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第118回:ポータブルHDDオーディオの音質をチェックする
~ その1:測定方法を検討する ~


 iPodをはじめとする、HDD搭載型MP3プレーヤーが各社から発売され始めた。それらの音質がオーディオ的にどうなのか気になったことはないだろうか。また、HDD搭載型に限ったことではないが、ポータブルプレーヤーの音質を測定するにはどうしたらいいのだろうか? 今回は、その方法を考えてみたい。


■ ポータブルオーディオ機器の音質を探るには?

 HDDにMP3やWMA、AAC、WAVといったオーディオデータを収録し、それを持ち歩いて再生するタイプの製品がいろいろと出ている。HDDの直径がどんどん小さくなっていることもあり、こうしたプレーヤーもかなりコンパクトになってきた。筆者も雑誌などのレビューで「iPod」、「gigabeat」、「NOMAD Jukebox Zen」を試用したが、モノによってユーザーインターフェイスは結構違うし、PC側での操作にもある程度の違いがある。

 もう1つ気になるのは、やはり音質だろう。さすがにノイズがヒドイというほどではないが、それでも低音が弱く聞こえたり、どうも音の抜けが悪く感じたりと、モノによっていろいろだ。また、シリコンタイプのポータブルプレーヤーや、CDプレーヤー、MDプレーヤーなどにも同じことがいえる。とりあえずはHDDタイプのMP3プレーヤーに絞り、音質の違いを検証してみたい。

 考えてみると、雑誌のレビューなどで「音の抜けががいい」とか、「低音が弱い」とか、言葉の上での表現は見かけるものの、音質を何かしらの方法で測定したデータについて見かけることはほとんどない。測定そのものが難しいのは当たり前で、最終的な音質には様々な要素が絡み合っているからでもある。具体的に考えてみると、

  • 音声圧縮フォーマット(WAV、MP3、WMA、AACなど)やエンコードエンジンの違い
  • プレーヤー側のデコードエンジン性能の違い
  • ヘッドフォンアンプを含むアナログ回路性能の違い
  • ヘッドフォンそのものの違い
 などなどのパラメータが掛合わさった結果、最終的な耳に届く音が作り上げられている。

 その1つ1つの過程を追っていくという方法もあるだろうが、一番気になるのは最終の出音がどうなのか。そこで、途中の細かいことは無視して、最終的な音がどうなのかだけを着目した性能テストを行ってみたい。ただし、最後のヘッドフォン性能については、付属のヘッドフォンを別のものに交換することが可能なので、ここでは無視し、最終的に出力されているオーディオ信号を測定することにする。

 そこで、当連載で行なったMP3やWMAなどの性能比較と、オーディオインターフェイスの性能比較で行なった方法を織り交ぜた方法でいきたいと思う。具体的には、まず-6dBのサイン波を生成し、MP3などの圧縮オーディオへエンコードする。それをポータブルプレーヤーへ転送して再生、ヘッドフォン出力からPCへとアナログで取り込み、その結果を測定する。


■ エンコードビットレートを決める

 とはいえ、これだけでも、MP3ならどんなエンコーダを用い、ビットレートはいくつにすべきなのか、ヘッドフォン出力を取り込むとなると、インピーダンスやレベルのミスマッチングが起きないか、音量レベルの設定はどうすべきなのか、さらにはPCでの取り込みにどんなオーディオインターフェイスを使うのかなどなど、検討すべきことは多い。

 まず、今回はオーディオインターフェイスに、これまでこの連載でテストしてきた中で、良い結果となったEDIROLの「UA-1000」を使う。そして、プレーヤーからUA-1000へはミニジャックのヘッドフォン出力をUA-1000のラインインに接続。

 これではレベルなどが調整しにくいが、方法はある。まず、プレーヤー側は基本的に真ん中あたりのボリュームレベルを設定しておく。そして、-6dBのサイン波を再生させるわけだが、これをUA-1000で取り込んだ結果が、ほぼ-6dBになるように調整すれば、マッチングはとれるはずだ。実際に試してみたところ、かなりキッチリとレベルを合わせることができ、取り込んだ音を聞く限り歪みなどは感じなかった。

 次にデータフォーマットについて。基本的にエンコーダに用いるソフトは、ハードウェア添付のアプリケーションを利用する。また、そうしたアプリケーションがない場合には、MP3なら標準のFraunhofer IIS-Aのエンコーダを、Windows Media AudioならWindows Media Player 9のエンコーダを用いてエンコードする。ソースにするデータはすべて16bit、44.1kHzのステレオデータと決めた。やはり実際の用途を考えるとCDからのダイレクトエンコードがほとんどであろうから、この形式にするのが無難だと思われる。これは圧縮なしのWAVファイルの場合も同様だ。

 しかし、問題はMP3やWMAのビットレートだ。MP3の場合128kbpsが標準といわれているが、HDD容量が大きくなった今、音質を上げようと160kbpsや256kbpsなどを利用する人も増えている。もちろん、反対に容量を稼ぐため64kbpsや96kbpsに設定している人もいるかもしれない。以前、どの音質が最適なのかという実験を行なったが、ここで改めていくつかのビットレートを設定して、その周波数のスペクトラムについて分析してみた。

 素材に使ったのは、単純なサイン波ではなく、CDとして発売されている曲を利用している。またこの実験では、ポータブルプレーヤーを経由してUA-1000で取り込んだ信号ではなく、オリジナルのCDからMP3やWMAにエンコードしたダイレクトのデータだ。

【オリジナル】
オリジナル(WAVE)

【MP3エンコード結果】
64kbps 96kbps 128kbps
160kbps 192kbps 256kbps

 この結果は、20秒の曲データを分析したもので、赤は20秒間のピーク値を示し、青は最後の3秒間の平均値を示している。非圧縮のオリジナルでは最高22.05kHzまでコンスタントに音が出ているのがわかるだろう。また青のラインに注目すると、MP3の場合、64kbps、96kbps、128kbpsと確実に向上するが、128kbpsを越えるとほとんど変化していないことが確認できるだろう。

 赤のラインで192kbpsや256kbpsで高域が出ているのが確認できるが、演奏させながらグラフを表示させると、常に16kHz以下の音しか出ていない。しかし、時々それよりも高い周波数が瞬間的に出るためピーク値ではこのような表示になっているのだ。実際に音を聞いてみても128kbpsと256kbpsでは、ほとんど違いを感じられないものとなっている。

【WMAエンコード結果】
64kbps 96kbps 128kbps
160kbps 192kbps 256kbps

 一方のWMAでは、64kbpsから256kbpsまで少しずつ高域が伸びていっている。聞いてみると、やはり128kbps以上でそれほどの違いは感じられないが、気のせいか192kbps、さらには256kbpsにすると、より良い音になっているような感じもある。

 では今回、どのビットレートを選ぶべきか? まずMP3においては、やはり間違いなく128kbpsを選ぶのが正解だろう。一方のWMAだが、最高音質という面では256kbpsということになるが、多くの人が使うであろうWindows Media Player 9では128kbpsがデフォルトで192kbpsが最高となっている。ここでは、MP3もWMAもエンコードにSONYの「SoundForge7.0」(先日、SonicFoundryからSony Picture Digitalが買収した)を用いているので256kbpsでのエンコードができたわけだが、今回の実験においては192kbpsで試してみたいと思う。

 なお、このグラフはefu氏作成のフリーウェア「WaveSpectra」を使っている。このWaveSpectraはこれまで何度も使ってきたソフトだが、Windows XP環境などで使うと多少不具合があった。しかし、10月4日にほぼ3年ぶりのアップデートがあり、Ver.1.3となったことで不具合が解消、さらにASIOドライバに対応するなど機能もアップしている。せっかくなので、今回は新バージョンを使ってみたい。また、この実験で用いるサイン波やスウィープ信号は、WaveSpectraの姉妹ソフト「WaveGene」を使う。これも同じく10月4日にアップデートされている。

 さて素材の方が固まったところで、実際の実験方法だが、前述した通り-6dBの信号を用いてレベル設定した後、無音のデータを再生してどの程度のノイズがあるのかを調べてみる。次にそのサイン波のスペクトラムがどうなっているのかをWaveSpectraで分析する。そして、スウィープ信号を流し、信号レベルの減衰状況などを確認する。これらの手法は、オーディオインターフェイスの特性を調べたときと似ている。

 そして、先ほど試した音楽データをアナログ経由でUA-1000で取り込み、周波数分析にかける。

 試しに、手元にあったNOMAD Jukebox Zen NXで実験してみた。今回は仮の実験ということで、非圧縮のWAVを使って行なった。その結果は以下の通りである。

【Nomad Jukebox Zen NXの測定結果】
無音状態のノイズ サイン波のスペクトラム
スウィープ信号 楽曲の録音・再生

NOMAD Jukebox Zen NX 30GB
 簡単に見ていくと、まず無音信号の再生時のノイズレベルはレコーディングに使ったSoundForgeで示している。実は最初16bit/44.1kHzでレコーディングしたのだが、16bitという分解能では、小さい信号のレベルを捉えにくかったため、24bitでレコーディングした結果、ノイズをハッキリと捉えることができた。一方、レベル調整にも用いたサイン波をスペクトラム分析したところ、高調波、低調波といった感じのものはなかったが、全周波数帯に微弱なノイズが乗っていることがわかる。

 さらに、スウィープ信号の結果を見ると、こちらはほぼフラットであるが、よく見ると周波数が高くなるにつれ、音量が微弱に落ちてきているということがわかるだろう。最後に実際の音楽を再生・録音した結果だが、これを見る限りはオリジナルともそう大きな違いはないようだ。

 今後、これらの指標を使って、NOMAD Jukebox Zen NXをはじめ、iPodやgigabeatなどをHDD搭載ポータブルオーディオの比較を予定している。ただし、次回は、実際の機器で実験をする前に、身近なオーディオ環境を用いて、それらの性能について、同じ実験を使って比較する予定だ。

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【7月14日】ついに登場したUSB 2.0オーディオインターフェイス ローランド「UA-1000」をテスト
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030714/dal108.htm

(2003年10月6日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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