10の方が圧倒的に自然だ。プログレシップ化ロジックについては、PJ-TX10の方が優秀で、あらゆるビデオソースのインタレース映像も美しくプログレッシブ化する。
筆者の印象としては、設置の自由度を重視し、アナログビデオソースの再生頻度も高いならばPJ-TX10、プログレッシブDVDプレーヤーをつないでDVDビデオ鑑賞がメインならばEMP-TW10、といったところだ。
□エプソンのホームページ
(2003年10月2日) [Reported by トライゼット西川善司]
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