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第116回:伝説のスナイパー師匠が帰ってきた!!
11年のブランクは超えられるか?「山猫は眠らない2」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 11年ぶりに師匠が帰ってきた

山猫は眠らない2
-狙撃手の掟-
価格:3,800円
発売日:2003年12月26日
品番:TSDD-32235
仕様:片面1層1枚
収録時間:本編91分
画面:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:英語(ドルビーデジタル5.1ch)
   日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:日本語/日本語吹替用
発・販売元:株式会社ソニー・ピクチャーズ
        ・エンタテインメント

 このコーナーで映画「山猫は眠らない」を取り上げたのは、約1年前の2003年3月4日のこと。かなり趣味に走った恥ずかしい文章を書いてしまったのだが、一部の業界関係者から「あのレビューは熱くて良かったよ」と好評をいただいた。また、「あの映画好きなんだよね」という同志も幾人か現れ、「隠れスナイパーファン」の存在を実感できる、私にとって幸福な記事となった。

 作品を知らない人のために概要を説明しておこう。「山猫は眠らない」は、森の奥や暗闇に身を潜め、遠距離からターゲットを一撃で仕留める狙撃手・スナイパーを描いた映画だ。

 主人公のトーマス・ベケット上級曹長は、今までに80人近くの狙撃に成功した暗殺のスペシャリスト。一撃必殺「One Shot One Kill」を信条とし、冷静に任務をこなす彼の姿は「スナイパーの鑑」。サバイバルゲーマーの中ではバイブル的な作品になっている。

 派手なアクションシーンはほとんどなく、そこらじゅうで爆発が起こるハリウッドのアクション映画を「動」とするならば、「静」の映画という趣き。マニアな視点でなく、1本の映画としても一風変わった面白い作品に仕上がっている。

 そんな「山猫」の続編が、2003年10月に劇場公開されるという情報が流れた。タイトルは「山猫は眠らない2 -狙撃手の掟-」。サブタイトルに条件反射でグッときてしまうが、ストイックな映画の続編だけに「蛇足」になる可能性もある。しかもブランクは11年と長い。「トム・べレンジャーが演じるベケットが見られれば、どんな映画でも構わない」というファン心理はあるが、正直言って「期待が1割・不安が9割」という心境だった。

 ちなみに、監督も前作のルイス・ロッサではない。恐る恐る調べてみると、本作の監督を務めるグレイグ・R・バクスレー氏の代表作は……なんと、特攻野郎Aチーム!! 大好きな作品だが、「山猫」のイメージとは正反対。まあ、「B級っぽい雰囲気」は似ているのだが、ますます不安が膨らんだ。

 そして、不安が恐怖に変わってしまったのが、公式サイトで公開された予告編。「静の映画」はどこへやら、ド派手な大爆発、吹き飛ぶ車、迫り来る戦車、隠れるのも忘れて街中を走り回る我らがベケット曹長。「どこがスナイパーじゃ!!」とツッコミを入れながら、劇場に行くのが怖くなり、そうこうしている間にDVDも発売されてしまった。

 観るのは怖かったが、義務感にも駆られてとりあえず購入。帰宅して緊張しながら再生ボタンを押すと、前作とは似ても似つかない、お洒落なフォントで冒頭のスタッフロールが始まった。「無骨な山猫のイメージと違うなぁ……」という偏見たっぷりの意見が頭をよぎる。だが次の瞬間、霧に包まれた草むらから、自然と同化していた我らがベケット軍曹の顔がヌッと登場。「そうだ! これだ! これこそが山猫の正しい始まり方だ!」とボルテージが一気に上がった。


■ 老兵は死なず、ただ狙撃するのみ

 パナマ密林での隠密作戦から11年後。伝説のスナイパー・ベケット軍曹は既に海兵隊を退き、職を転々としていた。そんな彼の元に、軍から再び密命が下る。「俺はもう民間人だ」と断るベケットだが、「望むままの報酬を与える」という条件に首を縦に振る。

 彼のパートナーに選ばれたのは死刑囚のコール。元陸軍のエリートスナイパーで、任務成功の暁には釈放が約束されているという。「おいぼれ狙撃手」と「死刑囚の観測手」、そして「望むままの報酬」などという条件。きな臭いミッションだと感じながらも、ベケットとコールはバルカン半島へと向かう。今回のターゲットは、民族浄化の大義名分のもとにイスラム教徒を虐殺するヴァルストリア将軍だ。

 前作との最も大きな違いは、市街戦であるということ。前作はジャングルの密林を舞台にしていたため、ベケットは枯れ草や枝を縫い付けた「ギリースーツ」を着込み、地面を這い回ってターゲットに近づいていた。

 しかし、今回は人通りも多い街の中。狙撃もビルの上から行なうことになる。人目が多いため狙撃は困難だが、ベケットは見事に将軍の心臓を打ち抜く。覗いたスコープの視界が揺らぐなど、“老い”を感じさせる描写もあるが、流石は伝説のスナイパーだ。なお、狙撃の際に一瞬だけ映る、彼が銃のトリガーを引くシーン。注意して見ると中指で引いているのがわかる。前作で捕虜になった彼は、拷問を受けて人差し指を負傷しているのだ。マニアはニヤリとするシーンだ。

 暗殺は無事成功。だが、荷物をまとめてビルから降りた所で見つかる可能性が高いし、銃をギターケースなどに隠したとしても、狙撃事件が起こった周囲で大きな荷物を抱えて歩いていれば「職務質問してください」と言っているようなもの。「敵の包囲網を抜け出し、国外へ無事脱出できるか?」映画の本筋はここからスタートすると言ってもいい。

 何食わぬ顔で歩きながら、敵の兵士と街中ですれ違う瞬間や、ベケットらが乗った路面電車を調査しようと兵士達が近づくシーンなど、手に汗握るシーンが連続する。演出のテンポが良く、観ていて飽きない。前作はジャングルに1人きりという恐怖を描いていたが、人込みの中で感じる恐怖というのも面白い。

 また、描かれるのはアクションだけではない。ベケット達をサポートするレジスタンス組織が存在し、その精神的な指導者としてパヴェルという作家が登場する。ネタバレになってしまうので割愛するが、戦争と暴力を憎む作家と、人を殺す技術に秀で、暗殺に人生の大半を捧げてきたベケットの対比が鮮烈だ。

 「なぜ人は人を殺すのか」と問いかけるパヴェルと、「誰かを助けるために殺すんだ」と答えるベケット。理想と現実を表現したような2人のキャラクターにアメリカという大国の思惑が絡まり、物語に深みを与えている。トム・べレンジャーの確かな演技力にも注目だ。

 予告編から想像していたよりもスナイピングのシーンは多く、「スターリングラード」のような「スナイパー VS スナイパー」という美味しいシチュエーションも用意されている。全体的な感想としては、「普通のハリウッドのアクション映画として十分面白い」と感じた。

 だが、「山猫の続編としてどうか?」と聞かれた場合、不満は残る。観客も息を止めて見守り、放たれるたった1発の弾丸のために数十分をかけて盛り上げていくような、あの独特の緊張感が欲しいのだ。だが、こうした意見は一部の偏ったファンの戯言なのだろう。スナイパーに特別な感慨を持たない普通の人にとっては、サービス精神溢れる今作のほうが楽しめるに違いない。


■ それでもやっぱり片面1層

 前作のDVDは片面1層。画質は悪くなかったが、音声は英語のドルビーデジタルステレオのみ、特典映像も無しというスッキリした仕様だった。苦し紛れに「作品同様、DVDの仕様もストイックだ」などと書いた覚えがある。

 そんなわけで、新作には仕様の面でも期待していた。どんな特典映像が収録されているのだろうとパッケージを裏返したところ、そこには「片面1層」の文字が。2層になれば偉いというわけでもないが、「やはり山猫は山猫なのか……」などと思ってしまった。もちろん、念願の特典映像も「関連作品の予告」のみ。どこまでもストイックだ。

 DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは5.65Mbpsと低め。だが、収録時間が91分と短いこともあり、平均的な画質になっている。視聴中に著しく気になる点はないが、森林の木の葉のディティールや、市街地を引きのアングルで撮影したシーンなどで細部の描写が曖昧だと感じた。また、暗部の階調も少なく、つぶれがち。ただ、全体的に暖色よりで、肌色の発色の良さに好感を持った。

DVD BitRate Viewer 1.4でみた平均ビットレート

 音声は日本語と英語をどちらもドルビーデジタル5.1chで収録。ビットレートは英語が448kbps、日本語が384kbps。クリアで抜けが良く、教会や地下牢では間接音を上手く使って広い音場を再現している。また、銃の発射音も硬質で良い。

 ただ、欲を言えば低音にもう少し厚みが欲しいところだ。また、BGMの音量が小さめなので、冒頭でボリュームを大きめに設定すると、銃撃戦が始まったとたんに椅子から飛び上がることになるので注意が必要だ。

 特典は前述した通り関連作品の予告編のみ。関連作品とは「ティアーズ・オブ・ザ・サン」、「S.W.A.T.」、「バットボーイズ 2バッド」、「トゥルー・ブルー」、「Once Upon a Time in Mexico」の5作品だ。ボリュームとしては寂しい限りだが、前作にはなかったライナーノーツが入っているので良しとしておこう。


■ 狙撃手の掟

 11年ぶりに帰ってきたバイブルは、「マニアックな名作」から、「普通の人でも楽しめる良作」に変わっていた。幅広い人にスナイパー映画の良さが伝わってくれるのであれば、それはそれで良いことなのかもしれない。ただ、第3作目は無いと思われるので、ファンとしては映画を観終えた後に、一抹の寂しさを感じてしまった。

 また、劇中で描かれるベケットの人生が、あまり幸福でないことも寂しさの原因の1つだろう。森の中で暗殺を続けるうちに、社会との係わりが薄れ、人間性を失っていった孤独な男。今作でも彼には心を許せる人の影はなく、幸福な毎日とは言いがたい。パートナーのコールが「出会いが違えば、友人になれたと思わないか?」と話すシーンが印象的だった。

 原題の「SNIPER」に対し、「山猫は眠らない」という邦題のセンスが秀逸なこのシリーズ。今作のサブタイトル「狙撃手の掟」には、人を殺すことを生業とした者が背負わねばならない、悲しい宿命が見え隠れしている。

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□SPEのホームページ
http://www.sonypictures.jp/
□映画「山猫は眠らない2」のホームページ
http://www.spe.co.jp/movie/sniper2/
□製品情報
http://www.spe.co.jp/video/dvd/200312/tsdd-32235.html
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男は黙って見るべし!!「山猫は眠らない」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030304/buydvd71.htm

(2004年1月27日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]



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