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第30回:大画面☆マニア in CES 2004 その2
~ 攻勢に出るDLP、反撃に出るD-ILA ~
新映像エンジン技術が火花を散らす!


 今回のCESでは、大画面関連の発表が数多く行なわれた。今回は、その話題を取りあげるが、米国市場を反映してか、ほとんどがリアプロジェクションHDTV製品だ。

■ TIは、新DLP技術を大々的にプレゼンテーション

 DMDチップを使ったDLP方式の映像エンジンの本家本元であるTexas Instruments(以下TI)のブースでは、発表されたばかりの新DLP技術のプレゼンテーションが大々的に展開された。

 キーワードのみが先行し、その実態がさっぱりわからないことが多いTIの新技術。ブース内のTI関係者も十分理解できていない様子で、説明を聞いているうちにTIスタッフ同士が議論を始めてしまう状態。そんなわけでTIブース内を駆け回って集めて整理したのが以下の情報だ。なお、TI関係者ですら理解できていない部分もあり、一部筆者の推察も含んでいる。

    ●Dynamic Black
     一言で言えば、DLP方式の映像を最大コントラスト比5,000:1にまで引き上げる技術。
     リアルタイム3Dガンマ的なリアルタイムフレーム相関信号処理と、DMD素子の駆動方式を連携させて動作させることで、見かけ上のコントラストを引き上げることができる。
     同種の高画質化技術は映像機器メーカー側で現行製品に既に組み込んでいるが、DMDチップ開発元がDLP高画質化に切り込んだものであるため、寄せられる期待は大きい。

    ●Dark Chip2
     DLP方式では光源からの光を、DMD上の各画素が投射方向へ反射する/しないのデジタルパルス駆動することで時間積分的な明暗表現を行なっている。つまり、DLPエンジン内には投射すべきでない光が閉じこめられるわけだが、これが「迷光」(Stray Light)として、投射方向に溢れてきてしまう場合がある。これは映像にとってはノイズであり、特に映像のコントラストや暗部階調表現に影響する。Dark Chip2とはこの迷光を軽減させたDMDチップのことだという。
     DMDチップ上の各ミラー画素にはこれを支えるための支柱の穴が設けられている。これが入射光を散乱させて迷光の原因となっていた。新世代DMDチップでは、この穴を小径化することに成功。迷光を劇的に抑えることができるようになったのだそうだ。

    ●Smooth Picture
     光学レベルでDMD素子の格子模様を除去する仕組み。微細な光学系を組み合わせたものと推察されるが、その詳細は明らかにされていない。

    ●HD2+パネル
     対角0.85インチの最新のDMDパネル。振れ角はHD2パネル同等の12度に据え置かれる。その解像度はこれまでのHD2パネル同様の1,280×720ドット。Dark Chip2技術を適用しており、HD2パネルと比べ、コントラスト性能と暗部階調再現性に優れる。

    ●HD3パネル
    HD3パネルと同サイズのDMDパネル。HD3パネルそのものではない
     対角0.55インチの最新のDMDパネル。振れ角はHD2系と同等の12度。解像度はHD2+と同じ1,280×720ドット。
     なお、こちらはDark Chip2技術とSmooth Picture技術の双方が組み合わされたものになる。

    ●xHD3パネル
     簡単に言えばHD3パネルの1,920×1,080ドット版。HD3系であるため、Dark Chip2技術とSmooth Picture技術の双方が組み合わされたものになる。

 HD2+パネルのラインナップも設けていることがわかりにくくしているが、HD2+の存在価値は、これまで数多く発売されたHD2パネル採用プロジェクタのパネルを換装するだけで新世代機に生まれ変わるところにある。すでに国内メーカーもふくめて、このアプローチで後継機種を発表したところも多い。

 それではHD3パネルの方の存在価値はどこにあるのだろうか。Smooth Picture効果が最大のメリットであることは明白である。それ以外にもHD2/HD2+チップと比較して、そのサイズが小さいことも利点だとTIは説明する。

 チップサイズが小さいことはDMDチップそのものの低コスト化が実現でき、また映像素子が小さければ映像エンジンの小型化に結びつけられる。映像エンジンを小さくできれば今度は製造コストが低減できるようになり、最終的にはその製品そのものを安くできるようになる。

 DMD3板式のDLPプロジェクタも、TI関係者は「HD3パネルならば民生用も可能かも」と推測するほどで、DLP映像デバイスの次期主流となることは間違いない。

 TIブースには、早速だが、サムスンが試作したxHD3チップを採用した単板式1,920×1,080ドットのリアルHD対応のリアプロHDTVが展示され、来場者からの熱い視線を浴びていた。写真撮影は許可されたものの、画面サイズが61インチであること以外のスペックは、現時点では一切未公開だった。

サムスン製のxHD3パネル採用単板式DLPリアプロHDTV試作機の映像

サムスン製61インチ、HD3採用の単板式DLP HDTVモニタ「HLP6163W」。コントラスト比は、DarkChip2技術の効果もあって1500:1を達成
 映像を見て驚かされたのは、画素格子が全く見えないという点。もともとDLPの映像は格子目が細いのが特長であったが、xHD3の映像ではそれすらも見えない。解像度が高いこともあるだろうが、Smooth Pictureの効果は絶大だ。静止画映像を見た場合は、オーバーな表現ではなく、あたかも画面に昇華型プリンタで印刷された写真のようにすら見える。

 コントラスト性能は、展示会場の照明の影響や表示映像のクオリティの問題もあり、残念ながらDynamic Black技術が提供する5,000:1か実現できているかどうかの判断はできなかったが、「かなり高そう」という手応えはあった。

 解像感は表示映像ソースの品質が今ひとつであったこともあり、1080pリアルがもたらす高精細性は実感できなかったが、発色は良好。ただし、暗部階調部では例によって単板式ならではの荒れが見られた。スポーツ中継などの明るい映像を見るだけならばこれでいいだろうが、映像鑑賞となると、もうちょっと暗部階調の再現性の詰めが必要だろう。

 HD3パネル、xHD3パネルの量産は今年第3四半期以降からの開始とのことで、採用製品の登場は早くて年内ぎりぎりといったところだろうか。

□関連記事
【1月9日】TI、リアプロジェクションテレビ用のDLPチップ
-コントラスト向上技術を搭載したフルHD対応のxHD3など
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040109/ti2.htm


■ ビクター、D-ILAを使って3板式DLP相当の映像を作り出す

画面が大きいこともあって、奥行きは結構ある
 ビクターは、MGM GRANDホテル内の展示会場にて新D-ILAチップを使ったリアプロジェクションTVの製品プロトタイプを初公開した。

 「D-ILA」(Direct-Drive Image Light Amplifier)チップとは、ビクターのオリジナルLCOS(Liquid Crystal on Silicon)タイプの反射型液晶素子だ。今回発表されたリアプロTVは、新開発の1,280×720ドット解像度のD-ILAチップを採用する。

 これまで、ビクターはアスペクト比4:3のD-ILAチップの上下をマスキングして、アスペクト比16:9の映像エンジンを構成していた。しかし、今回発表されたリアプロTVに採用されているD-ILAチップは対角大0.7インチサイズの1,280×720ドット解像度のチップを使用しているという。

 特に画期的だといえるのが、色階調表現をDLP(Digital Light Processing)プロジェクタや、プラズマTVのように完全なデジタル駆動制御にした点。D-ILAでも透過型液晶でも、これまで、液晶素子を活用した映像素子は、液晶材質の旋光性を応用して光の明暗を表現していた。液晶にかける電圧を加減することで液晶の曲がり方を制御し、いわばアナログな明暗が作り出されていたわけだ。

 一方、DLPプロジェクタやプラズマTVでは各画素が表現できるのは黒か白かのどちらかだけ、すなわちデジタルであり、単位時間当たりに何回明滅させるかによって明暗を作り出している。これがパルス駆動の明暗表現であり、時間積分的に明暗を作り出していることになる。

 今回発表されたD-ILAチップは、この考え方の駆動に対応したものだ。とはいえ、画素をパルス駆動する事に特化してデザインされたナノサイズ電磁メカのDMDとは違い、D-ILAは結局のところ液晶素子である事実は変わらない。だからこそ、液晶素子でナノ秒オーダーのパルス駆動は困難なはずだ。この部分については独自開発した駆動回路側の工夫で、現在の試作製品レベルの映像に追い込んだのだという。

 D-ILAをわざわざDLPライクにパルス駆動にするメリットはどこにあるのか? 1つは、完全デジタル化された現行の映像信号と高い親和性があるという点だ。たとえばDVDやデジタルテレビのMPEG映像は、最終的にはフレーム単位でデジタルなRGBデータに変換される。このRGBデータがHDMIやHDCP-DVIで映像表示機器まで伝送される場合、表示方式もデジタル(パルス)駆動なほうがロスが少ない。

 2つ目は、D-ILA上の画素駆動回路をアナログ駆動方式からデジタル駆動方式にすることでD-ILA素子そのもののコストダウンが図れる。3つ目は圧倒的なコントラストが得られるという点。これはDLP方式が高いコントラスト性能を獲得していることから自明の事実だ。

 4つ目は高い色再現性だ。D-ILAをデジタル駆動するといっても映像エンジン自体は今まで通りRGB3枚分のD-ILA素子を組み合わせた3板式になる。これは液晶素子がRGB3プレーン分の映像を時分割表示するほど高速でないので、単板式でカラー表示を実現するのは物理的に無理なためだ。すなわち、出てくる映像は言ってみれば3板式DLPに近いものになる。もっとわかりやすくいうならば、ハイコントラスト性能と高い色再現性を両立できるということになる。

 今回発表されたリアプロTV製品プロトタイプは、画面サイズが61インチと52インチの2種類。それぞれの画面サイズごとに、チューナ付きのモデルが設定されるので4製品がラインナップされる予定だ。

 発売時期は未定。価格については61インチモデルが5,500ドル前後、52インチが4,500ドル前後を目標に開発が進められている(チューナ付きモデルはプラス500ドル)。

61インチD-ILAリアプロ「HDTV-HD61Z575」
解像度:1,280×720ドット、輝度:500cd/m2、コントラスト比:1000:1、外形寸法:非公開

 ランプは松下電器製110Wの高圧水銀系ランプを採用。ランプ寿命は約6,000時間(ユーザー交換対応)。D-ILA素子自体はこれまでのD-ILA同様に無機配向膜を採用し、10万時間以上の長寿命達成している。

 画質についての所感も簡単に触れておこう。輝度が圧倒的で、従来のリアプロの映像とは一線を画した明るさがあり、来場者の多くが自発光ディスプレイと勘違いしていたほど。色調はビクターらしいCRTテレビライクな画作り。コントラスト性能も圧倒的で暗部の沈み込みは見事だが、その反面、暗部階調の再現性にDLPの映像のような癖がある。この点は評価や好みが分かれろことになるだろう。

 なお、この方式の1,920×1,080ドットのフルハイビジョン対応フロントプロジェクタの開発計画もあるそうなので期待したい。


■ インテル、映像素子、作ってる!

 インテルといえば、世界最大のCPUメーカーだが、2004年以降は映像素子の開発製造にも乗り出す方針を打ち出した。

 映像素子とはLCOSタイプの反射型液晶パネル。LCOS素子の製造には、液晶素子とシリコン基板の一体形成する技術が不可欠になるが、高度な半導体製造プロセス技術を持つインテルの得意分野である。

インテルブース内で公開中のインテル製LCOSチップ。実際の映像機器を構成する際にはRGB 3枚分の素子を光学エンジンと組み合わせる インテル基調講演内で公開されたインテルLCOSチップ採用リアプロTV試作機。インテルブース内にはこのチップを活用した製品の展示はなかった

 しかもLCOS製造は、0.35μmプロセスルールなどの、最新CPUなどと比べれば圧倒的に枯れたプロセスを用いて行なえるため、FAB(半導体製造工場)の有効活用にも結びつく。インテルによれば、「非常にローコストで製造できる」とし、最終的なLCOS-TV製品を2,000ドル未満で商品化できると主張する。

 しかし、LCOSを使った映像エンジンは光学設計が複雑で、透過型液晶に比べて映像エンジン全体が大型化する傾向にあり、「インテルの主張は詭弁だ」という反論も多い。とはいえ、近い将来、「インテル入ってる」テレビ製品やプロジェクタ製品登場することになりそうである。

□関連記事
【1月9日】Intel ポール・オッテリーニ講演レポート(PC Watch)
ムーアの法則、ついに家電へ~家電業界にチャレンジするIntel
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0109/ces07.htm


■ エプソンがテレビ機器事業に参入

 エプソンは対角0.13インチ、1,920×1,080ドット解像度、1080pリアル対応のD4パネルの新世代版「L3D13U」を発表。これまでは1080pリアル対応のD4パネルとしては0.16インチサイズの「L3D16U」シリーズがあり、これは三洋の業務用プロジェクタに採用されていた。

 今回発表されたL3D13Uは、ただサイズを小型化しただけでなく、マイクロレンズアレイを組み合わせ、光利用効率を改善したリファイン版になっている。量産は2004年夏より開始される予定で、実際の採用製品も同時期、あるいはそれ以降から発表される見込みだという。

エプソン製透過型液晶パネルのラインナップ

 エプソンブース内には、このL3D13Uを映像エンジンに使用した64インチサイズのリアプロHDTVの試作機の展示されていた。

 透過型液晶素子であるために画素開口率は60%前後であり、LCOSやDMDと比べるとかなり小さいが、画素が高精細化していること、画面サイズが64インチ程度とそれほど巨大でなはいと言うこともあって、格子感はほとんどない。解像感も良好。現状でコントラスト比は実測で1,200:1程度を達成しているとのことで、その表示映像には強い立体感が得られている。発色にもっと鮮烈さがあるといいのだが、そういった部分は今後詰めていくとのことだった。

 エプソンは、この試作1080pリアプロHDTVに先駆けて、1,280×720ドットD4パネルを映像エンジンに採用したリアプロHDTVを「Livingstation」シリーズとして北米市場で発売を開始する。画面サイズは、47インチ「LS47P1」、57インチ「LS57P1」の2種類をラインナップする。発売は2月を予定。価格はLS47P1が3,500ドル前後、LS57P1が4,000ドル以下を予定している。

L3D13Uを映像エンジンに組み込んだ64インチ、1080pリアル対応リアプロHDTVの映像
LS57P1モデルの映像。人肌の赤みがいい感じに出ている

 絶対的な輝度はもうちょっと欲しい気はするが、色再現性、解像感も模範的で、特に映像のフォーカスがしっかりしているために、シャープな印象の画が出ている。また、Livingstationシリーズには、映像表示機能以外にユニークな機能が搭載されている。

HDTV映像をキャプチャした場合は、著作権保護の見地から解像度を落として保存する

 本体前面にはSDメモリーカード、メモリースティック、コンパクトフラッシュ、スマ-トメディアスロットがあり、メモリ内に格納されたJPEG写真データをリモコン操作だけで表示させて楽しむことができる。

 また、プリンタ(内蔵)とCD-R/RWドライブ(USBで外部接続)までも付属し、いつでも印刷したりCD-R/RWメディアに書き出すことができる。

 非常にエプソンらしいユニークな商品なので、是非とも日本でも発売して欲しいものだ。

【主な仕様】
LS47P1LS57P1
解像度1,280×720ドット1,280×720ドット
輝度400cd/m2350cd/m2
コントラスト1000:1800:1
外形寸法
(幅×奥行き×高さ)
1,160×376×879mm1,382×414×1,003mm


□関連記事
【1月7日】エプソン、北米に液晶リアプロジェクションTVを投入
-ホームTV市場へ本格参入。熱昇華方式のプリンタを内蔵
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040107/epson.htm

□2004 International CESのホームページ
http://www.cesweb.org/
□関連記事
【2004 International CES レポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/ces2004.htm

(2004年1月11日)

[Reported by トライゼット西川善司]


= 西川善司 =  遊びに行った先の友人宅のテレビですら調整し始めるほどの真性の大画面マニア。映画DVDのタイトル所持数は500を超えるほどの映画マニアでもある。現在愛用のプロジェクタはビクターDLA-G10と東芝TDP-MT8J。夢は三板式DLPの導入。
 本誌ではInternational CES 2004をレポート。渡米のたびに米国盤DVDを大量に買い込むことが習慣化している。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。


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AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp

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