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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第147回:機能一新して新登場「TMPGEnc 3.0 XPress」
~ 超高圧縮MPEGモード「XDVD」の実力は? ~


■ 盛況な再エンコード市場

 コンシューマ市場におけるソフトウェアMPEGエンコーダは、その用途が大きく2つに分かれる。まず1つは、自分で撮影したビデオなど、もともとAVIファイルであるものをMPEGに変換するという使い方。カノープスのProCorderなどは、こういった用途を想定している。

 だがこういうクリエイティブな市場というのは、案外底が浅い。なにせそういう映像制作をやっている人自体が少ないので、ある程度行き渡ったら、それ以上先がなかなかないのである。

 もう1つは、テレビ放送を保存するという使い方。多くのDVDオーサリングソフトは、タテマエとしては前者のような用途を想定しているが、次第にVRインポート機能などを充実させ、実質的にはMPEGの再エンコードがメインという製品である。

 TMPGEncは、最初から放送など既存コンテンツの圧縮を想定してきたエンコーダだ。フリー時代には、凝った設定ができるとしてマニアが殺到した。セルソフトになってからは、設定ウィザードを搭載し、ユーザー層を拡大した。画質面で非常に評価の高いエンコーダだが、「遅い」という点に不満を持つユーザーも少なくなかった。

 Electric Zooma! では2002年3月に、メディアでは初めて開発者の堀浩行氏に単独インタビューを行なっている。そのとき、次の3.0ではGUIとエンジンを書き直すとおっしゃっていたが、あれから約2年、ようやくその3.0が姿を現した。「TMPGEnc 3.0 XPress」は、先週金曜日16時より、株式会社ペガシスのサイトでダウンロード販売が始まっている。

 SSE3対応、低ビットレートでの画質向上と、見所の多いTMPGEncの新バージョンを、早速テストしてみよう。


■ 大きく変わったGUI

大きく改良されたGUI
 最初の起動画面から、その違いは大きい。ウィザードがメインとなった作りで、ボタン類も大きく、取っつきやすくなっている。

 上部に並ぶのが作業のおおまかな流れで、スタートから入力設定、出力設定、エンコードと、段階的に設定していく。TMPGEnc Plus 2.5時代のウィザードは、次にどんな設定が来るのか進んでみなければ解らず、一方通行のイメージがあった。だがこのように全体の流れが俯瞰できることで、見通しが良くなっている。

 入力設定へ進むと、エンコードしたいファイルの追加画面になる。通常はここへファイルをドラッグ&ドロップするか、「ファイルを追加」ボタンでファイルを指定するわけだが、ここでもまた別のウィザードが仕込まれている。

ファイルのドラッグ&ドロップに対応した入力設定画面 追加ウィザードを使ってもいい

 追加ウィザードでは、ファイル指定以外に、DVDメディアからのインポートや、ソニーVAIOのTV録画ソフト「Giga Pocket」形式のインポートを選択するようになっている。もっともウィザードを使わなくても、入力設定画面上にそれぞれのファイルをドラッグすればすむことだが、DVDビデオフォーマットやVRフォーマットでは特定のファイルを指定しにくいので、ウィザードを使う意味はある。

 TMPGEnc 3.0 XPressには、3.0 XPress単体か、これにAC-3のプラグインが追加されたものの2種類がある。DVDレコーダで制作したDVDビデオフォーマットやVRフォーマットでは、音声にAC-3(ドルビーデジタル)が使われているケースがほとんどなので、レコーダからのインポート作業をやりたい人は、AC-3プラグイン付きのほうがいいだろう。

 クリップが追加されると、今度は「クリップの追加」ウインドウが開く。この中でもウィザードとまでは行かないが、いくつか機能が分かれており、クリップに対する作業が行なえるようになっている。

音声がAC-3のコンテンツをロードするには、AC-3プラグインが必要 クリップの編集が可能な「クリップの追加」ウインドウ

 TMPGEncが以前から多くのユーザーに支持されてきた理由の1つが、これら編集やフィルタ機能だろう。MPEG-4を含め多くのエンコーダでは、ただエンコードできるだけで、フィルタリングや編集機能を持ってないものが多い。ということはエンコードする以前にそれらの処理を済ませておかなければならないわけだが、別アプリで処理すればそれだけ手間だ。TMPGEncはその点、早くからオールインワン的な性格を持っていた。

レスポンスが格段に良くなった「カット編集」画面
 「カット編集」は、不要部分のカットを行なうエリアだ。基本的な操作は2.5時代から変わっていないが、ドラッグによる映像シークやコマで進めたりといった映像操作のレスポンスが、格段に良くなっている。プレビュー再生も、音声とともにスムーズに再生される。これが新開発の動画編集エンジン「Video Mastering Engine(VME)」の威力ということだろう。TMPGEnc Authorのようなフィルムロール表示があればさらに使いやすかっただろうが、素材がMPEGとは限らないエンコーダでは難しいということだろうか。

 編集を行なうと、そのポイントがキーフレームとして左側のエリアに表示される。サムネイルをクリックすると、そのポイントにジャンプするので、編集箇所付近を再確認するときに便利だ。

 「フィルタ」では、各フィルタがアイコン表示され、それぞれの効果もリアルタイムでプレビューできる。さすがに「ノイズ除去」など重たい処理ではコマ落ちして表示されるが、それでもフィルタの効果が動画で確認できるのは強力だ。β版リリース時の資料によると、ノイズ除去では3DNR単体性能で30倍、2DNR単体性能6倍の速度向上を成し遂げたそうである。

リアルタイムでプレビュー可能なフィルタ
 フィルタの組み合わせや各設定値は、テンプレートとして保存することができる。番組タイトルごとに設定を決めて、この番組はいつもこの設定、といった使い方ができるようになっている。

 またこのように設定したクリップをいくつも同時に持てるので、複数のクリップをまとめて1ファイルにしたり、それぞれを別々にエンコードすることもできる。


■ 幅広い出力

出力はテンプレートから選択するスタイル
 出力設定に進んでみよう。2.5時代のウィザードでは、何に出力するかを最初に決心しなければならなかったわけだが、今回は作業の進行どおりの順番になっている。DVD、ビデオCD、スーパービデオCDといったフォーマットに対応しているのは以前と同じだが、今回はペガシスが提唱するXDVDというフォーマットが加わった。

 これはDVDビデオ規格で決められているGOPの長さ(18フレーム)を拡張して、60フレーム以上の長いGOPを作るというものだ。GOPが長くなれば、当然容量の大きいIフレームの数が減るわけで、ビットレートの割には画質は向上することになる。

 実際このような原理はLong GOPと呼ばれ、放送用ビデオサーバーなどで使われている技術だ。これは主に生中継受けや、素材の回線収録を行なうサーバーで使われる。これらの映像はカメラからのナマ映像であるため、編集点、つまりカット変わりがない。だから300フレームといった長大なGOP作成が可能だし、ビットレートも節約できる。

XDVDとはいっても、ビットレート設定方法は同じ
 一方コンシューマーでは、番組などすでに完パケになっているものをエンコードする。これらはカット変わりも多く、そのたびにIフレームが自動挿入されていくので、ものすごく長いGOPは実際にはできないことだろう。だが数秒単位のGOPができれば、従来よりもかなりの節約になることには違いない。

 XDVDの設定自体は、通常のDVDビデオフォーマットの時と違いはない。平均ビットレートと最大ビットレートを指定したり、あるいはメディアに対するパーセンテージでビットレートを算出したりといった方法が使える。

 映像解像度は、2Mbps以上では720×480ドットだが、1Mbps以上2Mbps未満では352×480ドットに、1Mbps未満では352×240ドットに自動的に落とされる。無理矢理解像度を固定することもできるが、画質的にはやはり素直に指示にしたがった方がいいだろう。

 またこのXDVDの設定は、DVD互換ではなくMPEGファイル作成に移行することもできる。MPEGファイル設定では、GOP構造をいじったりといった本格的な設定が可能になるが、そうなるとDVD規格からどんどん離れていくので、DVDプレーヤーはおろか、PCのソフトウェアMPEGデコーダでも再生できなくなる可能性が高まってくる。いじるなら、テストファイルを使って再生互換の様子を見ながらやるしかないだろう。

 これらの設定は、左側のエリアにアイコンとして追加されていく。複数の出力と設定を比較しながら設定していくということも可能だ。またこれらの設定は、テンプレートとして保存できるので、フィルタと同じく番組タイトルごとの設定を使うということも楽にできる。

 個人的に出力で注目しているのは、WMVに正式対応したことだ。WMVエンコーダのプラットフォームとして、フィルタリングやバッチ機能などなかなか良いものがなかった状況であったが、TMPGEncが使えるのは大きい。

 さらにAVI出力を利用して、DivXもエンコードすることができる。ただし2パスのバッチエンコードまでは面倒見てくれないので、1passとnth passのテンプレートを作って自分でバッチエンコードするしかない。それでもMPEG-4派にとって、便利なエンコードプラットフォームであることには変わりないだろう。

MPEG出力に移行すれば、GOPの長さなど詳細な設定が可能 AVI出力を利用すれば、DivXのエンコードも可能


■ 高速化したエンコード

 エンコード画面では、本体でエンコードする以外に、バッチエンコーダに登録してエンコードさせるという方法がある。複数のクリップを登録して別々に出力できるのに、バッチエンコードを使う意味があるのかと思われるかもしれない。だが本体で複数クリップを別ファイルに出力する場合は、出力設定は共通になる。

3.0 XPressのエンコード画面。登録クリップを別々のファイルにも出力できる 別アプリとして起動するバッチエンコーダ

 例えば1つはMPEG-2に、1つはWMVに、といった出力をしたいときには、本体だけでは無理ということだ。その点バッチエンコードに登録すれば、様々なスタイルのエンコードを順番にこなしてくれる。

 また今回のエンコーダでは、新Pentium 4(コード名 Prescott)のSSE3に正式対応している。動き検索のスピードアップに効果があるという。なおベンチマーク結果は、ペガシスからリリースが出ている。スピード面の情報に関しては、そちらを参考にしていただきたい。

 またPrescottではなくても、HTテクノロジ対応CPUであれば、2CPUとして動作する。具体的には2スレッドでフィルタ処理やエンコードが可能なほか、バッチエンコードでは2つのファイルを同時にエンコードできる。こうすればCPUパワーを100%利用できる。

 逆に敢えて1CPU相当で使用すれば、バッチエンコードでは60%程度しかCPUパワーを消費しないので、平行して別の作業を行なっても支障をきたさないというメリットもある。

 では期待のXDVDでエンコードしてみよう。デフォルトの平均ビットレート3,000kbpsの設定を基準に、いろいろなビットレートで試してみた。

【動画サンプル】
平均ビットレート 解像度
(ドット)
動画サンプル
3,000kbps 720×480ドット
ez14.mpg
(8.79MB)
1,950kbps 352×480ドット
ez15.mpg
(6.07MB)
1,500kbps 352×480ドット
ez16.mpg
(4.83MB)
950kbps
ez17.mpg
(3.31MB)
↓以下参考↓
1,950kbps 720×480ドット
ez18.mpg
(5.34MB)
1,500kbps
ez19.mpg
(4.60MB)
950kbps
ez20.mpg
(3.66MB)
(c)CREATIVECAST


■ 総論

 XDVDはDVDビデオフォーマットの規格外ということで、PC上で再生すると、途中で映像が止まってしまうケースもあることだろう。画質的には、2Mbps以下の低ビットレートでも映像の解像度を追従させていけば、さほどヒドいとは思わない。特に1Mbps以上2Mbps未満の352×480ピクセルあたりは、DVDレコーダではEPモードなどほとんど使い道のない程度のビットレートだが、それよりはずいぶんマシな映像となっている。

 ただ再生に関しては、現時点ではほとんどハードウェアのDVDプレーヤーのキャパシティ任せになるのは辛いところだ。こればっかりはフォーラムで正式に認められた規格というわけではないので、今は再生できるものがあっても、将来的にはわからない。

 だがXDVDだけが3.0 XPressの取り柄ではない。とっつきの良いGUI、高速化された編集機能やフィルタ、SSE3とHTテクノロジ対応MPEGエンコードに価値を見いだす人もいるだろう。WMVのサポートなど、MPEG-4派も高速編集やフィルタリングの恩恵に預かることができる。

 いまさらMPEGエンコーダか、という意見もあるだろう。だがこれからMPEGに入門する人もいるわけだし、XDVDをきっかけに、またMPEG-2が盛り上がってくるかもしれない。いろいろな意味で、大きな影響力を持つソフトだと言える。

□ペガシスのホームページ
http://www.pegasys-inc.com/
□ニュースリリース
http://www.pegasys-inc.com/ja/press/04_0305.html
□関連記事
【3月5日】ペガシス、新エンコードエンジン搭載の「TMPGEnc 3.0 XPress」正式版
-AC-3プラグイン同梱版も発売
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040305/pegasys.htm
【2002年3月6日】フリーソフトの超高画質エンコーダ「TMPGEnc」
~伝説の開発者の姿が、今明らかになる~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020306/zooma50.htm

(2004年3月24日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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