■ 初の地上デジタル対応パソコン登場 2003年12月1日に地上デジタル放送がスタート。既にテレビや録画機などでもさまざまな対応機器が発売されてきた。そんな中でNECが発売したのが、初の地上デジタル放送対応のパソコン「VALUESTAR TX(VX980/8F)」だ。 パソコンのスペックとしては、CPUにPentium 4 3.2GHz、メモリ 512MB、HDD 250GB、DVDスーパーマルチドライブ、Gigabit Ethernetなどのフル機能を搭載するなど、ハイエンドクラスの製品。また、23型のワイド液晶テレビが付属し、実売価格も約50万円と破格。 もちろん最大の特徴はパソコンとして初めて地上デジタル放送に対応したこと。BS/110度CSデジタル放送のパソコン対応でも先陣を切るなど、デジタル放送への対応に最も積極的なNECだけに、地上デジタルでの先行も理解できる。 しかし、VALUESTAR TXでは、ハイビジョン放送をそのままMPEG-2 TSでHDDに録画できるのに、出力時には480pにダウンコンバートされるなど、パソコンでデジタル放送に対応するためのさまさまな問題点があり、インタビュー記事を掲載しているのであわせて参照されたい。それらを踏まえた上で「パソコンでデジタル放送を見る」メリットについて検証した。
■ 本体の高級感は充分 同梱品は、パソコン本体のほか、23型ワイド液晶テレビモニター、リモコン、B-CASカードリーダ、無線LANアンテナ、キーボード、マウスなど。B-CASリーダはできれば本体内蔵として欲しかったところだ。転倒防止用のスタビライザも同梱されている。 本体の作りは非常に良い。背面に出っ張ったラジエータ部はやや気になるものの、シルバーを基調としたボディカラーや、電源を投入すると前面の円形ウィンドウが青く光り、「Water-cooled」の文字が浮き出るなど、高級感も十分だ。また、サイドカバーは側面のダイヤルでロックを解除、上にずらすだけでカバーが外れるというもので、メンテナンス性にも優れている。
また、付属の23型ワイド液晶テレビは、WXGA(1,280×768ドット)の23型パネルを採用し、地上アナログチューナを内蔵している。 左右2画面分割、PinP、PoutP機能を搭載し、PC画面と地上アナログのTV画面を同時表示できる。ディスプレイの前面パネルを振動板とする英NXTのフラットパネルスピーカー技術「SoundVu」を組み込み、エキサイタ(5W)を8個、サブウーファ(6W)を1個内蔵するなどAV機能を強化したディスプレイとなっている。
■ とにかく静かな水冷パソコン。3つに分かれたSmartVision
まず、電源を入れて驚くのがその静音性。電源が投入された瞬間はHDDなどの起動音がするのだが、その後の騒音はほとんど感じられず、電源が入っているのか確認できないほど。 シャープ製の地上デジタル対応ハイブリッドレコーダ「DV-HRD2」と比較しても、VALUESTAR TXのほうが静かに感じた。NECのカタログスペックでも30dBと大々的に謳っており、静音性への自信は伝わってくる。 本題とも言えるデジタル放送の視聴/録画については、録画ソフトのSmartVisionを利用する。地上デジタル用の「SmartVision DG」と、BSデジタル/110度CSデジタル用の、「SmartVision BS」、地上アナログの「SmartVision」とそれぞれ分かれている。
DirectXのハードウェアオーバーレイ機能を利用しているため、同時に複数のSmartVisionを立ち上げることができない。そのため、異なる放送の録画予約/視聴をしたいときには、1度起動中のSmartVisionを閉じた後、見たい放送用のSmartVisionを立ち上げる必要がある。やや面倒な仕様となっているが、NECでもその問題は理解しており「デジタルのアプリケーションに関しては、共通化を図っていく」と説明しているので、デジタル放送に関しては、今後SmartVisionの統合が行なわれると思われる。 ■ 録画/視聴操作は従来のSmartVisionと同じ。地上デジタルの画質は鮮明 それでは、早速地上デジタル用の「SmartVision DG」を起動。チャンネル設定を行なうと、NHK以外の民放チャンネルの電波を検知し、チャンネル設定が行なわれた。 編集部では、民放各局の放送が一応は受信可能だ。しかし、一部の局では電波状況があまりよくないために、紙芝居のようにフレーム落ちしながらノイズが混じるという状況が起こってしまう。シャープの「DV-HRD2」でも同様の減少が生じることもあったが、VALUESTARと比較してコマ落ちなどの発生は少なく、受信状態が悪くなると、受信電波が弱くなってきた旨を示す警告が出る。このあたりは、チューナの性能差があるように推測される。
チャンネルごとの受信レベルは、SmartVision DGの[DG詳細]の項目から[受信設定]で確認できる。ここで60以上の数値になるよう、アンテナを調整する必要がある。 SmartVision DGでは、地上デジタルのHD映像も480pにダウンコンバートして表示される。これは、PCIバスの帯域幅の問題と、デジタル放送の映像をそのまま汎用バスに流せないという著作権保護のためだ。 そのため、ハイビジョン放送を「そのまま」見ることはできない。しかし、HD映像らしい解像感はかなり残されており、地上波アナログ放送の同番組とくらべても、映し出された新聞の文字がくっきり見えたり、顔のシワや凹凸がしっかり確認できる。 やや輪郭の崩れやMPEGノイズが感じられることもあるが、独特の解像感は感じられるので、「ハイビジョン放送を見ている気分」は味わえる。 民放ではまだ地上デジタルでもSD放送が多く、HD番組があまりないのは残念ではあるが、SD放送でもゴーストなどがほとんど生じず、地上アナログのSmartVision 2.2で見るより、はるかにキレイな映像を楽しむことができた。
地上デジタル放送の場合は、EPGをチャンネルごとに取得する仕組みになっている。そのため、SmartVision DGでは、毎日設定した任意の時刻に全てのEPGを巡回して取得、といった仕組みを導入している。また、SmartVision DGの番組表画面から、[番組表取得]をクリックすると、[全ての放送局]と、[現在の放送局]の2つの取得設定画面が出てくる。[全ての放送局]を選択して番組表を取得してみたが、5分程度で1週間先の情報までダウンロードできた。 アナログ地上波のG-GUIDE対応機器などは、最初に使う際にEPGの配信時間まで、EPGが取得できないことが多いだけに、接続してものの10分程度で1週間先のEPGまで取得できるというのはかなり便利だ。 SmartVision DGの画面は通常のSmartVisionと同じで、[フルスクリーン]、[スリム]、[ノーマル]、[アドバンスト]の4モードが用意される。フルスクリーン/スリムは実質視聴用の画面なので、録画予約などの設定は、基本的にノーマル/アドバンストで行なう。
録画予約は通常のSmartVisionと同じで、番組表で予約したい番組を選択。上部の[予約情報]画面脇の予約ボタンをクリック。[予約設定]画面で、録画時間などを確認し、OKをクリックすると録画予約が行なわれる。なお、この画面で、同一時間帯の1回のみ/毎日予約/毎週予約の選択が行なえるほか、複数ユーザーで利用の場合、他のユーザーが録画内容を確認できない[シークレット予約]の設定も可能。 画質モードはMPEG-2 TS 15Mbpsのみ。なお、地上波アナログのSmartVisionで搭載しているキーワード指定による自動録画機能「おまかせ録画」は搭載していない。 視聴はVIDEO画面から、ファイルをクリックするだけで再生できる。録画自体はMPEG-2 TSの15Mbpsで記録しているものの、ARIBの規定により「パソコンではSDの解像度までは出力できる」となっているため、ライブ視聴時同様に、映像の出力は480pに制限されている。 「480pで出力」という制限は、地上アナログよりも遥かに高画質だが、ハイビジョン放送との差も大きく、コンテンツフォルダとハードウェアメーカーなどの思惑の落としどころとしてはちょうどよかったのだな…… などと妙に納得してしまう画質だ。 タイムシフトモードも用意され、タイムシフト再生/録画も可能。タイムシフト時間はデフォルトでは5分で、1~90分の任意の分の録画ができる。ただし、タイムシフトモードでの録画では、データ放送が録画できない。なお、録画した映像の編集機能などは一切装備しない。そのためCMカットなどは現状行なえない。 データ放送はアドバンストモードで操作する。アドバンスモードで出てくる[d]ボタン、もしくはキーボードの[D]キー/リモコンの[d]ボタンでデータ放送の切り替えが可能だ。データ放送上の十字ボタンや青/赤/緑/黄などのボタンも、アドバンスモードの操作ボタンで利用できるほか、キーボード/リモコンでも操作可能。 地上デジタルとBS/110度CSデジタルに関しては、1枚のB-CASカードを共用している関係上同時録画はできない。また、地上デジタルの録画予約をしている時に、SmartVision BSを起動していると予約録画/視聴がスタートできない。
■ DVDへの「バックアップ」は可能
また、録画したデジタル放送の番組は、本体内蔵のHDDからのみ再生できる。DVDなどへの書き出し機能は搭載していない。ただし、SmartVision DGのエクスポート機能を使って、DVD-Rへのバックアップは行なえる。 エクスポートしたいファイルをSmartVision DGの[VIDEOリスト]から選択し、任意のフォルダに分割して出力。分割したデータを付属のライティングソフト「RecordNow DX」を利用してDVD-Rに書き出して、バックアップできる。ただし、バックアップしたDVD-Rは他のパソコンでは視聴できず、録画したVALUESTAR TXのSmartVision DGを介してのみ視聴可能となる。 同社では将来的な「ムーブ」対応も検討しているとのことなので、今後なんらかのアップデートが期待されるが、現状では貧弱な書き出し機能と言えるだろう。
また、SmartVisionのほかにも統合ソフト「MediaGarage」を搭載する。フル画面表示のインターフェイスで、地上アナログ放送の録画/視聴のほか、静止画や音楽などのマルチメディア関連の機能の全てがリモコンで操作できるというもの。 NEC版のWindows Media Center Editionという感じで、全ての機能がリモコンで利用できるというのはなかなか魅力的。起動時間こそやや待たされる印象はあるが、起動してからのレスポンスは良好で、ストレスなく映像鑑賞などが楽しめる。ただし、地上デジタル、BS/110度 CSデジタル放送に対応しないのが残念なところだ。
付属の液晶テレビ「F23W11」は、アナログチューナ入力を装備し、通常のテレビとして利用できる。テレビ画面とのパソコン画面の2画面表示やピクチャインピクチャ表示に対応する。 また、ディスプレイの前面パネルを振動板とする「SoundVu」を搭載しているほか、付属の「WinDVD 4 for NEC」はドルビーバーチャルスピーカーも備えており、DVD視聴も楽しめる。SoundVuは、高域の出力はやや物足りないものの、正面から音が出てくるためセリフなどが聞き取りやすく、なかなか面白い。
■ 過渡期の製品だけど、パソコンとしての品質感は満足 「どうしてもパソコンでしかできないこと」というのは、デジタル放送に限って言えばほとんどない。むしろ編集できなかったり、SD解像度でしか出力できなかったりと制限が非常に大きいのが現状だ。 地上デジタル放送をパソコンで視聴するという点で、現在ある唯一の製品なので、パソコンでのテレビ視聴派には、現状唯一の選択肢になる。デジタル放送に限れば、今のところ大きなセールスポイントは見つけづらい。 そうした意味では、VALUESTAR TXの約50万円という価格はやや高額に思えるかもしれない。しかし、付属のディスプレイを省いたNEC Direct価格では地上デジタル対応の最小構成で166,000円から、本モデルとほぼ同等の構成でも30万円で購入できる。ディスプレイを別途用意しているユーザーであれば、普通にパソコンを購入する価格プラスアルファ程度で地上デジタル対応製品が入手できる。そう考えれば、結構値ごろ感があるように思える。 個人的には、一番驚いたのはパソコンとしての作りのよさだった。静かで最新の機能を搭載したパソコンとして、十分な魅力を有しているように感じた。 □NECのホームページ (2004年2月20日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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