■ 2003年(一部では)最大の話題作かも
単館上映ながら、テレビの深夜放送やラジオで数多く取り上げられていたので、ご存知の方も多いかもしれない作品。2003年7月にシネセゾン渋谷で上映していたイギリス映画「えびボクサー」。 「巨大エビが人間相手にボクシングする」という設定だけですでに腰砕け状態なのに、さらに「全世界上映禁止」や「公開は日本のみ」という怪しい売り文句。そのインパクトからか、様々なメディアに露出していたことを思い出す。 その「えびボクサー」が1月9日にDVD化され、いつの間にか店頭に並ぶようになった。ディスクはいまどき珍しい片面1層。特典ディスクもブックレットもなく、極めてシンプルなパッケージだ。 また、資料によると、初回版は「カラフルピクチャーディスク」。通常のピクチャーディスクとどう違うのか楽しみにしていたところ、レーベル面の図案は黄色地に8匹のエビ(+カニ1匹)を配したシンプルなもの。エビの赤が目に鮮やかで、確かにカラフルといえなくはないが、別にどうということはない、普通のピクチャーディスクだった。公開からしばらく経つが、相変わらず小手先の宣伝は上手い。
■ エビの出番は少ない 舞台はイギリスの田舎町。元ボクサーのビルは、夢破れて場末のバーの親父に成り果てていた。目をかけていた若手ボクサーのスティーブも、どうやら大成しそうにない。そんなある日、ビルは友人からマンティス・シュリンプ(カマキリエビ)というエビの存在を聞く。パンチして獲物を捕らえるという奇妙なエビだ。そいつが今、町の市場にいるのだという。しかも体長2m10cm!! 人生にもう一花咲かせるため、ビルとスティーブ、スティーブの恋人シャロンは、「えびボクサー」とともにロンドンへと向かった。テレビ局にえびボクサー対スティーブの試合を売り込むために……。 ぶっちゃけた話、えびボクサーの出番は少ない。天下一武闘会みたいなところで強敵と出会い、失明しつつも心眼で敵を倒したら、実はその敵こそが探していた生き別れの父親で、いまわの際に巨悪の存在を告げられる……といった格闘モノのノリではない。その手の話を期待していると、しばらく立ち直れないくらい落胆することだろう。実際には、ビル、スティーブ、シャロンの3人が行き詰った人生に再挑戦し、それぞれの居場所を見つける「自分探し系」のストーリーだったりする。ボクシングをする巨大エビという素っ頓狂なアイデアをまじめなシナリオに絡めるあたり、製作者の決断力に感服してしまう。 ちなみに資料によると、脚本を読んだプロデューサのニック・オヘイガンは「常軌を逸していると思った。でもばかげているゆえに、チャンスを与えるべきだと思った」とコメントしている。すごい人だと思う。 また、えびボクサーはほとんど動かない。基本的に彼は常時縛られており、演技のほとんどは目や足をもぞもぞ動かしているだけ。着ぐるみを着たえびボクサーがダイナミックに動くのを想像していただけに、見事に肩を透かされた格好。もっともそれだけに、えびボクサーが拘束を解かれ、本当の力を発揮するラスト近辺のシーケンスがいろんな意味で印象的だ。 なお、撮影用のえびボクサーは、ワイヤーで操作するタイプと、無線で操作するタイプの2種類が作られている。さらに上半身のみのえびボクサーも用意され、クローズアップで利用したという。低予算怪物映画としては、思ったより本格的なのかもしれない。
■ 画質に大きな不満はなし。特典は地味
片面1層ということで画質面で不安だったが、収録時間が90分と短いせいか、思った以上に高画質だった。 確かに、輪郭が少々ゆるく感じるなど、細部を見ると一昔前のエンコード品質に感じる部分もある。しかし、白ピークや暗部の階調を意図的に落としたように見える最近のディスクとは異なり、場面によっては、MPEG-2の見本のような高画質を味わえるのがうれしい。DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレート(全体)は5.94Mbpsだった。 音声は、オリジナル(英語)が384kbpsのドルビーデジタル5.1ch。日本語吹替が192kbpsのドルビーデジタル2ch。展開上、サラウンドを意識させる場面はそれほどない。しかし、地下鉄車内、雑踏、ぼんやり鳴っているホテルのテレビ音声など、5.1chの方がやはり臨場感が高い。購入前は「別にステレオでも……」と、投げやりな期待しかしてなかったものの、いざ聞き比べて見ると、5.1chの効果を実感した。
本編以上に脱力するのが「えびグッズスライドショー」。極めておしゃれなストリート系デザインの「えびボクサーTシャツ」や、エビをかたどった「J-WAVEオリジナルステッカー」(みうらじゅん氏、安斎肇氏サイン入り)などを紹介している。本編を見てからだと、内容とグッズおしゃれ感とのズレ具合に空しさを感じるかもしれない。個人的には「プロモーションの力はすごいなあ」と感心した。
■ B級映画好きなら今すぐ「買っとけ」 購入後しばらくは、色んな意味で話のネタになりそうな作品。ただし、あまり親しくない人・詳しくない人にまで紹介すると、ちょっとおかしな人と思われるかもしれない。もちろん、B級作品作品のコレクターなら、今すぐにでも買っておいた方が良いだろう。発・販売元がパンドなので、すぐに低価格で再販されるとは考えにくい。 ただ、片面1層1枚で4,700円という価格がちょっとツライ。大作と違い、出荷本数が見込めないのはわからないでもないが……。
□パンドのホームページ (2004年1月20日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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