今回のCESでは、大画面関連の発表が数多く行なわれた。今回は、その話題を取りあげるが、米国市場を反映してか、ほとんどがリアプロジェクションHDTV製品だ。
■ TIは、新DLP技術を大々的にプレゼンテーション DMDチップを使ったDLP方式の映像エンジンの本家本元であるTexas Instruments(以下TI)のブースでは、発表されたばかりの新DLP技術のプレゼンテーションが大々的に展開された。
キーワードのみが先行し、その実態がさっぱりわからないことが多いTIの新技術。ブース内のTI関係者も十分理解できていない様子で、説明を聞いているうちにTIスタッフ同士が議論を始めてしまう状態。そんなわけでTIブース内を駆け回って集めて整理したのが以下の情報だ。なお、TI関係者ですら理解できていない部分もあり、一部筆者の推察も含んでいる。
一言で言えば、DLP方式の映像を最大コントラスト比5,000:1にまで引き上げる技術。 リアルタイム3Dガンマ的なリアルタイムフレーム相関信号処理と、DMD素子の駆動方式を連携させて動作させることで、見かけ上のコントラストを引き上げることができる。 同種の高画質化技術は映像機器メーカー側で現行製品に既に組み込んでいるが、DMDチップ開発元がDLP高画質化に切り込んだものであるため、寄せられる期待は大きい。
●Dark Chip2
●Smooth Picture
●HD2+パネル
●HD3パネル
なお、こちらはDark Chip2技術とSmooth Picture技術の双方が組み合わされたものになる。
●xHD3パネル
それではHD3パネルの方の存在価値はどこにあるのだろうか。Smooth Picture効果が最大のメリットであることは明白である。それ以外にもHD2/HD2+チップと比較して、そのサイズが小さいことも利点だとTIは説明する。 チップサイズが小さいことはDMDチップそのものの低コスト化が実現でき、また映像素子が小さければ映像エンジンの小型化に結びつけられる。映像エンジンを小さくできれば今度は製造コストが低減できるようになり、最終的にはその製品そのものを安くできるようになる。 DMD3板式のDLPプロジェクタも、TI関係者は「HD3パネルならば民生用も可能かも」と推測するほどで、DLP映像デバイスの次期主流となることは間違いない。 TIブースには、早速だが、サムスンが試作したxHD3チップを採用した単板式1,920×1,080ドットのリアルHD対応のリアプロHDTVが展示され、来場者からの熱い視線を浴びていた。写真撮影は許可されたものの、画面サイズが61インチであること以外のスペックは、現時点では一切未公開だった。
コントラスト性能は、展示会場の照明の影響や表示映像のクオリティの問題もあり、残念ながらDynamic Black技術が提供する5,000:1か実現できているかどうかの判断はできなかったが、「かなり高そう」という手応えはあった。 解像感は表示映像ソースの品質が今ひとつであったこともあり、1080pリアルがもたらす高精細性は実感できなかったが、発色は良好。ただし、暗部階調部では例によって単板式ならではの荒れが見られた。スポーツ中継などの明るい映像を見るだけならばこれでいいだろうが、映像鑑賞となると、もうちょっと暗部階調の再現性の詰めが必要だろう。
HD3パネル、xHD3パネルの量産は今年第3四半期以降からの開始とのことで、採用製品の登場は早くて年内ぎりぎりといったところだろうか。
【1月9日】TI、リアプロジェクションテレビ用のDLPチップ -コントラスト向上技術を搭載したフルHD対応のxHD3など http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040109/ti2.htm
■ ビクター、D-ILAを使って3板式DLP相当の映像を作り出す
「D-ILA」(Direct-Drive Image Light Amplifier)チップとは、ビクターのオリジナルLCOS(Liquid Crystal on Silicon)タイプの反射型液晶素子だ。今回発表されたリアプロTVは、新開発の1,280×720ドット解像度のD-ILAチップを採用する。 これまで、ビクターはアスペクト比4:3のD-ILAチップの上下をマスキングして、アスペクト比16:9の映像エンジンを構成していた。しかし、今回発表されたリアプロTVに採用されているD-ILAチップは対角大0.7インチサイズの1,280×720ドット解像度のチップを使用しているという。 特に画期的だといえるのが、色階調表現をDLP(Digital Light Processing)プロジェクタや、プラズマTVのように完全なデジタル駆動制御にした点。D-ILAでも透過型液晶でも、これまで、液晶素子を活用した映像素子は、液晶材質の旋光性を応用して光の明暗を表現していた。液晶にかける電圧を加減することで液晶の曲がり方を制御し、いわばアナログな明暗が作り出されていたわけだ。 一方、DLPプロジェクタやプラズマTVでは各画素が表現できるのは黒か白かのどちらかだけ、すなわちデジタルであり、単位時間当たりに何回明滅させるかによって明暗を作り出している。これがパルス駆動の明暗表現であり、時間積分的に明暗を作り出していることになる。 今回発表されたD-ILAチップは、この考え方の駆動に対応したものだ。とはいえ、画素をパルス駆動する事に特化してデザインされたナノサイズ電磁メカのDMDとは違い、D-ILAは結局のところ液晶素子である事実は変わらない。だからこそ、液晶素子でナノ秒オーダーのパルス駆動は困難なはずだ。この部分については独自開発した駆動回路側の工夫で、現在の試作製品レベルの映像に追い込んだのだという。 D-ILAをわざわざDLPライクにパルス駆動にするメリットはどこにあるのか? 1つは、完全デジタル化された現行の映像信号と高い親和性があるという点だ。たとえばDVDやデジタルテレビのMPEG映像は、最終的にはフレーム単位でデジタルなRGBデータに変換される。このRGBデータがHDMIやHDCP-DVIで映像表示機器まで伝送される場合、表示方式もデジタル(パルス)駆動なほうがロスが少ない。 2つ目は、D-ILA上の画素駆動回路をアナログ駆動方式からデジタル駆動方式にすることでD-ILA素子そのもののコストダウンが図れる。3つ目は圧倒的なコントラストが得られるという点。これはDLP方式が高いコントラスト性能を獲得していることから自明の事実だ。 4つ目は高い色再現性だ。D-ILAをデジタル駆動するといっても映像エンジン自体は今まで通りRGB3枚分のD-ILA素子を組み合わせた3板式になる。これは液晶素子がRGB3プレーン分の映像を時分割表示するほど高速でないので、単板式でカラー表示を実現するのは物理的に無理なためだ。すなわち、出てくる映像は言ってみれば3板式DLPに近いものになる。もっとわかりやすくいうならば、ハイコントラスト性能と高い色再現性を両立できるということになる。 今回発表されたリアプロTV製品プロトタイプは、画面サイズが61インチと52インチの2種類。それぞれの画面サイズごとに、チューナ付きのモデルが設定されるので4製品がラインナップされる予定だ。
発売時期は未定。価格については61インチモデルが5,500ドル前後、52インチが4,500ドル前後を目標に開発が進められている(チューナ付きモデルはプラス500ドル)。
画質についての所感も簡単に触れておこう。輝度が圧倒的で、従来のリアプロの映像とは一線を画した明るさがあり、来場者の多くが自発光ディスプレイと勘違いしていたほど。色調はビクターらしいCRTテレビライクな画作り。コントラスト性能も圧倒的で暗部の沈み込みは見事だが、その反面、暗部階調の再現性にDLPの映像のような癖がある。この点は評価や好みが分かれろことになるだろう。 なお、この方式の1,920×1,080ドットのフルハイビジョン対応フロントプロジェクタの開発計画もあるそうなので期待したい。
■ インテル、映像素子、作ってる! インテルといえば、世界最大のCPUメーカーだが、2004年以降は映像素子の開発製造にも乗り出す方針を打ち出した。
映像素子とはLCOSタイプの反射型液晶パネル。LCOS素子の製造には、液晶素子とシリコン基板の一体形成する技術が不可欠になるが、高度な半導体製造プロセス技術を持つインテルの得意分野である。
しかもLCOS製造は、0.35μmプロセスルールなどの、最新CPUなどと比べれば圧倒的に枯れたプロセスを用いて行なえるため、FAB(半導体製造工場)の有効活用にも結びつく。インテルによれば、「非常にローコストで製造できる」とし、最終的なLCOS-TV製品を2,000ドル未満で商品化できると主張する。 しかし、LCOSを使った映像エンジンは光学設計が複雑で、透過型液晶に比べて映像エンジン全体が大型化する傾向にあり、「インテルの主張は詭弁だ」という反論も多い。とはいえ、近い将来、「インテル入ってる」テレビ製品やプロジェクタ製品登場することになりそうである。
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■ エプソンがテレビ機器事業に参入 エプソンは対角0.13インチ、1,920×1,080ドット解像度、1080pリアル対応のD4パネルの新世代版「L3D13U」を発表。これまでは1080pリアル対応のD4パネルとしては0.16インチサイズの「L3D16U」シリーズがあり、これは三洋の業務用プロジェクタに採用されていた。
今回発表されたL3D13Uは、ただサイズを小型化しただけでなく、マイクロレンズアレイを組み合わせ、光利用効率を改善したリファイン版になっている。量産は2004年夏より開始される予定で、実際の採用製品も同時期、あるいはそれ以降から発表される見込みだという。
エプソンブース内には、このL3D13Uを映像エンジンに使用した64インチサイズのリアプロHDTVの試作機の展示されていた。 透過型液晶素子であるために画素開口率は60%前後であり、LCOSやDMDと比べるとかなり小さいが、画素が高精細化していること、画面サイズが64インチ程度とそれほど巨大でなはいと言うこともあって、格子感はほとんどない。解像感も良好。現状でコントラスト比は実測で1,200:1程度を達成しているとのことで、その表示映像には強い立体感が得られている。発色にもっと鮮烈さがあるといいのだが、そういった部分は今後詰めていくとのことだった。 エプソンは、この試作1080pリアプロHDTVに先駆けて、1,280×720ドットD4パネルを映像エンジンに採用したリアプロHDTVを「Livingstation」シリーズとして北米市場で発売を開始する。画面サイズは、47インチ「LS47P1」、57インチ「LS57P1」の2種類をラインナップする。発売は2月を予定。価格はLS47P1が3,500ドル前後、LS57P1が4,000ドル以下を予定している。
絶対的な輝度はもうちょっと欲しい気はするが、色再現性、解像感も模範的で、特に映像のフォーカスがしっかりしているために、シャープな印象の画が出ている。また、Livingstationシリーズには、映像表示機能以外にユニークな機能が搭載されている。
本体前面にはSDメモリーカード、メモリースティック、コンパクトフラッシュ、スマ-トメディアスロットがあり、メモリ内に格納されたJPEG写真データをリモコン操作だけで表示させて楽しむことができる。 また、プリンタ(内蔵)とCD-R/RWドライブ(USBで外部接続)までも付属し、いつでも印刷したりCD-R/RWメディアに書き出すことができる。
非常にエプソンらしいユニークな商品なので、是非とも日本でも発売して欲しいものだ。
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□2004 International CESのホームページ (2004年1月11日) [Reported by トライゼット西川善司]
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