■ 「Wooo」最新モデルは世界初の55V型
「Wooo」の愛称で知られる日立のプラズマテレビ。その最新モデルが、3月下旬発売の55V型「W55-P5500」だ。55V型という今までなかった画面サイズや、新方式の「e-ALIS」(extended-ALIS)パネルを採用したことなど、プラズマ陣営としては久しぶりにトピックが多い。 ラインナップ中の位置付けとしては、2003年9月に発売された「P5000シリーズ」の上位モデルとなる。従って、AVCステーション(チューナ部)のグレードをユーザーが選び、自由に組み合わせて購入する独特のシステムも継承している。ただし、P5000シリーズのAVCステーションは利用できない。P5500シリーズ専用のAVCステーションが用意されているので、そちらから選ぶことになる。 さらにW55-P5500では、「サイドスピーカータイプ」(W55-P5500S)と「アンダースピーカータイプ」(W55-P5500U)を選択できるようになった。このうち、アンダースピーカータイプは日立初の試み。その効用は、横幅が抑えられることだ。 アンダースピーカータイプの横幅は1,394mm。例えば、松下電器の「TH-50PX20」(幅1,329mm)や、ビクター「PD-50DH4」(幅1,350mm)といった現行50V型モデルに対し、横幅の長大化を40~65mmほどに抑えている。また、ソニーの50V型「KDE-P50HX2」(幅1,573mm)と比べると、逆に179mmも短い。大画面と設置性は相反するものだけに、購入者にうれしいところだ。 ただし、同じくアンダースピーカーを採用するパイオニア「PDP-504HD」と異なり、サイドとアンダーでスピーカーを付け替える機能はない(スピーカーの取り外しは可能)。なお、アンダースピーカー時のPDP-504HDの横幅は、クラス最短の1,270mmとなる。 AVCステーションは全部で4タイプをラインナップする。機能はP5000シリーズのAVCステーションとほぼ同じで、ラインナップは、HDDレコーダ搭載モデルの「AVC-HR5500」、インターネット機能付きの「AVC-HW5500」、地上/BS/110度CSデジタルチューナ搭載の「AVC-H5500」、地上アナログチューナのみの「AVC-5500」。地上/BS/110度CSデジタルチューナは、AVC-HR5500とAVC-HW5500にも搭載している。 購入時には8通りの組み合わせを選ぶことになる。日立では、組み合わせるAVCステーションごとに「HRセット」、「HWセット」、「Hセット」、「U/Vセット」と名付けている。
AVCステーションのうち、注目すべきはHDD搭載型のAVC-HR5500だろう。160GBのHDDを搭載し、地上デジタル放送や、BSデジタル放送のHD映像もMPEG-2 TSのまま録画できる。DVDドライブなどを搭載していないため、基本的には「見たら消す」、タイムシフトに特化した製品ともいえるが、i.LINKを経由することで、コピーワンスコンテンツをD-VHSなどにムーブ(移動)することも可能だ。機能的には、P5000シリーズのHDD内蔵モデル「AVC-HR5000」と大きな差異はない。
AVC-HW5500は、常時接続環境でのWebブラウジングとメール送受信が可能なインターネットモデル。Ethernetを備え、ブラウザの操作はリモコンで行なう。また、USBコネクタにはキーボード、カードリーダ(DCFファイル対応)などを接続できる。2002年の「PDH3000シリーズ」から続いているコンセプトで、P5000シリーズからは、地上/BS/110度CSデジタルチューナも内蔵している。 そのほか、シリーズ中最も売れ筋と思われる「AVC-H5500」は、デジタルチューナを標準搭載したAVCステーション。なお、デジタルチューナを搭載しないベーシックモデル「AVC-5500」は受注生産となっている。 今回は日立のデジタルメディア事業部にうかがい、W55-P5500UとAVC-HR5500の組み合わせを視聴させてもらった。
■ 新方式「e-ALIS」パネルの実力
「e-ALIS」は、富士通日立プラズマディスプレイ株式会社(FHP)の「ALIS」(Alternate Lighting Surfaces Method)を大画面向けに発展させたもの。その特徴は「ALISの高精細と高輝度を維持したまま、大型パネル用にした」(FHP事業企画部 菊地伸也担当部長)ところにある。というのも、61V型などの大型パネルは、輝度やコントラストの低さが指摘されており、42V型などの輝度を維持したまま大型化するには、何かしらのブレイクスルーが必要とされていたからだ。 P5500シリーズに採用された55V型パネルは、輝度1,000cd/m2、暗室コントラスト比1,000:1というスペック。解像度は1,366×768ドットで、10bitの入力信号にも対応する。1,000cd/m2は業界最高クラスの明るさで、テレビとして組みあがったP5500でも同じ数値を標榜している。 ALIS方式は、奇数ラインと偶数ラインの走査電極を60分の1秒(1フィールド)ごとに交互発光させることで、30分の1秒(1フレーム)単位では全発光に見える、という技術を採用している。奇数ラインと偶数ラインを共通化することで、解像度と同じ走査電極数を持つ他のパネルと比べ、高い開口率と垂直ラインの高精細化が見込める。プラズマディスプレイにしては小型の32V型、37V型といったパネルを実現できたのは、共通電極構造によるところが大きいという。 一方、e-ALISはALISの共通電極を踏襲しながら、アドレスの仕方や発光タイミングなどに手を入れている。前面板にはALISと同じく共通電極構造を採用。走査電極は384本で、これを交互に発光させることで768ラインの縦解像度を得ている。ALISと異なるのは、60分の1秒間にアドレスを2回行ない、奇数ライン・偶数ラインとも1フィールドの間に発光させること。アドレスはインタレースで行なうが、1フィールドで全ラインが発光するため、ALISでは不可能だったプログレッシブ駆動が可能になった。 背面板には新たに格子状リブを採用し、蛍光体の塗布面積を増加させている。パイオニアや松下電器のパネルにも良く似た構造が採用されているが、これがパネルの輝度を高めることにつながり、e-ALIS方式とあわせ、1,000cd/m2という高輝度に寄与しているという。
そのほか、FHPでは「業界最高のコストパフォーマンス」、「EU規制対応の環境設計」も利点としてあげている。ただし、基本的には大画面用なので、従来の32/37/42V型がe-ALISに置き換わるわけではないという。また、「技術的には80インチぐらいまでは大型化できるのでは」(FHP設計統括部 石垣正治氏)とのことで、2005年末に量産を開始する新工場(通称:三番館)では、e-ALISの生産にも注力する。 実際にP5500を視聴したところ、白一面の画像を映したとしても、明るさが大きく落ちない点に感心した。P5500単体で見れば、白の領域が増えるとグレーっぽく感じることもある。しかし、隣に置いた他社製50V型と比べると、白の明るさが大きく異なることに気付く。白ピークが伸びるためか、コントラストもP5500の方が高く感じた。 色再現性についても不自然な点はなく、1世代目や2世代目のALISパネルとは階調の豊かさが大きく異なる印象。青の純度にこだわったそうで、原色のにごりも感じられない。今回はハイビジョンの録画映像をプリセットの画質モードで視ることが多かったが、マグロの刺身の微妙な色の違いなども表現していた。 ただし、画面が大きくなり縦解像度が下がったためか、ALISパネル独特の精細感が乏しく感じる場面も多かった。ハイビジョンでは思ったほど変化は感じなかったものの、普段見慣れているDVDビデオでは、ソースのアラが気になった。擬似輪郭も目立ちにくくなったとはいえ、480iソースだとまだ空などに現れる。 また、カメラがパンするようなシーンでは多少の残像感を覚えた。DIPP(デジタル・イメージ・ピクセル・プロセッサー)の力で大幅に払拭されたはずだが、今回はパネルが大きいせいか、動きボケが今まで以上に気になる。 パネルの色温度は9,000Kと高い。これはテレビ市場ではすっきりとした白が好まれるからとのこと。店頭での効果を踏まえたこともある。映画ソースだと高すぎる色温度があだになることも多いが、設定で高/中/低を選択できる。さらに、RGBごとのゲインも調整できるなど、マニアックな設定が可能だ。色温度以外にも、色信号や輝度信号の鮮鋭感など、細かい調整項目を用意。設定値は入力系統ごとに記憶できる。
■ HDD内蔵モデルはハイビジョンの1.5倍早見再生が可能
ディスプレイ部には、55V型専用のデザインコンセプトが採用された。特に、ディスプレイ周りのフレームには多層塗装を行ない、これまでにない「ミッドナイトサファイア」という表現を狙ったという。フレーム上下のアルミ素材とあわせ、高級感は十分持ち合わせている。これまでWoooシリーズは、他社製品に比べておとなしい見た目だったが、P5500ではインパクトが増した。 また従来シリーズと同じく、電動スイーベル機構も備えている。歴代Woooシリーズでも人気の高い機能だけに、「パネルが大型化しても絶対に外せなかった」(日立製作所FPD商品企画部 鈴木宏幸技師)という。これだけ大きな画面が、リモコン操作でしずしずと動く姿はちょっとすごい。 今回、P5500専用のオプションとして、専用ラック「TB-PSD5541」が用意される。P5500のスタンド部を隠すことで、ラックから画面が直立しているかのような印象を与えるデザインを採用。それでいて、電動スイーベル機構はそのまま利用できる。P5500S、P5500Uのどちらでも使用が可能。価格は88,000円(税抜)で、生産は従来の専用ラック同様、朝日工業株式会社が行なう。
AVCステーション4機種に大きなアップデートはない。ほぼP5000シリーズの機能を踏襲している。フルデジタル画像処理回路のDIPPもほぼ同じ構成だという。 このうち日立が店頭で最も訴求しているのが、HDD内蔵タイプのAVC-HR5500だ。構成としては「デジタルチューナを内蔵した単体HDDレコーダ」というもの。D-VHSへのムーブはできるものの、どちらかといえばタイムシフトに特化した使い方を提案している。 たとえば、録画番組にチャプタを設定できるものの、いわゆるカット編集機能はない。設定したチャプタは、あくまでもリモコンのスキップボタンで即時移動するための「しおり」という位置付けになる。 録画モードは「TS(HD)」、「TS(SD)」、「XP」、「SP」、「LP」、「EP」の6種類。デジタルハイビジョンをそのまま記録するTS(HD)の場合、約14時間の録画が可能となっている。もちろんストリーム記録だけでなく、XP以下にダウンコンバート録画もできる。 再生機能は意外に豊富で、追いかけ再生、同時録画再生、1.5倍音声付き早見再生などが可能。リモコンには30秒スキップボタンもあるので、録画番組の消化に関しては、専用レコーダ並の機能といって良い。しかもこれらの機能はハイビジョンでも利用でき、ハイビジョンでの音声付き早見再生は業界初だという。 録画番組の表示は9画面のサムネイル、または日付順のリスト形式で表示する。サムネイルの表示は早く、ストレスは感じない。各サムネイルを選択すると、サムネイルのまま音声付きで再生が始まるのも便利だ。
デジタル放送はEPGでの録画が可能。地上アナログ用のEPGには対応していない。その代わり、日付と時間帯のマトリックスを埋めていく「録るカレンダー」が利用できる。録るカレンダーでは7日先までの予約が可能で、予約するとその時間帯に放送局のアイコンが表示される。1時間ごとの指定になるが、指定後、分刻みで細かく調整することも可能だ。 使ってみて気づいたのは、テレビと一体になっていることの利便性。リモコンを持ち替えることなくすべての機能が利用できるのは当然として、GUIがある程度統一されていることによる、安心感がある。ライブ映像とタイムシフトの2画面表示(Side by side)もテレビらしいアプローチといえ、利用価値が高そうだ。
■ まとめ
今回は他社製の50V型と並べて視聴したが、プラス5インチの威力をはっきりと感じることができた。特にクロースアップの迫力はすごい。画質面でも最新モデルらしく、コントラストと階調性に秀でているのがわかった。 問題になるのはやはり価格だろう。ディスプレイとHDD内蔵AVCステーションを合わせた価格は136万5,000円(税込)。まだまだ、気軽に購入できるものではない。50V型のライバル機が出揃う夏頃までは、大きな値下げも考えにくいだろう。 現在、特殊な機種を除くと、50V型の販売価格は80万~90万円前後といったところ。プラス5インチと考えると多少割高だ。しかし、「60V型クラス(200万円強)のマイナス5インチ」とすると、それなりに妥当な値段かもしれない。画質面では最高レベルといえ、とにかく最新の大画面モデルを求めている人なら、一度店頭で確認して欲しい。 資料提供:富士通日立プラズマディスプレイ株式会社
□日立のホームページ (2004年4月1日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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