■ 業界挙げてプッシュのコリン・ファレル
「マイノリティ・レポート」、「S.W.A.T.」、「デアデビル」、「ジャスティス」、「タイガーランド」、「アメリカン・アウトロー」――DVD化されたコリン・ファレルの出演作だ。並べてみると、改めて出演作の多さに驚く。まさに出ずっぱり、「今が旬」といったところ。良作が多いのも特徴で、個人的には「コリン・ファレルに外れなし」とまで思い込んでいる。 同じく旬の俳優、オーランド・ブルームがレオナルド・ディカプリオを踏襲する正統派だとすれば、善悪とりまぜて幅広くこなすコリンを指し、「ポスト・ブラピ」などといわれることも。そんな彼の最新DVDが、ジョエル・シューマカー監督の「フォーン・ブース」だ。 シューマカーとコリンが組むのは「タイガーランド」に続く2度目。タイガーランドでコリンが演じたのは、ベトナム戦争当時、何かと軍規に逆らう問題児ながら、技量やリーダーシップはずば抜けているという、一風変わった設定の訓練兵。不条理に毅然と立ち向かいながらベトナム戦争と向き合う若者を、独特のセンスで演じている。 シューマカーは、「9デイズ」、「評決のとき」、「フラットライナーズ」などを監督した業界のベテラン。また、撮影監督のマシュー・リバティークもタイガーランドから続投している。インディーズ畑出身の若手で、「π」、「ケイティ」など注目作品も多い。 そんな彼らが次に取り組んだのが、電話ボックスで鳴る受話器を取ったばかりに、思わぬ受難に会う宣伝マンの物語。面白そうな設定だが、個人的にはあまりにも地味な内容に感じたので、劇場で観るには至っていない。 DVDビデオは片面2層1枚のシンプルな構成。クリアケースの中身は、チャプタリスト1枚、20世紀フォックスがらみの広告が多数、ディスクはピクチャーレーベルという具合だ。 大作ではないためか、至ってベーシックな商品となっている。価格も1枚で4,179円(税抜3,980円)と、20世紀フォックスとしては最も普通の設定。ただし、ジャケットがコリンのアップだったり、背表紙のタイトル横に「コリン・ファレル」と大書しているなど、現在の彼の勢いが感じられる。 発売日は「マトリックス レボリューションズ」と同じ4月2日。そのためか、大手ビデオショップの店頭では、レボリューションズに追いやられた格好で片隅に飾られていた。レボリューションを手に持ちフォーン・ブースを素通りする人々を横目に、「コリン・ファレルに外れなし」という自説を思い起こし、とりあえず購入してみた。
■ リアルタイム進行の良くできたシチュエーションドラマ
ニューヨーク、ブロードウェイ。電話ボックスにいたスチュ(コリン・ファレル)は、コール音が鳴り響く電話を思わず取った。相手は「電話を切ると命はない」と彼に告げる。目的不明の狙撃犯に狙われ、電話ボックスから出られないことに気づいたスチュ。彼をめぐる騒動が周囲に連鎖し、ついには警察に包囲され、全米に生中継されるまで拡大する。犯人はスチュを脅す。「群集にお前の罪を告白しろ」と。 ストーリーは81分の間、ほぼリアルタイムで進行する。その間、犯人の巧妙な仕掛けにより、事態がどんどん悪化していく。主役と犯人とのやり取りも絶妙で、緊迫感を維持したままストーリーが続く。地味な設定だが、シチュエーション物としても良くできた脚本といえる。また、こういう作品の場合、どうやってストーリーを終結させるかが難しいが、その辺りもなかなか印象深い出来になっている。 もっとも注目すべきはコリンの演技だろう。ほぼすべての時間、カメラは彼を捉えており、セリフの多さも半端ではない。まさにコリンの演技力あっての作品といえ、シューマカーも「コリン以外に考えられなかった」と語っている。圧倒的優位に立つ犯人の要求に対し、ただ脅えるだけでなく、反撃を試みたり、やけになったりと、様々な表情で飽きさせない。軽薄で高圧的だった主人公が、犯人との交渉の中、徐々に変化していく様もすばらしい。 また、電話ボックス以外の場所が、ピクチャーインピクチャーで挿入表示されるのも特徴的だ。視聴者は常にコリンの窮地から眼を離すことなく、状況の進行具合が理解でき、リアルタイム感を維持する仕組みだ。 その犯人の設定も面白い。陽気かつ知的、自信と威厳のあふれた言葉に、単なるサイコ系を超えた只者でない雰囲気を漂わしている。演じているのは某性格俳優だが、ほとんど声のみの出演。最後にチラッとスクリーンに映るので、まだ観てない人は楽しみにして欲しい。 電話ボックスとその周囲だけで成立する物語のため、製作は単純かと思いきや、意外にもユニークな手法を採用している。 まず、撮影はわずか10日で完了した。短い作品ではあるものの、ハリウッド作品としては異例だろう。シューマカーとしても初めての試みで、「昼休みなし」の強行シフトを敷いたという。メイキングに出演したほとんどのスタッフが、まず第一声として「大変だった」とぼやいている。 また、時系列に沿って撮影したというのも、映画では特殊なケースだ。シューマカーは「役者が役に入り込める」、「ガラスの破片など、連続性を気にしないですむ」といった利点を挙げている。さらに、エキストラに先の展開を知らせなかったため、リアルな緊迫感や反応が得られたという。 機材も意外に大掛かりだ。ビル上に逆光用の照明や、ビル間の反射用に、ビルを覆う巨大な反射幕を準備したそうだ。反射幕はかつてない規模の大きさで、日中の撮影時間をなるべく延ばすために用いたという。シューマカーといえばキャリア豊富なベテランだが、新しい取り組みに積極的な点に感心した。
■ ビットレートは低いが画質は悪くない
映像は全体的な色温度が極端に低く、青白い雰囲気を特徴としている。この傾向がずっと変わらないのは、好き嫌いの分かれるところだ。ただし、ピクチャーインピクチャーで挿入される電話ボックス以外の場所は、温かみのある映像なので、その対比も面白い。 階調は豊かで、フォーカスもきりっとしている。ハイライトの階調もしっかりしており、受話器や窓ガラスの質感もリアル。とにかく青いことを除けば、最近の洋画作品と同等レベルといって良いだろう。ライティングが比較的平板なので、ローコントラストな設定も良く合うと思う。なお、本編は81分と短いが、DVD BitRate Viewer 1.4でみた平均ビットレートは6.37Mbpsとあまり高くなかった。 音声は、英語がドルビーデジタル5.1ch(448kbps)、日本語がドルビーデジタルch(384kbps)。リアルタイム進行の作品なので、サラウンドによる臨場感が重要な効果になる。ド派手は音響効果はそれほどないが、野次馬のざわめきなど環境音がリアルなので、サラウンド効果は高い。単純なシチュエーションものだけに、大画面と組み合わせると、その場に居合わせたかのような臨場感が得られた。個人的には、エフェクトの利いた犯人の声にも惹かれた。
1枚組みなので、特典はシンプルだ。まず、シューマカー監督によるコメンタリー。退屈するかと思ったら、意外にも多弁で、全編を一気に聞いても飽きることはなかった。 特典のもう1つは、約28分の「メイキング・オブ・フォーン・ブース」。良くある告知用のメイキング映像だが、宣伝臭はあまりなく、どちらかというと淡々とした内容だ。コリンのインタビュー映像も思ったより多いので、ファンならうれしいだろう。
■ ファンなら購入して間違いなし。特典は寂しいかも
この作品の設定には惹かれたものの、正直、あまり期待していなかった。しかし、展開が読めないこともあり、視聴中は予想外に熱中してしまった。特に、紫のシャツを着た軽薄な主人公への感情移入は、自分としてはかなり予想外。ラストの山場は「本当は笑うところかも」といぶかしみつつ、ちょっとだけ泣いてしまったほど。これもコリンの演技力のたまものだろう。ファンなら間違いなく買いの作品だ。 ただし、2枚組みの大作に慣れた身には、シンプルな特典が少々寂しい。一晩で本編と特典をすべて観てしまったのは久しぶりだ。作品の規模が小さいので、特典の少なさはあきらめるしかないかも。20世紀フォックスだけに、数年後に「アルティメット・エディション」を期待したいところだが……。
□20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント ジャパンのホームページ (2004年4月13日) [AV Watch編集部/orimoto @impress.co.jp]
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