型番こそ2002年8月発売の「LPX-500」から10しか増えていないが、LPX-510は筐体デザインも一新され、スペックも大幅な強化が施された。実質的にはフルモデルチェンジといってほどの進化を遂げている。ただし、パネル解像度をはじめ、基本スペックは松下電器「TH-AE500」、三洋電機「LP-Z2」、エプソン「EMP-TW200」といった20万円以下のモデルと大差ないように見える。LPX-510ならではの魅力とはどこにあるのだろうか?
■ 設置性チェック~レンズシフト機能搭載で設置性抜群
本体は幅が広い横長形状で高さもそこそこあり、最近発売された720p液晶プロジェクタと比較すると、ずいぶんとマッチョなスタイルだ。本体重量も6.3kgと、1人で持てないことはないが、最近の機種にしてはやや重い。 大きさと重さから考えれば、天井などへの常設設置が基本となる。天吊り金具は、純正オプションとして一般家庭向きの低天井用「PMT-L51」と、高天井用「PMT-L55」がラインナップされている。天吊り金具と本体の総重量は10kg近くになるので、天井の補強は不可欠だが、この程度の重量であれば一般的なシャンデリア補強程度で対応できるだろう。投写モードはリア、フロント、台置き、天吊りの全組み合わせに対応する。 手動式ながらレンズシフト機能を搭載しており、投写映像を歪ませることなく、左右±0.5画面分、上下±1画面分の画面移動を行なえる。この機能のおかげで設置の自由度はかなり高くなっており、台置き設置の場合も、それほど背の高い台でなくも映像をかなり上の方に打ち上げられる。 上下±15度以内の傾斜投影に対しては垂直方向の台形補正が行なえるが、レンズシフト機能があるのでこれのお世話になることはまずないだろう。なお、水平方向の台形補正機能は持っていない。しかし、左右レンズシフト機能を使えばそれほど問題もない。 レンズシフト機能のおかげで、台置き設置や、本棚などに上下逆転させての疑似天吊り設置にも柔軟に対応できそうだが、底面積が大きいので、台や棚選びの際には天板の大きさに注意したい。吸排気口は投写方向のみに開いているので左右や後部に遮蔽物があっても動作には支障はなさそうだ。
投写レンズは1.5倍ズームレンズを採用。アスペクト比16:9の100インチ画面の投写距離は約3mとなり、先代LPX-500に比べて若干縮まった。LPX-500同様、8畳クラスの部屋でも100インチ画面が楽しめることだろう。 LPX-500よりもレンズのズーム倍率が高められており、競合機に比べ、投写距離と画面サイズの関係の自由度も高い。短焦点なだけの競合機とは違い、広めの部屋でプロジェクタを部屋の最後部に設置しつつ、画面は100インチ以内に収めたい……といった設置要件にも対応できる。実際に投写距離4mで100インチに投写してみたが、問題なく行なえた(ズーム倍率最小にしても100インチを超えてしまう競合機が多い)。 ファンノイズはランプモードが最大輝度(ランプパワー100%)時でプレイステーション 2(SCPH-30000モデル、以下PS2)と同程度か若干大きい程度。しかし、低輝度(ランプパワー75%)ではPS2よりもだいぶ静かになる。カタログに記載されている「騒音レベル27dB」というのはこの時のものだろう。 光漏れはほとんどなし。正面のスリットをのぞき込めば奥の方に光が見える程度で、投写映像への影響は皆無だ。
■ 接続性チェック~PC入力への対応は冷ややか。HDMIに期待か
ビデオ系入力端子はコンポジットビデオ、Sビデオが1系統ずつ、コンポーネントビデオ入力端子は2系統、D4入力端子、HDMI入力端子が1系統ずつある。 HDMI入力端子は、日本ではまだ知名度が低いので簡単に解説しておくと、著作権保護機構付きのデジタル映像信号と音声信号を伝送する端子だ。北米ではデジタル放送チューナの多くに実装されており、北米市場も視野に入れたLPX-510で対応してきたということだろう。日本でも採用モデルが増えていくと思われる。 背面パネルを一見してわかるように、LPX-510はPC入力端子と呼べるようなものは実装されていない。とはいえ、PC入力に全く対応していないわけではなく、変換コネクタ等を用い、メニューで信号タイプを設定すればPCから出力された映像を投影することはできる。 たとえばHDMI端子で伝送されるデジタル映像信号は、デジタルRGB信号であるため、DVI-D端子への変換が可能となっている。ただし、国内ではまだ入手しづらいのが難点だ。
RCAピンプラグ形状になっているコンポーネントビデオ入力端子も、メニューで「ビデオ信号方式」を「RGB PC」に設定することでPC入力端子として利用できるようになる。 ところが、このままでは、市販されているBNCコネクタタイプのアナログRGBケーブルを利用することができない。というのも、LPX-510側の入力端子がRCA端子になっているためだ。結論を言えば、BNC-RGBケーブルの他、RCA-BNC変換コネクタを用意しなければならない。できなくはないが、LPX-510でPC入力をするための敷居は高い。50万円もする機器なので、DVI-I端子を1系統くらい設けてくれても良かったと思うのだが……。
■ 操作性チェック~フォーカスがリモコンから調整できる
リモコンはLPX-500のものではなく、DPX-1x00系と同型のものになった(ボタンの種類や配置が若干違う)。底面部にくぼみがあるエルゴノミックデザインを採用しており、中央下部に突起したレバー型スイッチのライトボタンがあるのが特徴だ。 この上下レバーはメニュー操作をするためのものではなく、リモコンをライトアップするためのもの。なお、自発光するボタンは電源ボタンに加え、[ESCAPE]、[MENU]、[ASPECT]、[INPUT]だけで、それ以外のボタンは蓄光式になっている。 メニュー構成は「画質」、「設置」、「情報」、「初期化」というトップ階層メニューから項目を掘り下げていくタイプ。トップメニューからのアイテム選択が下方向キーで選択できなかったり、アナログパッド感覚の十字キーの扱いがやりにくいのは、ヤマハのリモコンの特徴といったところか。
入力切り替えは[INPUT]ボタンでサブメニューを開いて入力ソースを選ぶ方式と、独立した切り替えボタンで直接希望の入力ソースに切り替えることも可能。入力切り替え所要時間はD4→コンポーネントビデオAで5.3秒(実測)。最近の機種としては、これまたかなり遅い。 アスペクト比切り替えは[ASPECT]ボタンでサブメニューを開いて希望するアスペクトモードを上下キーで選択し、十字パッドを押し込んで選択……という操作系。押すボタンが多くストローク数も多くなる操作系なのであまりいい感じはしない。切り替え所要時間はほぼゼロ秒で、選択した瞬間に切り替わる。 画調モードはサブメニュー呼び出しボタンも無く、メニューをトップ階層から探っていかなければ切り替えられない。なお、アスペクトモード、画調モードを含む、その他のユーザー調整したパラメータは、ユーザーメモリの1~6までに登録することができ、リモコンの[1]~[6]キーを押すことで設定状態を直接呼び出すことができる。 アスペクトモードや画調モードを個別に切り替えようとするとまわりくどい操作を強いられるが、ユーザーメモリ機能を活用すれば、マクロ的に同時に切り替えられる。たとえばDVDの映画ソース観賞用にランプパワー100%、アイリス75%、アスペクト比16:9、画調モードを「シネマ」に設定し、これをメモリ1に登録しておけば、[1]キーを押すだけで、上記の設定が瞬間的に呼び出せる。細かい画質調整を行わない場合でも、活用すると便利だ。なお、このユーザーメモリは入力系統に依存せず、グローバルな6メモリとして登録されている。 操作系で特筆すべきなのが、フォーカス、ズームの調整をリモコンで行なえるという点。特にフォーカス合わせは、スクリーンに目を近づけた状態で、納得がいくまでピントを追い込める。フォーカスあわせ用に、テスト映像のクロスハッチもリモコンから呼び出せるのもうれしい。また、家族などが誤ってフォーカスやズームを操作しないように、フォーカス/ズームロック設定も行なえる。
▼画質チェック~立体感が際だつリニアカラーバランス機能が秀逸
公称最大輝度は1,000ルーメン。これはランプパワーを100%にして絞り(アイリス)を開放にした状態の時の値。ランプパワーはメニューで100%から75%まで、5%刻みで変更でき、それに準じた輝度になると考えていいだろう。ちなみに、1,000ルーメン駆動状態では映像はかなり明るく表示され、部屋が明るくても映像の内容は十分に確認できるほどであった。間接照明を中心にした部屋であれば、テレビ的な活用も可能だろう。 コントラスト性能は最大1,200:1。これはランプパワーを最低(75%)にし、アイリスを最小にしたときの値だ。なお、アイリスは開放(100%)から最小(75%)まで5%刻みで6段階切り替えになっている。 ランプパワーとアイリスの組み合わせをユーザーが自由に組み合わせられるのはユニークだ。ハッとするような明るい方向の色のダイナミックレンジが広く取れて、なおかつ締まった感じのある明暗表現が両立できるランプパワー最大(100%)、アイリス最小(75%)が、大胆な画作りになって個人的には気に入った。
映像エンジンの中核となるパネル素子は透過型液晶パネル。解像度は1,280×720ドットでいわゆる720pにリアル対応したパネルを採用する。透過型液晶の宿命とも言うべき画素格子は、100インチ以上の大画面で、アニメのような単色領域が多い映像でやはり視認できる。が、80インチ以下で実写映像を見る限りではほとんど気にならない。 透過型液晶のもう1つの宿命である黒浮きも、アイリスを絞ることでかなり抑えられている。明暗のはっきりしたシーンを見ても、暗部のディテールがごまかされているような印象は受けないはずだ。 色深度は深く、カラーグラデーションも美しい。超高圧水銀系ランプの青緑の強い特性も上手く調整されており、全体の発色に際だった癖は感じられない。こころもち、赤に鋭さが足りない気がするが、光源が超高圧水銀系ランプであることを考えれば、がんばっていると思う。 肌色の発色は素晴らしく、血の気の感触と頬の立体感にアナログ的な手応えを感じる。原色の色乗りも良好。CG映画やアニメ映像の陰影もビシっとして色乗りが良く見える。こうした自然な発色傾向になっているのは搭載されているカラーバランス(CB)フィルターの効果に因るところが大きいようだ。
一通り映像を見て、気がついたのは、一般的な透過型液晶プロジェクタの映像と比べて、映像に奥行き感が強く出ていること。 プロジェクタの場合、たとえば映像中の薄暗い部分における発色は迷光の影響を受けやすくダイナミックレンジが狭くなる。結果色が淡くなって明暗階調のみの情報が占める割合が大きくなり、その領域は平坦に見えてしまう。LPX-510には、シーンごとに映像中600ポイント以上でリアルタイムに色補正を行なうデジタル3Dガンマ補正的な「リニアカラーバランス機能」が搭載されている。映像中の明るい部分、中明度の部分、暗い部分、いずれにおいても最適な色補正を行ない、一定の色味を保とうとするのが、この機能の具体的な働きのようだ。 これが有効に機能しているようで、階調性がほどよく調整され、常に映像に均一の立体感を与えてくれるのだ。LPX-510の画作りのキモ、といってもよいかもしれない。
■ まとめ~画質・設置性とも優秀
2003年後半に低価格720p機が登場したために、そちらを選ぶべきなのか、もうちょっと予算を上乗せしてLPX-510を選ぶべきなのか、そんな悩みを抱える大画面マニアは少なくないだろう。最後はこの辺りについてちょっと考えてみたい。 結論から言えば、LPX-510はリアル720p液晶モデルにおける模範生といっていい。設置性に関しては文句なし。レンズシフト機能と短焦点&高倍率ズームレンズの採用で、LP-Z2を優るとも劣らぬ設置性を獲得している。 操作性においてはLPX-510のリモコンは使いにくく、起動も画面モード切り替えも遅く、低価格機に対するアドバンテージはほとんどない。しかし、ズーム倍率やフォーカス合わせをリモコンで電動調整できるのは低価格機種にはない差別ポイントだ。プロジェクタ台を組み合わせての設置ケースではフォーカス合わせを行なう機会が多くなるはず。そうした場合にはリモコンでのフォーカス合わせは便利だ。
ビデオ系の接続端子は低価格帯モデルにはない充実ぶりだ。ただし、PCとの接続性は低価格機モデルの方が敷居が低い。次期モデルにはDVI-I端子を付けて欲しいものだ。 画質と発色に関しては、超高圧水銀系ランプの透過型液晶プロジェクタとしてはトップレベル。低価格機と比べ、「価格差分の価値があるか」といわれると「それは見る者次第」といわざるを得ないが、リニアカラーバランス機能はよく効いてきて「LPX-510ならでは」の味にはなっている。 さて、最近の透過型液晶プロジェクタでよく話題に上る縦縞のシミだが、今回評価したLPX-510にも中明色表示でよく見える。個体差もあるし、見る人によっては気にならない人も多いようだ。過敏に反応する必要はないにしても、高い買い物だけに納得して購入したいもの。製造段階でなんとかできるものであればメーカーの努力を期待したいし、ユーザーの立場としては、購入前に実機の投写映像をよく丹念に見てから決めたいところだ。 http://www.yamaha.co.jp/ □ニュースリリース http://www.yamaha.co.jp/news/2004/04021902.html □関連記事 【2月19日】ヤマハ、輝度1,000ルーメンのホームシアター液晶プロジェクタ -コントラスト比は1,200:1。HDMI端子も装備 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040219/yamaha2.htm 【2002年10月25日】【大マ】リアル720p対応、DCDi搭載の技巧派 -初の液晶モデルの出来は? 「ヤマハ LPX-500」 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020808/dg06.htm (2004年4月8日) [Reported by トライゼット西川善司]
|
|