■ アジア史上空前の大ヒット!「HERO」
今回取り上げるDVDは「HERO」。2003年8月の劇場公開時には、数多くのTVスポットが流されたので、覚えている読者も多いだろう。アジア史上空前の大ヒット、興行収入40億円を突破したという大作だ。 しかし、日本ではあまり大ヒットしたという記憶はなく、劇場に足を運ぶ機会がないまま、いつのまにか公開が終了していた。とはいうものの、チャン・イーモウが監督・脚本、ジェット・リーが主演し、マギー・チャンやチャン・ツィイーも出演と、中国・香港映画を代表するメンバーが揃っていて、さらに衣装はワダエミと、気になる作品ではあった。 ちょっと惜しかったかなと考えていると、劇場公開から半年弱が経過した1月23日にDVDが発売された。価格は、本編と特典ディスク2枚組みの「スペシャル・エディション」が3,980円、1万セット限定の「プレミアムBOX」が9,800円。DTS音声も収録されているので、現在のDVDの価格としては標準的だろう。
ここで、迷うのが「スペシャル・エディション」にするか、「プレミアムBOX」にするか。 「プレミアムBOX」は、劇中のキャラクター「無名」と「残剣」の特製フィギュアなど豪華特製グッズが付属するが、ディスク自体はスペシャル・エディションと同じとのこと。
とりあえずフィギュアが欲しいわけでもなかったので、ディスク内容が同じならということで、今回は「スペシャル・エディション」を購入した。なおスペシャル・エディションは、4面パノラマデジパック仕様となっており、初回生産のみシルバーレイヤードケース入りだ。
■ 圧倒的な“色”。そして、最高峰のワイヤーアクション HEROは、「あの子を探して」や「初恋が来た道」などの監督として有名なチャン・イーモウが、監督・原案・脚本・製作まで行なった歴史ロマン大作。さらに、ジェット・リー、トニー・レオン、チャン・ツィイーなど、アジアのトップスターを起用し、「マトリックス」のCGチームが参加しており、ワイヤーアクションを駆使した、ダイナミッなアクションシーンがウリだ。 チャン・イーモウ監督の今まで作風とまったく違う作品であり、「アクション映画は初めて」とのこと。TVスポットを見ていた限りでは、アクションがメインの作品のように思えたので、チャン・イーモウが監督していると聞いたときは、正直なところ「大丈夫なのか?」と思ったことは確か。 ――舞台は動乱の中国。後の秦始皇帝・秦王の前に、秦の小さな村の宮使で「無名」(ウーミン)と名乗る男が現れた。彼は十歩の距離であれば、どんな相手でも一撃のもとに倒すことのできる剣術「十歩必殺」の使い手で、秦王の命を狙っていた中国全土で最強と言われる3人の刺客を倒したという。その功績により秦王に謁見を許された無名が話し始めたのは、誰の想像をも超えた物語だった。 ストーリーは「赤」、「青」、「白」と進んでいき、それぞれのカラーに嫉妬や妬み、愛、ロマンチックなどを象徴させている。原案・脚本もチャン・イーモウなので、チャン・イーモウのイマジネーションがそのまま映像化されたといえるのかもしれない。監督自身は、このDVDに収録されている映像特典の中で、「20年間の監督の仕事の中で、初めて満足する出来。本当に独特で個性的な作品になった」と今回の作品について語っている。 個人的には、ストーリーにはあまり深みを感じなかった。武侠映画としてのありきたりのストーリーではないと映像特典のなかでは何度も語られるのだが、普通の映画として見れば、今までにあるような展開に収まっているように思う。 しかし、この映画で見るべきは、そんなところではない。とにかく、現在の最高水準のワイヤーアクションと、圧倒的な色彩の迫力。これを堪能することが、この映画の目的ではないのかという気すらする。監督も「ストーリーを忘れても何秒かのシーンを覚えている映画だ。何年かあとに記憶に残るのは色だろう」と話しているので、そもそもその点に主眼が置かれている作品だと再確認した。 アクションシーンは、もちろんワイヤーアクションもすごいのだが、自然を使った舞台装置がすばらしい。たとえば、画面を埋め尽くすように黄金色の葉が乱れ舞うシーン、四川省の鏡のような湖面の上で繰り広げられる空中戦(湖面が静止する一日2時間しか撮影できなかったという)。 これは、ド派手なだけのアクションシーンになりがちなハリウッド映画にはまねできないところだろう。また、国土が広いからか、広角で撮影しているところは、物凄い奥行き感と迫力がある。日本で、こんな画を撮ろうと思ったら、特殊撮影するしかないだろう。 そういう意味では監督の思惑通り、まさに「ストーリーを忘れても色だけは覚えている」という状態になってしまった。
■ 鮮やかな色と、豊富な映像特典 本編ディスクは片面2層。本編が99分と比較的短めということもあり、DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは8.5Mbps。実写作品としては、かなり高めだ。 色を重視している作品だけに、発色はよく赤、青、白とモニターの調整に使えるかもしれいない。全体的な画質も特に不満はなく破綻するところはない。ただ、全体的にフィルムの質感(粒状感)を出しているので、好みにあわない人もいるかもしれない。 音声は中国語をDTSとドルビーデジタル 5.1chの2種類、日本語をドルビーデジタル 5.1chで収録している。ビットレートはDTSが1,536kbps、ドルビーデジタル 5.1chが448kbps。DTSが、最近では珍しくなってきたフルレートで収録されているが、聞き比べても音質そのものに関してはドルビーデジタル 5.1chと大きな差は感じなかった。 しかし、DTSとドルビーデジタルは、異なったミキシングが行なわれているようで、結構雰囲気が異なっている。個人的な感想としては、ドルビーデジタルが「雰囲気・音場の広がり重視」、DTSが「音の奥行き重視」といったところ。どちらが優れていると決められるわけでもないが、アクションシーンや、全方位からの静かな雨音など、聞き所にはこと欠かない作品なので、聞き比べて見ると面白いだろう。
特典ディスクには2時間を越える映像特典を収録している。メインは、やはり「メイキング オブ HERO」(24分)だろう。インタビューを交えた撮影秘話が公開されており、'98年春に武侠小説を映画化しようとしたがうまくいかず、オリジナル脚本にしたことなどが明かされる。 撮影のクリストファー・ドイルは「映画で色は重要。色の意味でセリフを感じる」と語る。また、興味深かったのは、映画に登場する何千人にも及ぶ兵士を、人民解放軍の兵士が演じということだ。 そのほかには、「撮影舞台裏」(約6分)、日本公開にあわせて2回に分けて来日した8人のインタビュー(約60分)、「来日記者会見」(約15分)、「ジャパンプレミア」(約12分)、「予告編/TVスポット」(予告編4本、TVスポット4本)、スチル写真を使った一種のスライドショー「名場面フラッシュ」(約5分40秒)などを収録。 インタビューは、ジェット・リー(約7分)、トニー・レオン(約4分)、マギー・チャン(約8分)、チャン・ツィイー(約7分)、チャン・イーモウ監督(約13分)、製作ビル・コン(約9分)、撮影 クリストファー・ドイル(約4分)、衣装デザイナー ワダエミ(約7分)の8人。 特に監督の「自分のスタイルで撮ることにこだわった。アクションを超えたところにある精神性や美意識を見せたかった。戦いでさえも詩的に表現したかった」というコメントが印象的。また、「海外市場のことを考えて、世界的に有名なジェット・リーを起用した」と、したたかに世界市場を見据えていることも伺える。 さらに、映像特典としての新しい試みとしては、「ワダエミ・コスチューム・トランジション」、「セット・デッサン・トランジション」、「ロケ地探訪マップ」で、それぞれに関連する本編映像も見ることができる仕組みとなっている。その他にも、「もう一つのエンドクレジット~鼓動ヴァージョン(約5分30秒)」も収録。ちなみに、本編に収録されているエンドクレジットは、フェイ・ウォンヴァージョンだ。
■ 特撮関連のメイキングも収録されていれば…… 前述のように、盛りだくさんの映像特典が収録されているのだが、残念なのはワイヤーアクションを含め特撮関連のメイキングが収録されていないこと。もちろん、メイキングなどに少しは登場はするが、詳細な説明が行なわれているコンテンツがない。 また、色にこだわった作品なので、撮影時にどんなレンズ、フィルタ、フィルムを選び、編集でのカラーマネージメントなどを解説したコンテンツがあると面白かっただろう。こういった情報は「HERO外伝」(品番REDV-00007、価格1,980円)を見ろということだろうか……。 とはいうものの、ストーリーに関しては横に置いてくとしても、3,980円と価格も手頃で、アクションシーンと鮮やかな色彩美を見るだけでも、その価値は十分にあるだろう。
□ムービーテレビジョンのホームページ (2004年2月3日) [AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]
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