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第142回:ドルビーデジタルの音質をチェックする
~Digion Sound 4 Profesionalで検証~



 世の中的には、なんとなく「音質がよい」といイメージがある「ドルビーデジタル」(AC-3)。特にDVDビデオを作成する場合、PCMと比較すると圧倒的にファイルサイズが小さく、DVDオーサリングソフトのドルビーデジタル対応が進んでいるので、使う人が増えている。

 そこで今回は、第137回で紹介したDigiOnの「DigiOn Sound 4 Professional」に搭載されているドルビーデジタルエンコーダを使って、その音質を評価した。


■ DVDビデオの圧縮音声として脚光

 そもそも、ドルビーデジタルをDVDビデオに適用する理由は大きく3つある。DVDビデオの標準フォーマットの1つであり、5.1chなどのマルチチャンネルが扱え、PCMに比較して容量が断然小さくなるためだ。

 ただ、普通のユーザーでマルチチャンネルを積極的に活用することは、まだ極めて稀といっていいだろう。手っ取り早くドルビーデジタルのメリットが得られるのが、音声圧縮フォーマットとして利用する方法だ。4.7GBという限られたサイズにできるだけ長く高画質のビデオを収録するためには、音声部分をなるべくコンパクトにしたいというニーズに応えてくれる。

 DVDビデオの音声部分に利用できる素材としては、大きくわけて「非圧縮データ」(リニアPCM)、「MPEG Audio」(MP1、MP2、MP3)、「ドルビーデジタル」、「DTS」がある。NTSCのDVDビデオの音声は、リニアPCMまたは、ドルビーデジタルのいずれかが必ず収録されている必要があり、DTSはオプションとなっている。また、PALのDVDビデオは、MPEG Audioも標準フォーマットとなっている。

 このうち、非圧縮データは高音質であるのが特徴。また、24bit/96kHzまで扱えるため、DVDオーディオの24bit/192kHzには及ばないものの、クオリティの高い音楽作品を作るのにも適している。

 一方、MPEGオーディオはMP3でおなじみのオーディオ圧縮方式だ。この連載で何度も検証した通り、128kbpsあたりで最も効率の良い圧縮が可能で、その場合で約11分の1のサイズになる。ただし、注意して聴けば高音域が欠けるなど、音質劣化しているのがわかる。また、MP3をDVDビデオの素材に使った場合、NTSCのDVDビデオ標準フォーマットではないため、初代プレイステーションなど一部のプレーヤーにで再生できないという問題もある。

 それに対し、ドルビーデジタルやDTSは、映画作品などで幅広く用いられている音声圧縮方式だ。とくに、マルチチャンネルが利用できるのが大きなメリットだが、これまでドルビーデジタルの音質に良い印象がない。それほど聴き込んでいるわけではないが、どうもパワフルさのない軽い音という印象がある。

 同じサウンドをDTSに切り替えて聴いた場合、DTSの方が良かったこともあり、「ドルビーデジタル=低音質」という先入観がある。では、実際のところどうなのか?。今回、検証を行なった。


■ マルチチャンネルエンコードも可能

DigiOn Sound 4 Professional

 利用するのは「DigiOn Sound 4 Professional」。以前にも紹介したとおり、これはドルビーデジタルのエンコーダを搭載したオーディオ編集ソフトだ。最近はオーサリングソフトやその周辺ツールで、ドルビーデジタルエンコーダを搭載したソフトを見かけるようになったが、そのほとんどは2ch限定のもので、かつパラメータもほとんど選択できない。

 それに対してDigiOn Sound 4 Professionalは、5.1chにも対応した完全なもの。エンコードエンジン自体はDolbyからライセンスを受けて購入しているため、パラメーターもオリジナルのままだという。筆者自身もこれまでドルビーデジタルのパラメーターをほとんど見たことがなかったが、かなり様々なものがあることがわかった。

DolbyDigitalエンコーダ設定

 まず画面を開くと、左側に「オーディオサービスコンフィグレーション」という基本的な情報が並ぶ。この中で最も重要と思われるのは、一番上のビットレート。デフォルトでは448kbpsとなっているが、5.1chの場合は224~640kbpsの間で設定できるようになっている。またオーディオレコーディングモードおよびLFEの使用については、何chであるかを設定するものだが、別の画面で予め設定しておくため、ここでは変更できない。

 その下のビットストリームモードは、どんな目的で使うオーディオなのかを指定するもの。デフォルトではとりあえず、何にでも使えるコンプリートメインとなっている。ほかにもミュージック&エフェクト、台詞、聴覚障害者用、カラオケなどが用意されている。その下のダイアログ正規化は、他のDVDコンテンツと並べた際の音量を揃えるためのもので、通常はデフォルトの-27dBに固定しておくべきものだそうだ。

 次に右側を見てみると、ビットストリーム情報、プリプロセッシング、拡張ビットストリーム情報という3つのタブが用意されている。最初のビットストリーム情報タブではセンターミックスレベル、サラウンドミックスレベル、ドルビーサラウンドモードといったものがあるが、センターミックスレベルはセンターチャンネルを左右フロントチャンネルにミックスする混合比、サラウンドミックスレベルも同様にリアスピーカーを左右フロントチャンネルにミックスする混合比となっている。いずれもデフォルトの-3dBにしておくことで、変化なしとなる。

 また、ドルビーサラウンドモードは、5.1chではなく2chの場合にアクティブになるパラメータで、2chのものをサラウンドエンコードさせるかどうかのパラメータだ。

 その下の枠であるオーディオプロダクション情報はドルビーデジタルビットストリーム内にミキシングレベルやルームタイプなどの情報を入れるかどうかの設定。特に音質には関連しないと思われるが、デコーダに対し、各情報を表示させることが可能となる。

 プリプロセッシングタプを見ると、エンコード前処理に関する設定が並んでいる。入力フィルタリングでは、ローパスフィルターやDCカットといったものがあり、サラウンドチャンネル処理では位相についてや前スピーカーと後スピーカーの音量バランス調整などがある。

 その下のダイナミックレンジ圧縮は、その名のとおりコンプレッサ処理に関しての設定。ラインモードというところで、そのシチュエーションを設定することにより、圧縮具合いを決めていく。なおRFモードというのはテレビの空きチャンネル(1chや2chなど)に出力する際にちょうどいい音にするためのものだが、国内で発売されているDVDプレーヤーでRF出力するものはほとんどないため、基本的には無視していいパラメーターだ。

 そして、拡張ビットストリーム情報タブの画面はドルビーサラウンドEXモードをダウンミックスする際の設定。ここでは無視することにする。

プリプロセッシングタブ 拡張ビットストリーム情報


■ 確かに高音質。ただし128kbpsでは劣化が激しい

 早速、1kHzのサイン波、スウィープ信号、音楽データの3つをエンコードし、比較した。とりあえず、設定はデフォルトのままで、ビットレートは448kbpsだ。

デフォルト設定:448kbps
サイン波

スウィープ信号

音楽データ

 これを見る限り、かなりいい音質で、オリジナルのWAVファイルに近い。1kHzの信号については、以前MP3やWMAで表示させた場合とややパラメータを変えており、FFTの分解能を65,536に設定しているため、そのまま前の記事とは比較できないが、明らかにきれいだ。

FraunhoのMP3エンコーダ(128kbps)

 ためしに、FraunhoferのMP3エンコーダでデフォルト設定で128kbpsにエンコードしたものを同じように表示させたものと比較するとよくわかるだろう。また、音楽データでもMP3のような音質変化は感じられない。オリジナルとの違いはほぼわからなかった。

 DigiOn Sound 4 Professionalでは、何chであっても448kbpsがデフォルトとなってしまうが、試しに2chの状態で、「初期設定」というボタンをクリックしてみると192kbpsになる。おそらく、これが2chの場合の推奨なんだろうということで、再度同様の実験を行なった。

 グラフを見てもわかるとおり、448kbpsの場合とほとんど変わらない。どちらの場合もスウィープ信号や音楽で微妙に高域が欠けているが、かなりフラットに音が出ている。聴いた感じでも違いはほとんどなかった。

デフォルト設定:192kbps
サイン波

スウィープ信号

音楽データ

 では、さらにMP3と同様の128kbpsまで落としてみたところ、今度は一気に音質劣化した。192kbpsが推奨というのはこの辺りにあるのだろう。実際MP3の128kbpsと比較してもMP3の方が音質的に上。ただし、1kHzの信号のグラフを見ると、こちらのほうが良いようにも思う面はある。

デフォルト設定:128kbps
サイン波

スウィープ信号

音楽データ


■ ステレオなら192kbpsで最も効率良い圧縮が可能

 さて、ここで考えるのがパラメータの変更だ。先ほどはビットレート以外はデフォルト設定のままだったが、多少いじると音質向上するかもしれない。変更したのは以下の項目だ。

  • サンプリング周波数を44.1kHzに固定
  • ビットストリームモードをミュージック&エフェクトに設定
  • ローパスフィルターを使わない
  • DCカットを使わない
  • ダイナミックレンジ圧縮をなしに

 この設定で128kbps、192kbpsのそれぞれで圧縮し、同じ実験をした結果を見てみよう。

パラメータ変更後:192kbps
サイン波

スウィープ信号

音楽データ

パラメータ変更後:128kbps
サイン波

スウィープ信号

音楽データ

 この結果からすると、残念ながら音質的にはほとんど変化がなかった。細かく見比べると微妙な差はあるが、ビットレートの違いを乗り越えるほどの効果がないというのが実際のところだ。

 今回の実験で、ドルビーデジタルに対するこれまでの思い込みについて、少し反省した。ステレオ2chのサウンドであれば、192kbpsに設定することで、非常に高音質で効率のいい圧縮ができるフォーマットであることがわかった。


□デジオンのホームページ
http://www.digion.co.jp/
□製品情報
http://www.digion.co.jp/pro/ds4pro_main.htm
□ドルビーラボラトリーズ日本支社のホームページ
http://www.dolby.co.jp/
□関連記事
【3月15日】【DAL】マルチチャンネルAC-3作成に対応した
~デジオン「DigiOnSound4 Professional」を試す~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040315/dal137.htm
【2月12日】デジオン、5.1ch対応マルチトラックサウンド編集ソフト
-ドルビーデジタル5.1chの読込みも可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040212/digion.htm


(2004年4月19日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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