■ 卓越したレンズシフト機能とユニークなオプション
本体の設置面積はA4ファイルサイズのノートPCと同程度で非常にコンパクト。外形寸法上はTH-AE500などの競合機より若干大きいが、実用上は同程度の感覚で扱える。 本体重量はTH-AE500よりも1kg以上重い4.1kg。とはいえ、この程度の重さであれば移動は1人で行なえる。後述する高い設置性との相乗効果もあり、三脚型の組み立てスクリーンなどと併用し、使いたい人が使いたい時に各自の部屋で設置して使う……という家族共有型の運用も十分可能だ。 投写モードはフロント、リア、天吊り、台置きの全組み合わせに対応。天吊り用の金具は「POA-CHB-Z2」(15,000円)が設定されている。天井取り付け用のオフセット金具も2種類あるが、一般家庭向けとしては低天井用の「POA-CHS-US01」(3万円)を選択すれば良いだろう。本体と天吊り金具の総重量は約5.6kg。天井補強は必要不可欠であり、具体的な設置の際には販売店と相談して欲しい。 投写レンズは光学1.3倍ズームレンズ。短焦点なので、テレ端ではアスペクト比16:9の100インチを約3mで投影できる。8畳クラスの部屋で十分100インチの投影が可能だ。 さらに嬉しいのがレンズシフト機能の搭載。レンズシフト機能とは、本体の向きや傾きを変えずに、投写位置を移動できる機能のこと。前モデル「LP-Z1」を超える自由度を実現し、上下方向に最大±1画面分、左右方向に±0.5画面分の移動が行なえる。
レンズシフトは投写映像を光学的に平行移動させるので、台形補正と異なり、画質の劣化は最小限に抑えられる。本体をスクリーン中央に正対させられないような環境でも、画質劣化無しの投写ができるというわけだ。 台置き設置の場合、これまでの多くのプロジェクタでは、吊り下げ型のスクリーンへ投影する場合には、どうしても背丈の高い設置台を用意しなければならなかった。LP-Z2ならば上方向にレンズシフトをするだけで問題が解決する。 また、投写距離を稼ぐため、本体を部屋の壁際に置くというケース。こうした場合には、背丈の高い本棚などにプロジェクタを上下逆転させて置く「疑似天吊り設置」という手法が使える。しかし、プロジェクタ本体を上下逆転して設置する工夫がなかなか難しい。しかし、レンズシフトなら本体を逆さにすることなく、映像を下げるだけで解決できるケースも多い。本棚の高さもそれほど必要としない。 もう1つ、三洋電機では変わった設置方法を提唱している。それは「壁掛け設置」だ(オプションのPOA-CH-EX01が必要)。写真を見れば一目瞭然。LP-Z2を上向きに設置し、投写映像をミラーで反射してスクリーンに投写するという仕組みだ。この状態でもレンズシフトが使えるので、スクリーン側とは反対側の壁に、かなりの自由度を持って設置できる。
ファンノイズは、ランプ最大輝度(ブライトモード)でプレイステーション 2(SCPH-30000モデル、以下PS2)と同程度か若干大きい程度。しかし、低輝度(シアターブラックモード)ではPS2よりも静かになる。 光漏れは正面向かって左側と底面の排気スリットからわずかにある程度。投写映像への影響は皆無に等しい。なお、右側の格子はダミーで実際には穴が開いていない。 後部パネル部に排気口はないため、投写距離を稼ぐために壁際まで寄せても影響はないだろう。しかし、左側面の排気スリットを塞いだ場合の影響は甚大かと思われる。設置の際は塞がないようにしたい。
■ 接続性チェック~DVI入力はコンポーネント入力としても利用可能
ビデオ入力端子系はコンポジットビデオ、Sビデオ、そしてコンポーネントビデオ系はD4があるのみ。 PC系はデジタルRGB/アナログRGBのいずれにも対応可能なDVI-I入力端子を実装している。DVI-I入力端子は純正オプションの変換ケーブル「POA-CA-DVIC」(4,000円)を用いることで、コンポーネントビデオ入力端子としても利用できる。PC入力を一切使用しないなら、こうした活用もいいかもしれない。 付属ケーブルはコンポジットケーブルが1本付属しているのみでD端子ケーブルやSビデオケーブルは付属していない。また、DVI-I端子をアナログRGB入力(D-sub15ピン端子)に変換するアダプタも付属していない。
■ 操作性チェック~起動は遅め。独特な雰囲気の操作系
電源投入後、SANYOロゴが投写されるまで約8.3秒、D4入力端子からの映像が投写されるまでは約39.3秒かかった(共に実測)。最近の機種としてはかなり遅い。 リモコンは比較的小振りで、上半分のボタンが自照式、下半分が蓄光式を採用している。メニュー操作は、[MENU]ボタンでメニュー呼び出し、十字パッドでカーソル移動、[SELECT]ボタンで選択という操作系。右カーソルでメニューアイテム選択なのに左カーソルでは、メニューアイテム選択状態に戻れない部分が直感的でない。 入力切り替えの概念が若干変わっており、ビデオ系を「INPUT1」、DVI入力系を「INPUT2」と分類し、INPUT1に限り、[VIDEO](コンポジット)、[S-VIDEO](Sビデオ)、[COMPO](D4)という形で、独立した入力切り替えボタンを持っている。DVI入力に関しては[INPUT]ボタンでINPUT2を呼び出す形で選択する。ちょっとややこしくて使い慣れるまでわかりにくい。入力切り替えの所要時間はD4→DVIで実測約2.1秒、DVI→D4で実測約1.4秒であった。 アスペクト比切り替えは独立配置された[SCREEN]ボタンにて順次送り型式に切り替えることができる。用意されているアスペクトモードの中でユニークなものとしては、以下のものがある。アスペクト比切り替えの所要時間はほぼゼロ秒。
画調モード切替用ボタンとしては、押した瞬間に工場出荷状態に戻せる[STD](標準)ボタン、プリセット画調モードを順次切り替え式に呼び出せる[P-IM](プリセットイメージ)ボタンのほか、ユーザー登録した画調モードを呼び出せる[1]~[4]のボタンがある。画調モードの切り替えの所要時間は実測約1秒で若干もたつく感じがある。 4つのユーザー画調モードは、前述したINPUT1とINPUT2の2系統で管理される点に注意したい。たとえばINPUT1のユーザー画調モードはコンポジット、Sビデオ、D4の各入力で共有される。
▼画質チェック~階調性は良好。高コントラストで、やや派手目な画作り
公称最大輝度は800ルーメン。これはランプモードを最大輝度のブライトモードに固定し、レンズ絞りを開放状態にしたときのスペックだ。この状態での投影は、蛍光灯照明下で映像を確認できるレベル。公称最大コントラスト比は1,300:1。透過型液晶パネルを採用したプロジェクタとしては高レベルのコントラストといえる。 透過型液晶プロジェクタは、光源の光を液晶素子の旋光性を活用して明暗の階調表現を実現しているが、画素が完全黒表示の際にもわずかに光が漏れる。これが黒表現が明るくなりがちになる、いわゆる「黒浮き」だ。黒浮きに対し、LP-Z2では3つのアプローチで低減している。 1つは、光学系で生じるフレアを抑えるというもの。レンズに絞り(アイリス)機構を設けることで実現している。 もう1つは、光量を動的に制御することで黒浮きを抑える方法。投写する映像の輝度に応じてリアルタイムに光量を変化させ、コントラストを稼ぐアイデアだ。これを三洋電機では「リアクトイメージモード」と呼んでいる。 この工夫は、いわゆる3Dガンマ補正的な発想を光学的に実現するため、映像のダイナミックレンジが時間積分的に広がることになる。実際の効果はなかなか興味深く、夏の青空のシーンは胸のすくような明るさに見え、一方、夕闇のシーンでは夜闇の暗さと人物の目鼻立ちの凹凸までがしっかりと描写される。 3つ目は透過型液晶パネルにおける構造的な弱点を補強する仕組みだ。液晶セルを通り抜けた光の振動面はわずかに散乱し、近隣の画素セルの光量に干渉する。LP-Z2では、迷光を軽減する光学補償システムを組み込むことで対策を講じている。 なお、コントラスト比1,300:1は、3つの対策を最大限に活用したときの値となっている。実際、ほぼ暗室での活用であれば、絞りは最小(絞りきった状態)、ランプはリアクトイメージモード固定でいいだろう(3つめの光学補償システムはユーザー調整が不可能)。 パネル解像度は1,280×720ドットで、720pリアル対応になる。セルを区切る格子線は、近寄ってみれば「あるにはある」レベル。総画素数が多く、1画素が微細なので60インチ投影程度ではあまり気にならない。逆に100インチオーバーになってくると徐々に目立ってくる。視力の良い人ならば視認できるレベルといっていい。 白色表現は超高圧水銀系ランプ特有の青緑が若干強めに出ている。白色に限定すればイメージ調整メニューにて赤を若干プラス方向に、青や緑を若干マイナス方向に振ると自然な感じになるが、中間色に調整傾向が強く反映されるので、納得のいくような状態に追い込むのはやや難しい。赤、緑、青の原色は鮮烈で美しいが、肌色はやはり緑色の影響が出ている。画作りの傾向はシャープさを強調した感じで、そのためか若干のざらつき感もある。総じて言えば、「派手目な画」という感想を持った。 色深度はなかなか優秀。10ビットデジタルガンマ補正の効果はカラーグラデーションのなだらかさで実感できることだろう。階調性も良好。暗部から明部までのグレースケール表示もリニアかつ正確に決まる。
■ まとめ~気になる点もあるが、コストパフォーマンスは高い
設置の自由度は入門者にもぴったり。壁掛け設置と併せれば、今まで「無理そう」と諦めていた部屋へも導入できるだろう。ただし、入力端子が少ないので、様々な機器を接続したいという場合にはセレクターやAVアンプとの併用は不可欠となるだろう。操作性は、少々クセのあるリモコンとメニュー体系に戸惑うが、操作感全体としては問題ないレベルだ。 画質に関しては、「よくぞ、この価格でここまでの画を出してくれた」という印象。コントラスト比1,300:1という数値も納得できるし、階調性も良好だ。ただし、ランプ特性の関係か、発色の派手さを取り去るのが多少難しい。また、画面が大きくなればなるほど、映像に画素格子が目立ち始める。 さらに気になった点が3つある。まず、ズームとレンズシフトのバランスによっては、フォーカスムラが発生する。たとえば、画面中央ではフォーカスがあっているのに、画面の端ではボケているケースが見られる。60インチ程度での投写では気にならないが、100インチを超えてくると目立ってくる。 もう1つは、薄い円状のシミが映像に出ること。最初は目立たなかったが、使っているうちに色が濃くなり、宇宙や夜空のシーンでは、気になる程度に視覚できるようになった。
最後は、TH-AE500の時も指摘した縦縞のシミ。LP-Z2も同系統のエプソン製パネルを採用しているためか、やや暗めの単色を表示したときに目立つ。たとえば、サッカー中継のように緑が画面を占めるときに視覚しやすい。 シミはともかく、それ以外は60インチ以下程度の投影であれば気にならない。ここは妥協点になると思う。 コストパフォーマンスに優れるLP-Z2だが、絶対的な評価で行けば、1ランク上の製品を脅かすものではない。しかし実勢価格20万円以下の製品で、リアル720p表示やレンズシフトにまで対応した製品はない。この点でLP-Z2は強力無比な存在といえる。
□三洋電機のホームページ (2004年3月18日) [Reported by トライゼット西川善司]
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