■ 18年を経て、やっとDVD化!
最近公開される映画は、劇場封切り時にはすでにDVD化されることがほぼ決まっている。しかし、DVDが登場する以前に公開された旧作で、しかも大ヒット映画でない場合、DVD化が忘れられているのではないだろうかと心配になるほど、待てど暮らせどDVDがリリースされないことがある。 今回紹介する「ヤング・シャーロック ピラミッドの謎」は、そんな映画のうちの1つだ。日本では'86年に劇場公開されており、すでに18年も経過。それほど大ヒットしたという記憶もないが、当時数多く製作された「スピルバーグ製作総指揮」作品である。 そんな経緯もあって、DVDが発売されないということはないだろうと思っていたが、“大人の事情”というやつか、なかなかDVD化されない。 おそらく、大多数の人にとっては、それほど重要な作品ではないだろ。しかし個人的な記憶では、当時中学生ぐらいで、その年代の通過儀礼のようにシャーロック・ホームズにどっぷりはまり込んでいて、いろいろな人の訳を読み比べ、「ワトソン」と「ワトスン」どっちが正しいのか? などとくだらないこと考えていた。 また、劇場に足を運んでかなりの本数の映画を見ていた時期でもあったので、「ヤング・シャーロック ピラミッドの謎」というタイトルを聞いただけでドキドキ、ワクワク。初日に観に行った。 そんなこともあって、大多数の人がどうであろうと、個人的に思い入れのある作品なのだ。それが公開から18年を経た2004年3月26日にDVDが発売されることが決定した。半分あきらめていたDVD化が突然決まり、DVDとしての仕様はもとより、価格すら確認せずに発売日に購入したことはいうまでもないだろう。 ただ、あとで冷静になって考えてみると3,980円という価格は、後述するようなDVDの仕様からすると、思い入れのある人以外の購入を阻む、コストパフォーマンスだった。
■ スピルバーグ総指揮、脚本はハリー・ポッターのコロンバス ヤング・シャーロック ピラミッドの謎は、「もし、シャーロック・ホームズとワトソンが少年時代に知り合っていたら」ということをストーリーのきっかけとして、SFX満載で描いたアドベンチャ映画。CGが本格的に使用された最初期の映画でもある。 製作総指揮スティーブン・スピルバーグ、監督バリー・レビンソン、脚本はクリス・コロンバス。劇場で見たときには、あまり意識していなかったが、改めて製作陣を見ると、かなり豪華な顔ぶれが揃っていて驚いた。 もちろん、その当時からスピルバーグはビッグネームだったが、バリー・レビンソンや、クリス・コロンバスは日本ではほとんど知られてなかったように記憶している。この作品の後、バリー・レビンソンは「レイン・マン」や、「バンディッツ」を監督し、クリス・コロンバスは、ハリー・ポッターシリーズの脚本を担当するなど、大出世を果たしている。 当時の宣伝文句は、「スティーブン・スピルバーグ製作総指揮、最新鋭のCGを使用」が前面に押し出されていたように思う。“製作総指揮”というのが、実際のところどんな仕事なのか、未だによくわからないが……。 クリスマスを控えたロンドン。ある名門校に転向してきた若き日のワトソンは、そこでホームズと出会う。ワトソンは、ホームズの類まれな推理能力に惹かれていく。そんなある日、彼らが通う学校の教授が不審な死を遂げる。自殺か?、陰謀か? 2人が、この事件を追ううち、次々と起こる事件の背後に、古代エジプトの邪教集団の陰謀が見え隠れしはじめる。そして、危険をはらんだ冒険へと巻き込まれていく――。 ストーリーからもわかるように、原作のような推理を積み上げていく(原作でも推理とはいえないような作品もあったが)タイプではなく、いわゆる冒険活劇に仕立て上げられている。ストーリーとしては、推理小説的な面白みは弱く、原作との整合性をとろうという気はあまりないようなので、熱心なシャーロキアンには物足りないと思う人も多いだろう。しかし、後のハリー・ポッター映画を思わせる、調度品の美しさや世界観と、水準以上の娯楽作に仕上がっている。 改めて観ると、当時話題となった、ステンドグラスから飛び出すCGの騎士は、いかにもCG丸出しで今の基準で見ると少々つらいものがあった。最初に観た時の「CGでこんなことができるのか!!」という驚嘆の記憶が残っていたので、CGの進歩の速さを痛感してしまった。 その一方で、SFXについてはかなりレベルが高く古さも感じず、作品のおどろおどろしさをうまく高めている。
■ DVDとしての仕様は、とにかくあっさり 今時の映画のDVDとしては珍しい片面1層だが、106分の本編のみなので容量的にはそれほど厳しくはないだろう。ビスタサイズをスクイーズ収録しており、平均ビットレートは5.8Mbpsとそれほど高くないが、グラフの振れは大きく、丁寧なエンコードが行なわれていることが伺える。 実際に視聴した限りでは、MPEGエンコードには問題なく破綻しているところもない。画質も、ロンドン特有のどんよりとした鉛色の曇り空を再現しながらも、温かみのある色調が出ていて、作品の雰囲気が保たれている。18年前の作品であることを考えれば、画質面ではまったく問題がないといっていい。
音声は英語がドルビーデジタル5.1chなのはいいのだが、日本語吹き替えは、なんとドルビーデジタルのモノラル。なぜこんな仕様かというと、地上波放送時の吹き替え音声をそのまま使っているからだ。そのため、地上波放送時にカットされた部分の音声はなく、字幕で対応している。 ドルビーデジタル5.1chの音声は、LFEが活用されて大迫力といった作品ではないが、それなりのサラウンド感はあり、全体的によくまとまっている。そのため、吹き替え派にとっては、モノラル音声というのが、より一層残念に感じることだろう。 なお、このDVDは、今時のDVDにしては珍しく、まったく特典が収録されていない。オーディオコメンタリやメイキング映像といったものはもちろん、予告編やTVスポットすらなく、本当に本編とチャプタメニューぐらいしかな入っていない。大手が発売する洋画のDVDとしては、かなり珍しいだろう。
■ 映像特典も見たかった 映像特典がまったくなく、完全に本編だけしか収録せず、吹き替え音声もモノラルという、ストイックというより割り切った仕様のDVDだ。本編の方の画質や音声の質は高いが、価格も3,980円と、新作映画のDVDとほとんど変わらない。 作品に思い入れがない人が手にとるようなことはないのかもしれないが、今見ても映画としては十分に面白く、映画でのCG活用の草創期を知るという意味でも楽しいと思う。メイキングかオーディオコメンタリで舞台裏を知ることができなかったのが、残念でならない。 個人的には、思い出と思い入れのある映画なので、映像・音声ともよい状態で再び見ることができただけで満足できた。しかし、ほかの人に、この価格で手放しでお勧めすることはできないことも確かだ。 もっと、ファン向けに映像特典を充実させるか、手軽に誰でも手に取れるような価格設定にしてほしかった。よい雰囲気の作品なので、是非とも多くの人に観てほしいのだが……。
□パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパンのホームページ (2004年3月30日) [AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]
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