日立製作所は同社初のホームシアター向け液晶プロジェクタ「PJ-TX10J」を発表、8月下旬より出荷を開始した。既に実売価格は16~17万円台となっており、コストパフォーマンスの高さから、カジュアルユーザーからの注目度も高い。今回は,このPJ-TX10Jを評価してみたい。
■ 設置性チェック~上下左右にレンズシフトが可能
天吊り金具の純正オプション設定は無し。しかし、投写モードとしては上下反転、左右反転、上下左右反転を備えるため、台置き設置以外に、リア投影、天吊り設置の全ての組み合わせに対応する。本体上面は比較的フラットなので、ホームセンターなどで市販されているゴム足などを貼り付け、本棚の最上段に上下逆さで設置する疑似天吊り設置も可能だろう。 本体にチルトスタンドはないが、前足2本がフットアジャスタ付きなので、回転方向への補正は可能。また、フットアジャスタを伸ばすことで仰角も調整できるが、仰ぎ過ぎると台形補正が必要になる。垂直方向の台形補正が可能だが、デジタル補正なので映像情報の劣化は免れない。 もっとも、たとえスクリーンが上の方にあったとしても、レンズシフト機能が搭載されているので、仰ぐように投写する必要性はないかもしれない。レンズシフトは上下のみならず、左右にも可能。投写映像を形を歪まさずに上下左右に移動できる。上下左右のレンズシフト機能は、三洋電機のLP-Z1、LP-Z2以外では、業務用の上級機でも採用例は多くない。このレンズシフト機能こそが、PJ-TX10Jにおける「最大の特徴」といっていいだろう。
シフト量は左右方向に75:25~25:75の範囲、上下方向には100:0~0:100の範囲で行なえる。水平方向の台形補正機能はないが、左右方向のシフト機能を最大限に活用すれば、台形補正なしに斜めからの投写が行なえる。
レンズは光学2倍ズームと倍率が高く、しかも100インチ(16:9)の最短投写距離が2.6mという短焦点性能も持ち合わせている。これは最近の競合機と比較してもトップクラスだ。まさにホームシアター用プロジェクタに適した光学性能を有している。 フォーカス、ズーム及びレンズシフトの各調整は手動式で、回転ツマミを回して行なう。フォーカスとズームはそうでもないのだが、レンズシフトのツマミが堅く、力を入れれば入れたでガクンと回りすぎてしまうため微調整が難しい。操作感がちょっと安っぽいのでこのあたりは改善が必要だろう。 ファンノイズは、ランプ動作モードを「静音モード」に設定した場合はプレイステーション 2(SCPH-30000、以下PS2)より静かだが、「標準モード」ではPS2よりも騒がしくなる。 光漏れは本体前面と側面にある吸気/排気スリットから若干あるが、投写映像に影響が出るほどではない。ランプ交換は本体底面からユーザー自身で行なうことができ、交換ランプ「DT0611」の価格は25,000円。ランニングコストはこのクラスとしては標準的だ。
■ 操作性チェック~電源投入後、約30秒で投写を開始
リモコンのボタンは蓄光式を採用。使用頻度の高い入力切り替えについては、独立ボタンが設けられている。現在入力中のソースを検出する[SEARCH]ボタンもある。 入力切替の所要時間(実測)はSビデオ→コンポーネントで約4秒、コンポーネント→Sビデオで約2.7秒となった。新機種にしては若干遅めだ。 アスペクト比切り替え操作は[WIDE]ボタンを押すことで順送りで切替られる。所要時間は、ビデオ系は0秒に限りなく近いのだが、アナログRGB入力時は約10秒(実測)もかかる。なお、色調モード(ガンマモード)の選択、そしてユーザーメモリの選択も独立ボタンで呼び出しが可能だ。 使用頻度の高い選択項目については、独立した専用ボタンで直接調整できる。しかし、ボタンの大きさ形状が一様で配置も整然としているので、指であたりを付けながら押すのが難しい。ぜひとも後継機にはボタンを自発光させるか、リモコンのボタンに「AV機器らしいかっこよさ」を演出してほしい。 投写する映像のタイプに適した色調モードは、「シネマ」、「ダイナミック」、「ノーマル」のプリセットプログラムが3つ、ユーザー定義が可能な「カスタム」が1つ用意されている。この色調モードは実際には、投写映像のガンマ補正を調整するもので、「カスタム」では、ガンマ係数、色温度、RGBごとの出力バランスに対し、ユーザー設定が可能になっている。 「色の濃さ」、「色合い」、「コントラスト」、「明るさ」などの、一般的な画調パラメータはマイメモリー機能を使って4つまで記憶できる。こちらも、独立ボタンで任意のマイメモリーを呼び出せる。 1つ留意すべきなのは、前出のガンマの「カスタム」と、マイメモリーは全く独立管理という点だ。整理するとガンマモード4個×マイメモリ4個で、結局16個の組み合わせを選択できることになる。 リモコン受光部は本体前面にしかないので、リモコン操作はリモコンをスクリーンに向け、赤外線信号をスクリーンに反射させて行なうことなになる。ただし、受光感度そのものは悪くない。むしろ問題は、メニュー操作そのものの遅さにある。メニューが出てくるまで1秒ほど待たされ、メニューカーソルの移動もモタモタしている。もうちょっと小気味よく動くと使いやすいのだが……。
■ 接続性チェック~ビデオ系、PC系の双方に対応
アナログRGB端子は、別売りのアナログRGB-コンポーネントビデオ変換ケーブルを用いることでコンポーネントビデオの入力も可能とマニュアルにあるが、純正オプションとしては設定されていない。 ステレオ音声入力端子も2系統もっており、1系統はアナログRGBに、もう1系統はビデオ系端子と連動する。入力はステレオだが、本体内蔵のスピーカーはモノラル。AVユーザーが本格的に常用することはないだろう。
D-sub9ピンのRS-232C端子は制御用で、PCから画調パラメータを変更したり、入力切り替えを行なったりすることができる。
■ 画質チェック~16:9の854×480ドット液晶パネルを採用
映像エンジンは0.55インチ型透過型液晶パネルを3枚使ったもの。日立製作所製ということでLCOSパネルを期待したファンもいたかもしれないが、本機はレガシーなエンジンを採用している。パネル解像度は854×480ドット。640×480ドットパネルをアスペクト16:9に横方向に拡大したサイズだ。 映像を見てみると、解像度が高くないことと、画素間の隙間が大きいこともあり、100インチクラスまで拡大して投影すると全体的に粒状感が漂って見える。誇張していうならば、木綿の布に投写したような感じだ。上手くアンチエリアス処理されているので目立ったジャギーは見えないが、高輝度色の単色面でこの格子感が強く出る。もちろん、これは今回、100インチサイズで投影したためで、60インチ以下で投影した場合はそれほど気にならない。また、大画面投影すればするほど、各画素は上方向に色ずれが大きく出る。 コントラスト比は800:1。このクラスの透過型液晶モデルとしてはかなり高い値だ。黒の沈み込みも透過式にしては良好で、いわゆる黒浮きも驚くほど抑えられている。スターウォーズ エピソードIIのような宇宙戦闘シーンの場面でも、宇宙は黒く、レーザーや爆発などの閃光は明るく、画面全体としての表現力の幅、ダイナミックレンジは非常に高い。 階調性は正確。漆黒から最大輝度白へのグラデーションは非常になだらかで美しい。明色系では色グラデーションでマッハバンドが目立つようなことはなく、色深度は深めだ。しかし、暗色系では上級機に比べると、ダイナミックレンジが狭め。暗いシーンでは色バンドが時々見えることもある。 色温度はK(ケルビン)指定ではなくて「高・中・低」の3段階で指定するタイプ。「高」ではかなり色合いが水色っぽくなり、映像鑑賞なら「中」か「低」がお勧めだ。なお、「中」は白が純白に近くなり、「低」ではかなり赤みを帯びる。 前述の通り、鑑賞映像ジャンル別のプリセット色調モードは「シネマ」、「ダイナミック」、「ノーマル」の3つ。
いずれのモードでも、色は若干緑が強く出る傾向にあるので、暖かい人肌を求めるならば色補正で緑を少し抑えるといい。 好みはあると思うが、ガンマ値を2.2、色温度調整をユーザー設定にしてR100/G80/B90、色の濃さをR+0/G-5/B±0のように、緑をやや押さえ気味に調整するとクセが軽減される。ただし、引き替えに、白が赤みを帯びるようになる。
■ まとめ~荒削りな部分は高いコストパフォーマンスでカバー
実際に使ってみて気になったのは、やはり画素格子の太さだ。100インチ程度に拡大すると、画素間の隙間が良く目立つ。解像度が低い場合の透過型液晶の宿命なので、導入する際にはそのあたりをあらかじめ納得しておくか、このアラが目立たない画面サイズで活用するのがいいだろう。
画質に関して付け加えるならば、プリセット状態では色にクセがかなりある。ユーザー調整の範囲内ではあるが、テレビメーカーでもある日立の製品だからこそ、もう少しチューニングを詰めて貰いたかった。
活用面で気になったのは、ユーザー設定を記憶しておく「マイメモリ機能」について。画調パラメータは記録できるが、「プログレッシブモード」、「VIDEO NR」、「3次元YC分離」といったパラメータが記録されない。そればかりか、「プログレッシブモード」については、入力系統ごとの設定記憶も不可能。「プログレッシブモード」をSビデオ端子入力では「TV」、コンポーネントビデオ端子入力では「フィルム」といった活用を許してくれないのだ。
実売価格16~17万円という低価格モデルであることを考えれば、PJ-TX10Jのコストパフォーマンスの高さには文句の付けようがない。854×480ドットパネルは解像度的には決して高くないが、DVDビデオ再生を第一に考え、原信号至上主義のAVユーザーには訴求力も高いはずだ。レンズ以外の部分にももう少しチューニングが進めば、このクラスで最も競争力の高い製品になるだろう。
□日立のホームページ
(2003年9月12日) [Reported by トライゼット西川善司]
|
|