■ ジャック・ニコルソン主演のヒューマンドラマ
今回取り上げるのは、「アバウト・シュミット」。主演は、ジャック・ニコルソンで、2003年の公開時には、それなりに宣伝していたような気がするが、大作扱いでもなかった比較的地味な作品だ。 新宿の大手量販店のDVDソフト売り場は、年始のDVDリリースがやや落ち着いている時期ということもあり、ターミネーター 3などのビックタイトル以外は比較的穏やかなディスプレイぶり。その中でも、本作は最新作なのにとてもひっそりと置かれていた。 ジャケットを見ると、年老いたジャック・ニコルソンの写真を中心に配し、タイトルの上に大々的に「ジャック・ニコルソン主演」の文字が。背面にも「名優ジャック・ニコルソンの生涯最高傑作」などの文字が並ぶ。別にジャック・ニコルソン目当てに買うわけでもない筆者にとっては、その扱いの大きさに「それ以外のウリは無いのか? 」と若干不安な気にもなる。 監督・脚本はアレクサンダー・ペイン。原作はルイス・ビグレー。本編ディスクは1枚で、価格は3,800円。標準的な価格といえるだろうが、特典は約46分の映像特典のみとやや寂しい。
■ 定年を過ぎ、妻に先立たれたシュミットの動揺を描く
物語は、大手保険会社「ウッドメン」のある一室から始まる。66才のシュミット(ジャック・ニコルソン)が、がらんとした一室のなかで、時計を気にしながら物思いにふけっている。時計の針が終業時間の17時を指すと、寂しそうにその部屋を立ち去る。その日は、定年を迎えた彼の最終出社日だった。 定年を迎えた彼は、突然迎えた自由な時間をもてあますようになる。ある日テレビCMを見たシュミットは、チャリティ団体「チャイルトリーチ」の運営する基金に連絡。アフリカの少年「ンドゥク」に手紙を書く。しかし、その手紙は、会社の引き渡した若手社員への愚痴だったり、妻への不満など、彼の迎えた「第二の人生」への失望感がありありとしたためられている。物語は、このンドゥクへの手紙で、シュミットの心情の移り変わりを描いていく。 最初のンドゥクへの手紙を出した後、妻は掃除中に急死。娘のジーニー(ホープ・ディビス)は、婚約者のランドール(ダーモット・マルロニー)とともに駆けつける。ジーニーを溺愛するシュミットだが、二人の関係には微妙な距離感があり、母の棺をケチったなどと口論となる。また、ウォーターベッドのセールスマンをやっているランドールについて、シュミットは良く思っていなかったのだが、喪中のシュミットにマルチ商法に勧誘するなど、さらにシュミットの頭を悩ます。 葬儀が終わり、ジーニーらがデンバーに帰ると、シュミットに強烈な孤独感が襲う。ジャンクフード漬けとなり、荒れ果てた部屋での自堕落な生活が始まる。しかし、こうした最低の状況にもかかわらず、シュミットは、ンドゥクへの手紙には、「妻のいない生活はつらかったが、すっかり慣れた」などと強がりを吐くのだった。 結局、孤独に耐えかねたシュミットは、定年を機に妻と共同購入したキャンピングカーで、デンバーのジーニーの下に向かうが、ジーニーはあっさり拒否。“自分のこれまでの人生は何だっのか”わからなくなってしまったシュミットは、ルーツを探るべくそのまま旅に出る。そこで出会ったキャンピングカー仲間の妻に、小一時間ほどで恋におち、迫ってみるなど失態の連続。さらに、旅から戻っても2人の結婚式を前にドタバタを繰り返す。 基本的には、生きがいを無くしたシュミットの心の揺れ、そして暴走を中心に物語が進行していく。ただ単に暴走するだけでなく、ンドックへの手紙では、時に精一杯強がって見せる。しかし、事実を知っている観客にはそのシュミットの姿がなんとも滑稽で、「イタい」のだ。そのため、シュミットがどんなにおかしな行動に出ても“もうやめとけよ”とストレスが溜まるほど感情移入でき、思いのほか物語に熱中できた。 シュミットの身の回りに、他の人と大きく違ったことが振りかかるわけでもない。淡々とシュミットは生活しているだけなのだが、妻が集めていた「フンメル人形」の魅力に、死別した後に気づいてみたりなど、その行動に妙に生々しいリアリティを持たせることに成功している。そして、特にクライマックスと言えるような部分もなく、淡々と物語は終幕を迎える。
■ 画質は良好。特典はやや寂しい
DVD BitRate Viewer 1.4で見た本編ディスクの平均ビットレートは6.26Mbps。高ビットレートというほどでも無いと思うが、画質の破綻はさほど感じず、解像感もそれなりに確保している。ハイビジョンカメラを利用した最近の超大作のような、流行の“はっきりくっきり”した画質ではなく、しっとりとした色調で嫌味のない映像だ。
音声は、英語がドルビーデジタル5.1chとDTS、日本語がドルビーデジタル2ch。ビットレートは、英語のドルビーデジタル5.1chが384kbps、DTSが768kbps、日本語のドルビーデジタルは192kbps。 基本的に、ホームドラマといった体裁の映画なので、マルチチャンネルの魅力を活かすようなシーンは少ない。BGMや環境音として若干使われているだけで、適度な包囲感を時折感じるものの、リアチャンネルを意識するようなことはほとんどない。英語のドルビーデジタル5.1chとDTSを聞き比べてみたが、DTSのほうが低音の厚みが若干強い程度で、サラウンド感に大きな差は感じられなかった。 特典は、未収録シーンを収めた30分程度の「ビハインド・シーン」と、トレーラー、それに、シュミットが勤務するウッドマンのビルを映したオープニングのテストショットというシンプルなもの。 ビハインドシーンでは、10以上の未収録シーンが、詳細なカット理由とともに、収録されている。これを見ているといかにテンポ良くストーリーを進行させるか、かなり苦労したことが伺える。 本編では、説明的なストーリー展開を、ンドゥクへの手紙を使ったモノローグで行なっているためか、カットされているのは説明的なシーンが多い。個人的には本編を見た際に、125分という時間の割りに拍子抜けするほど短く感じたので、この本編でよかったかなという印象だ。 ただし、カット理由が詳細に語られているので、照らし合わせてみるとかなり楽しめる。また、中には、ジャック・ニコルソン主演の「ファイブ イージー ピーセス」へのオマージュなども含まれているほか、テレビ版や飛行機の機内上映版で、カットを指示されたために追加したシーンなども収録されている。
■ 傑作だと思うけど……
主演のジャック・ニコルソンをはじめとする各俳優の演技も良く、ストーリーの魅力も十分。画質クオリティなどにも不満は無く、見た後の満足感は非常に高い。 大傑作と騒ぐような作品でもないけれども、ひっそりとした良作という感じで、個人的にはかなり気に入った。しかし、それだけにパッケージのしょぼさと、「ジャック・ニコルソン」以外の“ウリ”が見出せない販売戦略はやや悲しい。3,800円という価格については、さほど不満は無いのだけれど、どうしてもこのパッケージから漂う“隠れた傑作”感は、どうにかならないかなと思う。
□製品情報(フルメディアのページ) (2004年1月13日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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