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1月29日、NECが地上デジタル対応パソコン「VALUESTAR TX(VX980/8F)」を発売した。水冷システム筐体を採用したほか、CPUにPentium 4 3.2GHz、メモリ 512MB、HDD 250GB、DVDスーパーマルチドライブ、Gigabit Ethernetなどのフル機能を搭載。23型のワイド液晶テレビが付属するフラッグシップモデルだが、最も注目されるのはやはりパソコンとして初めて地上デジタル放送に対応したことだろう。 BS/110度CSデジタル放送のパソコン対応でも先陣を切るなど、デジタル放送への対応に最も積極的だったNECだけに、地上デジタルでの先行も理解できる。しかし、ハイビジョン放送をそのままMPEG-2 TSでHDDに録画できるのに、出力時には480pにダウンコンバートされるなどデジタル放送への対応にあたって、わかりにくい点も目立つ。 今回は同社のパソコンの地上デジタル放送への取り組みや、パソコンでデジタル放送に対応する際の問題点などについて、同社PC事業本部 デジタルアプライアンス開発本部 開発企画グループ 主任 野口雅彦氏と、PC事業本部 マーケティング本部 商品企画部 水谷道夫氏に話を伺った。 ■ 地上デジタル対応パソコンのシリーズ化も目指す
まず、NECが他社に先駆けて地上デジタル対応パソコンを発売できた理由については、「従来からBS/110度CSデジタル放送対応のパソコンに取り組んでいた。そちらの技術を応用できたことが大きい(商品企画部 水谷氏)」という。 また、「地上デジタル対応のパソコンをとにかく急いで出そうということで開発した(開発企画グループ 野口主任)」とのことで、デジタル放送への対応で他社に先行しようという意気込みが感じられる。 編集部:VALUESTAR TXは実売約50万円と、VALUESTARシリーズのハイエンドモデルという位置づけとなっています。今後も継続的にVALUESTARのトップモデルは地上デジタル対応となるのでしょうか? 水谷(以下敬称略):トップモデルだけでなく、コストが下がれば下位モデルでも地上デジタル対応を展開していきたいと考えています。 VALUESTAR TX(VX980/8F)では、WXGA(1,280×768ドット)の23型ディスプレイが付属。地上アナログチューナを内蔵。左右2画面分割、PinP、PoutP機能を搭載し、PC画面とTV画面を同時表示できる。また、ディスプレイの前面パネルを振動板とする英NXTのフラットパネルスピーカー技術「SoundVu」を組み込み、エキサイタ(5W)を8個、サブウーファ(6W)を1個内蔵するなど高機能なディスプレイとなっている。しかし、ハイエンドモデルならばもう少し高解像度/大画面にはならなかったのだろうか?
水谷:現状では、液晶のパネルの価格帯として提供しやすいものとなると、WXGA解像度しかなかった。市販の液晶テレビもこれ以上の解像度になると、どんどん価格が上がってしまいます。現状モニタだけでも20~30万円の液晶テレビと同等の機能を持たせていると思っていますので、これ以上となるとさらに価格が上がってしまいます。 ■ 録画ソフトやEPGの仕様について 録画ソフトのSmartVisionについては、地上デジタル用の「SmartVision DG」と、BSデジタル/110度CSデジタルが「SmartVision BS」、地上デジタル「SmartVision DG」とそれぞれ分かれており、見たい放送にあわせてアプリケーションを起動しなければならないなど仕様に不満が残る点もある。
編集部:録画ソフトが地上デジタル、BS/110度CSデジタル、地上アナログとそれぞれ別のソフトになっていますが、統合できなかったのでしょうか?
水谷:デジタル放送とアナログ放送に関しては、放送方式や著作権保護形式の違いなどもあり、2つの統合というのは難しかったというのがあります。もうひとつデジタル同士の統合というのは…… 野口(以下敬称略):デジタル同士の統合については、不可能ではないですが、今回地上デジタル対応のパソコンをとにかく急いで出そうということだったので、既存の衛星デジタルのソフトは手を加えていません。しかし、デジタルのアプリケーションに関しては、共通化を図っていこうとしてます。 また、現状全てのSmartVisionで、DirectXのハードウェアオーバーレイを使っている関係上、同時に起動はできません。ただ、どちらか片方のみの表示であればアナログ放送とデジタル放送では、同時に録画ができます。しかし、地上デジタルとBS/110度CSデジタルに関しては、1枚のB-CASカードを共用している関係上同時録画はできません。 編集部:SmartVision DGでは、地上デジタルのEPGはチャンネルごとに取得するようですが? 野口:地上デジタル放送の仕組み自体がそういう方式になっています。衛星の場合はどこかひとつの局を見ていれば、全ての局の情報が取得できる「全局EPG」という仕組みになっています。しかし、地上デジタルの場合は事業体が全て異なっているので、全て各放送局がそれぞれ自局の情報を送出しています。 編集部:すると、同一チャンネルをずっと見ていると他のチャンネルのEPG情報が取れないということが起こりうるのでしょうか?
野口:そうなります。そのため、SmartVision DGでは、毎日設定した任意の時刻に全てのEPGを巡回して取得といった、EPG取得の仕組みを導入しています。 編集部:ということは、その際にパソコンを起動していないといけないわけですね? 野口:そうです。ただ、通常の録画予約と同じように、PCがスタンバイ/休止状態の状況になっていれば、自動的に起動してEPGデータだけ取得して、またスタンバイ/休止状態に戻るということになっています。 編集部:とすると、スタンバイ/休止状態での利用が推奨されるということでしょうか?
野口:テレビ系のソフトだと、(録画予約との兼ね合いで)往々にして、そういう使い方になると思います。Windows 98 SE/Meの頃に比べて、XPでは(電源管理の)安定性も上がっていますから、昔ほどトラブルもありません。 編集部:VALUESTAR TXには3系統のテレビチューナを搭載していますが、分配器などは付属しないのでしょうか? 野口:付属しません。RF入力を1系統にまとめたいのですが、その場合はBSのアンテナと地上波のアンテナと2つの周波数の違う信号をまとめるために混合器が必要になります。また、BSの15Vのアンテナ電源が地上波の機器に悪い影響を及ぼすことがあります。そのため将来的には、地上波放送に関してはまとめる方向で、BSは別系統にするかあるいは混合器をつけて1系統にまとめるかのいずれかを考えています。 ■ 480pの出力制限はバスと著作権の問題 「VALUESTAR TX」も、以前発売された地上デジタル/110度 CSデジタル対応の「VALUESTAR T(VT970/3D)」でも、録画した映像はMPEG-2 TSのままHDDに記録されるが、出力時には480pにダウンコンバートされて出力される。どうしてこのような仕様になったのだろうか? 水谷:録画時点では放送電波をストリームのままHDDに記録しています。それを再生する際に480pにダウンコンバートして出力するような形になっています。理由としては、まずは、パソコンの(PCI)バスの性能の問題が挙げられます。HDで出力すると、どうしても帯域幅の制限から画面が乱れる可能性があります。 もう1つの理由としては、やはり著作権の問題。デジタル放送の映像をそのままバスに流してしまうと、そこでデータ解析されてしまう可能性もありますので、SD画質に落としているということになります。 VALUESTAR TXでのデジタル放送の録画は、デジタルチューナカード上に入力されたストリームを、暗号化のチップを介してHDDに蓄積する。カード上に480pへのダウンコンバート用のデコーダを搭載し、出力する時はカード上で暗号を解除してからダウンコンバートし、出力するという仕組みになっている。そのため、バス上に暗号化されていないデジタル放送のストリームは一切流れないという。 編集部:HDで出力できないのであれば、最初から480pで録るという考えもあるかと思いますが? 水谷:そういう声もあると思いますが、放送の電波はデータ放送や、EPGの電波も含んでいます。データ放送も含めてそのまま録画したいというのが(ストリームで録画する)最大の理由です。データ放送でいえば、例えばスポーツの中継だと、選手のさまざまな情報を、映像と一緒に保持しておきたいのですが、録画時に480pなどに変換してしまうと映像データしか残らなくなってしまいす。 編集部:現在、コンバートしながらデータ放送などの情報も残すような手立てというのはないのでしょうか?
野口:独自形式ということでよければ、放送しているトランスポートストリームを、一回分離して、映像音声に関してはSD解像度に変換して、タイムスタンプを見ながらデータ放送を重畳するといったことは可能だとは思います。 現在このような仕様になっている理由としては、今の方法ではそのままのデータを保存しているわけですから、一番開発の速度が速かった。2つ目にはコンテンツの保護にも関わってきます。ハイビジョンのデータを変換するにはいったん(データを)展開しなければいけませんが、(バスを通して)これをメモリ上に展開するわけにはいかないので、ソフトウェアで行なうわけにはいかない。 だからハードウェアでやらなければならないわけです。そういったハードウェアのトランスコーダは現状無いですし、開発にもかなりの時間がかかるだろうということで、こういう仕様になっています。 編集部:VALUESTAR TXで録画したデジタル放送は、現在の仕様では編集ができないほか、DVDへの書き出しもできず、記録したパソコン内でしか視聴できません。DVDへの書き出しが行なえるようになる可能性はあるのでしょうか?
野口:DVDビデオだと元の情報は480iで、MPEGのPS(プログラムストリーム)となりますから(デジタル放送のMPEG-2 TSからだと)先程述べたような変換が必要となります。方法的にはアナログでキャプチャしなおせばできるのですが、そのあたりの仕組みはまだできていません。 というのも、今年の4月から大半のデジタル放送がコピーワンスになります。そうなった際には、全てのキャプチャカードでアナログキャプチャできなくなります。NECでもそれについては対応策を練っていますが、まずその対応が必要となります。これが第1段階です。 2段階目は、DVDで書き出す上では、「ムーブ」に対応させなければなりません。その2つの条件に対応したときにはじめて、VR形式でアナログでの書き出しできるようにはなります。 ■ 480p出力はARIBの規定。ハイビジョン出力にはHDCPの整備が待たれる 先に説明されたように、HDで記録したデータもパソコン上での表示はすべて480pに変換して表示される。さらに、外部の映像出力もS/コンポジット出力のみしか装備していないため、VX980/8Fでハイビジョン画質で視聴することができない。こういった制限が解決する見込みはあるのだろうか?
野口:ARIB(アライブ/社団法人 電波産業会)で定めている受信機の規約があります。NECで出している製品はその規約に準拠しています。 その中では、例えば「デジタル映像/音声出力でコンテンツ保護された映像/音声出力をする際には、必ずHDCP仕様に従って保護技術を施す」といったことが定められています。しかし、HDCPの規格がPCに関してはまだ完全に定まっていない段階なので、それが決まるまで、2005年までは「SDの解像度まで(1フレーム当たり52万画素以下 = アスペクト4:3の場合800×600ドット/16:9の場合960×540ドット)は出力できる」ということになっています。 仮に他のメーカーが地上デジタル対応のPCを出してくるとしても、やはりHDCPが決まるまでは、私達と同等のものとなるだろうと考えています。
家電ではDVDプレーヤーなどでHDCPの出力に対応した機器が存在するが、パソコンでの出力にはまだ課題が残っているという。というのも、HDCPには2つの段階があり、DVDプレーヤーなどで対応しているのは機器の出力段、グラフィックコントローラからディスプレイに出力するための「ダウンストリームプロトコル」。これに関しては、既に規格が決まっている。 しかし、アプリケーションからドライバを介してグラフィックコントローラまでのデータの流れを規定する「アップストリームプロトコル」の規格が完全には決まっていないという。PCの場合は、汎用バスがあるということで、アップストリームプロトコルへの対応が必要になる。
編集部:それでは、パソコンのHDCPの規格が決まれば、ハイビジョン出力が可能となるのでしょうか?
野口:そうですね。また、ARIBの規定で保護されているコンテンツでアナログRGBでハイビジョンの出力が認められるのは2005年まで、(HDCPの導入が見込まれる)2006年以降はアナログRGBの出力はSD解像度(52万画素以下)まで出力可能となっていたかと思います。 編集部:データバスと著作権保護関連が、パソコンでデジタル放送に対応する際の大きな問題なんですね。つまり、データを通すPCIバスがPCI ExpressになってPC向けのHDCPの仕様が策定すれば、パソコンでも出力ができるという方向で進んでいる?
野口:各社ともPCI Expressの出現を待っていると思います。最終的にアナログ放送が終息に向かっている以上、結局パソコンでもデジタル系の方向にシフトせざるをえないと考えています。 ■ 単体テレビキャプチャカードは難しい?
編集部:いままでの話を聞いていると、単体のデジタルテレビキャプチャ用PCIカードというのは難しそうですね。 野口:BSデジタルの時は、VALUESTAR専用のサポートキットということで単体カードも発売しました。その時も“どういった構成で動くか保証できるもの”ということで、VALUESTARのみのサポートとなりました。 現状、ボード単体という見方でセキュリティを考えることが難しくて、PCの中身で“バスはどうなの?”、“出力するLCDのところはどうなの?” というシステム全体の話になってしまいます。ボード単体ということは現状難しいかな、とは感じてます。ただ、検討はしています。 ■ 「パソコンならでは」をどう訴求していくのか ここまで話を伺ってきて、汎用バスを採用しているパソコンで地上デジタル放送に対応するためには、さまざまな問題をクリアする必要があることがわかった。 アナログ放送時代のパソコンのテレビ録画では、再利用性などの自由度の高さで人気を呼んできたが、デジタル放送に移行した際にはそうした「パソコンならでは」の特徴を活かすのは現状では非常に難しい。 しかし、野口氏は「デジタル放送では、コンテンツが保護されることにより編集やDVDへの保存もできなくなる。しかし、どうやって他社と差別化するのか、どうやっていろいろな面白い使い方を提案するのか、という点について、各社とも知恵を絞ったりしていると思う」と話す。 パソコンでのデジタル放送への取り組みは、まだ始まったばかりだ。今後各社がこうした制限の中からどんな提案を行なっていくのか、期待が高まる。 なお、AV Watchでは後日「VALUESTAR TX(VX980/8F)」のレビューを予定している。 □NECのホームページ (2004年1月30日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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